収監者との文通 Bさんとの往復書簡H27/6/20

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<B⇒鈴木>
鈴木さん
前略
ジメジメした日が続いていますが、お変わりありませんか?私は変わらずにやっています。

早速ですが、教育プログラムが本格的に始まりました。先日は『性加害につながるリスク』についてグループで話をしました。その中で『静的リスク・動的リスク』について皆で話をしました。静的リスクは過去と関係しているので今から変える事は出来ません。動的リスクは変える事が出来ると知りました。
この動的リスクを知る事で自分が事件を起こした時の心理や、事件につながる要因を知る事ができ、とても大切な事だと思いました。プログラムの教材に動的リスクの例が記載されていて、自分に当てはまるものがいくつかあると分かりました。そしてグループで話をしていて、他の人も同じ様な考え方をしていた事も分かりました。これからの教育で、自分にはどんなリスクがあり、どうすればブレーキをかけられるのか、自分を理解して行きたいです。グループのメンバーにも恵まれ、とても良い雰囲気で教育が出来ているので無駄にならないようにします。

これから暑くなって行きますが、お身体に気をつけて下さい。

草々
平成27年6月20日  B

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<鈴木⇔B>
B様
前略
Bさん、こんにちは。6/20付のお手紙、23日に届きました。つゆ時の蒸し暑い日が続く中、変わりなくお元気で過ごされているようで何よりと嬉しく思います。

さて、再犯防止教育が始まり、静的リスク・動的リスクの勉強をされたそうですが、これは今全国の刑務所で行われている「認知行動療法」に基づく教育ですね。この療法は各種依存症治療に非常に効果があるという事で、専門病院だけでなく刑務所での教育にも取り入れられていますので、どうぞ希望を持って勉強を続けて下さい。
私、この「動的リスク・静的リスク」の話に触れる度にある「祈り」の言葉を思い出します。各種自助グループで取り入れられている「祈り」で「平安の祈り」と言います。こんな祈りです。

《平安の祈り》
神様 私にお与え下さい
①:変えられないものを受け入れる落ち着きを、(静的リスク)
②:変えられるものを変える勇気を、(動的リスク)
③:そして、その2つを見分ける賢さを (静的リスクと動的リスクを見分ける賢さ)

例えば、性依存症で痴漢を止められない場合、その病気が、変えられない(根治できない)リスク=静的リスクです。だから、病気を受け入れ(認め)治療する必要があるわけですね。そして、満員電車に乗ると痴漢をやってしまう場合、そういう電車に乗らなければ良い(変えられるリスク)わけですから、満員電車が動的リスクなんですね。自助グループのメンバーはそういう自分を確認する為にこの「平安の祈り」を唱和しているわけです。これは一人でも出来る事なのでBさんも自分自身の過去、事件を振り返って、自分自身の二つのリスクを認識し見分けるこの祈りを続けてみてはいかがですか?一度だけでは忘れてしまうので継続する事が大事です。

それと、お手紙の中で「グループで話をしていて、他の人も同じ様な考え方をしていた事も分かりました」と書かれていますが、良いところに気がつきましたね。事件の原因となっていた性依存症は自分だけでなく、人間がかかり得る病気である事を仲間の共通体験から認識できると思います。そして、「そういう仲間と一緒に良くなろう」という気持ちにもなれると思います。それが依存症という病気の最高の薬なんです。

今回は、お手紙を拝読し思った事だけ書かせて頂きました。それでは簡単ながら今日はこれにて失礼します。夏至も過ぎて暑い季節に向かいますので、この先熱中症などにもご注意下さい。

草々
平成27年6月24日
大石クリニック相談員鈴木達也