収監者との文通 Eさんからの手紙

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収監者との文通

Eさんからの手紙

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及び 当掲示板No.555~Eさんとの文通 参照 
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大石クリニック相談員  鈴木達也様
 気温が上がり、初夏の陽気を感じられる時季となりました。お手紙、そしてワークブックの差し入れ本当にありがとうございました。ワークブックがあると、改めて治療が行われているとの思いを一層強く感じ、自分の中で大きな一歩を踏み出したと実感しております。軽く目を通しましたが、不安よりもワクワク感や期待感が強く、面白そうだと思いました。早速5月10日付で署名させて頂きました。改めてよろしくお願い致します。
 
 今回、「回復のためのチェックリスト」を見て難しいと思ったのが、「自分の問題行動に関する物を全部捨てる」と「自分の問題行動に関連した行動を見極める」と「自分の認知の癖を修正する」などでした。
 「認知の癖を修正する」について言えば、今までの経験や知識、価値観、信念に基づいて自分で作り上げてきたものを修正するのは容易ではないと思っていました。ちょうど今教育で行っている所ですが、修正できるか不安ですし、修正だけではいけないのではないかと思います。考え方がまた問題行動につながる考え方に戻らない事が大切なのではないかと思います。
 「問題行動に関連した行動を見極める」について言えば、根本にある原因を見つけ出し、きっかけになる引き金、衝動的行動について自分自身と向き合って見つめてみようと思います。
 「問題行動に関する物を全部捨てる」について言えば、取調べの時に押収された物の所有権を放棄して処分してもらいました。でも出所後にまた少しずつ集めてしまいそうで怖くなってしまいます。集める事に問題は無いと思いますが、また妄想が出て、それで満足できれば良いのですが、それが切っ掛けになって再犯してしまう事も考えられるので、妄想しそうになったら、思考ストップ法やフラッシュカードを用いて対処できるようにしたいと思います。
 今回ワークブックで関心をひいたのは「性依存への理解」で書かれている、「強化の原理」と「条件付け」(米註参照/鈴木)の所で、依存症に至る過程が分かり易く、自分も知らず知らずの内に強化され、条件によって引き金を引いていて依存症になってしまったのかと理解する事ができました。同じ事を繰り返して失敗してしまった人は恐らく当てはまるのではないかと思いました。長い間で構築させてしまったことで気づいていない人も多いのではないでしょうか。もしそうだとしたら恐ろしい事ですね。また気づいていても知らん顔している人も多いのではないでしょうか。そんな人は自分みたいになる前に一刻も早く治療して欲しいと思っています。依存症との闘いは一生続くもので、長く辛いことになると思いますが、必ず克服できるものと信じて頑張って行きます。 
 
 G・Wも終り、5-6-7月と休みが無く長い期間になり、5月病も心配になりますが、元気で頑張って行こうと思います。梅雨に入るまで大きく体調を崩すことは無いと思いますが、気をつけて過ごしたいと思います。そちらもお元気で体調を崩すことなくお過ごし下さい。
お手紙お待ちしております。
                 5月12日 E
(米)註
◎『強化の原理』=「我々の行動は、その直後に快感が得られたり、何か良い結果が伴ったりすると、その頻度が増す」という法則。例えば、「痴漢行為によって、スリルを味わえたり、性的快感を得られたりすると、痴漢行為という行動が強化され、その頻度が増していく」という法則。
◎『条件付け』=たとえば、痴漢行為を行っていた時に、同時に周囲に存在していた刺激がその快感と結びつき、ちょうどパブロフの犬が餌が無くてもベルの音だけで喜んで唾液を流したように、痴漢行為をした時の周囲の刺激を思い出し、また痴漢行為をしたくなったり、してしまう。例えば、満員電車に乗っただけで、心臓がドキドキしたり、ワクワクして痴漢行為への衝動を感じることがある。これを「条件付け」と言う。
                  (以上/鈴木)

Date: 2013/05/19/18:37:45 No.907

Re:収監者との文通

Eさんへの返書

E様
前略
 お手紙(5月12日付)、有り難うございます。大変嬉しく拝読しました。
 
 ワークブックも喜んで頂けたようで、私としても嬉しく思っています。ワークブックを手にしてのEさんのワクワク感や期待感は、勉強による依存症治療と回復、更生と社会復帰への意欲、自覚を示していると思います。何事もそうですが、他から強制されて受身の姿勢で嫌々・シブシブ行う事というのは非能率的で長続きするものではありません。逆に、意欲を持って楽しく、自発的に実行する事はどんな困難や壁をも乗り越えて継続できるものです。昔から言いますよね;「好きこそものの上手なれ」と。その意味するところはは、「人間、心から好きなことなら、その実行の中で種々の問題に直面しても色々な思考や工夫によってそれを解決する事にやりがいや生きがいを感じて前進できる」という意味です。そんな自覚的に前進しようとする姿をお手紙の中のEさんに感じています。
 例えば、「認知の癖を修正する」について、「修正する」だけで良いのか?と問題に気ずかれています。それだけで本当に修正できるのだろうか?という意味だと思うのですが、正におっしゃる通りで、依存症の原因となった認知の歪み・癖を頭の中で修正するだけでは意味が無いし、せっかく修正した新しい認知も長持ちせず、時を経ずして又旧い認知に戻ってしまうでしょう。そうならないように、修正した認知を実際の行動に移すことが大事で、それで初めて「認知行動療法」となり、それにより新しい認知が頭に定着し、新しい行動を継続できるわけですね。
 アルコール依存症の私も、昔の酒を飲んでいた頃には「酒はもう生涯止められない、止められっこない」との、それはそれは頑固なガンコな認知の歪みを持っていました。しかし専門治療につながり、実際に何年も断酒を続けている治療仲間を目の当たりにして、「世の中には酒を飲まないアル中もいるのだ !! もしかしたら俺も酒を止められるかも知れない」と認知の歪みを修正したわけです。以後、断酒の為の行動=通院や自助グループ通いという行動の継続の中で断酒を継続し、今日では「アル中の酒も、治療と仲間の力に支えられて止める事ができる」との、これまた頑固なまでの(笑)認知に転換しています。これは少し大袈裟に言えば、天動説を信じていた人が地動説に転向したような、いわゆるコペルニクス的転換のようなものかと自分では思っています。
 「問題行動に関連した行動を見極める」についても、「きっかけになる引き金、衝動的行動について自分自身と向き合って見つめてみよう」と書かれておりますが、これも、見つめた結果を誰かに話すとか、書くといった行動につながればもっと良いかなとも思います。
 「問題行動に関する物を全部捨てる」についても、「思考ストップ法」や「フラッシュカード」などで妄想を断ち切るという行動が効果的かと思います。
 
 ワークブックの「性依存への理解」の所の「強化の原理」、「条件付け」の部分を読まれて、自分が依存症に至った過程が理解できたとされて、同時に、今同じ道を歩んでいる人々に刑務所に入る前に一刻も早く治療をと呼びかけておられます。Eさんのこの思いを活かしたく、掲示板「あおいくまの部屋」では、Eさんからの手紙の後に、掲示板読者向けに「強化の原理」と「条件付け」の注釈を付記しておきました。

 色々と書きましたが、要は、「認知の歪みの修正」と「修正に基づく行動」の往復が依存症からの回復街道を前進するエンジンになりますので、それを忘れずにワークブックの学習を進めて頂きたいと思います。

 「認知の癖を修正する」については、ちょうど今、刑務所の教育でも学習している最中との事で、刑務所でもやはり「認知行動療法」が実施されているわけですね。つまり、大石と刑務所の両方の教育プログラムで二刀流の学習をされているわけで、これは2倍の成果が期待できますね。ただ、あまり無理して体をこわさないように、それだけを注意して頑張って下さい。

それでは今日はこの辺で失礼します。初夏から梅雨へ、夏へと段々暑くなって行きますので、御身体には重々気をつけてお過ごし下さい。次のお便りを楽しみにお待ちしております。
         草々
            平成25年5月20日
              大石クリニック相談員 鈴木達也

 

Date: 2013/05/19/18:57:03 No.908