収監者との文通 Cさんからの手紙
収監者との文通
Cさんからの手紙
大石クリニックHPトップページ
及び 当掲示板No.555~Cさんとの文通 参照
大石クリニック相談員 鈴木達也様
前略
平成24年10月14日付のお手紙、18日に届きまして、拝読させて頂きました。相談員としての鈴木さんが、毎月、私に犯罪を犯させないようにアドバイスをされている事に感謝しています。
アルコール依存症者の自助グループであるAAの標語の 「ゆっくりやろう、でもやろう」 (ゆっくり。ゆっくりで良い、兎に角、前に進んでさえいれば)で思いついた事があります。それは、昔テレビのコマーシャルでやっていた、モービル石油のコマーシャルソングで、「のんびり行こうよ俺達は、あせって見たって同じこと」 とあったのを思い出しました。 依存症者は治療に長い日々を要するので、今更あせっても仕方ない、地道にコツコツと前に進むことが大切だということを知りました。
そこで、仏教話ですが、お釈迦様も、「己心の中の悪魔」と闘ったと言われます。修行中に悪魔に出喰わし、見事に降伏させたと言います。この己心の中の悪魔というのは、何も実態のあるものではなく、心の中に起こる 「はたらき」などを含むそうです。私の場合に当てはめますと、「自分の心の中に、知らず知らずのうちに、性的欲望などの思考が思い浮かぶ時の心のはたらき」が 悪魔だということでしょう。言葉に、「魔がさす」 (魔に魅入られて悪い心を起こす)とあるようなことだと思います。鈴木さんも言われますように、「悪魔の声」に負けず、「転ばぬ先の杖」の対応策が必要だと、つくづく感じさせられました。
≪それでは、前回の続き、残りの問いについて≫
③:再犯を繰り返した場合、10年後、20年後の自分はどんな自分になっていると思いますか?
④:再犯を防止し続けた場合、10年後、20年後の自分はどんな自分になっていると思いますか?
③の答え:再犯を繰り返した場合の10年後の自分の年齢は、現在52歳ですので、62歳、20年後は72歳で。私の父親は現在81歳 ですので、20年後は101歳です。再犯して、刑務所生活をしている間に父親の死に目に合えない可能性が非常に高いです。もし、
そうなった場合、一生涯、悔いを残すであろうし、自分自身の年齢から老後のことも心配になるだろうと思います。(悔いの残る自分になる)
④再犯を防止し続けた場合の10年後、20年後の自分はどうか?についての答え:再犯防止なので、親の死に目に会えないことはなく、自分の為に良い事だらけです。天文の資格や仏教の試験を受け、母校での講話の楽しみなどを全うすることが出来ると思います。そして、何よりも不自由な刑務所へ行くことなく済みます。そんな事が自分の10年後、20年後の再犯をした場合と防止した場合の答えとしておきます。かなり難しい問題だったと思います。
その他の事で一言:以前に私は、岩波新書の 「心と脳」 安西祐一郎著 について書いた事がありましたが、その同じ本に次のような事が書かれていました。 「人は意識して考えているだけでなく、むしろ、大脳基底核などの働きに支えられて、意識に上らずに思考している部分が相当に大きい」 とありました。これは、人は、意識して良い事や悪い事を思ったり、考えたりするだけでなく、大脳基底核などの働きに支えられて、意識せずに思ったり、考えたりする部分が相当にあるということなのでしょうか? つまり意識する事と意識せず(無意識・咄嗟的・知らず知らずのうち・衝動的)に、大脳基底核で意識せず思考する部分が相当あるということでしょうね。意識しなくても湧き起こる自分のものであり他人のものではない己心の中の磨性との闘いがひつようなのだと思います。そういう磨製をどのように克服するかが鈴木さんからの問答への私の返事の中に現れてくるのだと信じています。それで再犯の無い幸福な人生を築きあげたいと思います。
≪天文講話≫ 地球から一番近い恒星と題して
一般的には、地球も星と呼んでいるのですが、大別すると次の様になります。
星ーー 恒星・・・自ら光を放つ星。太陽など
惑星・・・自らは光を出さず、恒星の周りを回る天体
衛星・・・惑星の周りを巡る天体
小惑星・ 火星と木星の間の、アステロイドベルト地帯に多く分布し、惑星になれず、太陽の周りを回る小天体
彗星・・・太陽系の外れの奥にあるオールトと
呼ばれる彗星の住みか。ほうき星、
ハレー彗星など
準惑星・ 冥王星 2006年8月 新しく「準惑星」とされた。
その他にも色々と分けられておりますが、これらが基本的なものです。 地球から一番近い恒星は、ケンタウルス座の惑星であると言われています。地球からの距離は4,3光年(キロ数にして、40兆キロちょっとであるという。天文年鑑の326頁参照) マイナス50度と書いてある付近にα星があると思います。 10月の幾日だったか?新聞を見ましたら、この星ケンタウルス座アルファー星だったと思いますが、この近くに地球の1.31倍の重さの惑星が見つかり、恒星の周りを3日で公転していると発表され、後に英国のネイチャー誌に掲載するとありました。もしかすると生命の誕生があるかも知れないとされていました。何せ遠く、光の速さでも4年3ヶ月もかかり、それでも地球から一番近い星ですから、遠い星までの距離となると計り知れませんね。この計り知れなさと同様に、我々の身体の中のDNAも宇宙大の計り知れなさを有しているような気がします。又、我々の脳や心の構造、仕組みから起こる思考なども幅広く、複雑であり、不思議ですね !
それと、鈴木さんの手紙に載っていた月面の写真をよく見ますと、なるほどランドセルを背負う小学生に見えますね !
それから、最後になりますが、天文年鑑の本で、ちょっと 「おかしいな」と思った箇所があります。それは天文年鑑の最後のページの「月齢カレンダー」を見て欲しいと思います。今年の12月31日は月曜日になっています。そうしますと、来年の1月1日は火曜日になる筈ですが、天文年鑑の暦表の1月1日は日曜日になっていますが、出版社(誠文堂新光社)の印刷ミスなのでしょうか?
次回は、「銀河系と銀河系外」 と題してお話しします。 次回の鈴木さんの「問」を楽しみにしています。 それではこの辺で失礼します。少しづつ寒さが増して来ています。今月は「霜月」で、霜の降りる寒さです。どうか、風邪などひかないように気をつけて下さい。
草々
平成24年11月6日 C
↓返書
Date: 2012/11/13/14:27:09 No.836
Re:収監者との文通
Cさんへの返書
C様
前略
11月の定期便、11月10日に届き、嬉しく拝読しました。
お手紙の冒頭での私への謝意の言葉も嬉しく読ませて頂きました。毎月の私からの「問い」にCさんが「答え」 られていますが、その答えというのは、Cさん自身が既に無意識の内に思考していた答えだと思います。そう、お手紙に書かれていたように大脳基底核の働きに支えられて、無意識の内にCさん自身が既に考えていた事が「問」への「答え」として意識化されて, 「答え」として表れたと言って良いでしょう。
私、このCさんの無意識思考の話を読んで、依存症者間のミーテイングになぜ依存を止める効果があるのかの一つの答えを見つけた感がしています。これも私の無意識思考の意識化かなとも思っています。
どういう事かと言うと: 依存症は「苦しかった事を忘れる」 病気とも言われていますが、完全に忘れてしまうわけではないんですね。 ただ自分一人では思い出せない記憶が頭の奥深くで眠っていたわけです。 その半分忘れ、眠っていた記憶がミーテイングでの仲間の共通体験を聴いて、「あぁ、そう言えば俺にも、私にもそんな事があったなぁ」と思い出せるわけです。そして、それが、断(酒・薬・ギャンブル・性衝動/犯罪)の動機を維持する力につながっていると言って良いでしょう。
実は、Cさんから今回の手紙が届いた丁度その時、ある依存症受刑者方からの手紙への返事を書いていました。その方は、出所後、何としても依存と手を切りたいとの思いで、今刑務所内での依存症ミーテイングに参加しているそうなのですが、「ただ聞くだけ、話すだけのミーテイングの意味が分からない。自分としては、依存を止める為の具体的な方法を知りたいのに・・・」と手紙に書いていました。そこで、返事の手紙に、ミーテイングの意味、それが何故効果的なのかを書いていたわけです。 正に丁度その時に、返事の文面への良い知恵が天からの授かり物の如く、目の前に差し出されたわけです。その差出人がCさんだったわけです。その方への返事の中に、上に書いた大脳基底核の作用とミーテイングの関係、つまり無意識思考を意識化するミーテイングの効果について書きました。この話は今回の受刑者への手紙に留めず、今後の機会ある毎に患者さん達に話したいと思います。特に、治療を始めて間もない患者さんの場合、例えば、「医者でも止められなかった俺の酒を、同じアル中患者の話でどうして止められるんだ?」という疑問を持つケースが多いんですよね。ですから、本当に良い話を頂き有り難うございました。
前回の手紙で、AAの標語 「ゆっくり、やろう。でもやろう」について書きましたが、テレビCMも思い出しながら、よく理解して頂けたようですね。これと類似して、「今日一日」というAAの標語もあります。「今日一日」だけ飲まなければ良いのだ」という考え方です。明日になれば明日が今日になって、やはり「今日一日」だけ・・」 となり、それが1ヶ月、2ヶ月・・・半年、1年、2年、・・・と続いて断酒が継続されるという考え方です。目標を「今日一日」に限ることで気が楽になり、その気楽な一日一日を積み上げて行くわけです。
お手紙で、「『悪魔の声』に負けず、「『転ばぬ先の杖』 の対応策が必要だとつくづく感じさせられました」と書かれていますが、この文通で今日までに勉強して来た、「引き金」への対応や「いかりの綱」 などが 「転ばぬ先の杖」 になると思いますので、忘れないようにしましょうね。
問答~③、④にも答えておられますが、他の誰でもないCさん自身の答えだと思いますので、これも忘れないように心の中に大事にしまっておいて下さい。忘れない為の一番良い方法は、出所後、仲間とのミーテイングに出て、大石との文通でこんな答えを手紙に書いたと話し続けることだと思います。話し続ければ忘れようとしても忘れられませんからね。
さて、それでは今月(11月)の問答です:9~10月の問答は、性犯罪と自分との関係についてでした。それに続いて11月は、自分が犯した事件と、それに関連した他の人達との関係について考えて見ましょう。
「問い」 : 「被害者、その家族、自分の家族は事件に対してどんな思いをしたでしょうか?そして今どんな思いをしているでしょうか?」
この答えを考える時、必然的に、他人の立場に立って自分が起こした事件、犯罪を考えることになります。この思考は他人の人格を尊重する思考ですが、それを習慣化することが再犯防止への一つの大きな力となることでしょう。今回の問答をその第一歩にして頂ければ良いなと思います。
天文講話:今回も興味深く読ませて頂きました。特に、地球から4,3光年のケンタウルス座α星付近の星に生命が存在するかも知れないとの話は私も注目し続けたいと思います。しかし、それにしても、この地球から一番近い恒星でも光速で4,3年かかるとの事で、宇宙全体の無限と言ってもよいほどの広大さには改めて圧倒されるような思いがしました。
Cさんにも、やはり月面の小学生が見えましたか ! このように何かを見て何かをイメージするのもけっこう楽しいものですね。これからは散歩しながら空を見上げて、そこに浮かぶ雲の形を見ながら、色々にイメージするのも楽しいかなと思っています。
最後になりますが、「天文年鑑」の2013年版がそろそろ出る頃ではないか?と思うのですが、私の分も含めて2冊購入しておきましょうか? 来月のお手紙でご返事を頂ければと思います。
立冬も過ぎて、だんだん寒くなりますので、お身体をご自愛ください。 来月のお便りを楽しみに、今回はこの辺で失礼します。
草々
平成24年11月14日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2012/11/13/20:43:15 No.837
-
前の記事
Eさんからの手紙 2012.10.19
-
次の記事
収監者との文通 Eさんからの手紙 2012.11.27