収監者との文通 Aさんからの手紙

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収監者との文通

Aさんからの手紙

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及び 当掲示板No.555~Aさんとの文通 参照 
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前略
 鈴木さん、お手紙4月10日に届きました。いつも本当に有り難うございます。
怒りについての解説、有り難うございます。まだまだ理解不足で、パンフレットの[「怒り」を活かす作戦を準備する !]のページに書き込む事はできませんが、これからも考え続けて行こうと思います。どうも一人では難しく考えてしまうのか?理解に苦しむ所も多々あります。グループミーテイングなどで他の人の意見、話などが聞けたら「あぁ、そうか」と思えるかも知れないですね。今日もパンフレットを読んで、思った事を書いていますが、難しいです。((笑))

 まず、コアプログラム(1)「ギャンブルサイクル分析の流れ」で書き込む欄がありますが、、<日常の出来事>に何を書いたら良いか分かりません。
 まず<ギャンブル>には、バカラ 
 <した結果>良いところ=お金が増え、楽しめ、ストレス発散  
          悪いところ=お金が無くなり、イライラし、ストレスが溜まった
 <ギャンブルをしたくなる時の気持ち>
          楽しみたい、カードを捲りたい、お金を増やしたい。
 <日常の出来事> ?
 <ギャンブルのきっかけ(直前の状況)>
         早く行きたくてソワソワする とこんな感じです。

 コアプログラム(2)では、「なぜギャンブルを止めようと思ったのか、その理由を考えてみましょう」とあるので、私の場合は、お金が無くなると窃盗をしてしまうので、バカラを止めようと思いました。次ページの「病的賭博回復計画は刑務所に居る為ギャンブルは出来ないのであまり考えていません。

 プログラム① 私のトリガーも、人、物など何を書いて良いのか分かりません。パチンコ店などとは異なりバカラの店には看板などありませんし、「物」を見てトリガーになったとは今まで思ったことはありません。
 本当に毎日バカラに通っていたので、何がトリガーだったのか?よく分かりません。何も考えずにバカラに行っていたのです。そこには楽しみたい、お金を増やしたいという想いはあったと思います。なのでプログラム②「気持ちのはたらき」の欄にも何を書いていいのか分かりません。プログラム③「人とのつながりを工夫」というのも難しいです。バカラに行くのは常に一人だったし、たまに友達と行っても、誘うのは自分からだったので、課題となる人付き合いのような会話をした事はありませんでしたが、誘われた時の断り方などは考えて行こうと思います。プログラム④自動思考のあなたを誘惑する一言の欄にも何を書いて良いのか、さっぱりです。プログラム⑤アンガーコントロールの欄にも何を書いて良いのやら・・・。プログラ⑥問題解決ワークシートにも何を書いて良いのか? プログラム⑦・⑧にも何を書けば良いのかさっぱりです。 プログラム⑨の「「生活に楽しみ」というのは幾つか思い浮かびます。
 このように、何を書いて良いのか、また、どういう事だろうと考えてしまうのです。もし出来るようなら、このパンフレットの書き込み欄全てに 例)として書き込んで送って欲しいです。ちょっと一人では、どう考えれば良いのか分からず、かなり困っています。数少ない思い浮かぶ欄には書き込んでいます。
 前にも書きましたが、毎月2回は仕事(作業)が無い日があり、その日は舎房で本を読むか勉強をしないといけないので、この2回は必ずパンフレットを読み続け、思い浮かぶ所には書き込んで行きます。これからも宜しくお願いします。

 鈴木さんも柔軟を続けているようで、私の方も負けないよう筋トレなどして行きたいと思います。最近、平日の運動がグラウンドになり、ソフトボールが出来るので、そちらに参加してしまい、なかなか筋トレが出来ていないのですが、休日の15分の運動時間には実施して行きます。「継続は力なり」です。

 寒いと感じる日はあまり無いと思いますが、体調を崩さない様にお身体をご自愛下さい。また手紙を書きます。失礼します。                                       草々
            平成25年4月26日 A
 

Date: 2013/05/10/22:14:06 No.904

Re:収監者との文通

Aさんへの返書

前略 
 お手紙、連休明けの5月7日に届きました。いつも有り難うございます。
パンフレットの学習がかなり難航しているようですね。お手紙の中で「本当に毎日バカラに通っていたので、何がトリガー(引き金)だったのかよく分かりません。何も考えずにバカラに行っていたのです」と書かれていますが、この「何がトリガーだったのか分からない」との思いは私にもよく分かります。ギャンブル依存症と兄弟のような関係にあるアルコール依存症で酒を止められなかった私も、断酒を始めた最初の頃「どうして、そうなるまで飲んだのだ?」と聴かれても、「アル中だから」としか答えようがありませんでした。何せ、朝目が覚めるや否や、何かを考えたり、思ったりする前にもう自転車に跨って酒の自販機に走っていたわけですから、「なぜ飲んだ?」と聞かれても「アル中だから」としか答えようがなかったわけです。ですから、Aさんがパンフレットの「あなたにとってのトリガーは?」との問いかけにどう答え、どう書き込んだら良いのか分からないとの思いはよく理解できます。やはりお互いに依存症なんですね。バカラと酒で依存の対象は異なっても依存症の根っこの所は共通しているのだと思います。
 しかし、仲間の輪の中で依存症治療を続け、断酒を継続して来た今よく分かる事、それは、朝起きるなり何も考えずに飲んでいたように思えても、実は「何も考えずに飲む」行動の根底には、やはり酒に対する客観的には喜劇のように思える認知(考え方)の癖・歪みが無意識の内に頑強に根を張っていたという事です。そして断酒継続の為には、その根っこにメスを入れ認知の歪みを修正し、それを24時間の生活・行動に活かさねばならないという事です。
  例えば、酒で仕事も出来なくなるほどに身体が弱っていたにもかかわらず、頭の中では「酒は百薬の長」との旧態依然の思いが根を張り続けていたのです。又、アル中飲酒が原因で職場で孤立し、失業したにもかかわらず、頭の中では「酒は人間関係の潤滑油」との旧態依然の思いが根を張り続けていたのです。この自分の現実とは正反対の認知の歪みを自覚し、現実と合致する認知に修正し、それを土台に生活パターンと行動を変え、それを継続する事で断酒継続と回復への道が開けるのだと思います。「酒は百薬の長」、「酒は人間関係の潤滑油」という自分にとっては誤った認知の歪みを「酒は万病の素/断酒こそ百薬の長」、「酒は人間関係の爆薬/断酒こそ人間関係の潤滑油」という自分の現実に合致した認知に修正し、だからこそ日々の断酒治療という行動を続ける必要があったわけです。
 Aさんの場合も、何も考えずにバカラに行っていたように思えても、その行動の根底には、例えばこんな思いと行動パターンがありませんでしたか? 金の問題はバカラで何とかなるという思いと、その思いに基づく行動がありませんでしたか?バカラで負けて窃盗に走った結果、何度も刑務所に行っているという現実に矛盾したそういう認知の癖・歪みがありませんでしたか?そういう認知の癖・歪みを修正し、それにより行動を改善する為のカウンセリング法を「認知行動療法」と言い、今回のパンフレットもこの療法理論に基づいて編集されておりますので、その学習が出所後の再犯防止と更生への出発点となることでしょう。
 但し、このパンフレットは刑務所内での独習教材としては確かに難しい面があると思います。私も単純にギャンブル依存用だからとの思いでこのパンフレットを送ったのですが、記述や構成の面で独習教材としては少々難しい所があるかなと思いますので、別のワークブックを同封して差し入れしたいと思います。
こちらも大石の教育ミーテイングで使用されている認知行動療法理論に基ずくワークブックなのですが、内容は性依存症用の編集となっています。しかし、「性的問題行動」の記述を「ギャンブル(バカラ)」と読み替えればそのままギャンブル依存症用の教材として使用できますし、又、前回のパンフレットより読み易いと思います。また、性の教育ミーテイングには私も以前に2年ほど書記を担当して参加し、そこで講師(大学の心理学の先生)の講義や患者さん達の声も聴いておりますので、こちらのワークブックの方がAさんとの文通でも説明し易いと思います。そんな事情で、もう一度最初から仕切り直しとなるようで申し訳ありませんが、今後は今回同封するワークブックを文通のまな板に乗せて行きたいと思います。
 そこで先ず、ワークブック[上]の「はじめに」ですが、ここでは認知行動療法に基づくこのワークブックを学習する意義が書かれておりますので、「性」を「ギャンブル」と翻訳してお読みの上、このワークブックでの学習への動機づけと言うか、意欲をもって頂ければと思います。次に、「セッション1」の(1)で「グループのルール」について述べられていますが、特に大事なのは、P5の4と5、及び、P6の4です。このルールにより、仲間との心を割った触れ合いが出来、それが回復への不可欠な要素となりますので、出所後のミーテイング参加に向けて心に銘記しておいて頂きたいと思います。
 (2)では「回復のためのチェックリスト」が掲載されていますので、文面をお読みの上、P7の14項目の□にチェックを入れて、同じくP7の下段4行を心に刻み込んで下さい。
 最後に(、3)は「性依存への理解」と題されていますが、ここも「ギャンブル依存の理解」と読み替え、「痴漢行為」は「バカラ行き」と翻訳して目を通して下さい。ここでは依存症のメカニズムを心理学的、神経生理学的に解明しておりますので、この病気からの解放の為にはやはり専門治療が不可欠な事を深くご理解頂けると思います。
 以上ですが先ずは、「はじめに」と「セッション1」に集中し、次のお手紙で感想なり、疑問点なりをお寄せ下さい。急ぐ必要はありませんので、ワンセッションずつ、手紙のキャッチボールのような形で進めて行きたいと思います。

 文面がだいぶ長くなってしまいました。柔軟、その他についても書きたかったのですが、それは次回に譲りたいと思います。ただ、一つだけ教えて下さい。最近、腹部が凸気味で今履いているズボンもウエストがはち切れそうです。柔軟でメタボ退治が出来るでしょうか?その他良い方法があったら教えて下さい。
 という事で、今日はこの辺でSTOPにしたいと思います。季節は初夏から梅雨へと向かい不快指数も上昇カーブを描いて行くと思いますが、それに負けないよう御身体をご自愛下さい。
                       草々
        平成25年5月11日
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/05/10/23:10:21 No.905