収監者との文通:Oさんとの往復書簡 H26/11/1
- 2014.11.01
- Oさん 性嗜好障害
<O⇒鈴木>
前略
10月も前半が終わり、日中の時間が短くなって来ました。大石クリニックのスタッフの皆さんは元気でやってますか?
実はこの手紙は鈴木先生のフィードバックレターが届かない内に書き始めています。少しフライングした事、申し訳ありません。
前回手紙を出した後にやった教育でストレスと嫉妬について気づいた事があったので、次に手紙が届いた時までに忘れてしまっては勿体ないと思い早目にペンを執りました。
確か前回は「ストレスが溜まって性加害を繰り返していた」まで書いたと思いますが、今やっている教育で「嫉妬」の事をやっていましたら、目に見えない嫉妬をやたら見つける事が出来ました。これは嫉妬でストレスになったのか、その反対にストレスから嫉妬になったのかは、これから少しずつ解明することになります。私自身は当時、嫉妬した覚えもなく、ストレスも無かったと思っています。でも実際はこの二つが私のトリガーになった事は間違いない事が分かって来ました。これは鈴木先生には申し訳ないのですが、妻が月に2回位のペースで飲み会に出かけます。私は家で飲酒を禁じられ、飲み会の参加も禁止です。妻は自由にやっているのに、私は多少の飲酒(帰りにビール1本)も咎められ、ノンアルコールビールで我慢しています。それも嫉妬になると思いました。多分、出所して家に帰っても同じ事の繰り返しになるのは目に見えています。その為にもそこから抜け出せるセルフトークも考え中です。何故このようになったのかは理解しているつもりですが、少しくらいはと思う時もあります。確かに酒が入った時の犯罪もあったわけで、妻もその事を気に掛けて禁酒させているのだと思います。
10月16日、鈴木先生からのフィードバックの手紙が届きました。この連休中に書いて頂き本当に申し訳ありませんでした。内容も依存症が病気である事を理解する事ができる内容で本当に有り難うございます。正直施設での教育では絶対に出て来る事のない内容で私自身は依存症と闘っていく為の知識として大事にしていきたいと思っています。
今までの大石クリニック・鈴木先生との文通で私が出しました手紙の写しを読み返し、当時の思いを見る事が出来て、その時その時の思いと今の思いの違いが手に取るように分かり、理解が進んできているのかな?と感じています。
今日は日曜日で朝から色々な事を考えていました。少々大雑把に書きますが「ストレスを溜めるな」と施設から通達がありました。「ストレス」でケンカや色々な違反に繋がる可能性(トリガー)が有る事は分かりますが、施設自体がストレス生産工場なので無理な話だと思います。生活自体がストレスを作るシステムになっています。
正直、一般社会には絶対に有り得ないストレスを同囚たちは抱えて生活している為、何か本人に嫌な事があればストレス爆弾に引火して爆発してしまいます。私は今回の教育でストレスについて話し合ってはいるのですが、午前中考えてみて何もしないでストレスをなくすことは無理な事だと思いました。私は教育の為この施設に移送になって、懲罰を受けて以来ストレスのせいで顔に力が入り放し、アゴのあたりが痛くなってしまい、余暇時間のテレビを見ても笑う事ができなくなってしまいました。
ここまで書いた事はセロトニンの量が足りないからこの様な状態になってしまったのでしょうか? この施設内で私の欲求の発散方法も無く、溜りに溜まったストレス(ドーパミン)が出っぱなしになったのでしょうか?文章的に内容がメチャクチャになって申し訳ありません。今回の一般改善指導で読んでいました本に「究極のストレス解消法」が載っていましたが・・・・「ストレスを気にするな」との事です。それが出来ていれば、こんなに辛い思いをしていないのに!!
今日は10月25日なのですが、昨日が教育処遇日でした。その教育の録音で放送されたものなのですが、ダルクの女性代表の方が出ていました。多分、鈴木さんでしたらお気づきになられたと思うのですが、Kさんで。放送を聴いていましたら何だか横浜のような気がしていたところ、寿町の地名が出て来ました。寿町でアルコール等の自助グループに関係があるとすれば大石クリニックも関係しているように思えたのですが・・・Kさんの話を聴いていてアルコール依存症の怖さを知りました。私の依存症は死を連想する事が出来ませんが、アルコールは人にもよると思いますが死ぬ(自殺)まで考えてしまう怖いものなんですね。Kさんも友人に救いを求める事が出来て本当に良かったと思います。それがターニングポイントだったんですね。私も正に今回の逮捕がターニングポイントとなった事で、このように鈴木先生との文通、教育、同じ辛い思いをしている同囚との出会いが出来ました。でも同囚とはこの施設内だけの付き合いになります。外の世界での付き合いは出来ません。同じ辛い思いをしている人達との外でのミーテイングはこの刑務所では認めてくれません。犯罪を起こすからだそうです。
書き忘れていましたが、懲罰になっている人が1週間(2回)欠席しただけで処遇棟の方から毎回通って来ています。今は閉居罰中ですが、特別に教育の週の2回は私たちと一緒に頑張っています。
刑務所に受刑している半数以上は何らかの依存症だと思います。薬物・アルコール・性・・・ターニングポイントに達していない人はたくさんいますが、再犯を食い止めたいのならもう少し一人一人に目を向けた方が良いと思う。つまらない調査を繰り返す事より一人一人に合ったプログラムを受けさせた方が良いのですが「森を見て木を見ていない」のです。一人を救う事が出来ないのに千人もの人を救うのは無理。これはこの施設に限った事ではなく全国的な問題だと思います。でも、この施設に来る前の施設では、ちゃんと依存症の事を理解して、教育も官・民協力してやっていました。
何やら、私の心の中にある不満が出ていますが、もっと早く自分で気がついていたら、こんなに悩む事もなかったと思います。これもストレスの発散のひとつですかね。
途中で内容がそれてしまいましたが、Kさんが話していた友人の事ですがー以前私も書いたと思いますがー自分の苦しい思いを理解してくれる人は同じ依存症の人だけ。その友人達がたくさんいるんですね。そういう友人達とミーテイングを進めていく事で手紙に書かれていた②の自動思考を抑える効果があるわけなんですね。セロトニンを多く生成するには、この「ストレス生産工場」の生産効率をいかに悪くするかの方法を考えないと、教育で同囚の仲間達とやっているミーテイングで生成されたセロトニンが無駄になります。正直、教育を受ける環境としては最悪だと思います。私は認知の歪みもひどく、この環境では辛いですね。ここでの教育で私はよく話すのですが、
「私は今まで性加害を止める方法を考えて来ました。でも止める事が出来なく、逆に進んでしまいました。正直、今受けている教育だけでは犯罪を止める自信は有りません。その為に私は出所後に専門医や自助グループと繋がって行きたい」
と、私は時々ミーテイングで話します。職員が嫌な顔をしますが仕方ない事だと思います。再犯する事を考えれば間違った考えではないと思います。大石クリニックでの治療を受けながら自助グループに参加する事はできるのでしょうか?
実はこの手紙、11月に入ってから発信する予定だったのですが、連休の関係で発信日が変ってしまっているので少し早めに出します。お許し下さい。
最後の1枚になりましたが、手紙の内容に少し触れます。神戸の女児殺害の件ですが。施設内だと新聞の時間が決まっていて理解できないままニュースもやらなくなりました。私も以前手紙に書きました湊かなえの「贖罪」の内容にならないように今の自分をしっかり作って行きたいです。
最後に「台風」の件ですが、面白く読ませて頂きました。軍隊好きの私がこの様な話を読むと嬉しくて仕方ありません。潜水艦でしたら、日本海や東シナ海に各国の艦隊がたくさんいますので、皆でレッツゴーで南に進んでやれば出来るかな?!と思いますが無理ですね。私自身は日本も原潜を作って欲しい人間ですが無理ですね。治療とは別の話題での息抜き有り難うございました。
教育も来月に入れば半分が終わります。残り半分も頑張っていきます。それではスタッフの皆さん、お身体に気をつけて下さい。秋本番の長い夜をお楽しみください。
草々
鈴木達也様
平成26年10月27日発信 O
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<鈴木⇒O>
O 様
前略
11月を迎え、横浜もだんだん寒くなって来ましたが、お手紙、
10月29日に届きました。「ストレス生産工場」の中で色々と悩み、苦しみながらも教育と学習に励む姿が文面から伝わって来る思いで読ませて頂きました。
前回の手紙で、依存行動へのアクセルとなるドーパミンが強すぎ、そのブレーキ役を果たすセロトニンが弱すぎる事が、依存症者の病的暴走の原因であるとの話をしましたが、よく理解して頂けたようで嬉しく思います。この理解を前提にすれば、依存症は専門治療が必要な病気である事も容易に理解できると思います。個人的な意志や、強い心でドーパミンを減らしたり、セロトニンを増やしたりできるものではありませんから治療が必要なわけです。強い意志はもちろん必要です。ただその使い方を依存欲求や犯罪をただ我慢するだけに使うのではなく、治療の継続に使う事が大事なのだと思います。
さて、また新しい気づきを得られたようですね。「嫉妬」ですか。<嫉妬⇔ストレス⇒性依存症⇒犯罪>という経過だったのでしょうね。今日は、このストレスについても、心(脳)と体との関係から医学的に考えてみたいと思います。前回同様、素人の私が理解している範囲で順を追って分かり易く述べてみたいと思いますので、しばらくお付き合い頂ければと思います。
<ストレスのメカニズム>
① まず、脳がストレスの原因となる不安や怒りなどを感じるとと、脳内の「視床下部」という所に「CRH」というホルモンが発生します。
② このCRHホルモンが「脳下垂体」という所に行き、「ACTH」というホルモンを作ります。
③ この「ACTH」ホルモンが神経を伝わって副腎(腎臓の付帯臓器)に行くと、「コーチゾル」という俗にストレスホルモンと言 われているホルモンを生成します。
④ コーチゾルが血管内を通って心臓に行くと心拍数が増え、血圧が
上昇して、筋肉その他の組織により大量の血液が送り込まれます。これは、血液内の酸素をストレスの原因となっている敵との闘争や逃避に必要なエネルギー源としてより大量に身体に供給して闘争態勢を整える事を意味しています。この時に感じる緊張感がストレスとして感じられものであり、ストレスは悪いものの代名詞みたいに思われがちなのですが、本来的には人間が外敵から身を守る機能として不可欠なものだと言えるでしょう。
⑤ 外敵との闘いが終了し、闘争態勢が不必要になると、最初の脳内
のCRH生成が停止して、その結果としての身体の闘争態勢(ストレス)も解除されるわけです。
このストレス発生のメカニズムから何かイメージできませんか?そうですー駅伝をイメージしてみると分かり易いと思います。
★第1区:視床下部⇒(神経街道)⇒脳下垂体 走者:CRH
★第2区:脳下垂体⇒(神経街道)⇒ 副腎 走者:ACTH
★第3区: 副腎 ⇒ (血管道) ⇒ 心臓 走者:コーチゾル
★第4区: 心臓 ⇒ (血管道) ⇒ 筋肉 走者:血液(酸素)
人間の脳(心)と身体はこんな駅伝の様な関係で繋がりあって、危険からの防御反応としてのストレスが発生しています。しかし、ストレスが防御反応として如何に必要なものだとしても、外敵との闘いが終わらなければ上記の駅伝が延々として継続し、心拍数や血圧の数値が慢性的に高い状態が続き、身体にも悪い影響を与えるので、長期・重度のストレス状態に陥った場合には何らかの方法でストレスを解消する必要があるわけです。ストレスの主役であるホルモンや血液の循環は個人の意志や我慢、頑張りで抑えられるものではないので、やはりカウンセリングや患者ミーテイングなどの心の治療や、場合によっては安定剤、睡眠剤、抗うつ剤などによる薬物療法も必要になるわけですね。
その意味で、今のOさんに出来る事として考えるなら、教育での仲間との心の支え合いを「ストレス生産工場」内での「心のオアシス」として大事にして欲しいなと思います。懲罰中の仲間の方も教育に戻れて良かったですね。そんな仲間達との語らいの中でセロトニンを沢山増やして下さい。又、私もこの文通を通して出来る限りのお手伝いが出来ればと思っています。
それと駅伝の⇒を止める方法として、何か熱中し、集中できるものが欲しいですね。これを始めたら辛い思いを忘れられるというくらいの楽しく、生き甲斐を感じられる何かです。
例えば、やはり大石とのこの文通を続けている方の中に、公認会計士試験の合格を目指して勉強を続けている方がいます。ご存じかも知れませんが、この国家試験は最難関の司法試験(裁判官・弁護士・検察官になる資格試験)に次ぐと言われている超難関試験です。その大学別合格者数を調べてみると慶應、早稲田という私学のトップ校や、東大、京大といった日本一の難関校がベストテンにズラリと名前を並べているほどの難関試験です。ですから公認会計士の肩書きというか、社会的権威というのは医師や弁護士に劣らないとまで言われています。その試験にギャンブル依存症による窃盗の罪で今6回目の刑務所に入っている人が挑戦しようとしているわけです。それも決して試験への冷やかし半分の気持ちではなく本気で、真面目に勉強を続けています。現在、合格の基礎となる簿記の勉強をしており、刑務所内での独学で簿記3級、2級、を着実にクリアして次は1級を、そして出所後は学校に通って公認会計士合格を目指すと言って頑張っています。彼が手紙で初めてその決意を書いて来た時には、正直、私も「本気かよ!?」、「マジかよ!?」と、半信半疑だったのですが、今では応援団長になった思いで文通の手紙を書いています。この勉強に没頭する事でギャンブルや窃盗の原因となるストレスを遮断しようという作戦でもあるようです。
人間の脳は二つの事を同時に考えられるほど器用には出来ていません。ですからストレスの種に代わる資格の勉強で頭を埋め尽くす事ができればストレスを頭から追い出し、上記のストレス駅伝の⇒を止める事が出来るのではないでしょうか?目標達成は不可能な事のように思えても、その第一歩を踏み出す事自体は決して難しい事ではありません。
私の経験で言えば、私は、高校3年の春から一人で勝手にドイツ語の勉強を始めました。翌春の大学入試をドイツ語で突破しようとの目標でのスタートでした。他の受験生達は英語を中学・高校で6年勉強して大学入試に臨み、浪人生の場合7~8年英語を勉強しているわけですから、ドイツ語を1年やっただけで大学入試とは、確かに無謀な話でした。周囲はもちろん、私自身も無謀な試みだとは思いました。しかし、スタートでドイツ語のA・B・C・・・、つまりアー・ベー・ツエー・・・を覚える事自体は決して難しい事ではありませんでした。物事はスタートして軌道に乗ってしまえば、しめたもので、翌春の大学入試では第2志望校ながら文学部独文学科へのドイツ語での受験で合格する事ができました。最初のスタートで目標を見限ってしまい不可能と諦めていたら、第2志望はもちろん、第3、第4志望校だって受からなかった筈です。ですからダメ元と思って始めてみる事が大事なのだろうと思います。そんな自分の経験なども思い出しながら、今、公認会計士試験受験への応援団長を務めているつもりです。
さて、Oさんの場合は、私に何の応援をさせてもらえるでしょうか? 先ずはそれを考え始めてみるのも良いかと思います。もし、成る程と思ったら次の手紙で何を応援すれば良いのか教えて頂ければ嬉しいです。夢は大きければ大きいほど、ストレス退治に役立ちますので、先ずは、考えるだけはタダ、始める事自体は難しくないとの思いでストレス退治の薬を考えて頂ければと思います。
Kさんの録音放送を聴かれたそうですね。私はKさんとは直接の面識はないのですが、ダルク女性ハウスの代表として活躍されている方ですね。Kさんもご自身の薬物・アルコール依存症を克服されている方ですので、Oさんも色々と共感できる話を聴けたのではないかと思います。そういう依存症回復者でなければ持てない仲間への力を、Oさんもこの先の性依存症克服人生の中で発揮して頂ければなと思います。
教育のミーテイングで、「・・・正直、今受けている教育だけでは犯罪を止める自信は有りません。その為に私は出所後に専門医や自助グループと繋がって行きたい」と話されているそうですが、依存症という病気は生涯を通しての治療を必要とする病気ですので、刑務所での教育がどういうものであるにせよ、出所後の専門治療や自助グループへの参加は再犯のない新しい生活に向けての必修科目と言って良いでしょう。その意味でOさんの出所後の治療への今の決意を大事にして頂きたいと思います。
最後に、大石に通院しながら自助グループ(SA)に参加できるか?とのお尋ねですが、先ずはSA宛に郵便で案内資料を請求し、ミーテイングの日時・会場を確認して下さい。大石への定期通院と重ならなければ参加できます。
それでは、色々と取り留めなく書いてしまいましたが、今日はこれにて失礼したいと思います。今年のカレンダーも早や残り2枚になりました。寒くなりなりますので悪い風邪などひかないように、お体を御自愛ください。
草々
平成26年11月1日
大石クリニック相談員 鈴木達也
追伸
手紙を書き終えてから前回の<付録>を思い出して、もう少し詳しく調べてみましたので、最後に追加します。
台風を壊す装置の名称は「海水温低下装置」と言い、ポンプに直径70センチ/長さ20メートルの送水管を取り付けた装置だそうです。これを潜水艦の両側に8基ずつ取り付け、水深30メートルの所から毎分480トンの低温海水を汲み上げて海面に送り上げるそうです。それを20隻の潜水艦で行う事で、5万7600平方メートルの水域の海面の水温を1時間で3度下げる事が出来、それによって台風の勢力を弱められるそうです。
台風の進路を正確に予測しなければならないなどの課題は残されてはいるものの、理論上は可能だと言われています。特許は既に日本、インドで取得済みで、アメリカからも取得できる見込みとか
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