収監者との文通 Eさんからの手紙

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収監者との文通

Eさんからの手紙
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及び 当掲示板No.555~Eさんとの文通 参照

大石クリニック相談員 鈴木達也様
前略
 お元気でお過ごしでしょうか。
同封されていたワークブックのコピーを拝見させて頂きまさいた。ありがとうございました。印象としましては,難しそうだなと思いました。でもその一方では,これをやらなければ又犯罪を繰り返してしまうだろうなと思いました。まだ何もしていませんが,年末年始の休み中にやってみたいと思います。
 退屈が心の漂流を生み,本人はそれに全く気付かず,指摘されても認めずに過ごすと問題行動をしてしまう事が分かりました。思い返すと私にも当てはまり,友人に指摘された時に止めておけば,今このような状態になってなかったなと後悔,反省しています。

 今回は,「自信と油断」について書こうと思います。私は何をするにも自信が持てず,「自分には絶対無理,できない」と逃げ,正面からぶつかろうという意志がありませんでした。なぜそうなってしまったのか考えると,小さい頃から少しその気がありましたが,恐らくは仕事場が原因だと思います。
 少年院を出院後,約2年ほど昼夜逆転の生活をしていて家でゴロゴロしていた時,親戚がやっている車の板金の仕事を手伝う事になりました。それからは,「危ない所に近づかなければ」,「誰かと一緒に居れば」,「何もしなければ」大丈夫だろうと思い,犯罪を考えなくなりました。仕事に対しては,はっきり言って好きではなかったし,やる気もありませんでしたし,覚える気もありませんでしたが,お金のために怒られても我慢していました。毎日怒られ,褒められた事はありませんでした。それが10年も続き,自信を持てなくなり,何もやる気が起きず,何をやるにも二の足を踏むようになりました。
 こんな私が,なぜ事件に対してだけは自信を持って行ってしまったのかと言えば,多分「ほめて欲しい」,「認めて欲しい」と思っていたからかも知れません。撮影した写真や動画を友人に見せた時に「すげェー」,「よくやったなー」と褒められたからだと思います。「やれそうだな」と思うと,人の目や防犯カメラの位置など十分に注意して友人と協力して行ったり,私一人で行ったり,友人が一人で行ったりしました。(友人は私を喜ばせよう思ってやっていたと思います)また,絶対にできると直感した時に犯行をしていました。その成功が変な自信になって行きました。またその反面では危機感と共に感覚が麻痺して行きました。そして,いつもと違う空気を敏感に感じ取れず,注意を怠り,いつも通りにやれば大丈夫と油断してしまった為,このような結果になってしまったのだと思います。
 私が思うところ,自信と油断というのは,油断は慣れて来た時に生ずるもので,自信は良い結果を得られた時に生ずるもの。つまり,油断が先に生まれ,そこでミスをしてしまうか,乗り切って自信に繋げられるかだと思います。私の場合,油断していなくても結果が普通より少し下になってしまい,全く自信をつける事が出来ません。私は精一杯頑張ってその結果なのです。周りと比べると手を抜いているのではないか誤解を与えてしまうのです。そこで批判され自信をなくす原因となってしまいます。私はそれが怖いので途中で諦めるようになりました。誰かに「お前は病気だ」と言われても症状が出ていませんから自覚をしていませんでしたし,病気だから触ってしまう仕方ないと諦めた上に正当化していました。諦めるなと言われますが,一度諦めてしまうとなかなか前のようになりません。好きな事なら短時間で何とかなると思います。でも直ぐには無理でした。ここで何か一つでも自信になるようなものを身につけたいと思います。

 長々と関係ない事まで書いてしまい申し訳ありませんでした。年末で忙しいことと思います。体調には十分お気をつけください。少し早いですが,良いお年をお迎え下さい。来年もよろしくお願いします。

         2012年12月16日  E
↓返書 

Date: 2012/12/29/16:06:58 No.847

Re:収監者との文通

Eさんへの返書
E様
前略
  12月16日付のお手紙、25日に受け取りました。有り難うございます。
ワークブックが難しそうに感じたとのことですが、何にしても初めて目にする物というのは難しそうに見えるものです。何度か目を通すうちに少しずつ慣れて理解し易くなるでしょう。かくいう私自身、今仕事上で必要な役所の申請書類に目を通しているのですが、見慣れない言葉の行列で「ウーン・・・???」てな感じなのですが、まぁ役所に行って職員に聞きながら申請書を書けば何とかなるだろうと気楽に考えています。ですから、ワークブックも気楽に目を通しながら、分からない所があったら遠慮なく手紙で質問して下さい。

 さて、今回のお手紙のテーマは「自信と油断」についてでした。お手紙の中で、油断は「慣れて来た時に生じるもの」、自信は「良い結果がが得られた時に生じるもの」と書かれています。私も確かにそうだと思います。ただ、それに付加して考えると、慣れの土台に傲慢があると油断になり、成功の土台に謙虚があって自信につながるのだと思います。慣れるのは良いのですが、そこから自己過信が生まれ、「よし、もう大丈夫、俺は何でもできる!!」という自分への過信が生じると油断になります。又、成功しても、その理由を冷静に見つめ「この成功は色々な人々の協力で得られたのだ」と謙虚に考え、成功の方法を確信する時に自信が生じるのだと思います。自信と油断は表面的にはよく似ているので、慣れたり、成功した時の自分の思いが「自信」なのか、「油断」なのかよく見きわめたいものです。特に、依存症からの回復の道で「自信」と「油断」の混同が起こりがちなので、今から注意して行きたいですね。{良い結果+謙虚=自信}の積み重ねで自分への自信を深めていければ良いですね。
 小中学校時代の、いじめられ体験や、仕事での継続的な怒られ体験の心の反動として、「認められたい」、「ほめられたい」との思いが強くなったようですね。その思いそのものは人間の自然な思いで、特に否定されるべきものではないと思うのですが、その為の行動の中身が事件・犯罪だったところに問題がありましたね。これからは、依存症からの回復や、Eさんが持っている数々の趣味(カラオケ、音楽鑑賞、DVD,ボーリング、買い物、カードゲーム・・等々)を建設的な方向で生かす事で自信を深めて、これまでの劣等感を卒業して頂ければ良いなと思います。
 Eさん自身お手紙での中で「ここで、何か一つでも自信になるようなものを身につけたい」と書かれていますが、刑務所という所は日常生活に様々な制限がある場所だと思うのですが、それだけに、外の世界のような色々な誘惑も少なく、その分一つの事に集中できる場所でもあり、何か一つの事を身につける為の一つのチャンスであるとも思います。以前、やはり大石とのこの文通を続けていたある受刑者の方が刑期中に簿記3級、2級の資格を取る目標を立てて、独習を続けて、先ずは3級に合格し、更に仮釈直前に2級を取って、見事に目標を達成して出所し、今は簿記1級に挑戦すると言っています。受刑生活の不自由さをプラス思考で考えて、何かに集中できれば、社会復帰に向けて中身と意味のある受刑生活を送れることでしょう。目標と希望を持った努力には楽しさがあります。Eさんも、そんな楽しい努力を続けられる何かを見つけて、残り1年半の刑期を歩んで頂ければ良いなと思います。

今年も、今日(12/29)を含めて、あと3日を残すのみとなりました。この手紙がお手元に届く頃はもう新年を迎えているとは思いますが、とりあえず今日の時点で、新しい年が健康で、明るい年となるように、どうぞ良い年をお迎え下さい。今日はこの辺で失礼します。
             
                       草々
             平成24年12月29日
              大石クリニック相談員 鈴木達也 

Date: 2012/12/29/16:30:04 No.848