Aさんへの返書

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Aさんへの返書

管理人
前略
 お便り嬉しく拝見しました。
簿記2・3級の勉強をされているとの由、素晴らしい事だと思います。合格目指して頑張って下さい。
 この何かをするという事は依存症治療のの柱の一本になります。断ギャンブルにしろ、断酒、断薬にしろ、依存対象の「断」だけでは結局「何もしない」に留まって時間が空白になるだけです。その空白に再びギャンブルや酒、薬・・・が流れ込んでしまいます。Aさんの場合、今はバカラをやりたくてもやれない生活環境の中に居るのでバカラが流れ込む心配はありませんが、出所後自由な生活に戻った時に、断バカラによる空白時間の埋め方が治療の柱の大きな一本となるでしょう。 その意味で今始めている簿記の勉強は出所後の治療につながる大きな意義をもっていると思います。出所までに少なくとも2級にパスしておきたいとの事なので、出所後バカラの誘惑が存在する世界に戻った時には、1級を目指す勉強を、大石やGAでの治療と並ぶバカラ誘惑への盾にして頂ければと思いす。
 さて、毎回のお便りでご自分のバカラ歴に触れられております。最初の切っ掛けから、その後の経過、結果としての5度目の刑務所暮らしまでの具体的な振り返りをされていますが、これぞ正しく東大入試文が言う「過去を決然として直視する」ことであり、「未来に向けて思い通りの道を1歩1歩と確実に歩む」前提であり、土台になるものだと思います。アルコール、薬物、ギャンブル、買い物、性・・・あらゆる依存症を通して共通する症状は「忘れる」なんですね。俗に言う「喉元過ぎれば熱さ忘れる」との格言はまるで依存症患者のために言われているように思われます。病気の極限での地獄を体験して、もう一生「ギャンブルはやらない」、「酒は飲まない」、「薬に手はつけない」と心に誓っても、未治療のまま時間が過ぎる中で再び病気に捕まり、地獄体験の辛さを忘れ、再び病的欲求の虜(とりこ)になってしう・・・そして再び同じ事を繰り返すのが未治療の依存症患者の常なるパターンなんですね。だからこそ「過去を決然として直視する」ことが大切であり、その為に同じ病気による共通体験をもつ依存症仲間とのミーテイングが大切なんですね。仲間の体験談は自分が忘れていた自分の体験をも思い出させてくれます。そういう仲間との触れ合いを一日づつ継続する事で、忘れてはならない心の記憶を一日、一日維持し、継続させ、病的・強迫的欲求に一日、一日と打ち勝って行けるのだと思います。ただAさんの場合はミーテイング仲間との触れ合いは出所後の事になりますので、それまでは、ご自身の心の中や手紙での振り返りを続け、それを出所後への準備にして頂ければと思います。
 簿記の勉強とバカラ生活への振り返りの中で、Aさんは今、新しい第2の人生に向けて着実な一歩一歩を歩み始めておられるように思います。この道を歩み続けられるよう心から期待しております。
 この先もまた色々な困難に直面する事もあるとは思いますが、Aさんは決して一人ではありません。前回の手紙でご紹介した大石の仲間達もAさんが来られるのを待っています。もちろん、院長以下のスタッフも待っています。GAの仲間達もいます。出所の日まで、希望を胸に、焦らず、今できる事を一つ一つこなしながら、一歩一歩と歩いて行って下さい。またのお便りをお待ちしています。
                                     草々
    平成21年11月17日
      大石クリニック相談員・鈴木

Date: 2009/11/16/14:03:56 No.389