収監者との書簡 Aさんとの往復文通

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<A⇒鈴木>
前略
鈴木さん、お手紙ありがとうございます。私の体調もまだ100%ではないですが、回復して来ました。プレドニンを飲み始めたので血便も止まり、腹痛も治まって来たので全快まであと少しです。もう何の心配もいりませんので、お騒がせしました。
ソフトボール大会ですが、ナント! 「優勝!!!」しました。全4試合、8番・センターで出場し、7打数4安打2打点という結果でした。本当は10割を目指していたのですが、それはムリというものですね。(笑) 来年も頑張りたいと思います今年は病気が悪化していた状態で参加していたので思うように体が動かず悔しい思いもしました。ファーストからセカンドに走る時に足に力が入らず、もつれて転んでアウトになったりしてしまいました。勝ってる試合だったのでまだ良かったのですが、負けている状況だったらヤバかったですね。次は10月の運動会に向けてトレーニングを頑張っています。
体調も良くなってきているので筋トレも復活しました。ですが体重もあれからまた落ちて今は51,8kg程しかありませんので元のように回数があまりできません。焦らずゆっくりと元に戻して行こうと思います。

依存症者の天性の集中力を良い方向に活かして行くという考えは分かり易いですね。私の場合は資格取得に向けて努力すれば良いわけで、あとはストレスをギャンブルでないもので解消すれば良いわけです。ストレス解消もワークブックで考えたようにゲームや筋トレ、音楽を聴いたり、本を読んだりすれば良いと思います。あと、囲碁や将棋も最近では無料でネット対戦なども出来るので、そちらも上手く活用してみようと思います。ただ、負けると別のストレスも溜まるような気もしますが・・・(笑)
それと、外の社会に戻った時に様々な誘惑に負けない強さを身につけなければと思っています。バカラに行きたいという欲求や、窃盗の欲求にどう立ち向かうかが再犯をしない一つの鍵になると思います。
幸いにも、私の帰る場所にはバカラ賭博をしているような場所も無く、バカラの欲求には勝てそうな気がしますが、窃盗の場合、地域は関係が無いので不用心なお店や事務所、会社などを見つけてしまうと「盗みができそうだ」と考えてしまうのです。ですので、そういう所を見つける前に思考をストップして別な事を考える癖を身につけようと思います。
ワークブックにあったような手首に輪ゴムを巻いて、盗みの思考が出てきた時はゴムを弾くのも一つの手段だと思っています。又、今度こそ、Just for today を忘れれずに一日一日を大切に生きて行こうと思います。それと自助グループにも足を運び、色々と学びたいと思います。

出所まで2年をきりました。過ぎ去れば月日は早いのですが、一日一日はのんびり過ぎているような気がします。(笑)残りの期日をしっかりと過ごしさまざまな勉強をして行こうと思います。

これから夏本番です。暑さに負けぬようお体を御自愛下さい。また手紙を書きます。では失礼します。

草々
平成26年7月11日 A
追伸
サッカーW杯もブラジルが大敗(1-7)してしまいました。やはりエース不在が大きかったのでしょうか。決勝はドイツvsアルゼンチンですね。手紙が届くころには結果が出ていますね。私の予想では勢いのあるドイツが2-1で優勝です。ですが、メッシのアルゼンチンにも勝って欲しい。・・・(笑)

<鈴木⇒A>
A様
前略
お手紙ありがとうございます。梅雨空の下で毎日むし暑い日が続いていますが、体調はその後いかがでしょうか、病気の方は快方に向っているそうで安心しましたが、焦らずにゆっくり養生して頂ければと思います。
ソフトボール大会、「優勝」したそうでおめでとうございます。7打数4安打2打点ですか !! 凄いですね。体調がもう一つというのに、さすがにAさんだなと思いました。・・・・・・、今、電卓のキーを叩いてみたのですが、打率は何と、『5割7分』ですね。優勝に貢献した姿が目に浮かんでいます。次は秋の運動会を目指して筋トレを再開したそうで、是非頑張って下さい。でも体調にはくれぐれも注意して無理し過ぎないようにお願いしますね。

再犯防止の為の病気(ギャンブル依存、盗癖)との闘いについてもお手紙に簡潔に書かれています。依存症とは縁のない色々な趣味を楽しみ、心が危険な方向に漂流しないように努力する事(いかりの綱)と、それでも誘惑に迫られそうになった時には輪ゴム弾きや気分転換などで思考をストップさせる(思考ストップ法)という二段構えですね。これで良いと思います。そして、それを保障するのが、お手紙にも書かれている自助グループへの参加です。GAのミーテイングで上記の再犯防止の為の日々の努力を語る事がその努力を継続する力となります。人に話した事が自分自身の心にハネ返って刻み込まれ、それが行動の源泉となるわけです。
例えば、私が19年前に大石で初診を受けた時、帰り際に看護婦さんから「鈴木さん、これからお酒どうしますか?」と問われました。私は、「もう、ここまで来たら酒は年貢の納め時だと思います」と一応はそう答えたのですが、正直言ってその時は断酒を続ける自信はあまりありませんでした。それでも、その場ではそれしか言いようがないとの思いで、そう言わざるを得なかったわけです。でも、自分で言った言葉が何か心に刻み込まれ、それがその後の思考や行動の原動力になって行ったような気がしています。人間の内面の思い、決意というのはそれだけでは極めてうつろい易いもので、決意を本当に実行しようと思ったら、それを他人に宣言するのが一番効果的なようです。その意味でも何でも話せる自助グループの仲間と言うのは貴重な存在と言えるでしょう。特に、99点でも0点に等しい依存症試験で満点を取り続けるには刑務所の塀に代わって誘惑を遮断してくれる仲間の人垣の壁が不可欠だと断言して良いでしょう。

話は変わりますが、先日届いたある文通者(文通名:Mさん)の手紙で「簿記3級に合格しました」との嬉しい知らせがありました。以前のAさん同様に次は2級を目指したいとの事でしたので、お祝いと励ましの返事を書いたのですが、そこでAさんの紹介もしておきました。自分と同じ様に刑務所内での独学で頑張って資格を取っている仲間がいるという事実が何よりの心の支えになると思うからです。その意味で、簿記3級、2級をゲットしたAさんの存在自体が文通を通して全国各地の文通者の力になります。そしてMさんも同じ意味での力になって行くことでしょう。これからも、Aさん、Mさんの成果を資格の取得を志す文通者の皆さんへの励ましの力にさせて頂きたいと思っています。

サッカーW杯はAさんの予想通りドイツが優勝しましたね。さすがに決勝戦らしくドイツvsアルゼンチンの両チームとも最後まで譲らず、結局延長までもつれ込んだ末のドイツの決勝点でようやく勝敗が決まりましたね。
ドイツもW杯で優勝する国だけあって、サッカー熱は国民生活の末端まで沁みこんでいるようです。例えば、ドイツの某依存症病院の入院病棟にはサッカーのルールそのものの規則まであるそうです。つまり、入院生活での規則違反をするとその度にイエローカードが手渡され、それが4枚たまると崖っぷちで、5枚目で退場、即ち強制退院となり病院から追い出されてしまうそうです。病院によってはそこまで厳しい規則を作っているところに一筋縄では行かないこの病気の根の深さがあるのかなぁなんて思いもしています。

それでは今日はこれにて失礼します。この先暑い夏を迎える中、大腸の方も含めて、お体くれぐれもご自愛下さい。

草々

平成26年7月20日

大石クリニック相談員 鈴木達也