収監者との文通 Kさんからの手紙

NO IMAGE

収監者との文通

Kさんからの手紙

大石クリニックHPトップページ
及び 当掲示板No.555 以降Kさんとの文通参照

前略
 返事が大分遅くなってしまいました。すみません。余計な考えをさせてしまいましたか? もしかして・・・現状、確かにブチッ切れそうなんですが、まだ懲罰には至っていません。
 遅くなった言い訳をするとしたら、子供への手紙です。先生からの手紙とほぼ同じくして子供達からの手紙が来たので、そっちを先に出したんです。
 先生! 俺はいい年して子供に色々と教えてもらっているような気がします。
 子供が子供として居られる時間には限りがるし、そんな限りある短い時間を無駄にしているのに、とても考えさせられます。上の子に到っては、春には子供が産まれるとの事も言って来たし、俺はこんな所で何をしているんですかね~・・・仕事で来たんならまだしも・・・今回の懲役は本当に考えさせられることばかりです。
 寒いですね~ そちらはどうですか? 雪などは降ってないですか? リアルタイムでの情報なんて殆ど無いので、横浜の天気ですら分かりません。全国的に久し振りの大雪との事なので、もしかして降ったとか?
 ー略ー
 また横浜の友達が来ました! 確率的に凄いですね! 全国的に100近い刑務所があり、ここでも○○以上の工場があるのに・・・まあ、似た者どうしって事ですかね。てな訳で又薬の話が多くなりました。しかしながら、友達ももう身体には入れないとか言っています・・・売るだけだって(笑)
 友達にも、俺はもう薬とは縁を切るんだから余計な事は言わないようにって言っています。後輩という事もあるのか?話は聞いてくれるのですが、何かと話を振って来るので、なぜか話の輪の中に居ます。
 あとですねー、ここの施設で依存症の治療というのか何て言うのか?よく分からないけど、それに参加するかと聞かれたので、参加すると返事しました。内容的には、外から講師を呼んで話を聞いたりするそうです。医者とかダルクなんて団体から人が来るようですが、どんな話をするんですかね。シャブを打つと脳がおかしくなるとか、動きが変になるなんて話をされても困るだけですけど・・・
 あとマウスの話ね! シャブを打ったら行動がおかしくなり、1時間後に死んだとか、俺に言わせたら、マウスを殺したのはお前だろうと言いたい! あんな小さい動物にあれだけの量を打ったら死んじゃうって言うの! かわいそうに・・・。どういう話が聞けるのか?知らないけど、少し期待して受ける事にしました。俺が思うに、こういった講習ってのは俺達が聞きたい話ではなく、分かり切った話をして、だからダメですよ~みたいな。前にも言ったかも知れませんが、メンタルな部分ですよね、聞きたいのは! まあ~、どんな話をするのか分かりませんが、話を聞いて来たいと思います。
 マウスやサルにシャブを打つVTRを見た事がありますが、あれは本当にかわいそうです。人間で言うと致死量を打つんだから、死ぬのは当り前ですよ。因みに、注射器を洗った水を犬に飲ませると、俺が注射器を洗うのを側で待っているんですよ。犬ですら欲しくなる物を、どうやって欲しくならないようにするのか、大変な作業ですよね! 先生、俺が言いたい事、何となく分かりますか? 
  ー略ー
 あっ、そうだ、豆まきはしましたか? ここでは甘納豆が出たので美味しく頂きました。今なら5袋、10袋は食べられそうです。もともとお菓子大好きだから・・・ああ美味しかったな~ 豆なんかまいている場合じゃないですよね。俺は食べちゃうから、まいている豆なんてありません。鬼も内、福も内ですから、鬼なんてのはC型肝炎といっしょで、誰の中にも居るし、それがいつ動き出すのかって感じじゃないの~ 福って形はあるんですか? また目に見えるんですか? さて先生! この問どう答えますか? でも本当に福って考えさせられますよね。ハッキリしている事があります。この福、俺が昔求めていたものと、今思うのはぜんぜん違うってことかな! 難しいですね。福=幸福=普通の生活の中にあるのかな~。見えないとしたら匂いはするのかな~   ー略ー
 先生、聞きたい事が有ります。薬の後遺症でカングリがひどくなり人の話が聞けない、聞いても判断できない。頭がパニクッテ! こんな人でも依存症なの? 仕事できないんだって、こんなのは治らないでしょう? 治るにしても大変でしょう・・・
 今日は11日なんですけど袋菓子が入って来ました。おさつスナックです。子供のようにバクバク食べています。これを食べたら、しばらくは何も出ません。ああ~おいしいです。
 話を戻しますけど、このカングリとかって病気なの?医学的に先生の意見を聞かせて下さい。お願いします。
 先生! 多くの人が居たら色んな人が居る訳ですが、俺にはどうも分からない人種が居ます。前にも言ったと思うけど、コソコソとイヤガラセや誹謗、中傷を言っている人ね。9畳たらずの部屋の中ではイヤでも耳に入って来るんですよ。まあ~面と向かって言えないから、そうなると思うけど、耳に入る俺としてはブチ切れそうなんですよね。このままだと時間の問題ですね。こういう人に付ける薬はないんですかね! 他人の事を言って何が面白いのか?俺には分からない。それも取って付けて作ったような話ですよ・・・
ああ疲れる~
 今日はこんな感じですかね~。外はインフルエンザが流行っているとか、気をつけて下さい。風邪にも。あと疲労から来るヤツね。何せ寒いし、大変だし、身体には気を使って下さい。では又。See you
                 雪の日・記   

注)刑務所の位置、名称の推定につながり得る部分は省略しました;鈴木
 
↓返書

Date: 2012/02/26/16:02:30 No.727

Re:収監者との文通

Kさんへの返書

K 様

前略
 寒い日が続いています。お元気ですか?
2月11日付のお便りが届いてから、もう10日が過ぎてしまい、ようやく返事を書き始めました。いつも遅くなって申し訳ありません。言い訳するつもりはないのですが、色々な仕事を平行して進めながら、ついこういうペースになってしまいます。多少遅れても必ず返事を書きますので、悪しからず御了解下さい。

さて、お手紙の中で、「上の子は春には子供が産まれると言ってきたし、俺はこんな所で何をしているんですかね~ 仕事で来たんならまだしも・・・今回の懲役は考えさせられる事ばかりです」と書かれています。私は思うのですが、その思い;もう2度と来たくはないとの思いこそが断薬、更生に繋がると思うんです。その意味では受刑期間というのは決して無意味な期間ではないし、そう思えば、焦る思いも自然と消滅するんじゃないかなと思います。
 塀の中から遠くにいる子供達に思いを馳せ、そしてまた、実験でシャブを打たれ命を失うマウスやサル達に「可哀想に!」との想いを抱くKさんは根っからの優しい心の持ち主なのだと思います。それが何故、今刑務所にいるのかと言えば、それはシャブ、つまり覚醒剤が持つ薬物としての魔力によるものだと思うのです。最初に何らかの理由で薬に手をつけてしまったが故に、理性の抵抗力を奪う薬に捕らわれてしまったのでしょう。どんな人格者でも、どんな紳士、淑女、善人であっても、生身の人間である以上、薬物の薬理には勝てません。病気になって手術をする時に麻酔をかけますよね。麻酔の薬理作用は人を選ばずに万人に効能を発揮します。だからこそ手術が可能なわけです。
 麻酔が麻酔として誰に対してもその効能をもつように、シャブが覚醒剤とし誰に対してもその薬理作用を発揮するのは、ある意味当たり前の事で、だからこそ、本来は優しい心根のKさんでもこの違法薬物に捕まってしまったのだと思います。それにより、本来なら心の優しい普通の人としての社会生活、幸せな家庭生活を送れる筈のKさんが、現実には塀の中での受刑生活を送っているのだと思うし、余りにももったいない、もったいな過ぎる話だと思うのです。
 なればこそ、刑務所内で行われる薬物依存症治療への参加を希望されたKさんに心からの拍手を送りたいと思います。医師とダルクの方が講師として来られるそうですが、医師は専門家としての立場から、覚醒剤その他の薬物と人体・心の関係や依存症治療についての話をするのだと思います。ダルクというのはアルファベットでDARCと書きます。つまり、ドラッグ(薬物)の頭文字=D、アデイクション(嗜癖・依存症)の頭文字=A、リハビリの頭文字=R、センターの頭文字=C を順に並べたもので、DARC=ダルクという名称になっています。民間の入寮施設で、薬物依存症者がそこに住み込み、日々、仲間と共にミーテイングやレクレーション生活を行いながら、薬の無い生活の訓練をしています。施設のスタッフは全員、治療で薬物を断ち一定の回復の道を歩んでいる薬物依存症の本人達です。そういう方々ですから、自らの薬物体験―その地獄の苦しみや、そこから仲間と共に年月をかけて這い上がって来た体験談を話してくれるでしょう。それこそ、断薬・回復途上での感動的で心に響く話を聞けると思います。医師による頭への話しかけと、ダルク職員による心への話しかけが一つのものとなって、聴衆の頭と心に染み込む時、それは薬物依存よサヨナラに向けての大きな力となるでしょう。ぜひ参加されて、その感想などを手紙でお知らせ頂ければ嬉しく思います。

 次に、薬の後遺症によるカングリ、それによる孤立、パニックも依存症なのか? それは治るのか? 医学的な答えをとのお尋ねですが、以前にもお話ししたように、私は医師ではないし、医学の専門家でもなく、断酒中のアルコール依存症者本人の立場での相談員なので、専門的なお答えは出来ません。それを前提に私なりの立場から可能な範囲でお話しします。
 薬物依存の後遺症としてのカングリだとするなら、それは、いわゆる妄想(もうそう)と言われている症状だと思います。妄想とは、他人が言ってもいない、やってもいない行動を勝手に言っている・やっていると想像して、それに基ずく言動、行動で人を傷つけるものです。それは薬物依存のみでなく、アルコール依存症や、又、統合失調症(昔で言う精神分裂症)などにも見られる症状です。これは、あくまでも病気としての症状ですから、これを相手にして怒ったり、喧嘩をしたりしても何ら解決の道には繋がらず、かえって問題をこじらせる結果になるだけです。病気の症状ですから、これとの対立は避け、医師や専門家への相談や専門治療に解決の道を委ねるべき問題だと思います。下手に相手にして対立や喧嘩などしたら、自分も傷つくだけですから注意しましょう。くれぐれも、ブッチ切れて懲罰など喰わないようにお願いしますよ。

 それと、福って何ですか? と問いかけられていますが、答えはKさん自身がキチンと大正解を出されていると思います。「福=幸福=普通の生活の中にあるのかなあ~」とお手紙に書かれていますが、最後の「・・・のかなあ~」は省いて良いと思います。そうです、福は「普通の生活の中にある」と言って良いと思います。家族(妻や夫、子供達)と一緒に、普通に、平凡に暮らせる中に幸福があります。どんなに普通で平凡であろうと、依存症でドン底体験をした身からすると、それはとてつもない至上の幸福に思えるし、大きな大きな幸福に思えるものです。それは回復を目指して最初の一歩を踏み出した依存症者にとっては夢と言って過言ではないでしょう。
 因みに、アルコール依存症患者として専門治療に繋がり、断酒を始めた当初の私にとっての夢は、70を過ぎた母親の下での居候生活を卒業する事でした。普通の感覚からすれば、こんな当り前の事が夢だったんですよ。普通ならごくごく当り前の事、普通なら小さな小さな事、だから回復すれば容易に可能になる事を大きな大きな幸せと感じられるというのは、我々依存症者の特権と言って過言でないでしょう。

 また、長くなって来ましたので今日はこの辺で失礼します。またのお便りを楽しみにお待ちしています。お身体には重々ご自愛下さい。
                                              草々

        平成24年2月27日
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2012/02/26/17:02:42 No.728