Eさんからの手紙

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Eさんからの手紙

大石クリニック相談員 鈴木達也様
拝啓
 手紙の返信ありがとうございました。また、この度の返信が遅れてしまい申訳ありませんでした。
 私は5月15日、○○刑務所から○○県の○○刑務所に移送されました。鈴木さんが手紙を出しても私が居ない所に届くというのは心苦しく思い今まで手紙を出せずにおりましたが、もう移送は無いと思われますので何卒よろしくお願い致します。
 まず、ネット公開についてですが、私と同じ病気で苦しんでいる人も少なからず居ると思います。その人たちが自分だけではないんだと思って病気を自覚し、勇気をもって治療に前向きになってもらいたい。私と同じ道を辿らない、辿らせない、辿ってほしくないとの思いからネットに公開する事を了承致します。

 私の病気について。「性嗜好障害」が疑われるとの事ですが、私は子供と遊ぶのが好きなのですが、関係があるのでしょうか。子供と遊んでいると元気をもらったり、悩み事や心配事がどうでもよくなって、心が穏やかになるのです。遊んでいるうちに段々と触ってみたいと、性衝動を抑える事が出来なくなり、人目につかない所でイタズラをしてしまうのです。その様子をケイタイで写真や動画に撮り、後で見たり、妄想の中で色々と考え楽しんでいました。今でもたまに頭に浮かんで来ますが、なるべく考えないようにしています。
 まず、治療の第一歩として何をすれば良いのでしょうか?具体的に教えて頂けると嬉しいです。今は社会から隔離されているから大丈夫ですが、社会に戻ったら、子供が集まりそうな場所近づかないようにすることぐらいしか思いつきません。それだけでは不十分だし、根本的な解決につながらないと思っています。社会に戻るのはまだ先ですので、それまでに完治とは行かなくても、それに近い状態まで持って行き、社会復帰後は可能なら通院して完治を目指したいと思います。
 今のところ不安や疑問はありませんが、治療を進めて行く上でそれを感じたら質問させて頂きます。
 私自身ここで自己改善に一生懸命努力して行きます。これから長いお付き合いになると思いますが、末永くよろしくお願い致します。
敬具
       平成24年5月20日  E

Date: 2012/05/30/14:53:24 No.752

Re:収監者との文通

Eさんへの返書

E様
前略
 こんにちは。大石クリニックの鈴木です。5月20日付のお便り拝読しました。有難うございます。
 また、文通のネット公開にもご理解頂いて、公開をご了承頂き嬉しく思います。早速、初回のお手紙からこの返書までをまとめて大石のネット掲示板「あおいくまの部屋」に掲載して公開させて頂きました。それをコピーして同封しますので、どうぞご覧下さい。 自分で書いた手紙でも、誰がどんな思いで読んでいるだろうか?との思いで読むと、また違った味わいがあるでしょうし、自分の過去を客観的に見つめ直すこともできるでしょう。

 お手紙の中で、「まず、治療の第一歩として何をすれば良いのでしょうか?」とお尋ねですが、その答えはEさんご自身が既にお手紙の中で出されているように思います。お手紙でこう書かれています。
<Eさんの手紙より>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・まず、ネット公開についてですが、私と同じ病気で苦しんでいる人も少なからず居ると思います。その人たちが自分だけではないんだと思って病気を自覚し、勇気をもって治療に前向きになってもらいたい。私と同じ道を辿らない、辿らせない、辿ってほしくないとの思いからネットに公開する事を了承致します」
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 Eさんのこの文面を読んで、私ちょっと驚きました。何故って、依存症治療の原理そのものを書かれているからです。もう、私がくどくどと治療法を説明する必要がないと思ったくらいです。この文面は依存症治療の主要な柱そのものを語っていると言って良いでしょう。
 依存症地獄から這い上がりたいとの切実な思いを抱いた人々がミーテイング会場に集い、それぞれの依存症体験を語りあうことで、それぞれが自分だけではなかったんだと実感しつつ、自分の病気を自覚でき、それが治療の土台となります。そして、ミーテイング会場にできる仲間の絆が、いつか来た道を辿らない為の命綱となります。ですから、Eさんも出所後は先ず、このミーテイングに参加して欲しいと思います。そして、出所まではミーテイングに参加できませんので、当面はこの文通を続けて頂ければと思います。
 
<文通に向けて簡単に自己紹介させて頂きます>
現在大石クリニックの相談員として文通を担当している私も元はと言えば、アルコール依存症患者です。つまり私の今の仕事は、自分自身の依存症体験(その進行、底つき、回復の実体験)を基に患者さんと触れ合いながら患者さん達に回復への希望をもってもらうというもので、正式職種名をピアカウンセラーと言います。9年間の治療・断酒の後に大石の相談員となり今年で8年になります。そして4年前から収監者の方との文通を担当しております。従って、Eさんとも依存症仲間という関係になり、文通ミーテイングも可能だと思います。性依存と酒依存で、依存の対象に相違はありますが、依存症という意味では兄弟みたいな関係にあり、基本的には共通している面も多々あるのでお互いに共感できる事も多いと思います。
 話を元に戻し、「まず、治療の第一歩は?」というお尋ねに、「まずは、この文通ミーテイングを始めて、継続しましょう」とお答えさせて頂きたいと思います。

 お手紙の中で、完治を目指したいと書かれていますが、依存症という病気は基本的には、生涯を通して完治を目指す病気と言えるでしょう。完治を目指す治療行動の中で症状を封じて回復し続ける病気とも言えると思います。その途上で、回復の喜びを味わえる病気です。しかし、主観的に完治したと思って油断すると再発の落とし穴が待っている病気でもあります。分かり易く言えば、生涯のインシュリン注射を必要とする種類の糖尿病患者が注射を続けて健康を維持し続けるのに一脈通じるところがあるのかなと思います。
 性依存―性犯罪の場合には国家権力(警察・刑務所等)による強制的な抑止力が働くので、治療継続のモチベーション(動機)を持ち続け易いという側面があるようです。その一方で、酒依存(アル中)の場合はいくら酒を飲んでも警察は逮捕してくれないんですよね(酒に加えての犯罪行動があれば別ですが)。私が17年前までの5年間にわたり毎日毎日一日も欠かさず一升酒を飲み続けてしまった原因の一つはそこにあったのかも知れません。その点ではEさんには治療のし易さがあるかなとも思います。その意味で、この先約2年の受刑生活を大切にして、それを二度と塀の中に戻らない為の心の糧として頂ければと思います。

 話が長くなりました。今日はこの辺で失礼します。これから梅雨の季節に向かい段々むし暑くなって行きます。くれぐれも御体をお大事にお過ごし下さい。
                                              草々
         平成24年5月31日
          大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2012/05/30/14:57:57 No.753