収監者との文通 O(オー)さんからの手紙
収監者との文通
O(オー)さんからの手紙
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前略
毎日暑い日が続いていると思いますが、体調を崩していませんか
鈴木先生からのお手紙が7月17日に届きました。本当に有り難うございます。今日は7月19日ですが、昨日『特別改善プログラム』の話が来ました。少し気持ちがブレている為少し時間が欲しいです。それと私自身の事を書くに当りよく考えて書きたいと思っています。嘘を書くのではなく、ちゃんと自分と向かい合って考えて、素直な気持ちで書きたいと思っています。もし移送になるとしても数ヶ月先ですので気持ちを落ち着かせて書きます。
最初の内は、鈴木先生が用意して頂いたテーマ例を手本にして書いていくつもりです。その後はテーマを見つけて書きます。
≪テーマ:問題行動/引き金≫
私がこのような犯罪を起こす切っ掛けとなったのは15歳で定時制高校に通うようになった頃です。通っている人の殆どが仕事を終えて学校に来ている為皆お金を持っていました。学校内で私は皆と同じように元気に笑って楽しく過ごしていました。私は中学の頃どちらかというとネクラでした。気持ちでは目立ちたいと思う面があったのですが、それを表に出さず、我慢する子供だったと思います。そんな事もあったせいか高校に通学した時はネクラの自分を見せないように、出来るだけ明るい自分を出して楽しくやっていました。
ある日の事です。友人の一人がエロ本を授業前に持ち込んで皆で見ていました。そのエロ本が私の人生を変える事になった盗撮物で、女子トイレの盗撮物でした。正直興味が有った内容で私は「これだったら出来そう」と、そんな思いを持ちましたが、根がビビリ者の為かしばらくは出来ませんでした。そのまま出来なければ「こんな辛い思いをしなくても良かったのに」と思っても仕方ないのですが、当時働いていた会社の女子トイレに一度入ってみました。その時、私は初めて生で見てしまったことで腰が抜けるくらいの衝撃を受けました。
今回も同じでしたが、当時は特に「見つからなければ」という気持ちが強かったと思います。当時はまだトイレに侵入する事に怖さがあったのですが、少しづつそんな事に慣れてきましたが、そんな事は長くは続きませんでした。ある日、私がトイレ内に侵入した後のぞき込んでいた時に見つかってしまいました。私は逃げたのですが顔を見られていた為に後日会社の上司に呼ばれて、その事を注意されました。多分その時に警察に連絡されていれば、その後はやらなかったかも・・・と思ったこともありました。私は注意を受けてから暫くはその行動をとれませんでした。
それからしばらくしてからの事です。仲間5~6人で夜バイクで遊んでいた時、近くの公園のトイレに人が入って行ったと言って皆は遊び感覚でそこに行きました。その人達は現在みな普通に生活しています。性依存の人とこの人達がどうちがうのか、どう間違ったら私の様に依存症になってしまうのですか?
皆がトイレに入ったりして遊んでいる時、以前見つかった時の事が頭のスミに残っていました。でもやっぱり、あの時の衝撃が忘れられなくてやっぱり会社のトイレへ行ってしまいました。しばらく間があったのですが、一度入ってしまったら後は以前と同じでした。今度は上手に見つからないようにしていました。その時は悪いと解かっていても思っている以上に悪くはないと思っていました。一般社会に出回っている盗撮本やエロ本でもそのような物はかなりありましたし、当たり前のように本屋に並んでいました。私自身も最初の内は1ヶ月に1~2回くらいから始まって1週間に1回、その内に週に3~4回と、最後は毎日侵入するようになってしまいました。その頃になると侵入するのが当たり前の毎日でしたが、そう続く分けがありませんでした。前回見つかった時から2年くらい、よくこれまで上手に見つからずに来たなと思いましたが、私と同期だった人に見つかってしまいました。今度は私も覚悟しましたが、また注意のみでした。でも周囲の人の目があるのでその会社を辞めることにしました。
このまま書いて行くと取り留めなく書いてしまうので、今回は「私の犯罪の引き金」とのテーマでまとめたいと思いますが、この内容の前にも少しあるのですが、今は書けません。そこまで気持ちが行きませんし、多分その辺が私の犯罪の引き金かも知れません。その事を話すには少し時間が欲しいです。
ここまで色々と書きましたが、内容がかなり昔の事ですので今と昔での考え方が変わっていると思います。鈴木先生は他の方の手紙当に目を通す事があると思いますが、他の方の依存症のスタートは同じようなものなのでしょうか?
刑務作業中に工場内で見せる教育用DVDが見える時や聴こえて来たりしますが、薬物依存症も性依存症も目に見えない心の病気なんですね。本当に厄介なものになってしまったと思っていますが、本気で治したいと思っています。その為にも前を向いて行きたいと思っています。でも治す為には私の過去も思い出して、何が駄目だったのか見直す事も大事かも知れませんね。今思えば、私の人生はこの犯罪が大半を占めていると思っています。
もっとしっかりして、多分待っていると思われる家族の為にも、自分の為にも頑張って行きたい。私自身、このように文章にする事は警察の調書ぐらいしかないので文面がメチャクチャになってしまいました。でも、書いたり、他人に話したりできればどんなに楽になれるか分かりません。薬物と同じように性依存も同病者にしか分からない事があります。
この辛さを解ってくれる人は同じ依存をしている人。その為にも、まだ先は長いのですが、一日も早く、と言うより一日たりとも遅れる事なく出所して本当のミーテイングに参加してみたいです。
最後に、前回の手紙に書いた「今日を我慢する」-この言葉は私が初犯で刑務所に行った時、薬物で懲役になった人に見せてもらったダルクの本に書いてあった言葉ですが、それを今迄自分のものに出来ないままきてしまいました。私自身も言葉だけ知っていながら本当にもったいない気がします。今度こそ、この言葉の意味をしっかり理解して行きたいですね。
今日は7月30日ですが、あと2ヶ月くらいで涼しくなりますので、それまで頑張って行きますので、大石クリニック院長はじめスタッフの皆様方のご健康をお祈りしております。乱筆乱文等、お許し下さい。
平成25年7月30日(8月1日出し) O
Date: 2013/08/09/18:49:56 No.960
Re:収監者との文通
O(オー)さんへの返書
O(オー)様
前略
7月30日付のお手紙8月5日に届きました。有り難うございます。依存症克服に向けて真摯に取り組もうとされている文面に感銘を覚えながら拝読しました。
今回のお手紙は「問題行動/引き金」と題されておりますが、Oさんの事件の「引き金」は何だったのか?の答えを探す思いで読ませて頂きましたが、それは先ず①高校時代の教室で目にした盗撮本であり、次に、②会社の女子トイレに侵入して初めて目にした生の衝撃だったわけですね。その後も侵入が見つかり注意されるとその後しばらくは怖くて出来なくなるけど、結局は最初の衝撃が忘れられずにやはり同じ事をやってしまい、1度やってしまうと週や月の回数が増えて行ったわけですね。これは正に依存症の症状そのものであり、Oさん自身今回の手紙を書きながらそれを再認識された事と思います。
ここで大事な事、それは1度やってしまうとコントロールが効かなくなりドンドン回数が増えて行くことです。お手紙で「何が駄目だったのか見直す事も大事かも知れませんね」と書かれていますが、この最初の「一度」も「駄目だったこと」の大きな一つと言えるでしょう。依存の対象は異なりますが私が毎日・毎日の一升酒を止められなかったのも、先ずは「朝の一杯」が一日の酒への引き金になっていたし、今日の一升酒が翌日の飲酒への呼び水ならぬ呼び酒になっていたのだと今にして痛感しています。
では、Oさんの場合次の侵入への呼び水となる今日の侵入を抑えるにはどうしたら良いのでしょうか?個人的な意志や理性、我慢などだけでは抑えきれない事はOさん自身が何度も経験されているところだと思います。それはOさんが特別に意志が弱いわけではなく、性依存症(性嗜好障害)という病気の為せる業(わざ)だからというのが依存症医学の確固とした立場です。ですから、例えば癌患者が痛みや苦痛を我慢する事で癌の増殖や転位を抑えられないのと事情は同じで、Oさんが性衝動を自分の意志や根性で我慢しようと心に深く誓ってもそれだけではやはり限界があり、遅かれ・早かれ同じ犯罪を何度も繰り返してしまったわけです。
ではどうするか? Oさん自身が既に希望されている依存症治療が必要なわけですが、当面刑務所内で予定されている「特別改善プログラム」もその重要な役割を担うことでしょう。「これを受けても再犯率が60%」と以前のお手紙に書かれていましたが、要は本人次第だと思います。出所後どういう生き方をして、どう再犯を防止するのかの答えを求める立場と意識をもってプログラムを受講し、そこで得たものを出所後の生活で実践するなら再犯のない幸せな道が必ず開けるでしょう。大石の性依存症教育プログラムでも、心を性依存や犯罪の方向に漂流させない為の方法としての「錨(いかり)の綱」や、問題行動・犯罪への引き金への対処法などを学んでいますが、おそらく刑務所のプログラムでも同様の学習をするのではと思いますので是非期待して頂きたいと思います.。
それともう一つ大事な事は、お手紙に書かれている「今日を我慢する」です。その意味は前回の手紙にも書いた通りですが、Oさんも既に理解している通りだと思います。ただ、「今日一日の性衝動を我慢する」と言っても、刑務所という生活環境の下では欲求も衝動も湧きようがないので、我慢もあまり感じようがないのではと思います。そこで、この言葉の意味をもう少し広げて考えてみましょう。つまり、「今日だけ何かを実行する」と決めて、それを毎日実行するわけです。何かの勉強でも良いし、体の鍛錬でも良いです。今日一日のそれを100日重ねれば100日分の成果を手にするでしょう。そんな「今日一日」の訓練を続け、それを出所後の「今日一日の衝動を我慢する」に繋げて行ければ良いのではないかと思います。
お手紙の中で、昔のバイク仲間と比較しながら「・・・どう間違ったら私の様に依存症になってしまうのですか?」と質問されています。これは例えば、同じ大気汚染の下で育ってもゼンソクになる人とならない人がいますね、同じヘビースモーカーでも肺癌になる人とならない人がいます。その違いの原因は何か?と言えば遺伝的体質だろうと言われています。ですから、Oさんの性依存症も御先祖様のどこかに眠っていた依存症遺伝子が代々伝わって来て、たまたまOさんの所で目を覚ましたものと考えられます。そう考えると、悪いのは遺伝子や病気だから自分を責めなくても良いのに気がつきますよね。ですから確かに、犯罪による自己嫌悪や劣等感などは不必要と言えるでしょう。しかし、反省や償いはしなければなりません。遺伝子や病気はそれをしてくれませんからね。それによって病気と闘う自分が大事なわけです。
何だか分けの判らない話になってしまったかも知れませんが、ご理解頂けたでしょうか?「何故、自分が依存症に?」へのご質問に私なりに答えてみましたが、まだ疑問や意見などありましたら次のお手紙にてお願いします。
又、他のご質問で「他の方の依存症のスタートは同じようなのでしょうか?」と書かれていますが、依存症という共通の病気ですので他の依存症の方も基本的に共通した症状を示しています。共通体験をしているからこそ共感しあえる面が多いのは確かですね。
昨日は通勤帰りの電車が途中で急ブレーキをかけて停車、そして「ただいま、緊急地震警報信号で停車しました」との車内アナウンスがありました。幸いにして誤報で、何事も起きずに良かったのですが、それにしても最近、地震や大雨、落雷、猛暑・・・等々で尊い人命まで奪われる事態が増えています。そんな中でのテレビで誰かが「最近は自然が凶暴性をおびて来ている」とさえ言っていました。そんな自然が持つキバに負けないよう注意したいですね。先ずは、もうしばらく続きそうな猛暑・酷暑に負けないよう、熱中症や夏バテに気をつけてお過ごし下さい。長くなりましたが今日はこの辺で失礼します。
草々
平成25年8月9日(金曜日)
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/08/09/19:07:17 No.961
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