収監者との文通:Aさんとの往復書簡 H27/2/22

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<A⇒鈴木>
前略
鈴木さん、お手紙ありがとうございます。こちらはまだ寒い日が続いていますが、天気番組では平年よりは暖かい日が多いと言っています。横浜はいかがですか?早く春になり暖かくなって欲しいです。
鈴木さんからのお手紙にあった様に自分の将来について少し整理してみようと思います。
①:簿記1級の合格
②:公認会計士
③:宅地建物取引主任者
④:行政書士
⑤:IT関連
 以上に合格して、50歳頃には独立できればと思っています。私は今年43歳になります。来年の出所で44歳です。2017年に簿記1級に合格して、2020年に公認会計士、2021年宅建、行政書士に合格して、不動産関係に強い会計士を目指そうと考えています。これらの合間にIT関連の資格に合格できればと思っています。元々IT関連は知識があるので、こちらは特に問題ないと思います。
 それよりも、簿記1級の会計学が難しく本当に参っています。これは私の持っている参考書にも一因があると思っています。本当に分かり難いのです・・・1級の試験は6月と11月なので、2016年の11月か、2017の6月に必ず合格したいと思っています。今の私の将来計画はこんな感じです。

仏教の本を読んでいたら依存症の回復に通じる教えがいくつもあり驚きました。いくつかあるので少しだけ簡単に書きます。仏教には五戒(ごかい)という教えがあり、戒とは自発的に悪から遠ざかることだそうです。なので自発的に悪い行いから離れる精神力、悪を抑制しコントロールする自発的な力で、これを繰り返し、守る事によって善い習慣力が身につき、無意識の内に悪い行いから遠ざかるのだそうです。
又、身語意の三業(しんごいのさんごう)というのもあり、業とは行い、行為のことを言い、身体と言葉と心から発した業が善悪の結果を生み、三業を慎むことにより善い結果が生じるのだそうです。身はモノを盗んだり、暴力を振るったりし、語は言葉で言ったことが後に善悪の結果を残し、これらの意は心に思っていることで、それが身や語になって現れて来るのだそうです。
 これらの教えは依存症の治療にも役立つと思いました。これが2000年以上前から言われているということはとても大事な事で、重要な事だからだと思うのです。でも逆に考えると、実践するのが難しいのでずっと言われ続けているのかなとも思うのです。それだけ習慣化する行為が難しいのでしょう。でも、こういう教えを守り悪から遠ざかる力が習慣化したら、もう刑務所に来ることは無いと思います。習慣化するまで約3年かかるとお手紙にありました。
 前回の手紙にも書きましたが、目標の期間はいくつか短くして、それを一つずつクリアして自信をつけて行こうと思います。1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、3年という具合にです。ですが一番大切なのは Just for today 今日一日を大切にの精神だと思っています。他の人も資格取得に向けて頑張っていると聞くと、私も励みになり、頑張る原動力となります。一人でも多くの人が依存症から回復して更生して欲しいです。私もその中の一人になれるよう頑張ります。 職業訓練の募集があったのですが、応募しませんでした。ですが、3月頃にいつも2次募集があるので、それまでの間に又考えてみようと思います。

 それと卓球大会ですが、いつの間にか選手が決まっていました(笑)いつもは予選のリーグ戦をやるのですが、どうやら今回はいつもと勝手が違いました。なので補欠にも入っていません。まぁ、決まってしまったのは仕方がないので今年は応援に専念します。

 最後に、今嵌っている海堂尊の小説ですが、全23冊(小説のみ)のコンプリートも近づきました。ただ、また新たに出版される本もあるので楽しみです。この人の小説は出版社が違うのに話が色々とリンクしていて楽しいのです。これが終わったら次は小説をお休みして宗教とマンガにしようと思います。

 インフルエンザが流行しているみたいです。お体を御自愛下さい。ではまた次回の手紙まで、失礼します。

草々 
平成27年2月15日 A

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<鈴木⇒A>
A様
前略
 Aさん、こんにちは。お手紙19日に受け取りました。いつも有り難うございます。そちらもまだ寒い日が続いているようですが、こちら横浜も春が待ち遠しい日が続いています。もうすぐ春一番が吹いて少しずつ暖かくなって行くのだろうと思っています。
 さて、お手紙でこの先7年での、50歳迄の人生計画を拝読しましたが、①:簿記1級、②:公認会計士、③:宅建主任、④:行政書士、⑤:IT資格を目指すとの事で、凄い宣言ですね。いわゆる「根拠のない自信」で宣言をして努力するわけですね。ただ、これだけの難関資格試験を目指すとなると、やはり二つの事を頭に入れておいた方が良いかなと思います。

①:50歳までに、焦らずに最も効率的な勉強をして最大限の結果を目指す
②:50歳になったら、生涯受験勉強で終わらないよう、取れている資格で線引きをして仕事や独立を目指す。
 
①効率性について:私も最近、Aさんとの関係で公認会計士試験に興味を持ち、ネットで一発合格の為の40分くらいのセミナーを視聴したのですが、やはり、『合格に必要な事だけを勉強し、それにより90点~満点を目指す』効率性が大事だと話されていました。合格へのポイントとして言えば、今Aさんが苦労されているという簿記1級の会計学を重視せよとの事でした。公認会計士論文試験での会計学の配点率は全5科目/700点満点中の300点で43%を占め、その中身の8割が簿記1級の会計学から出題されるそうです。つまりどういうことかと言えば、簿記1級の会計学を完全にマスターしておけば、会計士試験会計学300点中の8割/240 点を取れるということです。240 点取れるということは700点満点中の34%が試験前から約束されているようなものだと言うわけです。つまり、今Aさんは簿記1級の勉強をしながら、既に公認会計士試験の1/3に挑戦しているわけで、それだけでも公認会計士合格に向けての効率を高めることになるわけです。
②完璧主義で身を滅ぼさない為に50歳時に例え5つの資格目標の全てが達成されていなくても、それを認めて可能な範囲の仕事へと進む心の落ち着きが大事だと思います。そうしないと上にも書いたように一生受験勉強だけで終わりかねなくなります。取得できていない資格への未練に心を奪われて、それに足を引っ張られていると、その欲求不満から眠っている依存症を目覚めさせないとも限りませんから。
 以上がAさんの5つの目標への私なりの思いなのですが、Aさん自身が自分の今後を考える参考にして頂ければ嬉しく思います。

 仏教の話も拝読しましたが、その教えが依存症の治療方向を指し示しているのは確かだと思います。ですから、その教えを実行し習慣化する事が依存症治療に繋がるのも確かにそうだなと思いました。ただ、人間というのは一人では弱い生物で、特に実行の継続に弱点があります。その弱点を補うのが、Aさん自身が前から言っている「決意を周囲に宣言する」ことだと思います。そうすると周囲の人達が目に見えない力で背中を押してくれて、楽に前進できるようになります。特に依存症治療の場合には同じ治療仲間、自助グループの仲間達に宣言する事が絶大な力になります。アメリカ生まれのAAではそれを目に見えない「霊的な力」=「ハイヤーパワー」=「神の力」と言っていますが、日本では仏様も同じ力を持っているのかなと思います。
 仲間と共に『JUST FOR TODAY !! 』で、依存から離れる行動を習慣化して行ければと思います。

 資格の勉強の他にも、読書やスポーツ、職業訓練・・・等々と充実した毎日を送られているようですね。外の世界では仕事や生活に追われ、時として種々の誘惑に時間と心を奪われ、自分を変え、新しい人生を考える心の余裕を得る機会に中々恵まれないのですが、その点では塀の中の方が恵まれているのかなとさえ思えます。その意味で残されている受刑期間を新しい人生への助走期間として過ごされるようお願いして今日はこの辺で失礼します。

草々  
平成27年2月23日  
大石クリニック相談員鈴木達也