収監者との文通 Aさんからの手紙

NO IMAGE

収監者との文通

Aさんからの手紙

大石クリニックHPトップページ参照

前略
鈴木さん、お手紙ありがとうございます。
(時候文略)
さて、先日運動会がありました。天気が心配されましたが無事に行われました。リレーの結果ですが、予選が2位で、決勝で3位でした。4人のリレーで私は第2走者として走りました。私は予選で1人に抜かれてしまいましたが、その人はとても速かったです。私は学生時代は、100mを11,8秒~12,4秒くらいで走っていましたが、私を抜いた人はもっと速かったと思います。グングンと追い抜かれ差がもの凄く開きショックでした。久しぶりに悔しい思いをしました。来年も頑張れたらと思います。

今回のワークブックですが、セッション7をやりました。
P45の自分の感情に気づくの項ですが、P46の「説明して下さい」を考えてみたので書きます。感情があまり思い浮かばなかったのでワークブックにあった例に倣うと、孤独感は何となく分かります。私は一人でいるのが平気な時と、寂しいと感じる時があります。自分でも、なぜ平気な時と寂しく感じる時があるのかは解りません。でも寂しく思う時は、用も無いのに外に出てブラブラとしてしまいます。そういう時に窃盗の事を考えてしまいます。怒りで窃盗をするというのはないと思いますが、バカラに行ってストレス発散というのはあると思います。喪失感というのはちょっと思い浮かびません。
P48のモチベーションを高めるですが、問題行動を続けた場合の良い事は、バカラで楽しめ、一晩でお金が稼げる。悪い事は、お金がなくなり窃盗をして刑務所に来てしまうです。
克服を続けた場合の良い事は、刑務所に来ない。悪い事はバカラという楽しみがなくなり、お金も給料だけになってしまうことです。
思い描く、10年、20年後ですが、先ず10年後ですが、簿記1級、公認会計士などの資格を取り、それらを活かした仕事に就いていたいです。20年後には独立して仕事をやっていたい、結婚もできればしたいです。
P50の宿題ですが、自分を高める為に、資格の勉強を続け、合格し、それを活かす仕事に就く。精神を鍛える為に筋トレ、マラソンなどをして刑務所に来ない生活をしたいです。
 以上が今回のセッションですが、やはり自分の感情について考えるのは本当に難しいです。次回はセッション8を行いたいと思います。

 横浜も10月に入ってから猛暑日になった日は多かったのでしょうか?ですが、今後は秋、冬に向けて涼しく、寒くなって行くと思います。風邪など引かぬよう様、お身体を御自愛ください。また手紙を書きます。では失礼します。
                     草々
          
         平成25年10月14日(月) A

追伸
運動会ですが、私のいる連合チームは何と優勝でした! とても驚いています。優勝したのは運動会では初めてです。ソフトボール大会なら何度か優勝経験はあります。優勝できて本当に嬉しかったです。次は将棋大会と卓球大会です。こちらも頑張ります。

Date: 2013/10/21/12:11:13 No.1027

Re:収監者との文通

Aさんへの返書

A様
前略
 Aさん、こんにちは。10月14日付のお手紙19日に届きました。有り難うございます。
 運動会・リレーの実況中継も楽しく読ませてもらいました。リレーでは一人に抜かれてしまったそうですが、それは相手が速過ぎたからですよね。Aさんだって100mを最速11. 8秒で走っていたなんて凄いですよ !! オリンピックの金メダルが9秒8くらいとして、それとの差を秒針でイメージしてみたら「カッチン、カッチン」ぐらいですから、金メダルの背中を直ぐ目の前にしてゴールインするようなものじゃないですか !! もしかしたら、ゴール前でAさんの後に何人かのオリンピック選手がいるんじゃないですか?とにかく凄いですよ。Aさんは学生時代は陸上部だったんですか?・・・そして次は、将棋大会、卓球大会に向けて張り切っているようで、Aさんも色々と多趣味なんですね。多趣味は依存症や犯罪からサヨナラする為のいわゆる「いかりの綱」(ワークブック/セッション5参照)として役立つので依存症治療の為にも是非活用して欲しいと思います。

 さて、今回はワークブックのセッション7を勉強されたそうですが、お手紙を読んで気がついた事だけ書いてみたいと思います
 先ず、感情面での寂しさを感じると何の用事も無いのに外をブラブラ歩き、そんな時に窃盗が頭に浮かぶと書いておられますが、これは大事な気づきだと思います。そういう自分を認識していれば、窃盗への赤信号を事前に予知でき、窃盗の予防策も講じられるからです。又、今その効果が認められ世界的に広がっている認知行動療法でも、例えばAさんの寂しさから来る窃盗願望を「認知の偏り・癖」と言い、それを修正する考え方を重視しています。つまり、「寂しい時には窃盗で気分が紛れる」という「認知の偏り・癖」を、窃盗以外の犯罪ではない建設的な何かに修正し、その修正を行動化することを通して、窃盗を防止できると確信するのが認知行動療法なんですね。この療法の観点からも、「寂しさは窃盗で紛らわせる」という「認知の偏り・癖」への気づきは大きな気づきだと思います。以前のお手紙で、バールを手にすると窃盗に走り易いから、金物店への出入りを控えるようにすると書かれていましたが、それと合わせて、今回の気づきも忘れない様にして頂ければと思います。
 それと、もう一点ですが、「宿題」の所で「精神力を鍛えるために、筋トレ、マラソンなどをして刑務所に来ない生活をしたいです」と書かれていますが、私も是非そうして欲しいと思います。そして、刑務所に来ない為には犯罪の原因となって来たバカラ依存症、盗癖(これも依存症)の治療にも鍛えた精神力で取り組んで頂きたいと思います。
 10年後、20年後の憧れる自分、簿記1級や公認会計士の資格を活かして働く自分への夢を忘れない事も依存症治療へのモチベーションを維持する上で大事な事ですので、今回の学習で得た思いをしっかり頭に刻んで頂ければと思います。
 
 10月に入りながら、横浜でも真夏日がありました。私の公休日でしたが、マンションの屋上真下という我が家では試しににクーラーを切ってみたら、何と35度!! 8月の猛暑日そのままの日で、地球の温暖化を確信したような日でした。でも、さすがに最近は大分涼しくなって昨日の我が家の室温は22度でした。そんな中で大石ではインフルエンザ予防接種の申し込みが始まっています。本当にもうそんな季節なんですね。だんだん気温も下がっていきますので、体調管理には重々気をつけてお過ごし下さい。それでは、今日はこの辺で失礼します。
               
                     草々
                                   平成25年10月21日(月)
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/10/21/12:25:26 No.1028