Eさんからの手紙

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Eさんからの手紙

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及び 当掲示板No.555~Eさんとの文通 参照

大石クリニック相談員 鈴木達也様
前略
 お忙しい中のお手紙、ありがとうございます。私は物事を忘れ易いのですが、今の思いを忘れずに生活して行こうと思います。
 今回は、治療のきっかけについて書こうと思います。きっかけは、やはり事件を起こし、これは病気なのではないかと感じ、このままだと又家族に迷惑をかけるのではと思い、この機会を活かし治療できるのならしたいと思ったわけです。もし捕まらず社会で生活していたなら、恐らく多くの被害者が出ていたかも知れません。心に大きな傷を負いながら生きていく被害者をよそに治療をしなかったら、今回の被害者のご家族の、「しっかり反省し、罪を償って来て欲しい」との期待を裏切ってしまうのではないかと思います。その期待に応える為に、ちゃんと治療して行きたいと思います。
 私も初めは依存症ではない。絶対に病気ではないと否定していて、治療の必要性を感じていませんでしたし、近くに治療できる病院も知らなかったので何もせずに過ごしていました。性癖だから仕方ない、これはどうしようもないと諦めていました。
 でも、治さなければいけないと決意したこの時に治療せず、後回しにしていたら結局何もしないで終わってしまうと思います。今後の人生を刑務所に入ったり・出たりの繰り返しにしてしまうと考えると嫌になります。そんな人生になれば家族に見放されてしまい、辛く悲しい人生になってしまうと思うので、何としても治したいと思います。
 依存症とは、一生付き合って行かなければならない病気で、時間がかかるため、根気強く治療を続けて行かなければならないので、不安になりますが、必ず治ると信じて取り組んで行こうと思います。 
 最近、朝晩の空気が肌寒くなって来たので、体調に気を付けて下さい。                                       草々             平成24年10月13日  E
↓返書 

Date: 2012/10/19/19:46:37 No.832

Re:収監者との文通

Eさんへの返書

E様
前略
 10月13日付のお手紙拝読しました。いつも有り難うございます。
 今回は「治療のきっかけ」について書かれていますが、まずは、ご自分の病気・性依存症に気づかれ、治療を決意されたことは今後の人生に向けての大きな一歩になることでしょう。依存症に気づかずに未治療のまま放置するなら、その症状としての事件を繰り返し、被害者を増やし、家族を悲しませ、そして自分自身の傷を深め続けるだけになります。それとは逆に、病気に気づき、治療を始めて、それを諦めずに継続する限り必ず回復できるのも依存症という病気です。
 お手紙の最後で「依存症とは、一生付き合って行かなければならない病気で・・・でも必ず治ると信じて取り組んで行こうと思います」と書かれており、この病気を正しく認識されているなと感心しながら、今後とも文通でお付き合いさせて頂く私の立場からも大変嬉しく、又、心強く思いました。

 お手紙を読ませてもらいながら、私自身が依存症治療を始めた頃を思い出しています。Eさんとは性依存と酒依存の違いはあっても、家族に迷惑をかけ、苦しめたという点では、やはり依存症患者として共通しているなと思いました。
 私も、酒が原因で失業し、健康を損ない、妻と別れ、最後にはホームレス(1週間)まで体験し、社会的な孤立を余儀なくされて、ようやく自分の病気に気づき、それが治療の切っ掛けになりました。その過程で、生活力を失いながら依存症治療を拒否しつづけた私に絶望した妻から別居を宣告され、父が他界した直後の実家での居候生活を余儀なくされて、妻の次に母に経済・精神両面での多大な迷惑をかけました。Eさんが、今回の事件を起こし、その結果から治療への決意に至ったように、私の場合も、依存症という病気の結果が治療の切っ掛けになったのだと思います。
 治療に繋がってから、アルコール依存症は酒地獄の末に死に至る病気(平均死亡年齢=52歳)と知り、背筋がゾーッ!としたのを昨日の事の様に覚えています。そこが性依存と多少異なるかなとは思いますが、性依存症・性犯罪も社会的生命を失い、孤独な人生を余儀なくされるという面ではやはりアルコール依存と共通していると思います。
 命拾いをした思いで、昼間は専門病院で、夜は自助グループで多くの断酒仲間と触れ合い、壮絶と言っても過言でない酒にまつわる体験談を耳にしながら「あぁ!! この人もそうだったのか、俺だけではなかったんだ!!」と共感し、仲間と共通の体験をしている自分もやはりアルコール依存症なのだという確信を深めました。そして又、もう何年も断酒を継続して職につき、経済的に自立している仲間を目の当たりにして、今は実家の母の下で居候暮らしをしている俺だって、断酒を続ければ、いつかは居候生活を卒業して母に恩返しできる日が必ず来るという希望と勇気を持つことができました。その「いつか」がやって来たのは、断酒生活1年半の時でした。
 回復への歩みは、酒・薬物・ギャンブル・性・・・各種依存症の治療現場で無数に見ることが出来ます。私は今、仕事の一環で、パソコンで大石の患者さんへの表彰状を書いています。「断酒1年」、「断薬3年」、「性依存症回復~復職」・・・といった内容での院長名の表彰状に私からの、祝・メッセージを付記した表彰状です。そのメッセージを書く為に表彰者のカルテに目を通すのですが、その度に、「継続は力なり」・「依存症は治療を継続する限り必ず回復できる病気」との確信を強め・深めています。
 ですから、Eさんもお手紙に書かれていた「・・必ず治ると信じて取り組んで行こうと思います」との今の思いを忘れずに、せっかく掴んだ治療の切っ掛けを手放すことな、まずはこの文通を継続されるよう期待しています。

 10月も半ばを過ぎ、いよいよ秋本番の感がしています。つい最近までの厳しかった残暑から急激に気温が下がっていますので体調には重々気をつけてお過ごし下さい。次回のお便りを楽しみに、今日はこの辺で失礼します。

                      草々
        平成24年10月20日
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2012/10/19/20:09:35 No.833