収監者との文通 Aさんからの手紙
収監者との文通
Aさんからの手紙
大石クリニックHPトップページ
および、当掲示板:投稿No.555参照
前略
先日は御多忙の中、お手紙を頂き大変ありがとうございます。
地震の被害は、そちらの方は大丈夫でしょうか。私の方は何というか、比較的に安全な刑務所の建物内に居たので大きな被害はありませんでした。ただ大きな揺れで、少し不安になったのも事実です。
私の居る刑務所は、テレビは殆ど録画された番組ばかりで、情報があまり無く、それも不安を増大させる一つでした。今日は13日の午前中で、生の番組を見ているので、やっと現在の状況が分かってきたところです。こちらでも震度5強ということでしたが、横浜もきっと大きな揺れがあった事と思います。震源地に近い宮城、福島などは津波の影響で家屋が崩壊しており、自然災害の怖さを思い知らされました。こんな時に、私は刑務所に居て食・住の心配が無いのは何とも皮肉な事だと思います。被災地の方々には、これから大変ですが、頑張って行って欲しいです。私が出所する頃には何も手伝えような事は無いかも知れませんが、何か出来る事をしたいと思っています。
こんな時に私的な事で申し訳ないのですが、まず簿記2級の結果が出ました。結果の方は残念ながら不合格でした。あと1問合っていれば合格という微妙な結果でした。テストを受けていて思うのですが、受ける度に問題が難しくなって来ていると思います。私が持っている過去問と比べると、今までの傾向と全く違う問題が出ています。私の持っている参考書にも載っていない問題もあり、自分で答え合わせが出来ないため、次回に向けての勉強ができず、次回は合格出来るのか?という不安もあります。ですが、新しい参考書を買うお金も、手元に届く時間も足らず、外に差し入れを頼める友人もなく、今ある参考書でもう一度頑張るしかありません。手元に届く時間が足りないというのは不思議だと思うのですが、この刑務所では本の申し込みが毎月5日と20日なのですが、注文してから手元に届くまで50~70日くらいかかります。差し入れだと4~5日くらいで手元に着ます。今から注文しても次回テストの6月までの勉強に間に合わないのです。でも何とか次回の合格目指して頑張ります。
出所後の住居なのですが、前にも書いたように帰住地は決まっていません。出所日は、満期で ○月○日ですので翌日の○日には大石クリニックへ行こうと考えています。ですが、もし仮釈放となると栃木か新潟に行く事になると思います。残念なことに、まだどちらも決まっていませんが・・・。でも満期日が来たら保護会も出ないといけませんので、何にしても○月○日か○日には大石クリニックに行きます。ただ恥ずかしい話なのですが、今の私にはまとまったお金がありませんので、直ぐに部屋を借りる事もできません。みなとクラブというのがどういうものなのか分からないのですが、お言葉に甘えさせて頂きたいと思います。○月○日か○日には必ずそちらに行きます。どうかよろしくお願いします。
刑務所の処遇も新しくなり、電話が出来るようになりました。今の私だと親族だけなのですが、自分の処遇が上がれば友人、知人にも電話ができるようになりますので、その時には是非大石クリニックに電話を掛けさせて下さい。色々とお話ししたい事もありますので、どうかその時はよろしくお願いします。
地震の安否と簿記の報告、みなとクラブの事のみ書きました。地震の被害が少ないよう祈っております。また手紙を書きますのでその時はよろしくお願いします。
お身体を御自愛下さい。では失礼します。
草々
平成23年3月13日(日)A
↓Aさんへの返書
Date: 2011/03/27/17:33:24 No.634
収監者との文通
Aさんへの返書
↓No,634より
A様
前略
3月13日付のお便り、嬉しく拝読しました。有難うございました。
地震は、そちらも大きな揺れだったようで、さぞ驚かれたことでしょう。こちらもそちらと同じ震度5強の強い揺れでした。私は大石の3階で勤務中だったのですが、あまりの揺れに急いで机の下に潜り込み、収まるのを待っていたのですが、揺れ幅の広い強い揺れが長く続き、一瞬、これが以前から言われている東海地震かと思ったほどでした。でもお互い怪我も無く何よりだったと思います。大石も自宅も無傷でした。ただ被災地で亡くなられた方々や、まだまだ冬の寒さが残る東北の被災者の方々の避難所での暮らしを思うと本当に胸が痛む思いがしています。ただただ一日も早い復興を祈るばかりです。
さて、先ずは院長からの伝言から書きます。
「出所後の住居は必ず確保出来るので、資金の問題も含めて心配せずに、残りの刑期をしっかり務め上げて下さい」
との事です。
簿記2級試験の結果は残念でしたね。でも、合格を目指して努力された事に大きな、大きな意義があると思うのです。色々と制限の多い環境の中で、それでも目標目指して頑張られた事で、その結果とは別に、努力に応じた力が身に付いている筈です。困難にめげず一歩一歩と前進する力、それは簿記の資格に勝るとも劣らない、今後の人生を生き抜く力となるでしょう。公認会計士試験は司法試験に次ぐ難関国家試験と言われています。それに挑戦する力も今の困難の中で培われていると思うのです。そして何よりも先ず、誘惑に負けない克己心を培われていると思うのです。その意味で言えば、今回の試験には合格出来なかったとは言え、決して無駄な努力ではなかったと思います。やがてやって来る自由な環境の下で思いっきり勉強できるようになった時に、今培っている力が芽を出し花と咲くことでしょう。その時の為にも地道な努力の一日一日を一歩一歩と歩んで頂ければと思います。
自分の話をさせてもらえば、私は遥かいにしえの学生時代に文学部・独文学を専攻しました。卒業後は専攻とは全く異なる道を歩んで来たのですが、16年前に今の業界に身を投じてから、昔の独文科時代を思い出しながらドイツのアルコール依存症に注目したわけです。ドイツと言えば、一方では伝統的なビールの国であり、他方ではやはり伝統的な医学の国でもあります。しからばドイツのアルコール事情は? 依存症人口は? 治療は?との思いが出発点になって、アルコール問題を扱ったドイツ紙誌の記事に注目しました。もちろん単語は殆ど忘れていましたので、辞書と頭の中に何とか残っていた文法の枠組みだけを頼りに時間をかけて読み漁りました。でも辞書に載っていない単語(専門用語、新語、造語、外来語 ・・・)も多く、何ともチンプンカンプンという独文に遭遇することも珍しくありませんでした。そういう時どうするか?と言えば、悪く言えば、「でっちあげ」なんですね。あくまでも趣味であって責任を問われる翻訳が求められていたわけではないので、それが可能だったわけです。文章の前後関係から、多分こんな意味であろう。前後関係で辻褄が合えば良いといった訳をつけたのですが、それはそれなりに思考力を養うという意味で決して無駄な努力ではなかったと思っています。翻訳コンクールにでも応募すれば確実に落選する翻訳で、試験なら不合格になる翻訳なのですが、それでもそれなりに翻訳という枠を超えた力に繋がっていると思っています。
出所後、即、大石に来て頂けるとの由。それが一番です。ギャンブル・バカラを止めたいという本当の自分に対して、それを妨害する病気=依存症が存在しています。そして出所のその時こそ病気が暴れだす絶好のチャンス(本当の自分にとってのピンチ)なのです。それを先読みして、病気の先手を打って大石に直行するのが最も賢明な策であり、そこに以前の出所との決定的な違いがあると言えるでしょう。
出所後の住居の問題ですが、院長にAさんの手紙を渡しながら相談したところ、早速、みなとクラブに予約の問い合わせをするようにとの指示と、冒頭に書いたAさんへの伝言がありました。
刑務所の処遇も時代の流れの中で暫時改善が進んでいるようで、外部(親族)との電話も可能となったとの由、良かったですね。早く大石にも電話できる日が来れば良いですね。楽しみにお待ちしています。なお、院長は、土・日が休日で、私は日・月が休みとなっておりますのでお含み置き下さい。
3月も末となり、桜が咲くのももう目前となり、暖かい春の日差しが直ぐそこで待っていますが、悪い風邪にも油断なくお体をお大事にお過ごし下さい。今日はこの辺で失礼します。
草々
平成23年3月29日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2011/03/27/17:25:09 No.633
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