収監者との文通 Mさんとの往復書簡 H26/10/7

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<M⇒鈴木>
前略
やっとのことで猛暑から抜け出し、風が気持ち良い感じで、こちらは過ごし易い日が続いています。でも日本各地では様々な天候による被害に遭っている方々がいる異常な事態になっているのであまり喜べませんが、間もなく私の好きな季節である秋です。そのすぐ後には寒い冬が来ます。
さて、前回の私の話の中での私の想いを大石のミーテイングで話し、伝えてくれるそうですが、逆によろしいのでしょうか?という気持ちです。私は自身で手さぐりでこれで良いのか?と思いながらの生活。でも今自分的にはとてもバランスが良いと思うのでこのままやり続けてみます。
あと、心のハードルの話ですが、「認知行動療法」などの精神療法や「体験談ミーテイング」などがあると伺いましたが、今できる事で「認知行動療法」は実践中ですが、今後「ミーテイング」を受けます。この中でも時期が来ればやれるのですが、もちろん出所後もそちらに通院して積極的に治療を受けて、犯罪へのハードルを高く持ち2度と罪を犯さないようにしたい。この負のサイクルから抜け出したいです。
暑さが終われば次は冷え、又あの恐ろしい冬へと変わります。急激な温度差にくれぐれも体に気をつけて大切になさって下さい。

草々

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<鈴木⇒M>
M様
前略
Mさん、こんにちは。10月に入り、横浜もいよいよ秋本番を迎える中、お手紙6日に届きました。いつもありがとうございます。そちらも猛暑の夏が過ぎ、心地よい秋の季節を迎えて元気でお過ごしのようで何よりと嬉しく思います。

Mさんが趣味の将棋を再犯防止の為の「いかりの綱」としたいとの話、ぜひ大石のミーテイングで患者さん達に紹介させて頂きたいと思います。前回の手紙にも書いたように、「いかりの綱」の分かりやすい実例として話せると思います。患者さん達の反応を次回の手紙でお知らせしたいと思いますので楽しみに待っていて下さい。

再犯防止の為の心のハードルを高くする為にも、今できる認知行動療法や体験談ミーテイングに参加しながら、出所後も大石に通院してその治療を続けるとの決意をお手紙で述べられており、私も本当に嬉しく思いました。
「体験談ミーテイング」の効力は、79年前にアメリカでアルコール依存症者の自助グループであるAAが創設されて以来、地球的規模で証明され続けて来ており、だからこそAAに学んでの薬物依存症者のNA、ギャンブル依存症者のGA、そして性依存症者のSAなどが創設され、やはり日本を含めての国際的な広がりを見せて今日に至っているわけです。
そして、最近に至り「認知行動療法」もそれに劣らない効力を持っている事が実際の治療で証明されてきており、だからこそ、この療法は病院だけでなく、刑務所での再犯防止教育から大学の学生相談室にまでの広がりを見せているわけです。ですから、この「体験談ミーテイング」と「認知行動療法」の二刀流の治療をしっかり進めれば、性依存症の克服と再犯防止への道が開けない方が逆に不思議だと言っても良いかと思いますので、Mさんも将来への明るい希望を胸に治療と更生への道を歩み続けて頂きたいと思います。きっと、刑務所の塀でさえその高さにビックリするくらいの再犯防止への高いハードルを築けることでしょう。

お手紙の最後で、性依存症⇔性犯罪の負のサイクルから抜け出す決意を述べられていますが、依存症治療の進歩がそれを決して夢ではないものにしています。
その昔、医学界までを含めて依存症は病気であるとの認識が出来なかったが故に治療法など考えられる筈もなかった頃、「各種依存症者は生涯にわたって精神病院の閉鎖病棟にでも放り込んで鍵を掛けておくしか方法がない」と思われていました。患者からすれば、治療法が示されないわけですから、「負のサイクルから抜け出そう」との思いなど思いたくても思えなかったわけです。そんなつい数十年前までの依存症者の運命を思えば、今日の進歩した治療法を活用しないという手は無いですよね。私自身、今日の依存症治療の恩恵を被って19年の断酒を継続してきて、今こうして皆さんと文通をしている身として、本当に今の時代で良かったとつくづく思わざるを得ません。上記のような昔の時代だったら社会のアウトサイダーとして打ち捨てられるしかなかったわけですからね。

色々と、とりとめなく書いてしまいましたが、今日はこの辺で失礼します。季節は秋、そして冬へと向かいます。お手紙で「恐ろしい」と仰っている冬にも負けないように今から心身の両面を鍛え、そして慈しみ、ご自愛頂きたいと思います。

草々

平成26年10月7日
大石クリニック相談員 鈴木達也