収監者との文通

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Oさんからの手紙~① & Oさんへの返書
前略
 11月13日付けのお手紙が18日に届きました。毎回本当に有り難うございます。毎月子供みたいな文章に真心をこめて返事を書いていただき、本当に嬉しく思います。
 ・・・時候文・略・・・
1年前の今頃ですが、分類の為に移送になった刑務所で仲間達と私達の犯罪や病気の事などを話していたことを思い出しました。本当に1年は早いですね。
 この手紙は年内最後になる為、この1年を振り返ってというより、今回の犯罪について考えて見たいと思っています。でも、この答えが出せるのは私が死ぬ時でないと解からないのでしょうか? 私は、この犯罪は病気のせいで、それでこんな辛い思いをして来たのだと思うようになったのですが、全部が全部を病気のせいにはしたくないです。もし私がもっと早く病院を探していれば、こんなに時間の無駄づかいをしなくても良かったのかなと思っているのですが、これだけ時間をかけなければ解からない病気なのだという事に頭にきますよね。初めての裁判の時に妻が「病院で診てもらったら」と言った時にアクションを起こしていたら、今頃はこんな事になっていなかったと思い、自分の行動の鈍さに一番頭に来ています。
 今回、先生から届いた手紙で私の質問に答えて下さった部分、性依存症者の数の件ですが、少し驚きました。極端な書き方をしますが、街中を歩いていて100人すれ違うと3~5人は性依存症者という事になります。私は多くて1~2%だと思っていたので少しショックです。これだけの人が依存症だというのに、私と同じで人に相談できないのが本音だと思います。まさかアルコールや薬物のように街中にポスターを貼る分けには行かない問題ですよね。でも「ちかん」のポスターはあちらこちらで目にする事はありますが、確か「ちかん」も性依存症の仲間だと思いましたが、それだけはポスターになりましたよね。「ちかん」は県の「迷惑防止条例」、「のぞき」は軽犯罪法、どちらも数をやれば私のように刑務所に来ますが、「出来心」で止められる人は一体何人いるのでしょう。私は止める事が出来なくてこのような事になってしまったと思っています。
 次にスリップの夢の件、本当に安心しました。実際にこの塀の中では犯罪行為は出来ませんが、夢の中でスリップすると、やはり心配になってしまいます。少しでも良い方向に進んでいれば安心なのですが、これが、又犯罪行為がしたくて夢に出て来たのかと心配していましたが、自信を持って先に進みたいと思います。
 そして、アルコール依存症の件ですが、先生が述べられた安全圏、週2回程度の休肝日はまちまちですが、あとの二つは何となくできているような気がします。実は私の家(アパート)にはアルコール依存症の人が一人います。他の人の部屋で少し大きな音をさせてドアを閉めると、「わざとやっている」と騒ぎたて、言ってもいない事を言っていると言って切れて暴れる。

課題ーー「贖罪」
 今回の課題ですが、私のような犯罪者にとって一番重要な課題だと思います。実は、この課題にした理由の一つに、この11月に「湊かなえ」の本「贖罪」を読んだからです。私は今迄色々な本を読んで来ましたが、この本の中に「性嗜好異常」という言葉が使われていました。本の内容は、私がやってしまった犯罪の上を行く内容になっていましたが、私がもしこの病名を知らずにいたら、間違いなく本と同じ事になっていたと思います。正直、他人事とは思えない内容でした。確かに最後はサスペンスストーリーになりましたが、この本に書かれていた「性嗜好異常」ですが、それが初めて普通の本に載ったのに本当に驚きました。やっと少しづつですが知られるようになったのだと思いましたが、あまり広がると本気で治そうとしている人達が生活し辛くなるような気がします。でも知られないと、私のように辛い思いをする人達が少なくならないですよね。
 そろそろ本題に入りたいと思います。私が出来る贖罪って何だろう?と考えてみたのですが、色々と難しい部分があります。私がしてしまった犯罪内容ですが、被害者の心に大変大きな傷を残してしまったと思っています。その為私が出所して被害者の人の所に言って謝罪することが出来ません。行けばやっと落ち着いた生活をメチャクヤにしてしまうことも・・・その為に謝罪に行く事もできません。私は、この犯罪行為に対する罰は懲役に行く事だけではないと思います。
 何か出来る事はないか?色々考えていましたが、先生が私に良いヒント・答え?を出してくれました。それは私が刑務所にいる間に書く手紙をホームページに載せる事で一人でも被害者になる人を少なく出来たら・・・この病気の為に犯罪行為を繰り返して私のように辛い思いをする人を少なく出来たらと思います。何も知らない人がこの手紙を読んだら笑って終わると思いますが、私は決してカッコつけて書いているのではありません。
 私が今いる刑務所の中にだって多くの性依存症者が居ますが、自分から性依存症者と言えないんです。言えばイジメの対象とされます。ただでさえストレスだらけの刑務所の中でイジリがいのある犯名を持ち込んでしまえば、みな飛びつきます。殆どの人は罪名を偽るのですが、私のようなR指定受刑者は本当に気をつけないと生活し辛くなります。特に本を購入する時にバレてしまいます。そんな事だけで贖罪が出来るのであれば、いくらでも同囚に話して刑を終わることにしますが、そんなことで贖罪は終わらないと思います。
 刑務所内では話す事が出来ない事を外の人達に少しでも理解してもらえればと思っています。特に私と同じ犯罪行為を繰り返して来て刑務所に来ていない人達に見てもらえれば、もしかしたら、このたどたどしい文章で「性依存症」という病気を理解して犯罪から身を引いてくれるかもと思っています。
 多分無理かと思いますが、被害者の方が見てくれたら、「こんな病気もあるんだ」と理解とは言いませんが、少しで良いので、この病気で辛い思いをしている人々がいる事を知ってもらいたいです。この懲役生活もこれで最後にしたいので、自分の思う事の全てをここにおいて帰りたいと思っています。
 
 又長々と書いてしまい申し訳ありませんでした。今回のテーマ「贖罪」は出所前でも良かったのですが、今の内に自分の中に定めて行こうとの思いで書きました。私にはまだこの中での生活が残っています。今の思いを忘れることなく、あと2年少々頑張って行きます。
  何日かに分けて書いた手紙、この1枚で今年は終わります。来年は少し良い年にしたいのですが、この中では無理です。今のまま何事も無く過ぎて、無事に帰りたいと思います。そこから又一歩づつ前へと進みたいですね。
 今日は朝から天気が良くあったかい一日でした。横浜も海が近いので寒いと思いますが、今年もあと少しですので本当にお身体に気をつけて下さい。それでは年内最後の手紙を終わります。

 大石クリニックスタッフご一同様、良いお年を
                      草々
 鈴木達也様
       平成25年12月5日出し    O

Date: 2013/12/10/18:42:01 No.1086

Oさんへの返書
O様
前略
 今年納めのお手紙9日に届きました。いつも有り難うございます。毎月、定期便のように送られて来るお手紙に規律正しい生活の一端を見る思いがしています。規律ある生活は依存症治療の柱ともなりますので、塀の中での規律正しい生活は出所後の治療の土台となって行くことでしょう。その意味で今の受刑生活には色々と厳しい面もあるとは思いますが、決して無駄な時間ではないと思います。
 
 お手紙で、病気に気づくのが遅かった、これほどまで時間をかけなければ気づけない病気なのだろうか、と述べられていますが、確かに依存症という病気は気づき難い病気なんですね。患者本人よりも周囲の家族の方が先に気づくくらい本人には気づき難い病気なんです。何故そうなのか?と言えば、依存対象(酒、薬物、性・・・など)への病的欲求による執着や、世間体の悪さから自分の病気を認めたくないという心理が先に働くからなんですね。その意味で依存症は「否認の病気」とも言われています。ですから、お手紙で「治療への自分の行動の鈍さに一番頭にきている」と書かれていますが、Oさんだけが特別に鈍かったわけではないわけです。私など、最初は実家の母による大石への「強制連行」から治療が始まったくらいですからね。ですから、治療開始の困難さという問題への答えは、患者の「否認」を克服させるための啓蒙・啓発だと思います。その意味でもOさんの手紙のネット公開には大きな社会的意義があると言って良いでしょう。

 性依存症者数が総人口の3~5%という数の多さには私も驚いています。日本の総人口から割り出すと、おおよその概算で400万前後となるのでしょうか。横浜市の人口が360万ですから、恐らくそれを上回る数の人々が、病気とも気づかず、気づいても治療できる病院も見つからないままに、この病気で苦しんでいるのだと思います。これだけ多くの人々が苦しんでいるにもかかわらず、対応する医療機関が全国に2ヶ所しかないのが現実です。しかし、今は2ヶ所しかない医療機関でも、そこでの治療によって幸福を取り戻した患者さんが増えるにつれて性依存症を治療する病院も増え、この病気の真実が徐々にせよ世に広がって行くものと私は確信しています。ゼロ×エックスは永久にゼロですが、2×エックスには無限大の可能性が秘められていますからね。「2」という数字を雪ダルマの最初の一塊と考えれば希望も持てるのではないかと思います・・・時折り新聞社の記者が大石に性依存症治療に関する取材に来ています。性依存症の被疑者を担当した弁護士さんからも大石に電話がかってきています。そういう新聞記者や弁護士の活動の背景にはインターネットの普及という従来には見られなかった新しい状況が生まれていてます。ですから、アルコール依存症治療が30年かかって歩んで来た啓発の道を性依存症治療は大幅に短縮して進むのではないかと私は思っています。
 
 スリップの夢の件もご理解頂けたようで嬉しく思います。確かに、依存を断とうと治療を続けている人にとってスリップの夢は不安を呼びますよね。かくいう私自身も断酒1~2年の頃にはよく夢の中でスリップしました。当時の私も不安に思って、ある日の大石の講義で講師のスタッフに夢についての質問をしたところ、前回の手紙に書いた答えを貰い安心したものでした。この問題については数年前にも、ある機会にネットで調べた事がありましたが、答えはやはり同じでした。理性と自覚による夢で不安になって自信をを失う事のないようにしたいものですね。

 さて、今回のテーマは「贖罪」でした。自分としての贖罪ー謝罪の方法について真剣に考えられている様子を目の当たりにする思いがしました。
 一口に贖罪と言っても色々と困難がある中で、大石ホームページでの文通公開による社会貢献を贖罪の一つの方法と考えられたそうで、私も大変嬉しく思いました。現在、Oさんを含め5人の依存症受刑者の方との文通をネット公開させて頂いていますが、他に例を見ない公開だけに、社会への依存症啓発に大きな意義があると思います。
湊かなえの創作「贖罪」から自分の病気の更に進行した姿を感じたとの事ですが、それは、同病の仲間とのミーテイング(体験談の交流)で病気への視野を広げ、病気の本質を知る事に通じるもので、塀の中でもできる勉強法(治療法)として、この種の読書は今後も是非続けて欲しいと思います。 又、この本を通じても、性依存症(性嗜好障害)の真実が正しく世の中に広がれば良いですね。それにより、お手紙で心配されている「本気で治そうとしている人達が生活し辛くなる」ことのないよう願いたいものです。

 この1年、色々と取り留めなく書き続けた私の手紙でしたが、Oさんの病気克服に向けて幾分なりともの力となったでしょうか?何分にも微力な私ですが、来る年も出来る限りの力でこの文通を続けさせて頂きたいと思いますので宜しくお願い致します。それでは、これにて私からの本年納めの手紙とさせて頂きます。寒い日が続きますが、体に気をつけて、どうぞ、良いお年をお迎えください。
                                    草々
      平成25年12月12日
       大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/12/10/19:14:47 No.1089