収監者との文通 Eさんからの手紙

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収監者との文通

Eさんからの手紙

大石クリニックHPトップページ参照

大石クリニック相談員 鈴木達也様

 お手紙ありがとうございます。
 いきなりで申し訳ありません。ワークブックを送って頂いてから、私自身の計画の無さから手が回らない日々が続いております。大変申し訳ありません。少しの時間でもワークブックに向き合えるようにしたいと思います、今回はこの事を機に目標・計画を考えてみました。あまり大した事ではありませんので残念に思うかも知れません。
 まず。家族に対しては、今までテレビの話題等ちょっとした会話はありましたが、本音や自分の状況(心や悩み)を話すことはありませんでしたし、親孝行と言える事はしていませんでした。そこで、これからは親孝行したり、自分の事を話せるようになりたいです。
 仕事は現在決まっていませんが、アニメやゲームの関連会社や販売店で働くか、、今までの事を清算する為に保育士になり、子供を守れる役に立つ事をしたいと考えています。その為に、最低限の当たり障りのない対人関係や距離感の取り方をここで学び、資格の取得を目指して見ようと思います。色々と障害(学歴・自分の問題・ここの許可等)もありますが、頑張りたいと思います。
 交友関係はゼロからのスタートですが、本音・弱味・悩みを話せる良き理解者が欲しいです。
 金銭的には、生活費を除いて少しずつ貯蓄できる位の余裕が欲しいので無駄遣いを減らしたいと思っています。
 運動は体力を維持できるくらいで良いかなと思っていますが、本格的にやるならテニスをやって行きたいと思っています。その為に今のうちに少しでも体力をつけることを継続してやって行きたいと思っています。又、余暇時間には「いかりの綱」で挙げた事をやっていきたいです。
 性的問題の治療については、中での教育と文通の両方をして行き、出所後はクリニックのプログラムと外での教育があるので、そのどちらにも参加して行きたいと思っています。
 私は計画を立てると、その通りに行く時と行かない時があるので気をつけなければいけないのですが、ふっと思いつきで行動したり、つい買ってしまったりと、自分自身で計画を変えてしまうので、短期的にも・長期的にも計画を変えないように計画を立てなければいけないと思いますそして計画を実行して達成できるように頑張って行きたいと思います。
 「治療目標」で『法的義務』と『教育』がありましたが、法的義務とは納税の事なのですか、また教育とは何なのでしょうか?よくわからなかったのでよろしくお願いします。
 梅雨に入り」ましたが、あまり雨が降らないので夏が近いなと感じています。私個人としては、もっと雨が降って欲しいと思います。一日の内でも気温の変動が大きくなり、私の周りでも風邪の症状が出ている人がいるので油断しないで生活して行きたいと思っています。体調には十分気をつけてお過ごし下さい。お手紙お待ちしております。
                 6月8日 E
                                    

Date: 2013/06/17/22:35:05 No.919

Re:収監者との文通

Eさんへの返書

E様
前 略
 Eさん、こんにちは。6月8日付のお手紙13日に届きました。 いつも有り難うがざいます。
お手紙の中で、ゼロからつくり直す交友関係について、「本音・弱味・悩みを話せる良き理解者が欲しいです」と書かれていますが、それは依存症の治療を進める上でも不可欠というか、治療の必修科目といっても良いくらい大切なことです。でも、そういう交友関係というのは普段の生活の中では中々つくり難いですね。しかし、依存症治療の中で出会う治療仲間の場合には互いに、「本音・弱味・悩み」を話し易いという関係があります。依存症でない一般の人には恥ずかしくて話せないと感じる事でも同じ依存症仲間には容易に話せるというケースが多いわけです。よく「依存症になって良かった」という声を耳にします。それは、依存症になった事自体が良かったというわけではなく、依存症から治療に繋がった結果として、以前には考えられられなかったような最も人間的な交友関係ができたという意味なんですね。同じ病気による同じような症状、辛さ、苦しみを味わった間柄だからこその共感が生まれ、その共感が治療と回復に向けて手をたずさえて行こうという絆、仲間どうしの心の絆を生み出します。実際の治療の中での同病の仲間との出会いと触れ合いの継続の中で。仲間、理解者ができると言っても良いでしょう。利害関係やそれによる対立関係と縁がなく、互いに支え合い、力になり合い、種々の困難を共に乗り越えて行く、そんな人間関係、交友関係が依存症治療の中で培われていくなら、それは正に依存症者の特権と言っても良いでしょう。それを実感するからこそ「依存症になって良かった」との声が聞こえてくるのだと思います。

 お手紙では又、計画の実行についても書かかれています。短期の計画としては、実行できる無理の無い、そして犯罪行動に近づかない計画を立て、それを必ず実行することだと思います。それは頭の中に残っている病気・依存症と闘う上でも大事な事です。(ワークブック:P14/「なぜスケジュールが必要か」参照) そして、人生の目標のような長期の目標の場合には、そこには夢とか希望とかいった短期には実現できない中・長期的要素も含まれると思いますので、例えば、目標をⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ期・・・と時系列の順に細分化し、その道を、夢を忘れずに一歩一歩歩み続けることだと思います。
<「目標への道」:私の体験談> 
 私が18年前にアルコール依存症と診断されて断酒治療を始めた頃、毎日通い始めたクリニックに2人の患者出身の職員がいました。私はそれを見て、「え?! 患者が職員に !! どうして ?? 」と心の中で驚きの声をあげていました。でも時が過ぎるうちに「断酒を継続すれば回復できるし、回復すれば患者だからこそのクリニックの仕事ができるのだ」との理解へと至りました。そして「そういう仕事があるなら、せっかくかかった依存症を無駄にすることはない、いつか、いつの日にか、自分も依存症を逆に生かして、世の為につくせるようになりたいものだ」とそんな思いが芽生え、それが今の仕事への出発点になりました。その思いが実現するまで8年半の道程を辿りましたが、その間、建築現場での日雇い作業や横浜市の失業対策事業などで生活をつなぎながら、断酒会の例会や研修会、或いは学生時代に戻っての独語翻訳(依存症関連)などを同時進行させながら、断酒開始時の「いつか、いつの日にか」の夢を頭の片隅から離しませんでした。その夢があったからこそ、時折りの岐路で誤りのない選択ができ、生涯のライフワークと心に定めた今の仕事にたどり着き、今日まで継続できたのだと思います。

 お手紙の中で、Eさんも、「今までの事を清算する為に保育士になり、子供を守れる役に立つ事をしたいと考えています」と人生の目標を書かれていますが、その目標と、当面の課題を一本の線でつなぎ、その線から外れないように一日一日の一歩一歩を歩み続けて頂ければと思います。

 まだ梅雨が明けていないのに、全国的に30度を越す日が続き、毎日のテレビのニュースでも熱中症の多発が伝えられていますので、お体にはくれぐれも注意してお過ごし下さい。次のお便りを楽しみにしながら今日はこれで失礼します。
                      草々
              
         平成25年6月18日
          大石クリニック相談員 鈴木達也
 

Date: 2013/06/17/23:08:22 No.920