収監者との文通:Oさんとの往復書簡 H26/10/13

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<O⇒鈴木>
前略
朝・夜と急に涼しくなって来ていますが、大石クリニックスタッフの皆さん元気でやっていますか。先生からのお手紙、16日に届きました。本当に毎回思いやりのこもった内容に感謝しています。

今回のお手紙の内容で、私がいくら探しても見つける事の出来なかった性加害につながるスイッチのヒントを教えて頂き本当に有り難うございます。
「意識の自動的な進行」 この言葉通りです。実際に私が犯罪行動をする時、特に何も考える事無く行動していたと思います。手紙にも書いてありましたが、私だって捕まりたくて侵入していた訳ではないので100%捕まる侵入はしなかったし、「やばい」と思った時は逃げます。でも「なぜ、侵入したの?」と聞かれても答えられません。今現在も理解していないのが現状です。本当にこの答えが出せるには時間が必要ですね。今受けている教育を否定しているわけではありませんが、この教育中に答えが出ないように思います。

今日は9月25日ですが、また女児が一人亡くなりました。なぜ殺してしまったのかは犯人にしか分かりませんが、殺さなくても良かったのに・・・と思いました。事件内容はこれからの取り調べで分かってくると思いますが、この人が小児性愛かは発表する事はないでしょうね。少し気になった事件です。
刑務所ではこのような事件が起きると私のような性犯罪者の所に聞きに来る人がいます。私も面倒くさくなり「性嗜好障害」の説明を休息時間の間時間いっぱいかけて話してあげました。その後も休憩時間の時に追いかけて話し続けてあげましたら 「しつこい」と言われたので 「聞いてきたのはあなたです!!」 と言ってやりました。その後は何も言わなかったけれど、結局は性犯罪者をからかい、笑い者にする為に聞くのだから、先に色々な事を話す事でやっと静かになりました。
いくら話してもこの辛い思いを理解してはくれません。できる事なら事件の内容には触れて欲しくありません。他の施設で文通に参加されている方で私のようにグチを書いて来るような方は少ないと思いますが、多かれ少なかれ私と同じような思いをしている人がいると思います。因みに、心無い同囚から私は「ピンクパンサー」と呼ばれているそうです。気にしていませんが・・・ 私のようにメンタル的に弱い人は犯罪を犯さないでくださいね。刑務所という所では誰も信じる事ができません。

9月も終わりになりまして、夜が長くなりました。一日/24時間は変わる事はないのですが、朝目が覚めるとまだ暗いので暫くの間色々と考えています。考えの大半は「認知の歪みによる性的空想 」になってしまいますが、気がついて「これは動的リスク」と思いながら変えられる努力をしています。
この朝の時間で考え込む中で先生の手紙に書かれていた「自動思考」の事を考えていたら、私がなぜこのような行動をして来たのかが少しずつですが見えて来たような気がして来ました。それは未だはっきりしていませんが、思いついた事を書いてみます。答えになっているか分かりませんが。
私がこのような犯罪を起こすようになった頃の事を思い出してみたのですが、そこには大小のストレスがあったと思います。私が「小児愛的ないたずら」や「のぞき」を始めた頃を思い出してみたら、子供の頃父親がアルコール依存症で暴れたり、祖母からのしつけや、学校でのいじめがストレスになっていて、小学校の頃いたずらをしていました。中学に入ると勉強の不出来などでストレスを溜めていましたし、高校(社会人)になると仕事上のストレスを溜めるようになりました。その時に初めて「のぞき」をするようになります。その後今の妻と知り合うのですが、生活の事、子供の事、仕事の事でストレスを溜めるに従って「のぞき」の回数も増して行きました。
そんな事を繰り返している内にストレスを感じなくなっていました。今思えば、ストレスを感じないというより、ストレスが溜まらないように、それを発散する方法として性加害を繰り返していたように思えます。それが無意識のうちに「のぞき」という形になって行動していたように気づきましたが、何せ「認知」が歪んでいる人間の為自分勝手に良い方へ考えてしまいました。
毎回の教育でストレスは二の次くらいにしか思っていませんでしたが、毎朝考えているうちに、なぜ「自動思考」のようになって行ったのか、ほんの少しだけ分かって来た気がしました。人間誰しも多かれ少なかれ認知の歪みは有ると思っています。その中で、性への片寄りのせいで刑務所に来る事になってしまい、本当につまらない人生になりました。話が散らかっていますが、私が問題にしていた「スイッチ」の件ですが、今回の発見をヒントにして少しずつ前に進めて行けば・・・と思っています。
今日の朝も少し考えてみたのですが、ここ数年思ったよりストレスを感じる事が少なかったように思います。確かにストレスになるような事はたくさんありましたが、そのストレスを感じる前にストレスを発散する方法として犯罪を起こしていたのだと思います。それが「自動思考」という形になっていたのだと思います。これからはストレスを発散する方法を別の形にする方法を見つけ出さなければなりません。脳の中に出来た「自動思考」につながるネットワークを変える作業には少し時間がかかりそうです。
10月の末くらいに「行動ステップ」の発表がありますが、今回の気づいた事を入れて発表する事が出来ます。この行動ステップの中に「内的リスク・外的リスク」というものが出て来ました。「静・動・内・外」と4ヶ目のリスクの勉強をしていますが、気になるものが出て来ますね。それは「内的リスク」の中にある「逸脱した性的空想」です。朝、目が覚めて色々と考えていると「性的空想」が入り込んで来ます。変なネットワークが出来ていますね。教育を始めた頃より自分を見ようとする時間が増えた事で今まで気がつかなかったものが見えて来ました。以前の自分史発表の時に気づかなかった認知の歪みの中にある「白黒思考」も高いように思いました。

実は今日は9月30日なのですが、午前中の教育に行ったら一人少なくなっていました。いま現在取り調べ中なら参加させてくれても良いと思うのですが無理なようでした。罰後また帰って来れると良いのですが、20回以上懲罰を繰り返しているので分かりません。本当に頑張っていたのに少し残念です。教育の先生方は帰れるように話してみるようです。最後まで6人で終わりたかったです。このまま書いていると暴走しそうなのでこの辺で止めます。

10月に入って「涼しい」から「寒い」へとなりますので、皆様お体に気をつけてください。教育もあと5ヶ月頑張って行きます。乱筆・乱文、申し訳ありません。

草々
鈴木達也様
平成26年10月5日 O

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<鈴木⇒O>

O 様
前略
10月に入り横浜も日毎に秋の薫が増している中、お手紙8日に届き大変うれしく拝読しました。
所内での教育と文通を続ける中で、ご自身の心への気づきを深めている様子が文面よりひしひしと伝わる思いで読ませて頂きました。これからも、ゆっくり・ゆっくり、一歩一歩で良いですから、この気づきと自己変革への道を歩み続けていただきたいと思います。

そうでしたか、自動思考による犯罪の陰にストレスがあったわけですね。よく気がつきましたね。女子トイレに侵入した時には特にストレス発散の為なんて考えていなかったけど、無意識のうちに働いていたストレスから逃げたいとの思いが、自動的に犯罪行動へのスイッチを押してしまっていたわけですね。
アル中の私も毎日一升酒を飲んでいた頃は、それこそ本当に自動的と言うか、もう無意識のうちに飲んでいました。それで断酒を始めた頃は「なぜ飲んだ?」と尋ねられても、「飲みたいから飲んだ」としか答えられませんでした。でも、一日2合程度の常習飲酒を始めた20代後半の頃は確かに、仕事後の「ストレス解消剤」、「人間関係の潤滑油」、「頭の回転を良くする薬」、「百薬の長」・・・といった意識で飲んでいました。だから「なぜ飲んだ?」と尋ねられれば、それなりの理由を答えられました。それが40代に入って既にアル中になっていた頃には、飲む理由が飲酒欲求の分厚い皮に包み込まれてしまっていて、飲む理由など殆ど意識せずに飲んでいたので「飲みたいから飲んだ」としか答えられなくなっていたのだと思います。正に自動思考で飲んでいたわけで、アルコール依存と性依存の違いはあっても、やはり自動思考による暴走という点で基本的に共通しているんですね。

では、なぜ病的飲酒や犯罪にまで暴走させてしまうような自動思考が発生してしまうのか? および、どうすればそれを止められるのかについて、
①:依存症の病理(病気のメカニズム)と、
②:自動思考を抑える為の体験談ミーテイング
について、少し考えてみたいと思います。少々医学的な話になりますが、素人の私が理解している範囲でなるべく分かり易く書きますのでお付き合いいただければと思います。

①:依存症の病理(病気のメカニズム)
依存症者がアルコールや性的問題行動などの依存対象に手を出すと、脳の中にドーパミンという依存欲求を強める物質が病的にあふれ出るそうです。ここに一般の健康な人との第一の違いがあります。同時に又、快楽による興奮を抑制し感情を安定させるセロトニンという脳内物質が健康な人に比べて少ない為に依存への感情や欲求への抑制が弱く、病的欲求を意志や理性の力だけでは抑え切れなくなるようです。これが健康な人との第2の違いです。
車で言えばドーパミンという欲求へのアクセルが異常に強力で、セロトニンという欲求へのブレーキの効きが異常に弱いわけです。このアクセルの「強」とブレーキの「弱」の相乗作用の為に依存欲求に対して意志や理性の力だけではで抵抗できないというのがこの病気のメカニズムのようです。解り易く整理して書くと、

≪依存症のメカニズム≫
ドーパミン:欲求への強すぎるアクセル
⇒欲求の病的暴走
セロトニン:欲求への弱すぎるブレーキ

というわけです。この欲求の病的暴走に対抗できるほど強い意志力や理性の力を神様は元々人間に与えていなかったのだと考えるべきでしょう。ですから、元々はどんな人格者であっても、この病気に罹ったら、治療なしの個人的な意志力や理性の力だけでは欲求の病的暴走を止められないほどの自動思考が発生するわけです。性犯罪で言えば、よく学校の先生とか警察官とかいった性犯罪とは対極に居るように思われる人が電車内での痴漢行為で捕まったといったニュースが新聞やテレビで報道されることがありますが、それも性依存症という病気を前提にして考えれば、決して不思議な事ではないと思います。このことから、依存症は意志や理性、人格などとは別次元の所にある病気である事を改めて認識できると思います。

②:自動思考を抑える為の体験談ミーテイングについて
この問題については先ず、同封の人体図をご覧ください。この人体図は、身体に悪い影響を与える心のストレスとは真逆の安息状態が身体にどういう良い影響を与えるのか?の研究結果を示しています。この図の左上の「脳」の所の一文にご注目ください。そこに心が安息状態にある時、脳にどういう反応が表れるかについてこう書かれています。

安息運搬物質セロトニンがより多く生成される。
安息の指標・アルファー波、データ波が脳波図に明示され
不安やうつ、攻撃性が減少、睡眠が改善される

と書かれています。上記↑の①で、依存症者の場合「快楽による興奮を抑制し感情を安定させるセロトニンという脳内物質が健康な人に比べて少ない」と書きましたが、心の安息によって、このセロトニンを増量させることが出来るわけです。では、その心の安息を何処で得られるかと言うと、それが自助グループでの仲間との共感の輪の中という答えが出てくるわけです。
結論的に言えば、自助グループでのミーテイングでの仲間との共感の輪の中で、「病気なのは自分だけではない」とか、「仲間と共に依存を止めて回復できる」といった安心感が生まれる事で心の安息感を得て、脳内に安息物質セロトニンが多量に分泌される事で上記の①で述べた弱過ぎる欲求ブレーキが強化されて自動思考の暴走が抑えられるわけです。
その意味で、今受けている教育の仲間も大事にして残りの5ヶ月を頑張って続けて行って欲しいと思います。取り調べとかで居なくなったという方、その後戻って来ましたか? 仲間が居なくなると言うのは、やはり寂しいものですよね。寂しさを感じるだけ仲間というのは大事な存在なのだと思います。

神戸の小学生女児殺害解体事件には私も本当に心痛む思いがしています。同時に、人間という生物が極限的にはどこまで凶暴になれるのかを見せつけられているような気がして悲痛な思いも禁じ得ません。犯人は自分が行おうとしている事の重大極まる意味を考える余裕のカケラもないままに、それこそ自動思考に操られるままに凶悪で極悪な犯行に狂走したのだと思います。報道から察するに犯人はアルコール依存症者なのかな?とも思います。ですから、我々普通の依存症者の場合も、たとえ凶悪な殺人事件にまで至らないにしても、自動思考に操られて犯罪で被害者をつくったり、周囲の人達を傷つけて迷惑をかけたりしないように病気を治療して克服して行きたいものだと思います。

<付録>
この手紙を書いている今、台風19号が列島に接近しています。毎年毎年の秋の、この招かれざる客には困ったものですよね。尊い人命を奪い、家々壊し、ライフラインを破壊し・・・結果的には戦争みたいなものです。「何とかならないものか?」と思って、ダメ元と思いながらもネットで、「台風を壊す方法」と検索してみました。そしたら、何と、出て来ました、その方法が !! 理論的な研究はされていて、特許の出願までされているそうです。
何でも、南の海の海面の水温が高いと台風が発達し易いそうです。そこで、南の海の台風の進路に潜水艦を潜らせて海中の冷水をポンプで汲み上げ、それを上に送り上げると海面の水温が下がって、それで台風の威力を抑制できるそうです。台風そのものを完全に壊す事は出来ないけれど、風雨を弱めて被害をある程度抑える事は可能だろうとされていますが、さて、さて・・・? 本当にどこまで可能なのでしょうかね? 因みにこの台風抑制作戦には20隻の潜水艦が必要なのだそうですが、現在の日本には18隻しか無く、2隻追加したとしても、その全てをこの作戦に使える分けでもないし・・・という事で、実現可能だとしてもいつ頃になるのでしょうね? まだまだ夢みたいな話ですが、でも、「憎っき台風の威力をある程度抑えて、生活や生産に必要な水としての雨だけ頂戴できるようになれば良いのだが」なんて事を夢見ながら、今日はこれにて失礼します。

この先、秋の深まりと共に気温も低下して行きます。人間の体は外界の変化に順応できるよう出来てているそうですが、それも健康を前提にしての話ですので体調を崩さないようにお互いに気をつけましょう。

草々

平成26年10月13日
大石クリニック相談員 鈴木達也