収監者との文通 Aさんとの往復文通

NO IMAGE

<A⇒鈴木>

前略
鈴木さん、お手紙ありがとうございます。

最近の私の状況ですが、持病の潰瘍性大腸炎が悪化して困っております。朝と夕に血便が酷いのですが、日中に血便が出ないのが幸いです。悪くなり出したのが4月中旬で、アサコール錠を1日6錠から9錠に増やしてもらったのが5月中旬で、約1ヶ月薬が増えなかったのが災いしたのかどんどん悪くなり、今では副腎皮質ホルモン、ステロイド剤のプレロン5mgを1日に3錠のむようになりました。体重もご飯を食べないせいか4月中旬に60kgあったのが現在は54~55kgの間まで落ちました。
18歳の時にこの病気にかかり、今まで23年間付き合ってきている病気なので、自分の病状がどれだけのものか分かっているつもりです。客観的に見て、私の状況は血便は出ていますが、そんなに酷くはないと思います。ただ、ご飯はほとんど食べていないので食欲との闘いが一番つらいです(笑) 胃は元気なので食欲は凄くあるのです。こんな状況ですが、元気ですので心配しないでください。

それと、ソフトボール大会も始まり、一回戦に勝利しました。私も出場し1打数1安打1打点でした。6-0と快勝でした。続く二回戦は雨でずっと延期になっており、この手紙が届く頃には二回戦も終わっているのではと思います。

さて、近況はこのくらいにして、鈴木さんの手紙に、依存症者は頑張り屋さんが多いとありました。しかし、それを私にあてはめて考えると、ウーンと首をひねってしまいます。色々な事に興味を持つのですが、全て広く浅くの様な気もするし、飽きっぽい性格のような気もします。
ただ前にも書いた様に、仕事をしないでスロットでお金を稼いでいた時は必死に台を研究したりして頑張っていた?とは思います。そういう意味では頑張っていたのかなと思います。
それと仕事に関しては忙しい方が好きです。それは一日が短く感じるからです。暇だと一日が長いので私は忙しい方が好きです。私の仕事歴はスーパー、パチンコ店、家電量販店とサービス業が多いのでお客が来ないと暇なので忙しい方が好きなのかも知れません。
この様に、私が頑張り屋かどうかは分かりませんが、依存症を克服して行こうと思います。その為の人垣を早く作って行きたいです。今は鈴木さん、栃木で待っている学校の先生達と小さいですが、今後同じような依存症者達の中に身を置き、人垣の塀を高く厚くして行き、依存症に克ち続けたいと思いました。これからも指導をよろしくお願いします。
私的な近況が多くなりましたが、今回はこの辺で失礼したいと思います。これから暑さも本番になると思います。暑さに負けぬ様お身体をご自愛下さい。では失礼します。
草々 平成26年6月14日(土)  A

追伸
サッカーW杯もいよいよ始まりました。歴代最強と言われていますが、何とか決勝トーナメントに進出して欲しいです。

<鈴木⇒A>

A様
前略
14日付のお手紙19日に届きました。
先ずは、「潰瘍性大腸炎」との事で驚きました。23年付き合って来て、よく分かっている病気なので心配しないようにとの事ですが、殆ど食事が出来ないとの事で大丈夫ですか?特にこれから暑くなるのに栄養補給の方はどうするのでしょうか?やはり、ちょっと気にかかります。
ところで、ネットで色々と調べていたら、お手紙に書かれている「アサコール」錠という薬は安部首相を首相に復活させた薬だそうですね。安部首相も10代後半頃からこの病気に悩まされてきたそうです。それで前回首相になってからも病気が悪化して、2007年に突然辞任した時にもトイレが近くなって国会答弁もままならない事態だったそうです。それで辞任したのですが、それから2年後に登場した新薬が「アサコール」錠で、この薬が劇的に効いて自民党総裁、首相再登板への道を開いたそうです。総裁選には、この病気に一番悪いと言われる脂肪分を含んだ刺激性の強い食べ物であるカツカレーをムシャムシャ食べて臨んだそうですが、それだけ病気が良くなっているという事のようで、その事を医学の前進を望む立場から喜びたいと思います。
さて、安部首相には特効薬だったようですが、Aさんにはどうなのでしょう? いずれにせよ、医学の進歩は日進月歩ですから、又良い薬が出て来るだろうと期待したいですね。

次に、 「依存症者には頑張り屋さんが多い」という話ですが、Aさんもやっぱり頑張り屋さんだと思いますよ。前回の手紙でも書きましたが、少なくとも刑務所内での独習で簿記3級、2級をゲットしているわけですからね。必要な参考書一冊を入手するにも時間がかかったり、悪くすると入手できなかったりという学習上のハンデイを背負いながら簿記の資格を取得し、更に1級から公認会計士の資格取得まで志しているわけですから、Aさんが頑張り屋さんでないとしたら世の中に頑張り屋さんは殆どいないだろうと思うくらいです。そして、そうだからこそ、バカラやスロットなどのギャンブルも頑張ってしまい、その結果として窃盗も重ねてしまったのでしょう。
私もアルコール依存症の診断を受けて以来もう19年間、治療の現場に身を置き、自助グループである断酒会にも参加していますが、その目で見て、依存症者にはこういう明暗両面を兼ね備えた頑張り屋タイプが多いですね。その「明」の方で頑張って人生を切り拓けば良いのですが、問題なのは頑張り過ぎから来る疲労やストレスを癒そうとして各種の悪い依存に逃避して、そこでも頑張り過ぎて依存症になってしまう例が非常に多いように思います。車に例えれば、強力なエンジンと性能のよいアクセルを備えているのですがブレーキとハンドルが故障しているわけです。これでは折角のエンジンやアクセルも逆に仇(あだ)になってしまい、すぐに事故を起こしてしまうわけで、エンジンやアクセルが何とも勿体ない話となるわけです。
世間では、各種の依存症者というのは意志が弱いから酒やギャンブルでどんなに問題を起こしてもそれを止められない意志薄弱な人格障害者なのだと思われ、言われがちなのですが、元々は、どうして・どうして人一倍意志が強い頑張り屋タイプが多いんですよ。意志が弱いように見えるのは、依存を止められない依存症という病気の症状だけをみての誤解なんだすね。
ですから、せっかく持っている天性の集中力、実行力を悪い依存ではない人生の推進力となる建設的な方向で活かさないとあまりにも勿体ない、勿体な過ぎると思いませんか?
この先への出発は決してゼロからの出発ではありません。依存症者として既に持っている意志力、実行力を良い方向に活かせば良いわけです。つまり、依存症の治療によってハンドルやとブレーキを修理して、依存症地獄とは逆の向きに方向転換して進めば良いわけです。

依存症から身を護る塀=人垣を早く作りたいとの事ですが、それも既に出来ています。自助グループGAは常に門扉を開いてギャンブル依存症に苦しむ仲間達を待っています。予約も入会金も要りません。会費も不要です。ただ各回のミーテイングで100円の献金を納めれば十分です。いつの、どこのミーテイング会場でも良いですから、飛び込みで行って、「ギャンブルを止めたくて来ました」と一言だけ言えば、それだけで「よくいらっしゃいました」と大歓迎してくれますので、出所したら先ずは一度見学ぐらいのつもりで気軽に行ってみれば良いかと思います。
それでは今日はこの辺で失礼します。これから暑くなりますので、大腸炎くれぐれもお大事に。まずは食事だけでもとれるようになればと願っています。

草々

平成26年6月22日

        大石クリニック相談員鈴木達也