収監者との往復文通
- 2014.03.05
- Oさん 性嗜好障害
<O⇒鈴木>
前略
1月30日発送の手紙、2月3日に届きました。いつも温かい言葉を添えていただき感謝しています。私は今回の懲役で同囚か聞くことの出来た病名、治療している病院などを知る事が出来て一筋の光明を見た思いがしました。
この寒い季節もあと2回繰り返せば家族の待つ場所へと帰る事になるので、一シーズン毎に自分のしてしまった罪の重さを感じながら生活しています。ちゃんとした治療を受け、自分が進むべき方向を今度こそ見失うこと無く歩めるようにしたいですね。その為にも今一番辛い思いをして、今までズレて来た道を少しづつ修正して、最後には本当に良かったと思える人生にして行きたいです。
鈴木先生から届きましたお手紙を拝読して私の頭の中に浮かんだ人物がいます。その人は宮崎勤死刑囚です。この人は2次元映像に自分の居場所を見つけ出し、その世界の中で生きていれば良かったのですが、そこに留まる事が出来なくて、幼児に手を出してしまい、その結果女児2人を殺してしまいました。私も一歩まちがったら、このような犯罪を起こす可能性も有ったと思っています。
アメリカでは1970年頃から性依存症の研究が始まっていますが、日本ではこの事件は妖気的犯罪と思われたのではないでしょうか。新しいところではダンボールの中に女児の死体を入れた、これも死刑囚だったと思いますが日経ブラジル人のホセ死刑囚などの事件がありますが、殺人事件が前面に出ていて、その後にある「性依存症」の事が見えない為、「なぜ犯罪を起こしてしまったのか」が全然見えません。マスコミやメデイアも、少し突っ込んで「性依存症」までたどりついて欲しいと思っています。
勝手に2人の死刑囚の事を思い出し、勝手に性依存症者だと思い込んでいますが、本当はちがったかも知れませんね。「この人達は本当の事を話したか?」も解りません。手紙を書きながら2人の事を考えていたら、昨年12月にテーマ「贖罪」を書いた時の「湊かなえ・贖罪」を思い出しました。
もし日本でも(アメリカのように)1970年代に本格的に性依存症の研究が始まっていたら前記の事件が有った80年代には少しは事件の本質を知るメデイアも有ったことでしょう。今でも小学女児に手を出す悪い大人(私を含め)がたくさんいてニュースになりますが、「性依存症」の言葉は出てきません。なぜ取り上げないのだろうか?と考えたのですが、被害者側の目線から見て、加害者側が病気だからとの理由で刑が軽くなる事を避ける為のように見えます。加害者が本当に悪い人に思える報道しかしないのも被害者目線で見せたいからでしょうね。加害者側の目線で報道したらテレビ局も大変な事に・・・でも、やって欲しいと思いますが難しいのでしょう。
いくらやってしまった事が病気の所為でも、テレビは犯罪だけを取り上げるので、それを見た依存症者は自分が「依存症」だと気付く事なく、そのまま犯罪を繰り返すのだと思います。私もそうでしたが、テレビでみるニュースでは、悪い事をすれば罪名が出て、名前が出て、性犯罪などでは家族まで辛い思いをします。それが解っているのに、まるで他人事のように見て何の抑制力もありません。私が今まで止めようと思い努力していても、心のスミの方で「あの人達はやり過ぎたんだ」と思っていました。でも自分では「やり過ぎていない」と思っていたのに今こうして刑務所にいます。
私の今回の事件での取り調べで言われた一言なんですが、「この犯罪をする人には上手・下手が有って、オマエは下手なんだから止めなさい」と言われました。私もその時はそう思っていましたが、事件の根っこの部分に気づかなかったから同じ犯罪の繰り返しになってしまい、気づけば人生の大半を病気と気づかないで来てしまいました。
警察だって被害者側の立場に立った見方しかしません。取り調べで「何でこんな事をしたのか?」と聞かれますが、多分、病気だと分かっていたらここまで来なかったと思います。確かに、やってはいけない事をやっている私達が一番悪いのはよく分かっていますが、病気だと気づかせて欲しいですね。今回の手紙、テーマを決めないで書いて来ましたが、あえてつけるとしたら「二人の死刑囚と私」かな。この手紙が鈴木先生の手元に届く頃には私の刑期も残り2年を切る事になりますが、まだ先の長い受刑生活、本当に気をつけて頑張っていかないと。
2月に入ってから全国で大雪になっていますが、横浜は大丈夫でしたか?時々ドラマやバラエテイーで横浜が出て来ますが、やっぱり見ると帰りたくなりますね。
実はこの手紙、先週に発信のつもりだったのですが、願箋に記載漏れがあった為出せませんでした。2月も逃げて行きましたので春までもう一息。今月はこれで終わりますが、来月はもっと内容のしっかりした手紙が書けるように頑張ります。
未だ寒い日が続きますが、大石クリニックのスタッフの皆さん、風邪などに気をつけて、私たちの力になって下さい。乱筆乱文、申し訳ありません。
草々
鈴木達也先生
平成26年2月27日 O
<鈴木⇔O>
O様
前略
2月27日付のお手紙27日に届きました。有り難うございます。まずは、雪の御心配を頂き有り難うございます。横浜でな2月に2度13センチの積雪がありましたが交通網に多少の乱れが出た程度で、特に被害という程の被害はありませんでしたのでご安心下さい。しかし、それにしても、いつも雪の少ない関東でも今年は雪が多く、積雪で陸の孤島と化した村落がでたり、雪崩の心配をしなければならない地域もあり、自然の為せる業に驚きながら自然災害に対しては決して油断してはならないと改めて心が締まる思いがしています。
さてお手紙ですが、「性依存症」と「性犯罪」の関係を鋭く突く文面を感銘深く拝読しました。性犯罪の裏に「性嗜好障害」(性依存症)が存在し、それが脳神経の病気である事はWHO(世界保健機構)がICD/10(国際疾病分類第10版)という公式文書で正式に認定しており、なればこそ日本政府も性依存症を病気と認め治療に保険も適用されています。WHO、つまり世界の医学が性依存症=病気とここまで明々日々に認定しており、病気だからこそ保険も適用されているのに、なぜ病気だという真実が世に伝わらないのでしょうか?何とも世にも不思議な物語ですね。でも不思議な話だからこそ必ず突破口がある筈です。一人でも多くの患者さんがきちんと治療して本来の自分を取り戻して幸福な人生を築いて行き、その事実が世に広がる中でやがて突破口が切り開かれることでしょう。その意味でもこの文通のネット公開には大きな意義があるし、文通公開に参加されているOさんにも心から感謝しています。
先日、この文通を公開している掲示板「あおいくまの部屋」にこんな投稿がありました。一部ご 紹介しますと。
「・・・ 私は大石クリニックさんで蘇生する経験をしました 。依存症治療、グループミーティ ング、栄養のある給食、リカバリー職員の起用、就労事業、デイケア、このサイトの公開など手間のかかる革新的な試みを実現されていますよね。服役中の人との文通とそれの公開など、内容より世間体重視の風潮における、奇跡のような気がします。ろくに前進もしない自分などと全く異なり、本当に人を治そうとしているのだと目を丸くしております」
と述べる中で 服役者が世間体を克服して手紙の公開をしている勇気にも目を丸くして称えてくれています。やはり、見て、読んでくれている人がいるわけで、投稿まで行かなくても多くの人々が色々な想いを抱いて公開文を読んでくれていると思います。
こうして、病気である事が社会に広く認知されるようになれば、性依存症の患者さんも治療を受けやすくなるし、専門病院も増えるでしょう。そして性犯罪も減少し、再犯率も低下することでしょう。そして、この道こそが理性と知性ある社会が進むべき道だと思います。逆に言えば、性犯罪の原因が病気だと思われていないから治療に繋がらずに性犯罪が発生するし、再犯率も高いのだと思います。
ですから、性犯罪者には先ずは医療による診察と診断による治療、教育を実施すべきで、それでも再犯を起こした場合に法による厳罰をもってのぞむというのが順序ではないかなと私は思います。
お手紙で二人の死刑囚に触れられています。この二人が100%性依存症患者であったか否かは別としても、性依存症から性犯罪へ、その性犯罪が殺人罪に繋がらないという保証はどこにもありません。性依存症が一般に病気として認知されず未治療のまま放置される状態が続くなら、この先のいつか、どこかで性依存症による殺人事件が起こり、命を奪われる被害者、悲痛のドン底に突き落とされる家族、そして死刑囚が生まれる確率がより高くなると考えるべきでしょう。そんな社会を許さない為にも、「性犯罪の裏に性依存症という病気あり」との一般への啓蒙・啓発が絶対的に必要だと思います。
殺人を犯す犯人を許せないのはもちろんですが、そういう事件を生み出す土壌としての社会も変えて行かねばならないし、その為にもこの文通公開には大きな意義があると思いますので今後ともよろしくお願い致します。
毎日寒い日が続いていますが、春までもう一息だと思いますのでお体に気をつけてお過ごし下さい。次のお便りを楽しみに今日はこれにて失礼します。
草々
平成26年3月4日
大石クリニック相談員 鈴木達也
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