3年  大石CL外来通院 ぼけ之介(仮名)

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 3 年 
         大石クリニック外来通院 ぼけ之介(仮名)
飲まない日々が続いている。
家の中に穏やかな空気が流れている。
妻は、笑っている。
 
 今年2月に2歳年下の友人が、3月には大石のスタッフだったAさんが、いずれもガンで亡くなった。
3月6日の午後、Aさんの病室に入ると、彼は目を開けて、細くなった左の腕をベッドの柵越しに伸ばしてきた。その手をとったが握り返す力はなかった。眠り続ける頭に手を当てていると、赤子のような柔らかな温もりが伝わってきた。その夜に亡くなったと後で聞いた。
 「飲まずに死んでいくことが、俺の最後のメッセージだから・・・」と言っていた姿を思い出しながら。葬儀場から駅に続く長い橋の上を歩いて帰った。晴れ渡った空の下を強い風が吹き抜けていった。
 3年やめてみなさいと言われて、その時にはどんな風に生まれ変わるかと思っていたが、蝉や蝶のようなわけにはいかず、さしてかわりばえのしない自分があるばかりだった。なんだ、つまらないとも思うが、こんなものかなとも思う。
どこかに置き忘れてきた幼年期の自分を、この3年間探しに行っていたような気がする。
やっかいな自分を、このまま丸がかえにして生きてみようかと思う。