収監者との文通

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収監者との文通

Mさんからの手紙

大石クリニックHPトップページ参照

 お手紙ありがとうございます。こちらの生活は慣れはしませんが、少しずつ自分を含め周りも生活が安定し、落ち着いて過ごせています。工場作業は大変ですが、休憩時間には皆と話したり将棋などをしたり、運動時間に体を動かし体力をつけ、休みの日には部屋で勉強したりで毎日が忙しい中、心は安定しています。時に周りの人達に助けてもらい、互いに支え合って過ごせています。 家族にも毎週手紙を書いて、今の気持ちの状態などを交換しあえています。月に1回必ず来てくれる面会はとても嬉しく、ありがたい事で、私も不安なく感謝の気持ちで一杯です。
 この1年ちょっとを振り返ってみると、良い事ばかりでなく、辛い時や腹の立つ事もたくさんありましたが、自分の何げないやりとりで相手を怒らせ、その所為で自分が怒るという悪循環になってしまう事に気付き、直そうと心に決め、少しでも自分を変えようと思ったことは私の中でとても大きな変化になり、その答えとして2類になれたと思っています。今後は更に無事故、無ケガなどを通して生活できればと思います。初心を忘れず、常に相手に感謝の気持ちを忘れず生活して行こうと思います。
 社会復帰への不安は、今はまだ現実味がないのですが、その頃の私はもう年齢的に体が動くかないとか、やりたい仕事に就けるのかなとか不安でなりません。強い気持ちはあっても、うまく行かなかったらまた戻ってしまうのではと思って弱気になってしまう自分もいます。ただ、5年先、10年先はどう歩んでいるかを考えていると今が大切だなと思います。今を何も考えず、好き放題やっていたら絶対に上手く行かず、絶対にまた戻ってしまうし、今よりももっと悪くなる。これは絶対にそうなると思っているので何とかそうならないようにと考えています。それでここまでやって来れた。だから、この先1年後~2年後はこうなっている。更に5年後はこうなっていると考えて行きたい。夢を現実に近づける為に今からちゃんと出来ていなければ、その時に出来る筈がない。良い方向に向かう為の準備だ。繋げるためにやっているだけ、自分の為に
 鈴木さんの今までのアドバイスや体験談を読ませて頂き、より分かり易くすんなりと自分に置き換えて考えられて今に至っています。とても参考になっております。これからも宜しくお願い致します。
  ・・・時候について・一部略・・・
 まだまだ冬も始まったばかりですが、鈴木さんもどうか寒さに負けず、お身体を大切にお過ごし下さい。ませ。それでは、これにて失礼いたします。
               
Date: 2013/12/10/17:53:31 No.1084

Re:収監者との文通

Mさんへの返書

M様
前略
 お手紙、9日に受け取りました。いつも有り難うございます。
 近況、そして、年末を迎えての1年を振り返っての文面にMさんの着実な一歩一歩の歩みを感じました。周囲の人達と仲良く支え合って毎日を過ごされ、そしてご家族との定期的な手紙の交換や面会で心も安定しているとのことで私も嬉しく思います。この今の状態は、昨日・今日で出来たものではなく、入所以来のMさんの過去への深い反省に基づく日々の努力の継続の中で到達したものであり、これからも今までの努力を続けて頂きたいと思います。
 お手紙の中で、5年先・10年先の夢に向けての今の大切さを書かれていますが、とても大事な事だと思います。ただ、その頃の自分の年齢や身体的状態を考えると今の夢がどうなるか、下手すると強い気持ちだけではどうにもならず、また過去に戻ってしまうのではとの不安があるとも書かれていました。 しかし再犯の無い生活への努力がもたらすものは、結果としては再犯防止に留まらないMさんの人間的成長をもたらすことでしょう。受刑生活を切っ掛けとする自己変革への努力が、外の世界では得られなかったであろう人間的な成長をMさんにもたらすことでしょう。これは決して刑務所に入る事を奨励するものではありませんが、変えられない過去との関係では刑務所に入って良かったという結果を出そうとのプラス思考で考えて良いと思います。昔から「転んでも、ただ起きない」とか、「雨降って、地かたまる」といった格言がありますよね。
 今日までのMさんとの文通を通して深く思うのですが、Mさんは刑務所に入った事により、一般の人よりずっと深く過去の自分を見つめ、そして自己改革を進める機会を得てそれを実行しておられますが、それは本来は一般の人にも必要な事だと思うのです。しかしだからと言って決して刑務所入りを勧めるものではありませんので、人生の途中の何処かで、一般の人にも刑務所とは別に、生活を保障されて仕事を離れ、自己と向き合う時間と場所が提供されても良いのではないかとさえ思えるのです。それによって、とかく受験や就職の予備校となりがちな学校生活では得られなかった人間的修養や成長が可能になるのではないかと思うのです。それは余談としても、Mさんは今の生活の中で新しい自分に生まれ変わろうとしています。その生まれ変わった自分が5年先、10年先の時点に立った時、そこには今からは考えられないような新しい人生への視界、視野が開けていることでしょう。今考えられる夢に向けての日々の努力が、やがて別の夢への道を開くかも知れません。とにかく世の中広いですから、その広さの99%は一個人の視界の外にあると言って良いでしょう。その99%の何処かに生まれ変わった自分を迎え入れてくれる場所が無い方が不思議と言って良いと思うのです。
 因みに、私が大石に入職する切っ掛けとなったハローハークの求人票には「アル中、薬中募集 !!」と書かれていました。もちろん、酒や薬で今苦しんでいるアル中・薬中募集ではなく、「5年以上の断酒/断薬:自助グループ参加者:社会復帰していること」を前提とした依存症相談員の募集だったのですが、それにしても、アル中、薬中を体験した事を必要とする仕事がこの世にあったとは !! アルコール依存症の診断を受けた直後には思いもつかなかった求人票でした。

今年も早や年の暮れを迎え、いよいよ冬本番です。どうぞ真冬の寒さに負けないように、お身体くれぐれもお大事にして,お過ごしください。 
                       草々
                                   平成25年12月11日
          大石クリニック相談員 鈴木達也
               

Date: 2013/12/10/18:11:28 No.1085