収監者との文通:Bさんとの往復書簡 H27/2/25

NO IMAGE

<B⇒鈴木>
鈴木達也様
前略
 寒い日が続いていますが、お変わりありませんか? 今日は作業が休みで全受刑者が「被害者について考える会」に参加しました。参加して考える事が多くあり、筆をとりました。
  
 今日、「被害者支援団体」で活動されている女性の講師の方が来て下さり、犯罪被害者の方の気持ちや、その後の事などの話を聞かせて頂きました。その話の中で「加害者が同じ過ちを犯さない事が被害者の一つの願い」だと言っていました。これは被害者を増やさないで欲しいという気持ちだと思います。

 私は自分勝手な考えで、本当に最低な事をしてしまいました。普通の考えなら、自分の行動で相手がどんな気持ちになるかわかる筈です。しかし私は逮捕されるまでその事を考える事ができませんでした。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。被害者の方が今、どんなに辛い気持ちでいるか考えれば、私は二度と同じ過ちを犯す事はできないし、受刑生活でも楽な道を選ぶ事もできません。
 この中でどんなに反省しても、許して頂く事はできませんが、同じ過ちを犯さない為にも、自分がしてしまった事にしっかり向き合い、償いの気持ちを持ちつづけなければなりません。その為にも、今この時間、一日一日をしっかり生活します。

 今日、改めて気持ちを引き締めました。そして社会復帰後も大石クリニックに通い、治療し、一生をかけて償い続けなければと思いました。今後も文通を通して治療の手助けをお願い致します。

 しばらく寒い日が続くと思いますが、どうぞご自愛下さい。失礼致します。
                                  草々
                平成27年2月20日  B

  ///////////////////////////////////////////////////

<鈴木⇒B>
B様
前略
Bさん、こんにちは。お手紙有り難うございます。24日に届き嬉しく拝読しました。
「被害者支援団体」の方の話を聴き、自分が犯した事件を被害者の立場で考える機会を持てたそうで、それは再犯防止に向けての大きな力になることでしょう。
 今年の6月頃から再犯防止教育が始まるそうですが、現在全国の刑務所での教育に導入されている「認知行動療法」の中にも「被害者への手紙を書く」というプログラムがあります。実際に投函して相手に送る分けではありませんが、そのつもりで、被害者に自分の今の気持ちを書く訳です。そして更に、自分がそれを読んだ被害者になったつもりで自分への返事を書くという教育プログラムです。その教育の折に、手紙に書くという形で今回の被害者への想いをより一層深める事ができるでしょう。それにより自分の中に潜む性依存症という病気の正体をリアルに認識し、それとの闘いを一層強く決意する機会となることでしょう。そういう病気と闘う自分を自分で励まし大切にして欲しいと想います。ある一つの物事を立場や角度を変えて見ると、全く異なって見えるものです。余談ですがこんな話を聞いたことがあります。北海道・網走の小学校での地理の授業中に生徒と先生の間でこんな問答があったそうです。

生徒:「先生、青森から向うのことをどうして東北地方と言うんですか?」
先生:「東北の方角の地方だから東北地方と言うんだよ」
生徒:「でも、先生、青森とか秋田、仙台・・・というのは網走から
見て西南の方角で、東北とは正反対の方角ですよ」
先生:「??うん、言われてみれば、確かにそうだな!!よく気がついたね。東京から西の人から見ると東北の方角になるから 「東北地方」という地方名になったんだね。そういうのを「固有名詞」って言うんだよ。一つの地方名だから北海道でも 
   「東北地方」と言っているんだよ」

この問答をBさんはどう想いますか?私は生徒の疑問に少なくとも一理はあると思います。東北地方も方角的な立ち位置を変えて見れば東北地方ではなく西南地方なるのは確かですよね。
 同様に、同じ一つの事件であっても加害者から被害者へと立場を変えて見ると、事件についての今まで気がつかなかった面が色々と見えて来ると思います。事件当時の加害者は衝動的な欲求に駆られているので、その時の被害者の思い=恐怖感、羞恥心、絶望感、悔しさ・・・等々には全く思いが及ばないわけです。でも、被害者の立場に立って冷静に事件を振り返って見ると被害者のそういう思いもクッキリと脳裏に思い浮かべる事ができるでしょう。その思いから自分を事件・犯罪へと駆り立て、操った(あやつった)性依存症という病気の存在を深く自覚できるでしょう。私は、Bさんという一人の人間の中に依存症治療に向けての3人のBさんがいると思います。

一人目のBさんは=専門病院や自助グループなどで性依存症という病気と闘うBさんです。
二人目のBさんは=病気と闘うBさんを支え励ますBさんです。
三人目のBさんは=上記の二人のBさんを生涯の立場から見守り、道から外れない様、必要に応じて助言をするBさんです。    
 
この3人のBさんがしっかりとスクラムを組んで一日一日の一歩一歩の道を踏みしめて歩み続けるなら、必ずや明るく希望に満ちた将来・未来が切り拓かれて行くと私は信じています。

 その最初の一歩である溶接の試験はいかがでしたか?どういう結果だったにしろ前に進む一歩に違いありませんので、依存症治療との二人三脚の形で仕事や生活の道を歩み続けて頂きたいと思います。                                
 
色々と取り止めなく書き連ねてしまい申し訳ありませんでした。寒い日が続く中にもどこか春の気配も感じる昨今ですが、花粉の季節にもなって来ておりますので、お体にはくれぐれも気をつけてお過ごしください。

草々
平成27年2月25日 
大石クリニック相談員鈴木達也