収監者との文通:Aさんとの往復書簡 H27/4/3

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<A⇒鈴木>
前略 
 鈴木さん、お手紙届きました、いつも有り難うございます。
 さて、一つ驚いた事があります。3/9に提出した手紙が1週間後の16日に届いたのですね。・1週間も掛かるとは・・・本当に驚きです。

 先ずは、簿記について語ろうと思います。これは私の経験から思った事ですが、まず、参考書を一通り勉強します。その後問題集を解いていきます。そうすると自分の分からない部分が見えてくるので、それを何度も繰り返します。答えを暗記する勢いで繰り返します。
次に過去問を何度も繰り返します。これも同じく同じ問題を何度もやります。ここで大事なのは分からない問題は答えと解説を見るという事です。そして計算式を覚える事です。これを何度も繰り返す事で自然と覚えてしまいます。
 それともう一つ大事なのは仕訳は完璧にするという事です。どういった時に借り方で、貸方になるのかをマスターする事です。そしてどの勘定科目が貸借対照表で損益計算書に記入するのかを覚えるのも重要です。これらも過去問や問題をくり返す事で自然と身についていきます。過去問をいくつかやると気づくことがあると思います。
 第1問は仕訳、第2問は伝票、仕訳日計表、第3問は精算表、第4、5問は工業簿記です。概ねこんな感じで毎回出題されます。第1~3問は全問正解を目指すべきです。そうすると、これだけで約60点稼げます。合格の目安が70~75点なので、工業簿記の第4,5問で半分正解すれば合格できます。第4,5問も毎回問題の内容は同じなので、答えを導く計算式を覚えてしまえば解く事ができます。
 以上の事から、過去問題を何度もやり、答えと計算式を覚えてしまうのが有効です。計算式を覚えれば、数字を置き換えるだけで答えが出せますので。それに過去問を繰り返すことによって試験の時間に慣れることも出来ます。少し長くなりましたが合格に必要な勉強方法だと思います。過去問題集のタイトルは鈴木さんが調べて貰えると嬉しいです。TAC出版と税務経理協会です。これがオススメです。
 
要点をまとめます。
①:仕訳をマスター 借り方か貸方か
②:損益計算書か貸借対照表なのかをマスター
③:過去問題を何度もやる
 私はこんな感じで合格できました。人それぞれ、やり方はあると思いますが6月、若しくは11月の試験で合格を目指して頑張って欲しいです。私も今1級の勉強を頑張っています。会計学が難しく苦戦していますが、出所後の合格目指して勉強を続けて行きます。お互い合格目指して頑張りましょう。
 
 簿記の話はこれくらいにして、横浜の気候はどうですか。こちらも春はもうすぐです。
 さて、禅の本を読んでいて思った事があります。それは「今日一日」を大切にしようという事がたくさん書かれている事です。例えば、「日日是好日」(にちにちこれこうにち)や、知足(ちそく)、「処処全真」(しょしょぜんしん)、莫妄想(まくもうそう)などです。どれもがおおまかに言うと「今日一日」を大切にしようという意味になります。「JUSTFORTODAY」の精神は禅にも通じているのですね。
 そして、仏教の教えにも善い習慣力をつくるというのもあります。日々繰り返す事により、自然と悪から離れて行くようになるそうです。悟りを開く訳ではありませんが、(笑)仏教の本を買って良かったです。今現在、禅の本を含め4冊ほどあるのですが、また別の本を買ってみようと思います。刑務所の中で読むにはちょうど良い?感じです。外に戻っても繰り返し読もうと思います。色々な場面で役立ちそうです。
 自分自身が思っているのはバカラ賭博については大丈夫だと根拠のない自信があるのですが、窃盗については少々弱気になってしまいます。その弱気になってしまう部分を仏教の教えで補い、更に依存症治療プログラム、カウンセリング、仲間達の力を加え、大丈夫だという自信に変えて行こうと思います。 1+1=2ではなく、1+1=?=2以上になる様、様々な力を使い、絶対に窃盗をしない生活を送っていきます。

 今回は簿記がメインになりましたが、合格応援しています。焦らず、気楽に行くという事も大切です。合格、合格と張り切り過ぎると頭も、心もパンクしてしまいます。その辺りにも注意して欲しいです。

 桜の開花も東京は4/1頃だそうで、横浜の大通り公園も花が咲き綺麗になることでしょう。私も久しぶりに大通り公園の桜を見てみたいです。その為にも必ず大石クリニックには行きます。その時にはどうかよろしくお願いします。
 では今日はこの辺で失礼します。お体をくれぐれも御自愛下さい。
草々 
平成27年3月29日(日) A

追伸
 簿記で書いた、「答えと解説を見る」についてですが、これは歴とした勉強方法です。分からない時にすぐ答えを見るという事に抵抗があるかも知れませんが、そこは深く考えず、分からない時はすぐ答えと解説を見て計算式などを覚えてしまうのです。分からないのをいつまでも考えるより、答えを見た方が効率が良いです。
 但し、分からないからと言って、本当に直ぐ答えを見るのではなく、2~3分くらいは考えるクセをつけて下さい。」 以上、補足でした。

 一つ質問ですが、受診料って大体いくらくらいなのでしょうか?参考の為知りたいです。

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<鈴木⇒A>
A様
前略 
 横浜も桜が満開となり、いよいよ春到来といった陽気の中、3/29付のお手紙4/2に届きました。今度は4日で届きましたね。
それはともかくとして、大石クリニックは大通り公園と大岡川に挟まれた位置関係にありますので、両側で雲のように咲き誇る美しい桜の花に挟まれながら、暑くもなく、寒くもない春の陽気に包まれて1年中で一番過ごし易い季節を迎えています。この先また蒸し暑い時期を迎える前に今の快適さを思いっきり味わっておきたいななどと思う今日この頃です。

さて、今回のお手紙では、前回お願いした簿記2級への合格勉強法についての懇切丁寧な回答を頂き、有り難うございます。お手紙にも書かれている様に、勉強法には人それぞれ自分に合った個性的なものがあるとは思いますが、合格に向けての基本的な所は共通していると思いますので、そういう意味で必ず役に立てて貰えると思います。
 お手紙の中で私が同感に思ったのは、「大事なのは分からない問題は答えと解説を見るという事です」という所です。それは追伸の冒頭でも「これは歴然とした勉強方法です」として強調していますが、本当に理詰めで積み上げて自力で解けない問題と言うのはいくら時間をかけても解けるものではなく、そういう問題は解説と答えを見て解き方を覚えれば良いわけですよね。そして同類の問題を解く練習を重ねて、イザ試験本番という時に何も見ずに自力で解けるようにすれば良いわけですよね。。
 私がここの所に何故同感するのかと言うと、私はよくドイツの誌紙類の翻訳をするのですが、時としてどうしても翻訳できない文章にブチ当たる事があります。ドイツで生活しているドイツ人にとっての常識事項は書かなくても理解される事を前提として記事の文章では省略されてしまう事があります。しかしドイツから9千キロも離れた日本に住んでいる私にとってはその省略された常識が何を意味しているのかが分からないわけです。この種の「?」はいくら時間をかけて考えても分かるものではありません。それでは、その文章を訳す解説や模範訳は?というと、そういうものは何処にも無いわけです。結局のところそういう文章の翻訳は迷路の末の袋小路に突き当たって、「ハイ、オシマイ!!」で終わりになってしまいます。ですから、解説と模範解答が存在する勉強と言うのが私には羨ましく思うし、是非そういうものを活用して効率的な勉強を続けて欲しいと思うわけです。
 
 さて、禅の本を読んで、「今日一日を大切に」、「JUSTFORTODAY」に通じる意味の言葉がたくさんある事に気がついたとの事で、幾つかの言葉が紹介されていました。私も興味を持って手紙に書かれていた言葉を調べてみたら、こんな意味なんですね。
◎:「日日是好日」=日々が平安で無事の日である」 
◎:「知足」=「己の分を知りその範囲で満足する」
◎:「処処全真」=「何事も無心に徹すれば真実が現れてくる」 
◎:「莫妄想」=「雑念を捨て、今やるべきことに専心せよ」
 うん、そうですね。それぞれに言葉は違いますが、やはり「今日一日」に通じる意味を持っていますね。それだけに「今日一日」という言葉には「JUSTFORTODAY」とも併せて洋の東西に共通する普遍的な真理を感じますね。
 これらの言葉を出所後の生活で実践しつつ、依存症治療や仲間との連帯の力も借りながらバカラや特に窃盗をしない生活を続け、それに慣れる事で自信を得るようにして行きたいとの事ですので、是非その方向で一日一日の道を歩み続けて欲しいと思います。

 次に、窃盗についてなのですが、以前の私の手紙で「窃盗を止められず、累犯を重ねてしまうのも依存症の一種である『盗癖』=『クレプトマニア』という病気です」と書いたのですが、この病気の特徴は、別に欲しい分けでもないのに盗んででしまう金は持っているのに盗んでしまうだから、盗品を使用する事もなく仕舞いこむか、人に遣ってしまうといった特徴を持っているそうです。つまり、盗む事それ自体に欲求や衝動を感じて窃盗を繰り返してしまうわけです。しかし、Aさんの場合にはバカラ資金欲しさとか、給料日までの不安といった動機があっての窃盗だったし、盗んだ金品をそれなりに使用していたわけですよね。だとすると、いわゆる「盗癖」とはまた違うのかな?という感じも最近しています。ですから、正確なところはやはり専門医の診察に委ねるしかないなと思います。

 最後に、受診料っていくらくらいか?とのお尋ねですが、各種依存症はWHO(世界保健機構)で正式に病気と認定され、それにより日本政府も病気と認定しておりますので、治療ー受診には当然保険が適用されており、患者負担額は治療費全額の3割となります。そして依存症治療の場合には、自立支援法に基ずく医療費減免制度により保険適用による患者負担率3割を更に1割に減免する事ができます。その詳しい資料があるのですが、現在私の手元にはありませんので、近々に入手しだい送りたいと思います。

 それでは今日はこれにて失礼します。待ち遠しかった春を迎えますが、季節の変わり目でもありますのでお身体を御自愛ください。

草々
平成27年4月3日 
大石クリニック相談員鈴木達也