収監者との文通

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Eさんからの手紙

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及び 当掲示板No.555~Eさんとの文通 参照

大石クリニック 鈴木達也様
 
お手紙ありがとうございます。前回の質問の答えとテーマの提起について感謝いたします。禁断症状につきましては、悶悶、イライタ、虚無を繰り返しています。
 
今回は、「迷惑をかけた人達」について書きたいと思います。一番迷惑をかけたのは家族だと思います。本当に申し訳ないと思っています。今、父は一人で高齢の祖母の世話をしています。祖母は以前から認知症の疑いがあり、私が捕まってからは更に酷い状態になったと聞いています。昼間は肉体労働、家では祖母の世話と、精神も肉体もかなり疲れているのではないかと心配です。私には兄弟が○人いますが、皆家を出て遠くに住んでいるので、すぐに家に戻る事は出来ません。私が戻れば良いのですが、被害者の家が近く、近所の方の目もあるので帰りづらいのです。私の地元は車が無いと生活し難い場所ですが、金銭的な余裕がありません。お金が無いから車が無い、車が無いと仕事が無い、仕事が無いとお金が入らないの悪循環になってしまいます。そこで、私は東京に行き、初めはアルバイトでも良いので好きなアニメやゲーム店で働きたいと思っていますが、働き口はあるのか、雇ってもらえるのか、希望通りに行かなかったら長期間働けるのか等、不安はたくさんあります。もし就職できたら、恩返しになるか分からないけれど給料から少しでも仕送りして行きたいと考えています。
 次は、被害者とその御家族です。被害者が心に受けた傷は一生治らないものと考えると申し訳なく思いますし、御家族の感じた怒りや悲しみ、呆れている事を考えると、謝罪の言葉しか浮かんで来ません。本当に申し訳なく思います。
次は、友人、知人です。今回の事件で、皆色々と感じた事はあると思いますが、私と関わりを切ってしまう人が当然何人もいると思います。よく遊んだ人、お世話になり放しの人に直接会って謝罪したいです。その後の関係はその人に任せようと思います。私は以前のように付き合って行きたいと思っています。
 今回起こした事件で、初めは私一人の問題と考えていましたが、たくさんの人に迷惑かけたのだと今は自覚しています。これ以上迷惑をかけて悲しい思いをさせないために反省し、同じ過ちを繰り返さないようにしたいです。
 季節の変わり目で、日中は残暑が厳しく、朝晩は少しずつ涼しくなりましたので体調に気をつけてお過ごし下さい。
                9月9日   E
↓返書 

Date: 2012/09/22/15:26:17 No.825

Re:収監者との文通

Eさんへの返書

E様
前略
 9月9日付のお便り拝読しました。有り難うございます。このところ全国各地からの便りが相次ぎ、返事が少々遅れた事をお詫びします。
 
 さて、今回のお手紙では 「迷惑をかけた人達」について書かれていますが、お父様や被害者、友人への今の思いを大切にして下さい。その思いから自然に家への仕送りや、被害者への謝罪の気持ちが生まれているのだと思います。そして、そうであればあるほど、再犯防止と社会復帰への思いが強くなるし、その思いが事件の原因となった性依存症の治療への強い動機に繋がることでしょう。
 私自身も、アルコール依存症の治療を始め、断酒生活に入り素面(しらふ)の頭に戻った時、失業と酒浸り生活で別れた妻にどれ程不安で辛い思いをさせたか、実家での居候暮らしで父亡き直後の母を、経済的・精神的にどれ程苦しませているかを日々の生活の中で痛感せざるを得ませんでした。そして、その思いがアルコール治療の継続=断酒の継続による就業・経済的自立への強い動機に繋がったのだと思います。そういういう自分を可能としたのは、日々の通院(デイケア通院:朝から夕までの一日単位の集団治療)と夜の自助グループ通いだったと思います。そこには、もはや、昨日までの飲み暮らしていた自分の出る幕がありませんでした。「人間は環境の動物」とか、「朱に交われば赤くなるとか」言いますが、確かにそうだと思います。
 ひるがえって、今のEさんの生活を思うと、やはり性犯罪を犯す自分が出る幕が無い受刑生活を送りながら、Eさん本来の理性を取り戻して今の心境に至っているのだと思います。私が断酒で素面(しらふ)を取り戻したようにです。お手紙の最後で、事件は自分一人の問題だと以前は思っていたけど、今は沢山の人に迷惑をかけたと自覚していると書かれていますが、この気づきも今の生活の中で得られたものだと思います。この思いも大事にして下さいね。
 ただ、依存症は「忘れる病気」とも言われています。苦しかった時の事や、その時に気づいた事を、「ノド元過ぎれば」忘れてしまう事が多いんですよね。それを防止する最良の方法が治療中の同病の仲間とのミーテイング(体験談の交流)なのですが、現状ではそれが出来ませんので、まずはこの文通を続けて頂ければ良いかと思います。 出所後の就職について、色々とご心配のようですが、それは階段に例えれば、10段目から上の事と心得て良いと思います。上の段の事が不安、ストレスになって今の段を踏み違えて怪我でもしたら元も子もなくなりますから、今は、今日できる事、必要な事に集中しましょう。仕事の事は、この先の2年、更正と社会復帰への道を歩んでから考えても遅くないと思います。それでも不安なら、今できる事として仕事に繋がる何かの資格を取る勉強なり、職業訓練なりを始めて、それに集中するのも良いかと思います。

 「暑さ、寒さも彼岸まで」と昔から言われている通り、秋分の日を迎えた今日(9/22)、横浜の気温は昨日に比べてグーンと下がりました。いよいよ爽やかな秋空、秋風の季節を迎え、ちょっとホッとしていますが、季節の変わり目ですので、お身体をくれぐれもご自愛ください。
                  草々     平成24年9月23日
     大石クリニック相談員 鈴木達也