収監者との文通 Oさんとの往復文通 H26-9-11

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<O⇒鈴木>
前略
毎日暑い日が続いていると思いますが、皆様体調を崩さず元気でおられますか。8月9日付のお手紙11日に届きました。お盆の休み前に急がせてしまい申し訳ありません。
この8月というより、この夏は雨が多く懲役では考えられないくらい過ごし易かったです。確かに暑い日も有りましたが、そんな日は少なく今年は本当に助かりました。
・・・一部略・・・
先生からのお手紙を読みました、静的リスク・動的リスク、本当によく理解できました。この手紙が先生の手元に届くのが9月に入ってからになりますが、今現在テキストは2冊目に入っています。実際に私はこの1週間頭が白くなってしまい、何も手につかずボーっとしていました。やっと少しづつ何かしなければ駄目と思いつつ、少しづつ書けるようになりました。
実は今回何も手につかなかった理由の一つに、前回の取り調べの事が頭から抜けなくて悩みこむ日々が続いています。その為、今の教育を受けながら別の認知の歪みが有るようです。その認知の歪みをプラスのセルフトークで修正するよう努力した結果、頭の中が白くなりました。正直、今回の一件で殺意が芽生えてしまい、頭の中から消えてくれません。変な方向に歪んでしまっている事は理解していますが、朝・夜と頭の中に浮かんできます。この手紙を書いていても、つい力が入ってしまい何枚も書き直しているくらい悩んでいます。今までの懲役の中で職員に対して頭にくる事は有りましたが、殺意を覚えたのは初めての事です。今はこの認知の歪みが消える事が願いです。

あまり変な事ばかり書いていると手紙が出せなくなるので、少し時間を開けて気持ちを落ち着かせてから書き始めましたので今度は大丈夫かな。
今日は9月4日になりますが、今日は私の自分史の発表が有り、色々と気づく事が出来ました。一日に二人ずつ発表していくのですが、私の番がきて発表した時に、私の犯罪歴で行ってきた内容を最初に話しました。それは、他の人達は言葉に出せずに多少のニュアンスで解る言い方をしていましたが、私は自分が性加害を起こすスイッチを知りたかったからです。今までスイッチが見つからず本当に毎日犯行を行っていたし、それが日課になっていたからです。
6人で行っている教育ですが、私の様な盗視症の人はいないようで、隣の人に鼻で笑われてしまいましたが、最後まで頑張りました。フイードバックを待ちましたが、内容が内容だけに返してくれた人はカウンセラーを含めて4人でした。その中に考えさせるヒントが2~3有り、それをこれから考えていきたいと思っています。
先ず最初は、私が女子トイレに侵入する事に疑問に思った人がいて、「性欲を満たす為に入っているの?」と聞かれたのですが、私的にはそれもあるのですが、本当に日課のようにパターン化されている為解りませんでした。ある人が「女子トイレには私自身入る勇気が無いし、もし入れたとしたら私もクセになるかも知れない」と、そう言って、「私は入れないけれど、それってスリル感が有って行っているんじゃないの?」と。そんな事を考えた事がなかったので少し気に掛けています。2番目に「ギャンブル性」と言っていた人もいました。それは個室に入っていることで「見れる~見れない?」と、どちらか分からない「ギャンブル性」に惹かれたのかも」と話してくれた人もいました。3番目はカウンセラーからの一言だったのですが、「スイッチが入ったままなのではなく、何か別の問題があるのではない?スイッチに拘らずに何か考えて行くことができるよ。多分スイッチが入ったままなのではなく、スイッチを入れる瞬間がある筈で、多分それがまとまっていないのだと思います。私もまだ見えないのでこれから時間をかけて見つけましょう」とのことでした。正直、始まったばかりのプログラムなので来年3月には見つけ出したいと思ってやっていきます。
多分、考え方に偏りのある人に「認知のゆがみ」が多いような気がしてきました。それはフイードバックされた答えの中に「大した事はない・極端な」といった偏りの言葉が多いとの指摘が有り、事件とは関係が無いのですがこんな事を言ってくれた人もいました。それを考えると鼻で笑った人のことが気に掛かりますね。その人から見れば「覗きの小者」くらいでしか見ていないのだろうけれど、こんな事を真剣に悩んでいる人もいる事を考えてもらいたいです。あまり教育を受けている同囚の人の犯罪内容を他の同囚に話したり手紙に書かない約束になっている為書きませんが、今週で私を含めて4人の発表が終了して、一番フイードバックが少なかったのが私なのは確かです。今回は自分史での発表でしたが、これから先に3回くらい発表が残っています。次に笑われたら本当にトラウマになりそうです。

今回先生から届いたお手紙の中の「平安の祈り」ですが、本当に良い言葉だと思います。

変える事の出来ない静的リスクを受け入れる落ち着きを
変える事の出来る動的リスクを変えていく勇気を
自身がその二つをしっかりと見分ける事

これが出来れば性加害を減らす事が出来ますね。この「平安の祈り」は、私達性加害で苦しんでいる人達にもぴったり合いますが、今回のプログラムのテキストに書いたら「これはアルコールのものだから」と職員が嫌な顔をしていました。なぜそこまで分けるのか分かりませんが、別のもののようなので教育には使えないみたいです。私はこれを大きめに書いて目に見えるようにして舎房に置いてあります。あまりこの施設の教育のリズムを壊すことは出来ませんので大人しく教育を受けるつもりでいます。

私のいる施設では、月に2回ある一般改善指導教育で月に一冊の本の感想文を書くのですが、脳に関する本が沢山あり、そういう本を読んでいると、脳に入った情報を必要・不必要に分けて必要と思った情報を記憶として残すので、本当は不必要な情報を勘違いして必要として分類しているのではないかと勝手に思っています。その為に忘れる事が出来ればこの様に辛い思いをしなくても良いと思うのですが、脳細胞のネットワーク(依存症)が出来上がっている為に一生消す事の出来ない記憶が出来上がっており、その記憶にブレーキをかける為に新しい情報を入れて止める必要があるのだと理解していますが、間違っていますか?間違っていたら早目に修正しなければ駄目なので教えて頂ければ助かります。自分なりに努力して良い方向へと行ければと思いそんな本ばかり読んでいる私です。

今いる工場ですが、やはり性犯罪者が起こした事が気になる人が多いです。なるべく入ってきて欲しくない部分に平気で入ってくる人が多くうんざりしています。話さなければ反対に逆切れされて本当に嫌な思いをする事が多々有り本当にイヤな場所です。
この文章を読まれた方は本当に来ない方が良いよ!!

今年の夏も終わり秋風が入って来るようになりましたが、東京方面ではデング熱などというものが流行り大変な事になっているようですが、気をつけてください。私は認知の歪みを一日も早く修正できるように毎日少しずつ勉強して良い結果が出るように頑張ります。
それでは「大石クリニック」スタッフの皆さんお元気で。
草々

平成26年9月6日記 8日出し O

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<鈴木⇒O>
O(オー)様
前略
Oさん、こんにちは。お元気で過ごされていることと思います。熱心に、そして真面目に教育に取り組む姿が目に浮かぶような9月8日出しのお手紙、10日に届き嬉しく拝読しました。いつも、私にとっても大変勉強になる読みごたえのあるお手紙を有り難うございます。
・・・一部略・・・
さて、お手紙を拝読し、静的・動的リスクと「平安の祈り」の関連をよく理解していただけたようで私も嬉しく思います。この祈りは、性依存症者の自助グループ(SA)のミーテイングでもその最初と最後で参加者全員で唱和しているそうです。ただ、そちらの教育の先生はアルコールと性の違いについてのお考えををお持ちのようなので、先生やテキストに沿っての学習を進めて頂きたいと思います。今後も私からの情報とそちらの教育内容が食い違うケースがあるかも知れませんが、その場合には混乱のないように教育内容の方を優先させて、私の情報は「あぁ、そんな話もあるのか」という程度に留めて頭の片隅にでも保留しておいていただければ良いと思います。

先般の取り調べに関連して殺意が芽生えたとの件ですが、それはやはり、Oさんという人とは別次元の所に存在する病気の為せる業(わざ)ですので、あまり深刻に考えずに教育(治療)で退治して頂きたいと思います。

女子トイレへの侵入について、カウンセラーの先生や仲間の皆さんから色々なフイードバックを受け、それをヒントにしながら自己分析をされているようですね。その中での自分自身への振り返りから犯罪へのスイッチも必ず見つかることでしょう。来年の3月まで頑張って下さい。
以前、私もこんな経験をしました。それは、ある日の仕事帰りでの横浜駅での出来事でした。駅の公衆トイレに入ろうとして入り口のドアを開けて中に入ろうとしたその瞬間に私の目に飛び込んできた光景は、鏡の前にズラリと横並びに並んだ10人くらいの女性達が手を洗ったり、顔をパタパタと化粧している姿でした。「しまった、間違った!!」と思った私はその場で慌てて「マワレー、右!!」をして、3メートルほど横の男子トイレのの方に逃げるように飛び込みました。そこでまごまごしていたら、「キャーッ、チカーン!!」という叫び声が起きて、駅員か鉄道公安官かが呼ばれて、その場で「御用!!」となっていたでしょうね。でも男子トイレに飛び込むまでの数秒間という短い時間で「駅員を呼ばれて、御用!!」というまでの経過をハッキリと意識するには至りませんでした。そんな分かり切った事は瞬間的な時間の中に凝縮されて明確に意識化されず、その結論としての「まずい」という思いしかありませんでした。つまり瞬間的な時間の中で意識が自動的に進んで逃げるように男子ントイレに飛び込んだわけです。
さて、Oさんがその時の私の立場だったらどうしますか?まさか、女性たちの視線の真っただ中に、つまり100%捕まると分かり切っているのに女子トイレに侵入する気にはなりませんよね。つまり、Oさんの脳の中に、100%確実に捕まる侵入は出来ないという思考回路が出来ているわけです。そこで、Oさんの脳の中の『侵入しても捕まらないようにやれば良いし、それが可能である』という病的な「認知の歪み」を、『侵入したら必ず捕まるし、被害女性の気持ちを深く傷つける』という認知に修正すれば良いのではないでしょうか? 時間はかかると思いますが、「やばい!」と思った瞬間にこれを繰り返し訓練することで、侵入=犯罪を犯さないのが当たり前という方向に頭を切り替えて行くのが認知行動療法ですのでぜひ実行していただければと思います。
話を「意識の自動的な進行」に戻しますが、女子トイレに侵入する時にも、なぜ侵入するのかという意識など無かったのではないでしょうか?私自身もアル中になって毎日一升酒を飲んでいた頃は何故飲むのかという理由づけなど全くありませんでした。飲みたいと思う前に既に飲んでいたというのが当時の自分を振り返っての実感です。酒を飲もう、飲みたいという想いが瞬間的に自動的に進んでしまっていたのだと思います。それを『自動思考』と言うのだそうですが、その昔の瞬間的な思考をいま顕微鏡で拡大するようにしてみると、そこには、もはやアル中には通用しなくなっていた酒は「百薬の長」とか「人間関係の潤滑油」、「頭の回転を良くする薬」といった「認知の歪み」があったと思います。それがあまりにも瞬間的に、自動的に進んでいた為に、断酒開始直後には「何故飲んだのだ?」と聞かれてもよく分からなかったのですが、時が過ぎ当時の事が遠景となり視野が広がる事で一升酒を飲んでいた理由もよく分かるようになったと思います。ですからOさんの自動思考的な「スイッチ」も時の経過の中でよく見えるようになると思います。

お手紙の最後の方で、「依存症とは何か?」を実に分かりやすく教えてくれているような文面にふれた思いがしました。これには感謝です。大石での患者さんとのミーテイングでも使わせてもらいたいくらいです。

=お手紙からそのまま引用します=
『脳は、脳に入った情報を必要・不必要に分けて必要と思った情報を記憶として残すので、本当は不必要な情報を勘違いして必要として分類しているのではないかと勝手に思っています。その為に忘れる事が出来ればこの様に辛い思いをしなくても良いと思うのですが、脳細胞のネットワーク(依存症)が出来上がっている為に一生消す事の出来ない記憶が出来上がっており、その記憶にブレーキをかける為に新しい情報を入れて止める必要があるのだと記憶していますが・・』

と書かれていますが、私も正しくそうだろうなと思います。依存行動には快楽を伴うので脳はそれを必要なものと勘違いしてしまうー本当は不必要という以上に害悪をもたらすものなのに、逆に必要なものと勘違いしてしまうんですよね。以前の私が酒で体を傷めながら「酒は百薬の長」だと思って飲んでいたのは正しくその典型でした。本当に仰る通りです。そして旧い記憶にブレーキをかける為の新しい情報を入れるために「認知の歪み」を「新しい認知に切り替える必要があるのでしょうね。

長くなりました。そろそろお開きにしたいと思いますが、夏から秋に向けての季節の変わり目を迎えますのでお身体には気をつけてお過ごしください。東京では公園の蚊がデング熱を媒介してお手紙でもご心配頂いていますが、大石の前にも大きな公園がありますので蚊に刺されないよう注意しなければと思っております。
それでは今日はこれにて失礼します。

草々
平成26年9月12日
大石クリニック相談員 鈴木達也