収監者との文通 Nさんからの手紙
収監者との文通
Nさんからの手紙
大石クリニックHPトップページ参照
<往復書簡3回分>
前略
鈴木達也様
はじめまして。Nと申します。突然のお手紙で申し訳ございません。私は性的思考に関する事件を犯してしまい、現在拘置所に収監されている身でございます。私の担当の弁護士さんにカウンセリングを受けたいと申し出ましたところ、大石クリニックの鈴木達也さんを紹介して頂きました。私は鈴木先生が取り入れていらっしゃる手紙によるカウンセリングを受けさせて頂き、自分の持っている性的思考の問題点を明確にし、自分でしっかりと認識して行きたいと強く願っております。鈴木先生のお時間やお手数を取らせてしまうかも知れませんが、私も鈴木先生との文通に参加させて頂けないでしょうか。急なお願いで申し訳ございませんが、どうぞ宜しくお願い致します。
草々
N
Date: 2013/06/01/14:52:33 No.909
Re:収監者との文通
Nさんへの返書
N様
拝啓
はじめまして。この度はお手紙を頂き有り難うございます。 私、Nさんの担当弁護士さんよりN様の御紹介を頂きました大石クリニックにてリカバリー相談員(文通担当)をしております鈴木達也と申します。今後宜しくお願い致します。
リカバリー相談員というのは、自分自身の依存症体験(進行と治療・回復体験)を基に患者さんと触れ合い、回復への確信を持ってもらう相談員という意味で、正式職名をピアカウンセラーと言います。
さて、弁護士さんを介してのお手紙を拝読し、当院との文通をご希望との事ですので、先ずこの文通の概要をお話しさせて頂きたいと思います。
各種依存症(アルコール・薬物・ギャンブル・性・買い物・・・等々の依存症)の治療を専門としている当院では、依存症を原因とする犯罪にて各種司法施設に収監されている方々の治療と回復、社会復帰を心から願って、収監者の皆さんとの文通を行っております。
犯罪の原因として依存症、又はそれに類した問題がある場合には、再犯防止の為の治療が必要となります。治療の主要な柱としては、医師その他の専門職によるカウンセリング、及び同病の治療仲間とのミーテイングが中心となります。ミーテイングとは、同病者ならではの生の体験談の交流による心の絆を命綱として依存対象から離れ、自分の心の問題を解決するという治療法です。その有効性は1935年にアメリカで誕生したAA(アルコール依存症者の自助グループ)の世界的成功によって実証されております。
この文通を担当しております私自身が18年前に大石クリニックで診断を受けたアルコール依存症患者ですので、この文通は専門職によるカウンセリングとは異なり、ミーテイングの文通版という形で4年ほど前から継続しており、現在、全国の司法施設に居られる11人の方と文通を続けております。その他に、既に出所されて大石に通院されている方や、出所後も遠方から文通を継続されている方とも心の触れ合いを続けております。
Nさんの場合、自分の性的思考の問題を自覚されており、それを克服する為にカウンセリングを受けたいとのことですが、この文通ミーテイングによる依存症体験の交流や当院で使用してているカウンセリング資料の提供などによってNさんの要望に応じ得るものと思いますので、是非ともこの文通を始め、継続して頂ければと思います。私の場合、Nさんとは依存の対象は異なりますが、酒依存も性依存も病気としては兄弟のような関係にあり、基本的には共通した性格を持つ病気ですので、文通でお互いに共感しあえる事も多々あると思います。
又、同封の大石ホームページの右上の欄にも書かれているように、当院では収監者の皆さんの同意を前提として当院ホームページで文通の匿名公開も行っております。これは、依存症という病気の真実が一般にはまだよく知られていない中で、本人の意志や性格の問題ではない真の病気であると同時に、治療によって回復できる病気である事を、未治療のまま苦しんでいる方々はもちろん、一般の方々にも、手紙の中身を通して知って頂けるとの趣旨で行っているものです。同時に、手紙を書いた収監者の皆さんにも、社会への貢献感によって自己嫌悪感や自己不信、劣等感等を克服して頂けるという趣旨での文通公開です。公開に際しては法定守秘義務(刑法 第134条 第1項)を遵守し、文通者のプライバシーの尊重、個人情報の保護には万全を期しておりますので、その点についてはどうぞご安心下さい。
以上が、当院で行っている文通の概要なのですが、もしよろしければNさんも是非この文通にご参加下さい。又、文通を始められる場合、公開の諾否についてもご返事頂ければと存じます。なお、文通に際してはクリニックとしての治療費、カウンセリング料金等は一切頂いておりません。差出側の郵便料金のみご負担下さい。
それでは、今日はこの辺で失礼します。気候不順の折、お身体にはくれぐれもご注意下さい。
敬具
平成25年4月16日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/06/01/14:59:43 No.910
Re:収監者との文通
Nさんからの手紙
拝復
鈴木達也先生、早速お手紙を下さいまして有り難うございました。私は先日担当弁護士を通して御紹介に与かりましたNです。
鈴木達也先生からのお手紙を拝読させて頂きました。ここに書かれている概要を読ませて頂いたのですが、今の私にとって願ったり叶ったりな内容ばかりで非常に感動しております。早速で申し訳有りませんが、是非私もこの文通に参加させて下さい。よろしくお願い致します。
文通の公開に関してですが、どのように公開されるのか分からない分、正直に言いますと不安はあります。しかし、基本的には公開されても私自身問題有りません。私と同じように悩んだり、不安を抱えながら日々を過ごしている人が少なからずいると思います。文通を公開する事で何かの役に立てる事を願っています。
私はカウンセリングに対して非常に良い関心を持っています。と言いますのも、私はこれまでにカウンセリングとまでいかずとも、人の話し相手になったり、悩み事を話してもらったりする経験をした事があります。その際に色々な場面でカウンセラーの方と話す機会が有り、好感を持つことが出来ました。鈴木先生のお手紙を読ませて頂いて、『自分も同じような経験をした』という様な文を見て、色々な意味で嬉しく思い、ついつい微笑してしまいました。共感してもらえると思うと本当に心が安心します。閉じ込めていた気持ちを解放できるかも知れないと考えると嬉しい思いでいっぱいですい。これから宜しくお願いします。
敬具
N
Date: 2013/06/01/15:15:30 No.911
Re:収監者との文通
Nさんへの返書
N様
前略
私からの手紙へのご返事、有り難うございます。文通の開始と公開へのご了承も頂き嬉しく思います。ただ、お手紙によれば、「公開に関しては、どのように公開されるのか分からない分、正直に言いますと不安はあります」とのことですので、公開開始の最初だけですが、念の為公開前に最初に頂いたお手紙からこの返書までの往復文通(計4通)の公開予定文を同封しますので目を通して頂ければと思います。もちろん、原文と基本的には同じ内容ですが、公開文ですので、お名前、年齢、収監先施設名・所在地、事件に関連する年/月/日、その他のN様本人の特定に繋がる文言は全て伏せさせて頂きます。(お名前は「Nさん」とさせて頂きます) その他、前回の手紙にも書きましたように、法定守秘義務(刑法 第134条 第1項)を遵守し、N様、ご家族、事件の被害者、その他の関係者の方々にご迷惑が及ばないように万全を期しますので、その旨御了解頂ければと存じます。公開予定文を読まれた上で、ご承諾頂けましたら、当院ホームページ掲示板「あおいくまの部屋」にて公開させて頂きますので、次のお手紙でのご返事をお待ちしております。
手紙の内容については基本的に自由です。今の思いの丈を書ける範囲で自由に書いて頂いて結構です。ただ、自由だから逆に難しいという声もよく聞きますので、参考までテーマの例を幾つか例示しておきます。(自助グループや当院のテーマミーテイングでは毎回司会者がテーマを提起しています)
=文通テーマ例=
『今の自分と過去の自分』・・『更生への目標』・・『被害者への思い』・・『事件の原因と自分の課題』・・『迷惑をかけた人達』・・『誘惑・病的欲求/衝動との闘い』・・『再犯への落とし穴』・・『私の気分転換法』・・『自分が依存症(病気)と知って思うこと』・・『償い』・・『今の思いは反省か、後悔か』・・『性依存に代わる建設的な楽しみ』・・・・usw.
以上、思いつくままにテーマ例を挙げてみましたが、あくまでも参考までの例題ですので、これにこだわる必要はありません。自由にざっくばらんに今の思い、悩み、希望・・・等々を書いて頂いて結構です。きっと、私からも自分の体験談を含めての共感のご返事を差し上げられると思います。そんな手紙のキャッチボールを継続したいし、又、継続できると思います。
そんな今後の歩みを楽しみにしながら、今日はこの辺で失礼します。春から初夏、梅雨への気候の変動に負けぬよう、お体くれぐれもご自愛下さい。
平成25年5月1日 大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/06/01/15:22:14 No.912
Re:収監者との文通
Nさんからの手紙
前略
鈴木先生へ;お世話になっております。Nです。
公開予定文拝見しました。お蔭さまで安心して自分の事を手紙に書くことが出来そうです。有り難うございました。
鈴木先生がおっしゃる様に、自由に自分の想いを書けると思うと中々難しいですね。ここは甘えさせて頂いて、先生が挙げて下さいましたテーマ例を参考にさせて頂きます。「文通テーマ例』の中で私の目を引いたのは「自分が依存症(病気)と知って思うこと」でした。自分が病気だと解った時、恐らく大多数の方が感じる事は、嫌な気分だと思います。病気にはマイナスイメージしかありませんから忌み嫌われるのは当然だと思います。しかし今回の私の場合、良い思いはしなかったものの、自分が病気だと知った時、嫌な気分にはなりませんでした。私は頭ではやってはいけない事だと解っていても、その時になると自分がやっている事の良い・悪いが分からなくなり、結果、後悔と反省しか残らないといった状態でした。なぜ頭で解っている筈なのに自分で抑えられないのか、いつも悔しくてたまりませんでした。勿論、毎度自分を抑えられない訳ではなく、むしろ自分の理性を保っている時の方が圧倒的に多いです。しかし、0と1が違う様に、やってしまえば元も子もありません。何度か誰かに相談しようともしたのですが、門の前に立つと何と説明したら良いのか分からなくなり、結果逃げ出してばかりでした。自分一人で悩む日が続き、自分の存在を否定したり、自分が理解できないといった状態の時もありました。
此の度、鈴木先生と知り合い、病気と知った時、心の底でホッとしました。病気であれば治す事が可能であり、もし治す事に成功すれば、私のせいで嫌な想いをする人がいなくなると考えたからです。私はこれまでに沢山の人に迷惑を掛け、嫌な想いを与えてしまいました。だから、鈴木先生との出会いを大事にし、必ず自分を治したいと思います。私の今の願いは、社会に出るまでの間に今の私の病を限りなく治し、また社会に出た後でも、できる限りでカウンセリングを続けて、再犯を完全に防止していく事です。これからも鈴木先生には色々とお世話お掛けしてしまうかも知れませんが、何卒宜しくお願い致します。
それでは本日はこれにて失礼させて頂きます。有り難うございました。
草々
N
Date: 2013/06/01/15:40:45 No.913
Re:収監者との文通
Nさんへの返書
N様
例年よりも早く梅雨に入り、曇り空の下での蒸し暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?
さて、3通目のお手紙有り難うございます。まずは文通の件についてですが、公開予定文を読み、安心して手紙を書けるとの事で、公開のご了承を頂き有り難うございます。そこで、初回に頂いたお手紙からこのご返事までの往復書簡の全てを大石ネット掲示板「あおいくまの部屋」に公開させて頂きました。、そのコピーを今回の手紙に同封して送らせて頂きます。ご自分で書かれた文面でも、それが公開されて自分と同じ悩みを持つ人々に読まれているとの思いで読めば、また味わいが一味違うと思います。
文通テーマ:「自分が依存症(病気)と知って思うこと」についても、嬉しく読ませて頂きました。なぜ嬉しいかと言えば、前回の私の手紙の末尾で、「(文通の中で)きっと、私からも自分の体験談を含めての共感のご返事を差し上げられると思います。そんな手紙のキャッチボールを継続したいし、又、継続できると思います」と書きましたが、今回のNさんからのお手紙で共感のボールを頂けたように思うからです。お手紙にこう書かれていますー「私は頭ではやってはいけない事だと解っていても、その時になると自分がやっている事の良い・悪いが分からなくなり、結果、後悔と反省しか残らないといった状態でした。なぜ頭で解っている筈なのに自分で抑えられないのか、いつも悔しくてたまりませんでした」と。正にこれが依存症という病気に共通した症状であり、私も依存症患者としてその例外ではありませんでした。
Nさんが、悪いと分かっていても、いざその時になると性的問題行動や犯罪を自力では止められなかったように、私も、あの「小原庄助さん」のようになるまで一日一升の酒を自力では止められませんでした。飲酒が原因で失業し⇒それでも飲み続けて⇒貯金を使い果たし⇒体がボロボロになり⇒妻から別居を宣告され⇒実家の母の下に居候し⇒最後は母の手で専門病院に「強制連行」されるまで、私は酒を止めたい、止めようといくら頭で思っても、自力ではどうしても止められませんでした。、結局、自分は失業しようと、女房に逃げられようと、酒を止められない意志薄弱で人間失格のダメ人間なのだと思っていました。ところが、病院の教育ミーテイングで「依存症は脳神経の病気なんですよ。治療すれば、断酒が可能になり回復できますよ」と教えられた時、Nさんと同様にホッとして胸を撫で下ろす思いがしました。「三つ子の魂100までと言うけど、酒を止められないこの性格は100まで治らないのだろう」と思っていたのが、実は生来の性格の問題なのではなく病気であり、治療による断酒継続によってアル中になる前の元の自分に戻れる病気だと知って、生きる希望を取り戻すことが出来たわけです。そして、その希望を確信に変えてくれたのは毎晩通ったAAというアルコール患者の自助グループのミーテイング会場で出会った仲間達の姿であり、その生の体験談でした。AAの断酒仲間達が、昼間の病院の講義で聴いた話が嘘ではない事を事実で教えてくれました。
Nさんや私が、そして多くの仲間達がその頭と心と体の奥深くで体験している依存症の症状はWHO(世界保健機構)でも正式に「病気」として認定されております。WHOには「ICD・10」=「国際疾病分類・第10版」という、人間がかかる全ての病気を病気として正式に認定した文書があるのですが、そこでは「アルコール依存症」も「性嗜好障害:(通称 性依存症)」も、しっかり「病気」として認定されております。つまり世界の医学が正式・公式に「病気」と認定いるわけです。
更に言えば、この5月27日に株)「日本新薬」がアルコール依存症患者の病的な飲酒欲求を抑制する「レグテクト」という薬剤を専門医療機関向けに発売しましたが、この薬は、患者の脳内に異常に大量に見られる(←ここが病気→)飲酒欲求を呼ぶ物質=「グルタミン酸」の働きを抑制する事で病的な飲酒欲求を抑える薬だそうです。この薬が治療に大きな役割を果たすよう祈りたいと思いますが、いずれ性依存症の薬も開発されれば性犯罪も大きく減少するでしょうね。そして、いずれにせよ、こういう薬の存在自体が、依存症が単純な意志や心がけだけの問題ではない真の「病気」である事を教えていると思います。そして、病気である以上治療が必要である事も教えてくれています。癌という病気が、痛みを我慢する決意や意志では治らず癌の専門治療が必要なのと同じことです。
依存症医学は、各種精神療法や薬剤の開発、自助グループの普及などによって大きく進歩し、患者の症状を封じて社会復帰を可能にするまでに至っております。病気の根っこまでは取り除けませんが、その根っこから黒い花が咲かないようにして、生涯にわたってそれに成功するなら、結果としては完全治癒と同じ成果を挙げられるようになりました。根治までは出来ないまでも、Nさんが仰るように「限りなく治す」事が可能になっています。30年くらい前までは、「生涯にわたって精神病院に入れておくしか方法がない」とされていた依存症患者を社会復帰させられるようになるまで医学が進歩しています。そう考えると、30年以上前の患者でなくて本当に良かったなと思うのですが、Nさんはどう思いますか?
色々と、長々ととりとめなく書いてしまい申し訳ありません。今日はこの辺で失礼します。梅雨空の下、お体くれぐれもご自愛下さい。
草々
平成25年6月1日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/06/01/16:00:07 No.914
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