収監者との文通 Oさんとの往復書簡
<O⇒鈴木>
前略
7月3日付のお手紙、7日に届きました。お忙しい中、本当に有り難うございます。
前回出した手紙の前に反則をしてしまい、その調査は終わったのですが、7月1日の審査会の前の事情でウソの話をし再度取り調べとなってしまい処遇棟へと転房になってしまいました。反則の件もそうですが、私はやったつもりは有りませんが、疑われてしまえばそれまでです。話が認められなければ仕方ないのです。
つまらない話はこのくらいにしておきますが、このまま懲罰になっても、その後教育に出席できなかった分は補習してやってくれるそうで安心しています。
書き忘れましたが、今月の7月1日より教育が始まりました。10日まで4回・4時間は準備プログラムという事で始まったのですが、前回の手紙のような事は無く、皆前向きで私も良かったと思いました。私達受刑者は6人、職員は3人です。今はこれからの事もあるので全員リラックスできる内容でやっています。この教育ではリピーター(出所後の再犯で再度刑務所で教育を受ける人)が半分はいるのですが、その中に一人大石クリニックを知りたがっている人もいます。その方は、前回の教育で先生の手紙に書かれていた「SMP」を提出したところ内容の件で官ともめて出所して、また再犯をしてしまったそうです。参加者の半分は教育を受けるプロみたいなものです。でも、「これを最後にしたい」と皆言っていました。
この手紙も私の審査会次第では出すのが未定な為、間に合えば次の火曜日・15日に出したいと思っています。閉居罰が決まれば、5~10日くらいは手紙の受発が出来なくなり、教育も出席できなくなると思います。ひとまず今週の教育が終われば、来週1週間は休んで、7月22日から本格的な教育が1時間40分の時間で始まります。その間に懲罰に入れば良いと思っています。私自身、今回のメンバーを見てから受けようとする気持ちが増して来ている為、類が下がるのは仕方ないと思って、教育に力を入れて行きたいと思っています。今回の事で仮釈放も無に等しくなってしまいますが、次に刑務所に戻って来ないように頑張りたいと思います。
台風8号も過ぎ去り、こちらも本格的な暑さがやって来ましたが、今回の台風で横浜は大丈夫でしたか?前の施設にいた頃はまだ横浜が近かったので色々と解りましたが、今は少し遠くなってしまい情報が入って来なくなりました。寂しいです。
今回の教育のスタートである準備プログラムも無事に終了して、一周空けて本科プログラムに入ります。準備プログラムの最終日に4日間の感想を聞かれました。6人色々と思った事を話す中で面白い事がありました。それは一人の人が
「時間があるから悪い事をするのだから、私はちゃんと仕事を見つけて、しっかりと再犯しないようにして行きたいと話していましたが、次の人と私が同じ内容の話をしました。
それは・・・
「私は仕事が忙しくて大変だったけれど、仕事とは関係なく、それこそ仕事の時間を使って犯罪を犯していました」
私はびっくりしました。私と同じ思いの人が他にもいるとは思ってもいなかったので、ある意味嬉しく思い、これなら私も共感できると感じることが出来ました。分類の時のように自由に話し合う事は出来ないと思うけれど、ある程度は進んで話せると思います。
今回私は専門病院との文通をしている事、出所後は保険で通院する事なども皆の前で話しました。多分大石クリニックのホームページの件も3人の職員は知っていると思いますので私の存在はやり難いだろうと思います。私は自分の頭の器を空にして何でも入れられるようにして待っているので良いものを入れてほしいです。私は今度の罰明けで工場も変わる事になる為、手紙に書いた大石クリニックに興味を持っている人とは教育の時にしか会う事が出来ませんので、前もって布石が出来て良かったと思います。
私自身も機会があれば、先生からの手紙の中から自分が思った事を皆に話が出来れば良いかなと思って、毎日の生活の中で気になった事を書き留めていきます。先生からの手紙に「自分の病気に仮釈放なしの終身刑を」のくだりがありましたのでその件を今回話してみました。これから先、認知行動療法についても話が出ると思います。前もって「3月までこんな事をします」といった話があり、認知行動療法の専門家が来ていますので、良い方へ進んで行けると思います。
今日も暑く、うだるような日が続きますが、大石クリニックスタッフの皆さん、お体に気をつけて夏を乗り切って下さい。私は冷暖房の無い事に慣れました。
鈴木達也様
平成26年7月15日出し O
<鈴木⇒O>
O様
前略
Oさん、こんにちは。いよいよ夏本番を迎え、暑さの中で日々頑張っておられる事と思います。
お手紙、17日に届きました。何か、詳しい事情は分かりませんが、反則とか調査、取り調べだとかで、ちょっと驚いていますが、今どんなお気持ちなのでしょうか? 疑われたらそれまでと書かれていますが、悔しい思いもあるでしょうね。結局は悔しくてもそれに耐え、我慢するのも刑務所での訓練の一つと考えて納得するべきなのでしょうか。
でも教育は補習を含めて継続されるそうで良かったですね。以前この文通をされていた方で、工場での他の人達のケンカに巻き込まれて懲罰となり、予定されていた教育がまるまるご破算になってしまった人がおりましたが、それに比べればずっと良かったと思います。
教育は、職員3人で受刑者6人ですか、それは凄い!!、恵まれてますよ。居眠りもできない(笑)ですよね。私が大石で担当しているミーテイングでは、二人で12~3人の患者さんを受け持っていますから、それよりずっと質の高い教育を受けられるるでしょう。 その教育での発言で
『仕事が忙しくて犯罪を犯す時間などない筈なのに、その仕事時間中にも犯罪を行っていた』との話でOさんともう一人のメンバーが共通体験をしていたそうで、共感を覚えたとの事ですが、正にそれがミーテイングの神髄だと言って良いでしょう。その共感から生まれる連帯感こそが依存症治療の一つの薬と言って過言ではありません。ついでに言えば、アルコール依存症の私は仕事中も酒を飲んでいましたので、仕事中まで依存に溺れていたという点ではOさん達2人と共通しているので、二人の仲間に入れて貰えれば嬉しいです。
前回の手紙で、癌細胞に『仮釈なしの終身刑』を課し、体内刑務所を作って独房に永久に監禁できるようになれば癌も怖くはなくなると書き、それはまだ実現していない医学の夢だけど、依存症の場合にはそれが既に可能になっていると書きました。つまり依存症の病原体である病的な依存欲求を頭や心の片隅に封じ込め続けられるようになっており、その為の方法が認知行動療法や仲間との体験談ミーテイングですので、来年3月までの教育を最後まで頑張って修了して下さい。
この手紙は多分懲罰が終わってから手元に届くのでしょう。閉居生活おつかれさまでした。今回はあまり長くならないようこの辺で終わります。いよいよ夏本番、冷房の無い生活に慣れたとの事ですが、熱中症などに気をつけて、水分補給などを忘れないようにして下さい。それでは失礼します。
草々
平成26年7月22日
大石クリニック相談員 鈴木達也
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