収監者との文通 Oさんとの往復書簡 H27/2/10

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<O⇒鈴木>

 前略

  今年2015年に入り早くも1ヶ月が過ぎようとしています。大石クリニック・スタッフの皆さん元気ですか?鈴木先生からのお手紙1月5日に届きました。正月休み中だったと思いますが、本当に有り難うございます。

 

 先ず、この1ヶ月間の近況報告をさせて頂きます。昨年12月25日、官からクリスマスプレゼントをもらいました。それは調査というあまりもらいたくない物でした。私の居る工場の体制の事もあるのであまり詳しく書くわけには行きませんが、「教育を受ける為の月謝」と諦めて、何も言い返すことなく懲罰を受けました。体制批判ばかりしても仕方ないし、教育にも影響するので忘れる事にしました。・・・静的リスクですから。

  そして、年末年始と、他の同囚が「正月だ!」とテンションが上がっている中、私はセルフマネージメントプランに取り組んでいましたが、正月休みだけでは足りなくて、今も終わっていません。この教育プログラムの集大成「SMP」を完成させる為、舎房に帰ってからも手紙を書く事が出来ませんでした。今日、1月24日になりましたが、少し息抜き目的で手紙に向かう事が出来ました。この1ヶ月はこんな感じで過ぎて行きました。

  正直、刑務所も社会も要領の良い人間が断然得ですね。日頃から遵守事項を守らずに好き勝手をやっていても捕まらずに上手に振る舞っている人がいますが、私の様に不器用だと人生において損しますね。今迄に積み上げたものが全部崩れて、またゼロからのスタート。中々このドロ沼から這い上がる事が出来ずにジタバタして苦しむ人生が長く、一日も早く普通になりたいです。その為の教育だと思って頑張って来ましたが、残りが10数回になり、最終日が317日・火曜日と決定になりました。刑務所内の教育で、これだけ認知の歪みを修正できるのだから、医療機関でしっかり治療したらまた違った結果が出ると思います。

  今迄長い間文通をしていて、以前にも書いたと思いますが、ここでの教育は短期的には効果があると思います。長い目で見れば自分自身の気持ちが大事なのでしょうね。でも私には自信が有りません。それだけ30年以上もの間辛い思いをして来た所為で自信が持てなくなっています。鈴木先生がアルコールで辛い思いをされた期間はどのくらいでしたか?少し失礼な事を書きましたお許し下さい。まだ、一生病気と付き合って行く覚悟ができていないのでしょうね。私の場合。

 

  ここからは教育内容に触れて行きます。今年に入って最終段階である被害者に対する内容に入って来ました。そして被害者の手記を読んで、自分達が自分勝手な気持ちで起こした犯罪で辛い思いをしている人の気持ちを初めて知る事ができました。今まで知ったフリをし続けてきたとしか思えない内容であまり見たくない手記でしたが、自分達のしてきた事に向き合えるチャンスでしたので頑張って読みました。

  その手記を読んだ後に、私達から被害者側に手紙を書きました。教育としてなので実際には出していません。6人中4人が書きましたが、相手に対する思いやり等を聞くと各自書き方が違うので勉強になりました。手紙を書く時に16項目を手掛かりにして書くのですが、その中に、「不適切な行動について説明すること」とあり、この事を書いたのは私だけでしたが、実際書けないのが本当だと思います。私も「書きたくなかった」と言うよりも「書けなかった」と言った方が正しいのです。でも、書く事で被害者側が知りたかった事を知る事ができて、私に対する怒りが増す事になります。書いても書かなくても怒りは消えません。

  実際に私は逮捕された時に被害者に手紙を書いています。でも読んで貰えなかったことは確かです。セッションでも話し合いましたが、「まず、読んでもらえれば大成功だよ。普通は受け取ってもらえない」-その通りです。

その後は、「被害者からの返信」という事で自分たちが書いた手紙を読んでの返信を書きました。実際に被害者が手紙を読んだ時の気持ちになって書くと、相手に対して罵声を浴びせる感じで書いた人が多かったのですが、一人の返信で共感できる手紙を聴くことができました。被害者からの返信で、「あの事件から3年が過ぎようとしています。そろそろ私に忘れるチャンスを下さい。貴方を許す事であの事件を忘れられる気がします」と書かれていました。この文を書いた人は「本当は許してもらって全部忘れたい」と話していました。「リセットボタンがあればどんなに気が楽か」と他の同囚も言っていました。私も同じ思いでした。もしリセットできるなら、依存症が始まる時に戻って人生をやり直したいです。

  この手紙を書いている時に私の妻から手紙が届きました。実に3ヶ月ぶりの手紙です。この手紙を読んで思った事ですが、ちょうど今行っている教育にぴったりハマッていました。教育で出て来る被害者は犯罪を起こした時の被害者ですが、自分の身内にも被害者をつくったんですね。妻は、体の調子が悪くても病院に行く事も出来ず、それでも子供の為に一生懸命に強がってみせている姿が見えました。「私は本当に悪い人間なんだ」と思いながら手紙を読みました。

 

  このような反省文のような手紙を書き続けて来た結果、自分が本当にやらなければならない事が見えてきたように思います。それは犯罪を起こさない事。その為にも今回の「SMP」を本物の生きたものにして、生活に役立てて行く事だと思います。前にも書きましたが、ここでの教育は短期的になる可能性が高く、時間が経つと気持ちが揺らぎます。その為にも医療機関・「大石クリニック」が必要だと思っています。犯罪被害者を減らす為にも救ってください。正直、このようなつまらない手紙を書いても、受診して初めて一歩踏み出す事が出来、行かなくては意味がありません。通院する事でモチベーションを維持できると思って頑張って行きます。

  この手紙を2月2日に出したいので、今日1月31日と明日中に書き上げますが、その後時間があったら「SMP]に取り掛かります。

  今私が一番引っ掛かっている場所なんですが、SMPの最初の部分であり、最後の部分である「なりたい自分」という項目なんです。具体的に書けなくて苦しんでいます。書きながら思ってしまいましたが、「私は何になりたいのか」と考えると分からなくなりました。下書きで普通の人間・経営者と書いても内容的に具体性が乏しいです。それが書ければそれに向かって進んで行けると思いますが、本当に何になりたいんだろう。一つ分かっている事は「犯罪を犯さない自分」これくらいかな。でもこれが一番大事でこれが全部のスタートだと思っています。今回書いているSMPも私自身が理解しなければならないし、他の人が見ても分かるものにしなければなりません。自分が一番大事ですがね。この手紙を書き終わったらこの問題に取り掛かります。

  今回の最後の発表が2/12から始まり私は2/19に発表します。それまでに自他ともに納得できるものを作りたいと思いますが、何か良いヒントがあればと思います。自分が今苦しめば苦しむ程自分の膿が出てくれれば良いのですが。何せ30年以上も溜まった膿だからそう簡単に出し切れないのですが、苦しむ事で膿が出て、それが今後の自信に繋がればと思います。グダグダと同じ事を書き続けてしまい申し訳ありませんでした。

 

  私が次に発信するのは、SMPの発表が終わってからになりますので、その時はフィードバックを書きます。この手紙に前回描いたスペイン語の文章を書いたのですが、今回は駄目だそうです。同じ文章で前回と今回の違いは何なのか分かりません。3つの単語が書いてあるだけなのに仕方ないですね。希望をスペイン語で書いた事で訳を自費でしなくては駄目だそうです。外国人達は自費で訳してもらっている様子は無いのですが、これくらいにしておきます。それこそ発信できなくなります。

 

  一日遅れましたが、火曜日に発信します。この手紙は立春を挟んで届くと思います。もうすぐ春になりますが、私の春はまだまだ先ですね。

  「冬来たりなば春遠からじ、冬は必ず春となる」

  大石クリニック・スタッフの皆さん、まだ寒い日が続きますがお元気で。今年1年もよろしくお願いします。

                                                                草々

 

 鈴木達也様

            平成27年2月2日書き・3日出し O

 

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<鈴木⇒O>

 O様

 前略