収監者との文通 Eさんからの手紙

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収監者との文通

Eさんからの手紙
大石クリニックHPトップページ
及び 当掲示板No.555~Eさんとの文通 参照

大石クリニック 鈴木達也様
前略
大変お世話になっております。今回は気分転換について書きたいと思います。
私の気分転換は、カラオケに行ったり、好きな音楽を聴いたり、好きなDVDを見たりする事です。たまにボーリングに行ったり、録画した深夜アニメを見たり、買い物に出掛けたりして、気分を落ち着かせたり、気持ちを盛り上げたりしていました。又、毎週末のカードゲーム大会に出て友人と交流を深めたり、ゲームを一緒にして楽しい時間を過ごしていました。
私の地元は田舎で、これらをするのにも車で出掛けなければなりません。でも給料が安くて大会以外はあまり出掛けられませんでしたが、今思えば大会もある程度気分転換になっていたと思います。ただ前の手紙にも書いたのですが、虚無感に陥ると、ゲームやDVDを見ても面白くなく、何もしたくなくなります。そんな時は風呂に入って早めに寝てしまいます。翌日は頭がボーっとして気だるさがあります。
時間が経てば徐々に良くなって、午後にはある程度普通になります。たまには2~3日と続くこともありますが、時間の経過と共に良くなって行きます。鬱かなと思う時もありますが、私にはよく分かりません。
社会復帰したら、好きな事を仕事にして、あまりストレスを感じないようにしたいと思います。地元には戻れないと思うので、ここから近い東京で働き口を捜したいと思います。働き始めは怒られながらだと思うのでストレスが溜まると思いますが、耐えてしっかり仕事を覚えて行きたいと思います。心配事と言えば、私はストレスを溜め込みやすいみたいなので、発散方法を学んだり、話を聞いて色々試してみたいと思います。因みに大石さんが行っているストレス発散方法や気分転換法は何をしているのですか? 参考に教えて下さい。お願いします。
寒さもかなり本格的になって来たので、体調には十分お気をつけ下さい。

          草々
11月18日 E
↓返書 

Date: 2012/11/27/10:32:49 No.839

Re:収監者との文通

Eさんへの返書
前略
11月18日付のお手紙、有り難うございます。
今回は、「気分転換」 をテーマとしてのお手紙でした。 カラオケ、音楽鑑賞、DVD,ボーリング、買い物、カードゲーム・・等々と沢山の気分転換法をお 持ちなんですね。趣味の少ない私にはちょっと羨ましい感がしています。
「気分転換」は、依存症への「認知行動療法」の一環として重視されており、当院の教育ミーテイングで使用しているワークブックでも「いかりの綱」 の項目で触れられています。「いかりの綱」とは、以前の手紙にも書きましたが、心が性犯罪や性的問題行動の方向に漂流しないように、心を繋ぎ留めておく為の色々な気分転換法のことです。ワークブックの当該ページを抜粋して同封しますので、ご一読頂ければと思います。このワークブックを≪読み・書き込み・書き込みを実行する事≫が即ち認知行動療法なんですね。
認知行動療法は、その効果が自助グループに匹敵すると言われ、いま全世界的な広がりを見せている治療法ですので、出所後も含めての治療法として頭に入れておいて頂ければと思います。
 
≪「気分転換」について、私の体験から≫
私は、学生時代に文学部で独文学を専攻しました。その関係で履修した第一外国語は4年間を通してドイツ語でした。しかし卒業後はドイツ語とは全く無縁の畑を歩いて来ましたので、ドイツ語で「飯を喰う」なんて事はほとんど考えられないと思っていました。ところが卒業後四半世紀を経て、アルコール依存症と診断され、治療を開始してからドイツ語に関する一つの転機が来ました。酒で失業し、そのまま断酒の為のデイケア通院となった為、会社勤務の頃に比して自分の時間が倍増したわけです。そこで、昨日まで酒を飲んでいた時間を飲まずにどう埋めるか?という問題に直面したわけです。仕事をせずに三食を実家と病院で無料で食べられて、その上、時間がタップリあるという状況下で、「これは第二の青春時代・学生時代ではないか!!」との思いが頭をよぎりました。そして改めて目前に再登場したのが独文科時代のドイツ語でした。「まてよ、ドイツと言えば伝統的なビールの国ではないか!さぞかしアル中さんも多いことだろう」→「同時に、ドイツ語と言えば誰もがまずイメージするのは医師のカルテであるように、これまた伝統的な医学の国だよね」→「しからばドイツのアル中事情は?どのくらいのアル中さんが居て、どんな治療をしているのだろうか?」・・・との一連のの思いが頭に浮かび、しからば、この第二の青春・学生時代にドイツの紙誌類からドイツのアル中事情を探ってみようと思い立ったわけです。ドイツのメデイアは私の期待に正面から応えてくれました。当時の日本では未だ誰も知らなかった飲酒欲求抑制剤の存在や、日本の2倍の断酒率を挙げている治療法などの情報を独語翻訳から得る事ができました。
この翻訳作業は、断酒後の空白時間の気分転換となり、私の断酒継続を支える一つの力になると同時に、現在の仕事にも役立っています。Eさんも多くの趣味をお持ちになっているようなので、それを「いかりの綱」として、イザという時の性的衝動に備えて頂ければと思います。ただ、出所後のDVDは性的刺激や衝動に繋がり易い側面を持っていますので、その点だけ注意した方が良いでしょうね。 

≪大石で行っている「気分転換法」≫ 
お手紙の最後で「因みに、大石さんが行っているストレス発散方法や気分転換は何をしているのですか?」とのお尋ねですが、治療プログラムに様々な気分転換転換法を導入しております。内容的には、スポーツプログラムとしての、ソフトボールやバレーボール、卓球などを横浜市内の公的施設を借りて実施しております。又、毎週1回のウオーキングを港横浜の景勝地や散歩道、主要な公園などで行っています。更に、依存症に加えての心身の障害を持っている患者さん向けの家庭的なデイケアも設けており、そこでは年2回のバス旅行や秋のぶどう狩り、年末のクリスマス会などを患者さんの自治会主催で行っております。これらのプログラムは、依存症治療にとって「気分転換」が大きな比重を占めているからこそのものです。

 長くなりそうなので、今日はこの辺で失礼します。季節はいよいよ本格的な冬に向かおうとしております。風邪などひかないようお身体くれぐれもご自愛下さい。次のお便りを楽しみにしています。
        
                      草々
       平成24年11月27日
        大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2012/11/27/11:00:16 No.840