収監者との文通 Aさんとの往復書簡 H26/9/21

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<A⇒鈴木>
前略
鈴木さん、お手紙届きました。いつもありがとうございます。
こちらは残暑はあまり厳しくありません。8月のあの暑さは一体一体何だったのか?と思っています。横浜の残暑はどうですか?まだ30度近い気温になるのでしょうか?今はまだ残暑が厳しく暑くてもあと少しであきになり涼しくなったと思ったら寒い季節になります。あと少し暑いのを乗り切り秋になるのを待ちましょう。

健康の面ではすっかり心配をかけてしまい申し訳ありません。お陰様で今はすっかり良くなりました。60kg近かった体重は今は52~53kgの間を行き来しており良いダイエット?になったと思っています(笑) 体重は落ちたのにお腹回りはあまり凹んでおらずそれが唯一の悩みでもあります。あとは運動して徐々に凹んでくれたらななんて思っています。

さて刑務所でも運動会の時期になって参りました。各種目の選手も決まり、皆1位を目指して頑張っています。私はと言うと昨年と同じリレーの40代でエントリーしたのですが、他にも2人おり、私も含めて3人で予選をおこないました。3人とも同じ42歳だったので同学年には負けられないと気合を入れて臨んだのですが残念ながら1m近く放されてしまい負けてしまいました。3人ともトップスピードは同じくらいだったのでスタートから20m付近までのスタートダッシュが一番速かった人がそのままゴールし代表になりました。悔しいですが今年は観客席で選手への応援をしていきます。
今年は病み上がりという事もありましたが、来年に向けて体を鍛えようと思います。昨年は優勝だったのでV2を達成してくれたらと思います。

近況はこの位にして、決意の実行についてはアリストテレスも似たような事を言っていたのですね。古代ギリシャの時代から言われているという事はやはり効果は絶大なのですね。効果の無いものは受け継がれないですからね。私も簿記1級、公認会計士に合格すると鈴木さんに言っているので、何としても合格をとの強い決意になっているのだと思います。公認会計士は合格率が20%前半でかなり難関ですが、出所~3~5年の間に合格できたらと思います。会計士は、受刑者の場合3年間(出所してから)は免許が発行されないのでこの3年の間にみっちり勉強しようと思うのです。難しいですが、負けずに続けていきます。

バカラへの不安ですが、これを和らげるには、やはり仲間の力が大事なのですね。今はまだ顔も見ぬ同じ境遇の仲間達ですが、挫けそうに、負けそうになったら同じ様な思いをしている仲間達の事を考え、一呼吸して乗り越えて行こうと思います。いつも不安だらけですが、これを乗り越える一つの方法を知った気がします。
前の手紙にも仲間とのスクラムについて書かれていましたが、本当に大事なものですね。私も忘れずに過ごしていき、私自身も他の人のスクラムになれたらと思います。

私の務めている工場では様々な人の講話があるのですが、その中の一つに興味深いものがあったので書いておきます。
依存症というのは治らず、一日一日を乗り越えて行くしかないとダルクの近藤恒夫さんは言っていたけれど、今は医学が進歩して、依存症は治ると千葉にある病院の先生が言っているそうです。
ちょっとどの病院なのか、どんな治療方法なのか説明が無いので不明なのですが、医学は進歩しているので完治するのかも知れませんね。でも、例え完治したとしてもいぞんしていた事にまた近づいて興味本位でやってしまえば元の木阿弥になってしまうので、やはり一日一日を乗り切って行く事が一番大事なのかなと思います。

今度こそJust for topdayを忘れず、依存症の仲間を思い出し、ワークブックで学んだ事を実践し、バカラ、窃盗をしない生活を送って行きます。 長くなりましたが、この辺で失礼します。あともう少し暑い日をのり切って下さい。

草々
平成26年9月12日A

<鈴木⇒A>
A様
前略
Aさん、こんにちは。12日付のお手紙18日に届きました。夏から秋へと季節が移り行く中で健康面も回復されているようで安心しました。でも病み上がりでの季節の変わり目ですので健康面で油断の無いようにお願します。

運動会に向けてのリレーの予選で惜しくも負けてしまったそうですが、それも「あまり無理するな」との神様の思し召しなのかも知れませんね。来年の運動会に向けて鋭気を養うという意味でも今年はゆっくりしてください。  「昔は100mを11秒台で走っていた」との手紙での話に思わず「凄ーい!!」と声をあげたのは去年の運動会の頃でした。あれからもう1年が過ぎてしまったわけですね。本当に速いもので、そう思うとやっぱり毎日の一日一日を無駄に過ごしてはいけないなとつくづく思います。

アリストテレスが「人は自らが下した決断に相応しい人間になって行く」との名言を遺したのは今から2400年近くも前の事でした。お手紙にも書かれているように、この言葉に根拠があるからこそそんな長~い年月を越えて今日に言い伝えられているのだと思います。「決断」には「実行」という意味が含まれています。「実行」を伴わない「決断」はもはや「決断」ではなく精々のところ「希望」に過ぎません。アリストテレスの言う「決断」にはもちろん「実行」という意味が含まれているわけで、それを諦めずに継続する限り決断に相応しい人間になれるというわけですね。そこで一番の問題は、実行を諦めない為にはどうするか?だと思うのですが、Aさんのように決断した事を周囲に宣言するというのも確かに非常に有効な方法だと思います。
ただ、目標が「公認会計士」合格となるとやはりそう一筋縄では行かない難関目標です。合格率が20数%ですか !! Aさんの宣言で私も少々関心をもって以前日吉駅前の「資格の大原」の玄関先に置かれていた公認会計士の受験案内パンフを手にとって見た事がありますが、その勉強量の多い事と難しそうな内容に圧倒される思いがした記憶が残っています。又、  今この手紙を書きながら、ふと思いついてネットで公認会計士の大学別合格者数を調べてみたら、やっぱり、凄い学校名が並んでいました。私学トップの「慶応」、「早稲田」や資格試験に強い「中央」そして、あの言わずもがなの「東大」や「京大」といった物凄い名前の大学が合格者数ランキングのベスト・10にズラリと並んでおり、これまた圧倒される思いがしました、。そんな超難関の試験に挑戦しようというAさんの志(こころざし)の高さに改めて敬服する思いがしました。そしてもう一つの思い、それは、「Aさんは刑務所の塀の中に居るのは勿体な過ぎる人材だ」という思いです。Aさんには一日も早く塀の外に出て、自由に勉強できる環境の中で公認会計士を目指して勉強して頂きたいと思います。

依存症治療における仲間との絆・スクラムの重要性についてもよく理解していただけたようで嬉しく思います。出所後は「仲間と共に Just for topday !!」を胸にギャンブル依存や窃盗癖を一日ずつ断ち切る日々を送って欲しいと思います。

依存症が治るという話ですが、普通依存症が治ると言う意味は飲酒やギャンブルを適度に楽しめるようになるという意味として言われています。それで仮に依存症が完治できるようになったとしても、元々違法ギャンブルであるバカラや窃盗を、まさか愉しみとして適度にやるというわけにはいきませんから、やはり今まで通り一日一日断ち切る努力を続ける以外ないですよね。

そちらの残暑はあまり厳しくないとの事ですが、横浜も似たような感じで、エアコンを入れると寒いくらいの陽気
になってきました。いずれにせよ季節の変わり目ですので、お体くれぐれもお大事に。それではきょうはこれにて失礼します。

草々
平成26年9月21日
大石クリニック相談員鈴木達也