収監者との文通 大石CL鈴木⇔M
<M⇒鈴木>
前略
お手紙ありがとうございます。
さて、前回の「刑務所帰り」の劣等感やネガテイブな考えで自分を追い込みマイナス方向へ自分を追い込みがちになってしまうーまた遅れを取り戻そうと必死になればなるほど周囲とのトラブルを生むようになってしまっている。それをどのように変えていくか相談しました。話を聞いて、自分は自分なんだ、結局は自分の日頃の行いが自分に戻ってくるというか、周囲の人もちゃんと見ていて、その後の自分次第で人生が変わって行くのだと気づきました。
だから、ここから社会復帰した後にまっすぐに生きられるようにする為にもこの中の生活を大切に、大事に過ごさなければならない。ここで生活して来たようにそれをコツコツと当たり前のように積み重ねて継続して行き、恥ずかしくない生き方をしたいと思う。
今の炊場での作業もまた同じ様な感じで、班長になってしまい、皆をまとめミスや事故、ケガなど無いように頑張ろうと皆を鼓舞して作業しているが、時々余裕がなくなり、つい声を大きく荒げてしまうこともある。責任が大きくなり、ミスがないようにと焦ると余計に時間がなくなって遅れたりしてしまう。なかなか難しい。段々と形になって来たけれど、大丈夫かな?と思う日がまだまだ多い。
これらも含み、マイナス思考にならず、焦らず、肩の力を抜いて正確に仕事が出来るようにしたい。今は人生を学ぶ期間だと思い、今のうちに一杯習いたいと思う。そして社会復帰後、確信を持って生活でき、笑って過ごせる自分でいたいと願う。
この冬は日本各地でも大雪が降り大変な様ですね。そちらでも大混乱の日もあったようですが大事はないですか?天候もそうですが、各地でインフルエンザやノロウイルスも多発しています。くれぐれもお体にはご注意下さい。梅の香りが近づいて着ました。春は近いです。では、また書きます。
草々 <鈴木⇒M>
M 様
前略
お手紙ありがとうございます。11日に届きました。
お手紙を拝読し、炊場の班長になられて責任ある立場で一生懸命頑張られている姿が目に浮かぶような思いがしています。やはり、Mさんは本当に頑張り屋さんで努力家なんですね。それはもちろん長所なのですが、以前はそれによって周囲との歯車が噛み合わず、人間関係が必ずしも上手く行かずストレスの原因にもなっていたようですね。Mさんはそれに気づかれて自己改革の努力を続け、周囲とも笑って話せるようになってきたそうで、ぜひ今の努力を続けて欲しいと思います。 でも、「自己改革」というのは、こうして文字に書いたり、口で言うのは実に簡単なのですが、実際にそれを実行するのは大変な努力と時間を要するもので、その困難を克服するには、それに挑戦する意志・年月と共に努力の中身、方法が大事だと思います。そういう自己改革の方法の実行も含めて困難に挑戦して継続しているMさんに改めて敬意を表したいと思います
私もアルコール依存症患者の一人として「飲むのが当たり前な生活」から「飲まないのが当たり前の生活」へと生活習慣を切り替えた経過を振り返って、身に沁みついた習慣を変えるにはその方法を実行することがいかに大切かを痛感しています。
私は、今から19年前に「アルコール依存症」との診断を受け、心身共に健康な人間らしい生活を取り戻す為には断酒するしか方法が無いと宣告されました。 しかし、そうは言われても、昨日までの約5年間毎日一升酒を飲んでいた身で、いきなり断酒と言われても、本当に酒を断ち続けられるのか?全くもって自信はありませんでした。当時の私は断酒の方法を知らないままに、「断酒とは『飲酒を我慢し続ける』事という認識しかなく、それは自分には不可能だと思っていました。なにしろ、三日酒を断つのに鉄の意志が必要だと思っていましたので、「断酒の三日坊主」という言葉に意志の強さを感じていたくらいでした。でも今にして思うには、確かに断酒は鉄の意志やド根性で出来るものではなく、断酒の方法=治療を実行する事で初めて可能になると思うのです。もちろん断酒への意志、頑張りは必要なのですが、それを個人的な我慢に向けると殆どの場合失敗します。そうではなく、断酒の意志を専門病院への通院や自助グループに通う事に向けることで初めて断酒への道が開けてくるわけです。常習飲酒者で個人的な我慢だけで断酒できるのは、まだ依存症にかかっていない人なんだと思います。
以上、長々と自分の話をしましたが、それは自分の生活上の考え方、思考、行動の癖を変えるには、その方法を実行すること、つまり新しい生活パターンを認識し、それを行動化して継続する事が大事だと思うからです。それを認知行動療法と言うのですが、Mさんは既に自主学習ノートで自分の生活パターンを変える努力を積まれて今日までの自己変革を進めて来られたように思います。これも内容的には認知行動療法の実行であり、自己変革の方法の実行だと思いますので、これからも是非続けて欲しいと思います。
横浜も3月に入っても寒い日が続いてきましたが、ここに来てようやく昼間の日差しに春の暖か味を感じるようになってきました。今年の冬は横浜でも2度積雪があり、お手紙でもご心配を頂きましたが、交通網が多少乱れた程度で被害と言う程の被害もなく、どうやら待望の春を迎えられそうなのでご安心下さい。でも健康に関しては油断禁物なので、お互い体には重々気をつけて暮らしたいですね。それでは次のお手紙を楽しみにしながら今日はこれにて失礼します。
草々
平成26年3月13日 大石クリニック相談員 鈴木達也
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