収監者との文通　Aさんからの手紙

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収監者との文通

Aさんからの手紙

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及び、当掲示板 投稿No,555～参照

前略
　いつもお手紙ありがとうございます。
　また、パンフレットのスーモマガジンも無事届いております。お手数をかけてしまい本当にすいませんでした。楽しく拝見しております。賃貸情報を見てると、どこに住もうかと本当に迷ってしまいます（笑）　やはり地元の○○も良いし、活動する機会の多い○○も捨て難いです。でも新築を買うなら多分地元の方で買います。
　今の心境では地元に帰りたいなという思いが強いです。でも地元には弟が子供と一緒に住んでいるだけで、実家は無いし、それに私はこういう生活が長いので地元に帰っても何か恥ずかしい思いもあるしで、実際に地元に住むには大きな勇気が必要です。でも住み慣れた街は何だか落ち着くんですよね（笑）
　と、こんな感じで、パンフレットを見ながら妄想しています。

　簿記２級ですが、無事合格することが出来ました。ちょっと合格まで長かったですが、中にいる間に合格できて本当に良かったです。これも色々な人が私を応援してくれたお陰だと思っています。本当にありがとうございます。

　電話の件ですが、８月５日（金）の午前１１時で申し込んであります。電話は午前中しかできないのでこの時間になってしまいました。でも申し込んだだけで、まだ決定はしていないので了承しておいて下さい。これは私の方の都合で決めてしまったので、その日時で都合が悪ければ教えて下さい。取り消しますので。本当は手紙にあったように午後３時～５時に掛けたかったのですが、午前中しか電話を掛けれないのでそんな時間になってしまいました。

　仮釈の為の面接も終了し、何とか仮釈で出所出来そうです。○○の保護会次第ですが、９月の初め頃に出所出来たら良いなと思っています。それは面接が終了してから約５０日後の木曜日に出所する人が多いので、自分もそれ位かなと勝手に想像しています。私の予想より出所が早いか遅いかは分かりませんが、これからは出所後の事をもっと考えて行こうと思います。
　先ず当面は、脱バカラの為のミーテイング・通院、そして仕事の二つを柱として生活して行こうと思います。
　それで、保護会ではなくきちんと自分の住居が定まったら簿記１級のスクールに通おうと思います。それまでは自主学習で頑張ります。
　何と言っても脱バカラが無ければ私の人生はきちんと前に進まないと思うのです。鈴木さんの手紙にもあったようにトリガー（依存の引き金）が何なのかを気付かないといけないと思うのです。それにはミーテイングなどに参加して自分自身で気付かなかった気持ちに気付いてバカラから遠のいて行こうと思うのです。

　それともう一つ目標があります。鈴木さんも知っての通り、私の受刑生活は５度目です。刑務所に戻ってしまう期間も短く、２０日、５ヶ月、３ヶ月、２ヶ月ですので、先ず２ヶ月何事も無く過ごす。そして１ヶ月、１ヶ月を何事も無く過ごし１年間は必死で頑張ろうと思います。それには「Ｊust for today」の精神を忘れずに２ヶ月、１年と過ごし、それから次の１年も頑張ろうと思います。物凄い小さい事ですが、日々の積み重ねがこの先同じ過ちを犯さない一歩一歩だと思うのです。
　あとは出所してからですが、本当に死に物狂いで頑張って行きます。これからも御指導よろしくお願いします。

　本格的に暑くなって来ました。狭い部屋に７人で生活しているのでかなり暑いですが、暑さに負けず筋トレや読書を続けて行きます。鈴木さんも暑さに負けず、熱中症などに気をつけて下さい。
　まだまだ暑い日が続くと思うと少々嫌になりますが、夏が終わらなければ秋が来ない訳で、秋が来なければ私の満期も来ない訳ですので、早く夏が終わって欲しいものです（笑）
　また手紙を書きます。では失礼致します。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　草々
　　　　　　　　　平成２３年７月１７日（日）Ａ　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

追伸
　今まで本当に良いアドバイスありがとうございます。今回の受刑生活では多くの物を得たと思います。これを外でも活かして行きたいと思います。
　（以下スーモマガジン注文の件・略）

追伸－２
　（要約：８月５日付で申し込んだ電話が不可になったとの由）

Date: 2011/07/24/14:48:32 No.673

Re:収監者との文通

Aさんへの返書

Ａ 様
前略
　お手紙ありがとうございます。
何はともあれ、簿記2級合格!! 本当におめでとうございます。色々と制限の多い勉学条件の中で日々の努力を積み重ねられ、３級⇒２級へと一歩一歩前進されているお姿に、深い感銘を受けています。
　今回の合格で、新たな人生に向けての二つの宝物を手にされたと思います。一つは勿論「簿記2級」という資格そのもので、今後の社会復帰に向けての大きな武器となることでしょう。そしてもう一つは、困難な勉学条件の下で一つの目標を達成された事による自信だと思うのです。この二つの宝物はこの先の人生を力強く支えるものとなるでしょう。ギャンブル・バカラで勝った時の一瞬の喜びはその一瞬だけで終わってしまい、その後は逆に苦しみの種になっていたのではないでしょうか？　一瞬の喜びが次の欲求を生み・・そして、負け、犯罪、刑務所暮らしへと進行し、喜びが苦しみの原因になっていたのではないでしょうか？、その点で今度の喜び＝簿記2級合格の喜びは今後の社会復帰に向けての財産になる建設的な喜びになるという意味での新しい喜びを感じておられることと思います。それはバカラでの喜びと違い次の喜びの種となるという意味で今までに無い新しい喜びになると思います。この喜びを忘れずに,次の目標に向けての「Just for today」の一歩一歩を歩まれるよう心から期待しております。
　
　お手紙の中で、出所後は「本当に死に物狂いで頑張って行きます」と書かれています。今までの人生で回り道した分の遅れを早く取り戻したいとの思いは治療を始めた依存症者の共通の心理であり、自然な思いと言っても良いでしょう。又、そういうモチベーション・動機がなければ一歩も前に進めないのは確かです。ただ、実はそこに一つの落とし穴が有る事も一方の真理であり、事実でもあるようです。問題は頑張り過ぎによるストレスであり、ストレスによるスリップなんですね。「Just for today」を信条とするＡさんには「釈迦に説法」かとは思いますが、「死に物狂い」の「狂い」の部分だけ注意してくださいね。つまり、死ぬ気で頑張っても狂わないように（笑）コントロールして頂ければと思います。具体的に言えば、狂わないように可能な範囲のスケジュールを立て、それを死ぬ気で100％実行するという事だと思います。
　依存症は別名でコントロール障害とも言います。酒やギャンブルではもう頑張れないけど、回復に向けて頑張る分には良いだろうとの思いから、頑張りコントロール障害が生じ、その頑張りが思わぬスリップに繋がる例が非常に多いんですね。依存症者というのは良い意味でも悪い意味でも頑張り屋さんが多いですね。一般には「依存症者は意志が弱い」と思われがちですが、それは完全な世間的誤解だと私は思っています。その「論より証拠」を、刑務所内での勉強で立派に簿記2級合格を果したＡさんの頑張り＝意志の強さが示しています。その意志の強さを建設的な方向で、きちんとコントロールして発揮できれば良いと思うのです。

　電話の件、残念でしたね。でも仮釈も近く、電話より出所の方が早くなるのでは？と思うので、電話にはあまりこだわらなくても良いかなと思っています。9月初旬と言えば、猛暑が峠を越える頃でしょうか、そう思うと本当にもう直ぐだなと実感しています。何だか「もう幾つ寝ると・・・」と、子供の頃、正月を前にして口ずさんだメロデイーが耳元に甦る思いがしています。

　スーモマガジンの継続の件、電話で申し込んでおきました。〒送無料との由で8月以降も届けられると思います。将来の新築マンション購入の夢も、今後の困難や壁を乗り越えるエネルギーになると思うので、こういうマガジンも大いに活用出来ると思います。
　以前、認知行動療法で使われているフラッシュカードの話をした事があったと思いますが、名刺大のカードの表に「ギャンブル・バカラをやったら？」と書き、裏に「ギャンブルをやったらマンションの夢が泡と消え、再び塀の中」と書き、そのカードを常時携帯し、いざヤバイと思った時、それを取り出して、表と裏を声を出して読み上げ、過去の苦い体験を順次思い起こしながら時間をやり過ごします。人間の脳は、聖徳太子の様に二つの思考を同時進行させられるほど器用には出来ていません。つまり、過去の苦い体験を思い起こしながらバカラに行く算段が出来ません。これでかなりの高率で危機を克服できるという統計数字が報告されています。

　今、ネットでそちらの週間天気予報を見たら、やはり猛暑、猛暑の日がズラリと並んでいました。出所を前に熱中症、その他に重々気をつけてお身体ご自愛下さいね。今日はこの辺で失礼します。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　草々
　　　　　　　平成２３年７月２５日
　　　　　　　　　大石クリニック相談員　鈴木達也
追伸
　実は、今回のＡさんの手紙と同時に、もう一通受刑者の方からの手紙が届きました。性依存症を原因とする性犯罪（痴漢・盗撮）で８ヶ月の実刑判決を受け、一ヶ月ほど前から服役している方です。ネット掲示板では名をＤさんとしています。
　そのＤさんが文面で、
「私は今回も含め今まで、ある行為をする過程で得られる興奮や刺激を求め、その行為にのめり込んでしまい痴漢や盗撮をしてしまいました。家族だけでなく人様にも迷惑を掛け続けて来てしまいました。時々思うのですが、興奮や刺激を求めてその行為にのめり込んでしまう依存が私のように痴漢ではなく、ギャンブルや買物や仕事やインターネットやケイタイメールなどだったらと。両親に迷惑をかけてしまうかも知れないけど、他人様を傷つける事は無かったかも知れなかったのかなと考えた事があります」
　と書かれていました。Ａさんへの返書を書いた後、Ｄさんへの返書を書いたのですが、その中で、「ギャンブル・・などだったら」に関連して、Ａさんの刑務所内での努力を紹介させて頂きました。ネット掲示板に公開したＤさん宛の返書を同封しますのでご一読下さい。

Date: 2011/07/24/16:22:41 No.674