収監者との文通 Aさんからの手紙
収監者との文通
Aさんからの手紙
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前略
鈴木さん、お手紙届きました。有難うございます。手紙の中にあった様に、現在「認知」の修正に励んでいます。「バカラに行くと、このまま刑務所で一生を終えることになるぞ」と自分に言い聞かせています。
さて、刑務所もお盆休みに入りました。作業が無い日が6日間ありますが、その内の1日は矯正指導日なので、きちん?とした6連休ではないのが残念です。
本日はセッション4と5を読んで考えてみました。まずセッション4の引き金への対処ですが、引き金となるバカラに行きたくなる時間が15時と18時ですが、対処法として家でゲームをしたり映画ドラマを観る。又はマンガ喫茶でマンガを読んで時間を潰すなどです。それとワークブックのP27に書いてあったのですが、引き金として「大金を持ち歩く」というのがありました。これを見て「あっ、これも引き金なのか」と思いました。「大金を持ち歩く」の対処法としては、「バカラに行ってしまうような大金を持ち歩かない」、「キャッシュカードは持ち歩かない」などです。お金を持っていなければバカラに行くことはないですからね。
そして窃盗の引き金として「バールなどを持つ」が浮かんだので、その対処法として「バールなどを手に入れないーむやみに工具店に近づかない」です。バールが手元にあるとそういう悪い考えをもってしまいますし、工具店に行くと「この工具は何に使えるかな?」などと愚かな考えを起こしてしまうので専門店には行かない様にします。
次の「思考ストップ法」ですが、②の「輪ゴムをはじく」というのは外に戻ったらやってみようと思います。それから①の「イメージする」にもって行った方が私的には簡単そうです。
セッション5のリラプスへの漂流を避ける為の行動としての「いかりの綱」ですが、このリストも中々思い浮かびませんえした。唯一浮かんだのは「運動・筋トレをする」でした。刑務所に居ると筋トレなどするのですが、外に出るとやらなくなってしまうんですよね。なので、これからは外に戻っても筋トレを続けて行きます。
P36の退屈を避ける為のリストにはいくつかやってみたい項目があったので、それらも外に戻ってからやってみようと思います。今日はここまで読みました。お盆休みにはまた最初から読み、鈴木さんからの手紙も読み返していきます。
話は変わりますが本当に暑いです。特に独居で扇風機なども無く、うちわのみなので汗が止まらず気持ち悪いです。今も腕に凄い汗をかいておりハンカチを敷いて書いていますが、左腕には何も無いので肘をついている机の部分が濡れています。さらに、座っているので座布団も汗で濡れている状態です。足も気持ち悪いし、背中も汗でシャツがくっついて気持ち悪いので、早く夏が終わって欲しいです。私は別に太っている訳ではないのに凄い汗かきなのです。みんなビックリします。独居で雑居より暑く、さらに夜7時頃には私は窓を閉めてしまうのでよけいに暑いです。窓を開けていると小さな虫がたくさん入って来るので、それも気持ち悪いので窓を閉めているのです。今週も暑いみたいで本当に参ったという感じです。熱中症にならないよう注意します。
何だか、外では最高気温が記録となっているようで、くれぐれも熱中症などにならないよう、お体を御自愛下さい。横浜もきっと暑いのでしょう。こちらはここ何日か雨が降っていないので、夕立でも良いから降って欲しいなと思っています。
また手紙を書きます。お互い暑さに負けないようにしましょう。では失礼します。
草々
平成25年8月13日(火) A
Date: 2013/08/27/19:58:29 No.965
Re:収監者との文通
Aさんへの返書
A様
前略
8月13日付けのお手紙24日に届きました。有り難うございます。そちらも本当に暑い夏なんですね。私も先天的な大の汗かきで、Aさんの汗の話を読んで共感する部分がたくさんありました。私は断酒後の初期の頃3年半くらい建築現場で日雇い仕事をしていた時期があったのですが、やはり真夏の時期の建築現場で汗でビッショリになり、シャツが背中にピッタリと貼りついた感じになって随分と気持ち悪い思いをしたのを思い出しました。そのビッショリ/ピッタリが気持ち悪くて、タオルを細く撚って背中から胸にまわして縛りつけてシャツと背中のピッタリ感を多少なりとも防いだ事がありました。そしたら、背中の横長のふくらみに気づいた現場監督から「君は男なのにブラジャーをしているのか?! 」と冗談半分にからかわれた事もありました。私とAさんの間には依存症の他に暑がり・汗かきという共通項もあったわけですね。
それはともかくとして、今年の夏は本当に全国的な猛暑/酷暑のようで、全国の刑務所、拘置所から届く手紙の殆どの書き出しが、この猛暑の話題で始まっています。
今、「全国の・・・」と書きましたが、元はと言えばAさんとの間で始まったこの文通が、現在では全国の13人の受刑者、被告人の方々との文通に広がっています。そんな広がりの中で、最近、拘置所内で簿記の勉強を始めたという方からこんな文面の手紙が届きました。
「・・・刑務所の中で簿記の勉強をして実際に資格を取得した方がいるということは、とても嬉しい情報でした。みなさん、頑張っているんですね・・・」との文面でした。
この「実際に資格を取得した方」とはもちろんAさんのことです。前回その方に書いた手紙で、「Aさんという受刑者の方が刑務所内で独学で簿記の勉強をして、簿記3・2級に合格しています」と、Aさんの努力を紹介したのですが、その返事が上記の文面でした。現在の全国規模の文通への最初の突破口となり、そして今も収監されている依存症の仲間達への励ましにつながる努力を重ねているAさんに、ここで改めて感謝したいと思います。自分の努力が仲間への力となり、又、仲間からも力を貰えるというのが依存症治療の世界なんですね。
さて、ワークブックの話ですが、お手紙を読んで順調に軌道に乗り始めたように感じています。つまり、「引き金」や「その対処法」、その他について自分の問題として具体的に考えられており、そこにワークブックというレールの上を走り始めたとの感がしています。又、以前の手紙で盗癖(「クレプトマニア」)も依存症の一種と書きましたが、その引き金となるバールにも気がついて、その対処法として「バールを手にしない」、「工具店に行かない」などとしています。バカラ依存と盗癖にも依存症としての症状に多くの共通面があり、その関係で治療にも共通面が多いので、今回のようにバカラ依存と並行して盗癖の治療を考えるのも、とても大事な事だと思うので今後も是非このパターンの勉強を進めて頂ければと思います。
それともう一点、感じた事ですが、引き金への対処法として「~をしない」をいくつか挙げていますが、この「~をしない」為の「~をする」が大事だと言われています。分かりやすい基準で言うと、「死人でも出来る事」をする為に「死人では出来ない事」をする事が大事だと言われています。例えば「大金を持ち歩かない」という死人でも出来る事を確実に保証する為に「大金を信頼できる誰かに預ける」という死人には出来ない事をするわけです。その具体例として言えば、大石では患者さんが酒やギャンブルに走らないように、患者さん専用の金庫を作りお金を金庫ごと預かるというような事も患者さんの自発的意志に基づいて実施しています。
あと、もう一つですが、リラプスへの漂流を避ける為の「いかりの綱」があまり思いつかないとのことですが、例えば、簿記1級とか公認会計士の勉強をするなどというのはどうでしょうか? 立派な「いかりの綱」になると思いますよ。私が断酒を始めた頃は、ドイツ文学を専攻していた学生時代に戻って、ドイツのメデイアからアルコール依存症の翻訳をしていましたが、今から思うとそれが酒に近づかない「いかりの綱」になっていたと思います。
色々ゴチャゴチャと長くなりました。今日はこの辺で失礼したいと思いますが、猛暑に続く残暑がもう暫く続くと思いますので、お身体には油断なく気をつけてお過ごし下さい。 草々
平成25年8月28日(水) 大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/08/27/20:17:26 No.966