Aさんからの手紙
Aさんからの手紙
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及び 当掲示板No.555 以降Aさんとの文通参照
前略
鈴木さん、ありがとうございます。又、Yさんからのお手紙もありがとうございます。
Yさんは、事故で右腕を失くすという悲惨な事故を経験し、さらにはアルコール依存症も回復に近い状態になっている・・・私としては凄いという思いが強いです。もし私が同じ経験をしていたら、回復の道に進めたかどうか、自信はありません。むしろ、もっと依存症が進んだと想います。でも、Yさんが回復に進んでいるなら「私も脱却できるのでは」と思います。依存症の種類は違いますが、回復へと進んでいる人がいると言うのは励みになります。そういう意味では、鈴木さんの存在も大きな力になります。
出所から今まで、バカラをしたいと思う気持ちは殆どありませんでした。(思いは想いですね・笑)それは、ずっと大石クリニック・鈴木さんと手紙のやり取りをしていたお蔭なのか、○○にはバカラ賭博をしている場所が無いからなのか、それは分かりませんが、本当に今までと違い、バカラに行きたいという欲求があまり出ませんでした。私としては手紙のやり取りも凄い大きな効果があったと思います。そのお蔭で刑務所に居ても、あんまりバカラに行きたいとは思わなかったです。
でもこれが○○に居たのではなく、渋谷、横浜に居たらこうおもえたかどうかは不明です。横浜や渋谷ではバカラの場所も知っているので、多分、行きたいという想いが強く出たと思うのです。そういう意味では○○は良かったのだと想います。窃盗もバカラと同じく卒業したいです。
ここの留置場では、事件の事については手紙に書く事が出来ないので、詳細については拘置所、刑務所に移ってから手紙にかいて相談したいと想います。
この盗癖も依存症の一種なのですか? そう言われると何だか心強いです。単純ですね(笑)
今回の事件は、本当に自分でも馬鹿だなと後悔しています。せっかく良い仕事も見つかり、部屋も見つけ、一人での生活ももうすぐ軌道に乗るところだったのに・・・なんでまた、同じ過ちをしてしまったのか・・・自分でももの凄く後悔しています。一時的に生活が苦しいということもありました。でも、その苦しさは、そんなに深刻なものではありませんでした。あと一週間ガマンしていれば何てことはない事でした。それがガマン出来ないとは・・・本当に情けないです・・・。
次に出て来た時に、今回と同じ様にすぐ生活出来るかどうか不安です。今お世話になっている学校の先生方が力になってくれているので、あまり心配することではないのですが、やはり不安です。
今までの出所後は直ぐに仕事に就かなかったのも犯罪を犯す一つの要因だったと想います。そして、出所して2ヶ月とか3ヶ月で逮捕されていました。
しかし今回は、出所して1週間後には仕事をしており、ハローワークの給付金の出るパソコンスクールにもすぐ通うことが出来ました。これらのお蔭で、今までみたいな短い期間で犯罪を犯すことはなかったと思うのです。
なので、この次もこのペースですぐ仕事をしたいと思うのです。そしてその後は、焦ることなく、ゆっくりと地道に生活をして行こうと切に思うのです。
今回も御迷惑を掛けると思うのですが、院長先生にどうか宜しくお伝え下さい。また、鈴木さんにも色々と御迷惑を掛けてしまうと想います。できる範囲でよろしくお願いします。
これからも御指導のほど、よろしくお願いします。また手紙を書きます。失礼します。
草々
平成24年5月31日 A
↓返書
Date: 2012/06/07/13:06:53 No.760
Re:収監者との文通
Aさんへの返書
A様
前略
5月31日付のお手紙拝読しました。ありがとうございます。
Yさんの手紙に対して、「もし私が同じ経験をしていたら、回復の道に進めたかどうか、自信はありません。むしろ、もっと依存症が進んだと思います」と書かれていますが、Yさんも事故で右腕を失った後、アルコール依存症を進行させつつ、受刑生活を重ねるという茨の道を歩みました。そして、そうであったからこそ、刑務所と決別して生きる為には依存症の治療と回復の道を歩むしかなかったと話しています。私、Yさんのこの話にトコトン追い詰められた人間が持つ強さを感じています。それは「底つき状態での無力の力」と言えると思います。Aさんも今度の一件を「底つき」として、今度こそ、二つの依存症(ギャンブルと盗癖)から脱却し、刑務所と絶縁した更生への道を歩まれるよう心から願い、期待しています。
そして、その為には先ず依存症という病気について知る必要があると思います。では、依存症とは具体的にどんな病気なのでしょうか? 大雑把な話ですが、大体こんな事らしいです。
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(1) 依存対象からの刺激 例)渋谷や横浜に住むAさんに
とってのバカラ場
↓
(2)バカラ欲求ホルモンの病的増量:(ここが病気)
↓
(2) バカラ指令→→(脳神経細胞)→→(脳神経細胞)
→→バカラ場へ直行
ホルモンの病的増量や(→)の進行は患者の意志・理性では
抑えられない。
=「バカラ」は、そのまま「窃盗」とも言い換えられます。そして、盗癖(依存症)の場合は、渋谷・横浜に限らず○○を含めた全国に病的欲求対象としての他人の金品が星の数ほど存在しており、それから遠ざかる事が出来ません=
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以上の様に、依存症は他の病気と何ら変わらない病気なのですが、Aさんの場合、刑務所生活や○○に居住する事で、上記の(1)を封じた結果(2)・(3)が作動せずバカラをせずに来られたのだと思います。しかし(2)・(3)の病理は潜在的に残っており、(1)次第では(2)・(3)が動き出すと考え、治療を考えた方が無難だと思います。他方、盗癖依存の方はバカラと違い依存対象(他人の金品)に物理的に距離をおく事が不可能なので、それも今回の事件の一因になったのだと思います。従って、これも治療が必要と言えるでしょう。
しかしAさんの場合、バカラ場から距離をおく為に○○に居住するというのも一理あると思うし、また出所後は○○のスクールに職が用意されているという条件下でどう専門治療を行うかという問題があります。依存症専門病院は全国的にも数が少なく、以前ご紹介した○○の岡本台病院でもアルコール以外のギャンブル依存症や盗癖の診療は行っていないようです。
となると、やはり、この文通の治療に占める比重が高くなるわけです。そこで、前回の手紙でお約束した依存症仲間の体験談をできるだけ多くこの文通でお送りしたいと思います。又、依存症治療への効能度が高いと言われている認知行動療法に基づく話題も手紙でお送りしたいと思いますので、ご期待頂ければと思います。
また近々に、依存症体験談を含めての手紙を書きます。今日ははこの辺で失礼します。
草々
平成24年6月7日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2012/06/07/13:36:04 No.761