収監者との文通:Aさんとの往復書簡 H27/3/17

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<A⇒鈴木>
前略
鈴木さん、お手紙ありがとうございます。・・・時候文略・・・
鈴木さんから頂いた手紙にあった様に、私も資格合格に執着し過ぎて他の事が疎かにならない様にしないといけないとは思っていました。あくまでも目標であり、全てが予定通り行くとは思ってはいません。ですが、予定通り合格して行く事の希望も捨ててはいけません。
一番難しいのは、公認会計士の資格だと思います。これは一次と二次の試験があり、一次に受かった後、二次に受からなければならない期間があります。今、手元に資料が無いので正確な事は分かりませんが、一次に合格したら二次に受かって公認会計士になれる期間は2年だったと思います。なので一次に受かってこの期間に二次に受からなければ、次の資格に向けて気持ちを切り替えるつもりです。公認会計士で勉強した内容が宅建にも繋がる内容があり、更に宅建の内容はかなり行政書士と被る内容があるので、その流れで資格取得を目指そうと思っているのです。
鈴木さんの手紙にあった様に、公認会計士の合格には会計学が非常に大切です。それが分かっているので、簿記1級の会計学を重点的に勉強しているのです。ですが、会計学は独学では難しそうです。会計法規集もやはり手元に無いと本格的に勉強していくのは難しいです。
難しい、難しいとばかり言っても仕方が無いので、今できる事をしっかりとやって行き出所後にスクールに通って簿記1級の合格を目指そうと思っています。簿記1級に関しては2017年6月には絶対に合格するつもりです。運が良ければその前の2016年11月に合格できればとも思っています。まず、一つ一つ目標を実現して小さな自信を積み上げて行こうと思います。それは資格の合格だけでなく窃盗やギャンブルをしない日を一日ずつ積み上げて行く事も含まれます。
最悪、ギャンブルをしてしまっても、また次の日からやり直す事もできますが、窃盗の場合は犯罪ですので、一度やってしまったらもうそれで終わりです。たとえその一回で警察に捕まらなかったとしても、罪を犯した事に変りはないですし、絶対にもう一度窃盗をしてしまうと思うのです。それは、前の一回は捕まらなかったから今度も大丈夫だろうという考えが頭に浮かんで来るからです。その時は抑える事ができても別の日は抑えられるか分かりません。なので、窃盗はその欲求と日々闘って行かなければなりません。
これも「今日はクリアできた」という日を一日ずつ積み上げて窃盗をしない日を習慣化して行けたらと思います。その為にも出所しても大石クリニックとの文通も続け、自助グループにも参加して、2度と窃盗・バカラをしない習慣を身に付けたいと思います。

これに前回も書いた仏教の教えが役に立てばと思います。今度は仏教の本が手元に届いたのでこれも熟読して行こうと思います。この本は主にストレスを解消する方法が書かれているのでストレスを溜めない心を創れるかも知れません。ストレスを感じなければそのストレスを解消する為の依存行動に走る危険度も低くなりそうです。様々な不安を軽減できると思うのです。私の場合窃盗をしてしまう理由として一番目はバカラをしたいが為に窃盗をするですが、二番目は、次の給料日までお金が足りるかどうかという不安から窃盗をしてしまうというのが挙げられます。
これは、実際には足りるにも関わらず、もの凄く不安になるのです。元々貯金などある筈も無いのでどうしよう、どうしようと不安になって来るのです。この様な不安解消の手助けになればと思って禅の本を買ってみました。そして、これも「今月もクリアできた」 そして、翌月もクリアして、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月・・・と毎月クリアして不安に打ち勝つ自信を積んで行けたらと思います。
この塀の中に居る限り、様々な依存症の欲求が起きても、それを実行する事が出来ないので、この絶対に実行できない間に少しでも対処できる方法を学び、外に出てからそれを実行出来ればと思っています。

今回はこの辺りで失礼しようと思います。もう少し寒い日が続くと思いますので風邪などひかぬよう、お体を御自愛下さい。では失礼します。

草々
平成27年3月6日(金)  A

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<鈴木⇒A>
A様
前略、
横浜も少しずつ春の気配を感じ始める中、3/6付のお手紙、16日(月)に届きました。有り難うございます。
先ずは、50歳までの各種資格の取得計画を地に足をつける形で考えられている様子で安心しました。必ず資格を射止めるとの決意で効率的な最大限の努力を続ける事で、可能な限りの結果が後からついて来るのだと思います。お手紙に書かれているように、公認会計士の勉強の結果が宅建主任への道を、そして宅建の勉強が行政書士への道を拓くかも知れないわけですね。もちろん、公認会計士試験に合格出来れば一番良いわけですが、それはベストであり、ベスト以外にも色々なベターの花も咲き得るし、又、その勉強自体が各種依存症治療にも繋がるわけで、公認会計士の勉強に決して無駄はないのだなと私もしみじみと感じ入りました。
なお、私がネットその他の資料から得た事から言うと、公認会計士試験の一次試験というのは「短答式」試験と言われているマークシート方式の試験で、二次試験は論文式試験のようですね。そして、お手紙にも書かれているように、一次の短答式に合格すると、向こう2年間の範囲で一次試験免除で二次の論文式を受けられるようですね。
また、前回にも書いたネットの「一発合格セミナー」によれば、この試験の合否を分けるのは勉強の効率性に関わっているようです。つまり、「合格に必要な勉強だけを最大限に勉強する」ことだそうです。言い換えれば、試験に出る(出そうな)問題を集中的に勉強し、不要な勉強をしない事によって、目標として90~100点を目指す勉強が効果的だそうです。
それと、ご存知かも知れませんが、念の為に付け加えて言えば、試験に合格しても実際に会計士登録をして仕事が出来るようになるまでには、「監査法人」とか企業の経理部門で2年間の実務経験が求められるそうなので、それも今から心得ておいた方が良いかなと思います。

お手紙では又、各種資格試験から窃盗やバカラ依存症の克服までの全ての面での「Just for today」の大切さについても述べられておりますが、全くもってその通りだと思います。そしてその為にも、お手紙にも書かれている様に出所後もこの文通を続けながら自助グループにも繋がって頂きたいと思います。「Just for today」の道を一人で歩き続けるよりも、ザイルパートナーとしての仲間と互いに支えあいながら歩む方がずっと、ずっと歩き易くなります。
それと出所後の居住地が大石からの遠隔地で通院が困難か無理だとしても、少なくとも先ずは一度だけでも来院して受診しておけば、その後は必要な時にいつでも予約なしで来院して診察やカウンセリングを受けたり、仲間とのミーテイングにも参加できますので、是非そうして頂ければと思います。
受診料について述べますと、依存症治療の場合、保険適用での通常の自己負担額30%を10%に軽減する制度もありますのでそんな制度もぜひ活用して頂ければと思います。イザという時の保険のつもりで依存症専門クリニックに患者登録しておけば、これも大きな心の支えになることと思います。

禅の本が届き、勉強を始めたいとの事ですが、「禅」と「無事に過ごせる今日の一日」が繋がれば、これも心の支えとなると思いますので是非とも続けて欲しい思います。以前、禅僧の脳をMRIで観察した脳医学者の研究を雑誌の記事で読んだことがありますが、確かに禅―瞑想には脳内のプラス思考を強めて不安を解消する作用があるとの事でしたので、禅の効果が脳医学という科学によっても証明されているようです。

最後に一つお願いなのですが、以前にも書いた簿記3級に合格して2級を目指していた文通者の方がその2級を受験したそうです。手紙によれば、いざ試験が始まったら頭が真っ白になってしまって・・・という事で、恐らく落ちているだろうとのことです。でも決して諦めず2級合格まで頑張りたいとの事ですので、勉強の仕方や受験に当たってのアドバイスなどありましたら、私からの中継で伝えたいと思います。「Aさんの様に刑務所内での独学で簿記2級に合格するにはどうしたら良いのでしょうか?」という事で、もしできればで良いので宜しくお願いします。

それでは、今日はこれにて失礼します。今年は花粉も大量に飛んでいるようなので、そちらの方も気をつけてお体を大切にして下さい。
ときに

草々
平成27年3月17日
大石クリニック相談員鈴木達也

大石クリニック
相談員鈴木達也