収監者との文通(Aさんとの往復書簡)

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A様

横浜は春本番で暖かい春の日が続いていますが、そちらはいかがでしょうか?
11日付のお手紙、19日に届きました。ありがとうございます。お手紙をいただいた日は仕事を終えた後、新横浜から新幹線に乗って名古屋まで行きました。その名古屋までの1時間20分の間に、お手紙ゆっくり読ませていただきました。

どうして名古屋に行ったのかと言うと、名古屋に住む義弟(妹の夫)が17日の朝、病気で亡くなり、19日がお通夜で、20日が告別式だったからです。義弟は10年前に糖尿病が悪くなって、両足のヒザから下を切断して車椅子の生活をつづけてきました。それと腎臓も糖尿で悪くしたために、血液の汚れを落とすための透析(とうせき)を1週間に3回の通院で受けねばなりませんでした。体内の血液を一旦外に出して浄化してから体内にもどす透析をしないと生きられなくなってしまったわけです。食べ物や水分もきびしく制限されながらの車椅子生活、その車椅子での透析通院、そんな生活を10年続ける中でだんだんと体力も低下していたのでしょう。この2月に肺炎をおこして入院し、一進一退を繰りかえしていたのですが、4月17日早朝にとうとう帰らぬ人となってしまいました。
義弟は酒は飲まず、もちろん依存症とは縁のない生涯でしたが、それでも遺伝性で生まれつきの体質による病魔・糖尿病には勝てずに、アル中になるほど酒を飲んだ私よりも早くして、若くして他界してしまいました。治療への意志や努力だけではどうにもならない先天性の病気の悪化によって他界してしまった義弟を想う時、生活を改善する努力で自分が病気を支配できる依存症という病気で命を縮めたり、犯罪で一生をだいなしにしたくないなと強く思いました。最初から話が湿っぽくなってしまってごめんなさい。

さて、今回のお手紙を拝読し、依存症について何度も学習をくり返したいとの事で、正解だなぁと思いました。依存症の治療としての学習は繰り返し・繰り返し、そして継続する事が大事であり、そして肝要だと思います。この病気は「忘れる病気」とも言われており、一番苦しい時に「もう○○は絶対に止めよう」とどんなに深く決意をしても、時が過ぎるとまた病的欲求によってその決意を忘れさせられてしまうんですね。それを防止する為には常に学習をする事によって病的欲求につけ入るスキを与えない事が大事なんですね。でも、一人でそれを続けるのは「言うは易し、行うは難し」で中々難しいものです。病的欲求の強さというのは、私がここでクドクドと説明するまでもなく、Aさん自身がそれを何度も体験して来ていると思います。そういう病的欲求に完璧に打ち勝たないとまた同じ過ちを犯してしまいます。学校の試験や何かの資格試験だったら100点満点で99点とればまずまちがいなく合格できるでしょう。それこそ東大入試だろうと、公認会計士試験だろうと、最難関の司法試験だろうと99点とればスーイスイと合格できるでしょう。しかし、依存症の病的欲求との闘いでは100点満点の100点でなければ合格できません。例えば、Aさんが1年365日の内の364日は窃盗をせずに無事に過ごせたとしても、残りの1日で窃盗を働いてしまったとします。それで逮捕しに来た警察官に「364日は窃盗をしなかったのだから勘弁して下さい」と言っても通用する話ではないですよね。365点満点の364点を100点満点に換算すると99,7点になり、ほぼ満点と言っても良いのですが、警察や法律、裁判所は決して許してくれません。弁護士でさえ犯罪が事実であればそれを前提として執行猶予とか量刑の軽減策を考えるわけですよね。そこに盗癖(クレプトマニア)やそれにつながるギャンブル依存症との闘いの困難さがあります。人間とは不完全な生物であり、不完全だからこそ人間なのですが、強迫的欲求病という病気を背負った依存症者には病気との闘いでの完璧さ、つまり神業(かみわざ)が求められるのですから何とも因果な話です。
では、どうしたら???…東大入試や公認会計士試験、司法試験より難しい依存症試験にパスして幸福な人生を勝ち取るにはどうしたら良いのでしょうか? 私、この手紙の前の段落の最後で、「生活を改善する努力で自分が病気を支配できる依存症という病気で命を縮めたり、犯罪で一生をだいなしにしたくない」と書きました。そうです、自分が病気に支配されるのではなく、自分が病気を支配できるようになれば、この超難関な依存症試験をにパスできるし、又それが決して不可能ではない事を依存症から回復している多くの仲間達が教えてくれています。

アルコール依存症の回復に関するこんなアンケート結果が報告されています。長期の断酒で回復の道を歩んでいる人々を対象としたアンケートとその結果です。
<問い>:「貴方は自分の断酒継続の為に自助グループのミーテイングに参加していますか?
<結果>:「はい、私は断酒会の例会に参加しています」+「はい、私はAAミーテイングに通っています」
=94%
「私は、事情で自助グループには行けていないのですが、断酒会やAAが断酒の力になるのはよく知っています」
= 6%
この数字をどう思われるでしょうか? 残念ながらギャンブル依存症者の自助グループ:GAでの同種のアンケートは目や耳ににしていないのですが、同じ様なアンケートをすればアルコールと似たような結果が出るだろうと思います。治療仲間どうしの絆、支え合いと言うのは確かに大きな力になるのだと思います。公認会計士の試験会場で受験者達が協力しあって満点答案を書くなんて事は絶対にできませんが、依存症試験ではそれが出来るわけです。

囲碁クラブとかソフトボール大会など刑務所というより学校のクラブ活動のような感じがしましたが、刑務所側も受刑者のストレス防止法もを色々と考え企画しているんですね。そういう楽しむ時には大いに楽しんで心の健康の糧として下さい。それと新しい試みとしての「読書指導」ですか、これも良いですね。Aさんは依存症関連の本を読んで感想文を書くそうですが、この文通にも同じ感想文を書いて頂ければ嬉しいです。

今日は色々と話が長くなってしまいました。追伸に書かれていたお尋ねへの返事は、又近日中に改めて送らせて頂きます。今回は、たまたま名古屋の葬儀に行く日に6名様同時到着でのお手紙を頂きましたので、その返事を出し終えてから、追伸への返事を出したいと思いますので、悪しからずご了承ください。

それでは今日はこれにて失礼します。暖かくなって来たとはいえ、お体には油断なく、ご自愛ください。草々

平成26年4月24日

大石クリニック相談員 鈴木達也

追伸
<大石HPリニューアルのお知らせ>;
大石クリニックではこの度ホームページを全面的にリニューアルしました。それに伴い、今日まで文通を公開していましたBBS掲示板「あおいくまの部屋」も、より読みやすく、親しみやすい形式に変更し、名称も「はばたき文通」と変更しました。若鳥が大空に向けて飛び立とうと大きく翼をはばたくイメージと、依存症者が文通・治療による社会復帰をめざす努力をイメージを重ね合わせたたネーミングです。名前に合った文通ができるよう従来に増しての努力をつづけたいと思いますので今後とも宜しくお願い致します。

前回話したお手紙のネット公開については、同封の公開文の形で進めることとしました。公開という性格上、原文を編集する必要もありますので、その旨ご了承ください。