収監者との文通:Aさんとの往復書簡 H27/7/2

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<A⇒鈴木>
前略
 鈴木さん、お手紙2通届きました。いつも貴重な意見をありがとうございます。
 さて、手紙に書かれていた「条件反射制御法」~「パブロフの犬の原理」ですが、これこそが昨年の9月に私が手紙に書いた「依存症は治る」の意味です。その時に私が聞いたのは刑務所の教育に関する部署の人の話だったのですが、千葉の病院の先生が考えた治療法で、パブロフの犬の原理を応用した依存症治療法との事でした。その話を聞いた時には詳しくは分からなかったのですが、鈴木さんからの手紙で少しですが理解できました。
 又、同時に聞いていた話がもう一つあり、昔は依存症治療は依存を止め続ける必要がある治療で、ゴールのないマラソンだったのが今はゴールのあるマラソンになった。それはこの「条件反射制御法」という治療法が確立されたからだという話でした。
 鈴木さんからの手紙では、入院で3ヶ月の治療が必要とありました。ある意味で刑務所は入院期間?だと思うので、これを刑務所内で実施すれば出所者の再犯率も大幅に減るのではないかと思います。現在薬物関係の犯罪者の人は出所が近くなると教育の一環として自助グループ的なミーテイングが刑8回ほど実施されます。1回1時間くらいでダルクの職員が来る時もあります。このように薬物には教育があるのに窃盗犯にはまだありません。刑務所内の犯罪割合としては薬物と窃盗で約7割を占めています。ですから窃盗にも何か再犯をしない為の教育があっても良いのではないかと思えて仕方ありません。
 窃盗をしてしまう理由というのは薬物の人達と比べると多種多様で難しいのかも知れませんが、私が何度も捕まって実感しているのは窃盗犯の多くはギャンブル好き、万引きのスリルが欲しい人達が多いという事です。ギャンブルはパチンコ、スロット、競馬などが多く、私の様なバカラに嵌っている人はあまり見たことがありません。
 スリルに関してですが、ドキドキするという感覚が快楽になるというのは何となく分かる気がします。私も窃盗をしている時は気分が高まりますし同時に誰かに見つからないかなというビクビクした感覚もあります。でもそれは外の出入り口を壊している時だけで、中に入ってしまうと、ビクビク感やドキドキといった感覚はなくなってしまいます。それは私だけかも知れませんが・・・なので、薬物のようなミーテイングは難しいのでしょう。でもギャンブル依存症の人は実際にたくさん居るのですから是非刑務所でも教育を行って欲しいです。そうすれば再犯率も少しは低下するのではと思います。問題提起みたいになってしまいましたね(笑)

 さて、条件反射制御法の話に戻りますが、①キーワードアクションですが、これなら今の私の環境でも出来そうです。さすがに一日千回は無理ですが、可能な回数を練習のつもりでやってみようと思います。②擬似ギャンブルは、ちょっと、ここでは不可能ですね。③想像ギャンブルは、正に大石クリニックとの文通がそうだと思います。過去の事を手紙で書いているわけですから、ギャンブル、窃盗をしていた時の状況を思い出しているわけですから。なので③もここにいる間に実践できそうです。④維持ステージですが、②が物理的に不可能ですので100%の実施は難しいですが出来る範囲で行って行こうと思います。
 外に戻ってからの通院治療の予行練習だと思って軽い気持ちでというと不謹慎ですが、専門治療の下で実行する分けではないので間違っては大変ですからまずがこれ位の気持ちで行って行きます。

 さて、前にも書きましたが、今、仏教を勉強しています。一日30分くらいですが必ずお経を唱えています。観音経、法華経の二つは毎日唱えており、そのあと別のお経を読んでいます。全部で300ページ程の本なのですが、一冊読み終わるのに大体10日間掛かっています。もう半年程続けているのですが、不思議と観音経と法華経の一部については毎日唱えないと気持ちが悪い感じがします。いつも夕食の後に実行しているのですが、その時にやらないと何だか調子が狂うのです。これが毎日の習慣化というものでしょうか。因みに、簿記の勉強を一日休んでも同じ想いになりません・・・なぜでしょう(笑)でもこれを応用して依存症の治療に役立つのかもと思うのです。例えば、窃盗をしたくなったらお経を唱えて心を静め、落ち着かせる事もできるのではと思います。これがワークブックに載っていた思考ストップ法の一つになればと思います。まだまだ学ぶ事が沢山あります。これからもご指導よろしくお願いします。

 梅雨に入りました。あまり良い日和ではなく蒸し暑くなります。お互いに体調を崩さず乗り切りましょう。では今回はこの変で失礼します。

                                                                       草々

                                                       平成27年6月27日 A

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<鈴木⇒A>
A様
前略
 Aさん、こんにちは。7月に入り、早いもので今年ももう半分が過ぎてしまいました。そんな1年の折り返し点を迎えた7/1にお手紙が届きました。いつもありがとうございます。
 
「条件反射制御法」の話は以前から聞いていたそうで、それで私の下手な説明でも比較的理解し易かったのでしょうか。積極的に受け止めて頂けたようで嬉しく思います。
 この療法は、2006年頃から千葉市にある国立の下総精神医療センターにて薬物乱用への治療法として研究開発されて来たのですが、薬物だけでなく各種依存症全般への効能が認められ、新しい治療法として注目されています。この治療法は外来でも可能なのですが、より集中的な治療が望ましい場合には入院で3ヶ月と言われています。
でも依存症受刑者の方が出所後に3ヶ月の入院治療となると色々な面で負担が大きいですよね。時間的にも、経済的にも厳しいし、殆どの場合新しい職探しも必要でしょうから、依存症治療は外来通院にならざるを得ないでしょう。ですから、お手紙にも書かれているように受刑期間中に刑務所内の教育でこの療法を行うのが再犯防止や社会復帰の為に一番良いと私もそう思います。でも現実にはギャンブルや窃盗への教育が行われていない下で、Aさんが個人的に可能な範囲でこの療法を行ってみようと思ったのは非常に積極的で賢明な考えだと思います。
①キーワードアクションに関してお手紙で「さすがに千回というのは・・」と書かれていますが、①を千回というのは3ヶ月の入院期間中の通算回数ですのでどうぞご安心下さい。一日の回数としては20分以上の間隔をおいて20回くらいと言われていますので、まぁ、1時間に1~2回くらいというイメージで良いと思います。 仏教の勉強も頑張っているようですね。毎日の夕食後に観音経と法華経を唱えないと気分が悪くなるそうで、これも依存の域かもですね。でも、依存の全てが悪いわけでなく心の修養になる事に嵌るのは悪い事ではありません。良い事を継続するには、それをしないと気分が悪くなるくらいなのが一番良いですね。嫌でも継続できますからね。一日30分くらいなら全然問題ありませんしね。
 一つ嬉しかったのは、お経が窃盗への思考ストップ法の一つになり得る事に気づかれた事です。前刑の前橋でのワークブックの学習が生きていますね。この先も色々な視野が拓ける中で身近な所に「思考やストップ法」や「いかりの綱」を発見すると思いますので、以前の勉強を活かして行って欲しいと思います。

 それでは簡単ながら今回はこれにて失礼します。暑さに向いますので熱中症などに注意してお過ごし下さい。

草々

平成27年7月2日  
大石クリニック相談員鈴木達也