収監者との文通 Dさんからの手紙

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収監者との文通

Dさんからの手紙

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           662 663 参照
前略
 大石先生、鈴木様、スタッフの皆様、こんにちは。6月23日刑が確定し、現在刑務作業に対し真面目に取り組み、規則正しい生活を送り、感謝の気持ちを忘れず、社会復帰に向けて頑張って生活しております。
 懲役の服に着替えた時、また同じ過ちを犯してしまったんだと、また沢山の人を裏切り辛い思いをさせてしまったんだと、本当に自分のしてしまった事に対し後悔の思いでいっぱいになりました。もう2度とこの服は着たくありません。今までは刑務所を出る事ばかり考え、一日一日をただ漠然と過ごしておりましたが、今から社会復帰に向けての生活が始まっている事を忘れず、大石クリニックと文通を続けさせて頂き、今私が社会復帰に向けて出来る事を精一杯していきたいと思います。今の生活が大切である事を忘れず、今やるべき事をしっかりやって行きたいと思います。
 鈴木さん、6月21日付のお手紙有難うございます。早速拝読させて頂きました。お手紙の中で、性犯罪によりこれから裁判を迎えるCさんの手紙が書かれていましたが、その文面を拝読させて頂いて、本当に今の私の心境をそのまま鏡に映したような文面で、これから裁判を迎えるCさんの心境や父親に対しての思いや、被害者の方に対しての思いなど、共感する事に対し暫く色々と考えてしまいました。私は今まで自分の病気について人に真剣に相談した事はありませんでした。相談したら相手にされず、馬鹿にされるのではないかと思い、相談する事が出来ませんでした。でも、6月21日付のお手紙で紹介して頂いたCさんや、6月3日付のお手紙で「大石を知らず、病気に気がつかなかったら出所後やはり同じ過ちを繰り返すだろう」と述べ治療への決意を語った方(Bさん)ともし巡り会う事が出来、自分の悩みや不安を伝える事が出来たら、社会復帰に近付く事が出来るかも知れないと思います。今、本当に自分が変わる事が出来るのではないかと、社会復帰に向けて強い気持ちと希望を抱く事が出来、日々生活をさせて頂いております。人は人に支えられ、助けられて生きている事、仲間の存在を忘れずに頑張って生きていきたいと思います。
 依存症の事でお伺いしたい事があります「依存症のすべてが分かる本」に依存症の始まりはさびしさからはじまると書かれていました。私は昨年の服役中に母親を病気で亡くしました。見苦しい言い訳になるかも知れませんが、出所してから暫くは、今度こそ母親の為に、父親の為に、世の為人の為にと、強い気持ちを持って生活していたのですが、月日が経つにつれ母親のいない人生に対して寂しさを感じ、母親だけでなく父親もいなくなったらと思う気持ちと、安心を得たいと思う気持ちが強くなってしまいました。不安や孤独感を紛らわそうとして身の回りにあるものに依存してしまうと本に書かれていましたが、母親が亡くなり寂しさを感じた事は依存症に関係していたのでしょうか?人によっては二つ以上の依存を合併していると書かれていましたが、私は性嗜好障害という依存症の病気の他に依存性人格障害という依存症の病気の可能性が高いのでしょうか。
 今は正直全てにおいて不安がありますが、この不安の思いを解決出来る答えが大石クリニックにあると想います。何でも相談出来る親友、信友、心友が一人でも出来れば良いなと今思っています。今は不安がありますが、面会で父親が言ってくれた「不安はあると思うけど、心配するな俺がいるじゃないか」との言葉を忘れず、不安を乗り越えられるものが大石クリニックにある事を信じ
生きて行きたいと思います。有難うございました。
 お身体を御自愛下さい。では失礼致します。
                       草々
           
平成23年6月26日  D

追伸
 6月28日 ○○拘置所から○○拘置所に移送になりました。現在○○拘置所で社会復帰に向けて生活しています。

Date: 2011/07/04/21:58:09 No.670

Re:収監者との文通

Dさんへの返書

D 様

前略
 6月26日付のお手紙拝読しました。
 同病の仲間であるBさん、Cさんの文面に接しての共感の想いから社会復帰への希望や決意を固められているようで、大変嬉しく読ませて頂きました。今のDさんの姿に、私がこの業界に身を置いて以来の10数年の間に目にして来た幾多の回復例の第一歩目を見る想いがしています。自分が依存症という病気である事を心の底から認め、治療の決意をして同病の治療仲間との絆の輪の中に身を置く事、それは、回復街道に向けて出発する車にエンジンがかかった事を意味しています。以前のお手紙で、仮釈の条件としての治療プログラムを受講した事があったけど、当時の受講目的は仮釈にあったと書かれていましたが、それが故に受講の目的は仮釈によって果たされてしまい、真の目的であった再犯防止まで行けなかったのだと思います。でも今度は、再犯防止はもとより、更生・社会復帰に向けての治療を決意され、仲間との支え合いに活路を見い出されているところに以前との違いがあるようにお見受けしています。折角かかったエンジンを止めることなく、先ずはこの文通の継続から始めて頂ければと心から期待しております。
 今回のお手紙で、「・・(昨年末に)出所してから暫くは、母親の為、父親の為、世の為人の為にと強い気持ちを持って生活していたのですが、月日が経つにつれ母親のいない人生に寂しさを感じ、母親だけでなく父親もいなくなったらと思う気持ちと安心を得たいと思う気持ちが強くなってしまいました・・」と書かれています。そして、母親がいなくなった寂しさが依存症の再発と再犯に繋がったのでは?と思われているようですね。私も恐らくそうだろうと思います。「もう2度としない」と、どんなに固く強い決意をしても、治療につながらない個人の思いや、欲求への我慢だけでは病気に勝てません。前回の手紙でも書いたように、癌患者が痛みをどんなに我慢し続けても癌は治らないのと同じ論理です。癌の場合には手術や放射線治療、化学療法といった治療が必要となるように、依存症の場合にも専門医によるカウンセリングや同病の仲間とのミーテイング、前回の手紙でお話した「認知行動療法」といった治療が必要になります。お母様がいなくなった寂しさを依存症の再発につなげない為の考え方や方法を自分自身の意志で実行するのが「認知行動療法」です。
 それに比して、昨年末の出所後は、御自分の意志・決意のみで病気を克服されようとしたのだと思います。前回の手紙流に言えば、大相撲の序の口が横綱に体当たりしたようなもので、負けるのが当然だったと言ってよいでしょう。ただ言える事は、序の口が横綱に負けても、自分の将来に不安を持ったり、悲観したりしないですよね。負けるのは当たり前と受け止めて、部屋での日々の稽古に励むでしょう。そう考えればDさんの今の不安も自然に解消するのではないでしょうか? でも今は昨年末と違います。Dさんは今病気に打ち勝つ為の手段、方法を視界に置いて、その実行を始めています。この以前との相違も「又やってしまうのでは?」との不安を和らげ、やがては解消してくれることでしょう。
 自分は「依存性人格障害」を合併しているのでは?とのお尋ねですが、Dさんは今、大石を知り、自分の病気を認め、治療と回復、社会復帰への決意を固められ、希望を胸に新たな人生への一歩を踏み出されました。自分の意志と決断でその一歩一歩を歩めるならば、「依存性人格障害」ではないと思います。でも自分自身でその疑いを払拭できなければ、出所後に専門医に相談されれば良いと思います。
 念の為、「依存性人格障害」の診断基準について付記しておきます。
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以下の8つの基準のうち、5つ以上があてはまる場合、「依存性人格障害」と診断されます。
1. 日常の些細なことでも、他人から有り余るほどの助言と保証が無ければ決断できない。
2. 自分の生活のほとんどの主要な領域で、他人に責任をとってもらいたがる。
3. 他人の支持または是認を失うことを恐れて、他人の意見に反対を表明することが困難である。
4. 自分の判断や能力に自信がないため、自分で計画を立てたり物事を決めることができない。
5. 他人から愛情や支持を得るために、自分の不快なことでもやってしまうことがある。
6. 自分で自分のことができないという強い恐怖や無力感を感じている。
7. 親密な関係が終わったときに、自分を世話して支えてくれる別の関係を必死で求める。
8. 自分が世話をされずに放っておかれるという恐怖に、非現実的なまでに捕らわれている。
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 以上ですが、仮に5つ以上自分に該当したとしても、決して悲観したり自信を失ったりしないようお願いします。一つの病気の克服は、その病気にならず治療を受けなかったなら得られなかったであろう多くのものを与えてくれます。ピンチの後にチャンスありです。

 色々ととりとめなく書いてしまいました。長くなるのでこの辺で失礼します。また書かせて頂きます。梅雨明け宣言の前に夏が来てしまったような感がしています。熱中症などにかからないよう御自愛下さい。
                                               草々
                 
        平成23年7月5日
         大石クリニック相談員 鈴木達也
                  

Date: 2011/07/04/22:10:11 No.671