収監者との文通 Mさんとの往復書簡 H27/1/14

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<M⇒鈴木>
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。
お変わりありませんか?
さて、私は毎日毎日、簿記の勉強漬けです。何としても目標の2級合格を果たす為に必死になって勉強しております。でも、今のこの勉強生活が何故か心地よく、少し楽しみながら過ごしています。あまり勉強は得意な方ではなかったので最初の内は少しやって解らな過ぎて見たくもなくなり直ぐに息抜き、少しやって飽きて寝ての繰り返しで全く進みませんでしたが、段々と覚え理解するにつれ、慣れもあり勉強の継続時間も長くなり、集中し始めました。それだけでも嬉しく思っています。
昔は心に余裕も無く、常に眉間にシワを寄せて怒っていて、言葉を荒げていました。完璧主義で、ちょっとでも私と違う意見に腹を立てていました。それでは人はついて来ない。だから、それを止めました。何故か、笑っていると人が話しかけてくれたりする。意見が違っても少し先に折れたりすると相手も歩み寄って来る。ほんのちょっと相手に手を差し伸べたり、気に掛けるだけで、相手も私の事を気に掛けてくれる。周囲が近づいて来てくれる。そうなると笑っているだけで周囲も笑っているようになり、私も怒らず、落ち着いた生活が出来るように」なった。色々と助けてくれるし、人は集まってくれる。今は起きているだけで冷たく寒い日が多いが引き続き努力したいと思います。

今回の一類の件ですが、決して私一人の力だけでなれた訳ではなく、本当に沢山の方々が私に力をくれ、助けてくれ、引き上げてくれたお蔭なのです。やはり一類になってから更に大変で、皆の見本にならなくてはいけないので、行動の一つ一つや作業でのミスなどに注意や心くばりが必要であり、最大の事は二類に下がらないようにしなくてはいけません。大変です。でも毎日が楽しく、今はとても充実して過ごしています。炊事場でも仕事や部屋での勉強、読書、運動時間に皆でやるバレーボール、卓球に将棋などで楽しく、充実しています。

今ではこんな私も徐々に押し出されるように人の上に立たせてもらって何とかやって来れてはいますが、自信はまだまだで、ミスはするし、未熟だなぁと思い、嫌になる時もあるが、支えて頂いて救われています。
私の話を読んでくれている方々や、私の事をお手紙で触れてくれている方々に私は励まされました。そしてとても有り難いことです。それと同時に自分に対してプレッシャーも感じます。良い意味での力強い「いかりの綱」が張れました。
少し前ならば、ここで私は人に負けないようにとか、人の上に立つのだからナメられたら駄目だと、間違い人間になり、人に偉そうに接したり、人よりも優位に立とうとして自分だけがやっているように見せていた。だんだんと焦ってきて最後は心に余裕もなくなり、燃えつき、嫌になって出て行くだけでした。でも、もうこうならないようにしたい。笑って過ごせるように今の工場の皆と一緒に頑張って行きたい。
そして,今回私に声をかけて下さった方々にはとても嬉しく思い感謝しています。お題をテーマにミーテイングされた方々も同志の輪として心強く思います。脱線せずに共に歩き続けるように願っています。この希望が消えぬように、なお一層のこと、気を引き締めて生活します。もう一つの「いかりの綱」を頂きありがとうございます。頑張ります。

冬も本番に向け、もうすっかり冷え込んできました。どうか御身大切になさって下さい。また今年も宜しくお願い致します。
M
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<鈴木⇒M>
M様
前略
Mさん、遅ればせながら、明けましておめでとうございます。今年がより一層良い年になりますよう、お祈りしております。

さて、お手紙13日に届き嬉しく拝読しました。何よりも先ず、簿記2級合格を目指して段々と理解が進み楽しく勉強を進められているとの事で、私も自分の事のように嬉しく思いました。どんな勉強でも理解できる事で楽しくなり前に進める事が出来ますので、今の調子を崩さずに勉強を続けて欲しいと思います。この先簿記の勉強で色々な困難に突き当たり困るような事がありましたら、一人で悶々とせずに何なりと手紙で御相談下さい。
以前にも話したかも知れませんが、大石とのこの文通をされている方々の中に、刑務所内での独学で簿記3級、2級とクリアして、現在1級合格を目指して勉強されている方がいるのですが、その方からは毎回の手紙で追伸の形で簿記の専門用語の意味などについての質問を頂いています。もちろん私は簿記については上に「ド」の字が付く素人なのですが、それでも用語の意味や解説などについては今はネットでいくらでも調べられる時代ですので、その範囲での可能な限りの返答を手紙で送っております。Mさんにもそんな形での出来る限りのお手伝いをさせて頂ければ私も嬉しく思います。

それと、完璧主義を脱して周囲と笑顔で触れ合えるようになったのも、良い人間関係を築く第一歩になったようですね。眉間にしわを寄せた不機嫌な顔より笑顔の方が周囲の反応が良くなるのは確かですよね。こちらの笑顔が相手の笑顔を呼び、それが又自分の自然な笑顔をつくるという良い循環が続けば良い人間関係を築いて行けるでしょう。
生まれも育ちも異なる人間どうしの間に意見や考え方の相違が生じるのは元々当然の事と心得て、互いに相手の思考や思いを尊重しあいながら笑顔で触れ合うなら、意見の相違から新しい、互いに納得できる考え方が生まれて来るのだと思います。昔から「3人寄れば文殊の知恵」という諺がありますよね。色々な異なった考えを持つ者同士が集まるからこそ「文殊の知恵」が生まれるのであって、全く同じ考えの者が何人寄り合っても意見や思考の発展はあまり期待できないのではないでしょうか?ですから、意見の相違はむしろ歓迎すべき事と受け止め、互いに相手を尊重しあう議論の中で新しい思考を創り上げて行くべきなのだと思います。
1類昇類後、周囲に感謝する謙虚な気持ちで過ごされているようですが、そこからも「文殊の知恵」を生み出す建設的な道が切り拓かれることでしょう。
大石の仲間や文通仲間の声からも、Mさんの周囲には互いに支え合う仲間の人垣が既に出来ている事を実感して頂けたようで、それも出所後の希望へとつながることでしょう。

真冬の季節が続く中で、この文通でも「風邪をひきました」との便りが相次いでます。Mさんは体の頑健な方とお見受けしておりますが、決して油断することなくこの冬を乗り切ってください。
先日、ある文通者の方から「風邪を予防するコツは?」とのお尋ねがありました。私も医師ではありませんので、ウーン?と、うなった末にネットでヤフーの知恵袋に相談してみました。色々と常識的な事が書かれていましたが、一つ目に留まったのは、うがいの仕方でした。喉の奥でガラガラとやる前に口腔を水でゆすぐようにと書かれていました。風邪の菌をのどの奥に通さない為という事で、成る程と思いました。簡単な事なので実行してみてはいかがでしょうか?それでは、次のお便りを楽しみに、今日はこれにて失礼します。

草々
平成27年1月14日
大石クリニック相談員鈴木達也