Kさんからの手紙

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Kさんからの手紙

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及び 当掲示板No.555 以降Kさんとの文通参照

前略
 先生!! 返事ぜんぜん遅くないので気にする事も無いです。身体は一つしかないんだし、反対にホイ・ホイなんてすぐに返事が来る方が考えてしまいます・・先生は他にやる事が無いのかな~なんて・・・
 質問への答え、ありがとうございます。カングリなんて心と脳の病だから病院行きですよね~ 彼にはクスリやアルコールと手を切って、先生が居る病院に行くように言いました。あと、自分自身をもっと信じるようにと・・・
 
大変に変わった事がありました。
一つ目:進級して3類になりました・・・4・3・2・1と階級が上がって行くんですけど、初めは半年、次は1年という具合に上がって行きます。当然、無事故が条件ですよ。4類と3類ではどう違うか?・・まずTVを多く見られる。なので俺の居る雑居は他の房より少々お得ってところかな ! あと、手紙の発信回数も多くなります。月/4回から月6回になります。1通書くのが1日ががりなのに・・・土曜日が足りない。日曜日は映画なので・・・
 あとは日用品かな! 自分のサンダルが買えたり、写真立てが買えたりとかかな! 大変お待たせいたしました。1番の得点は!月に1回! お菓子と飲み物を食べられ、飲めるんです。400円分ぐらいだったと思うんですけど・・・コーラ1本にシュークリームとか!? エクレア、チョコパイ、せんべい、コーヒーなどなど、コンビネーション色々と・・・ 
 今月の予定としては23日かな!? ああ~ ~楽しみだな♪ 何が出るのか?~いい年してなんて先生は思うかも知れませんが、中ではこれが正直な姿です。俺なんて普通以上に外では駄菓子やクッキー、ケーキなど食べていたので、余計に嬉しいです・・・外の味と比べたらダメですよ。ここではここの味を堪能?
官能? 感応? するだけです。その味ももう終わりにしたい。何を食べても、いくつ食べても、駄菓子屋の50円には!! でも美味しいのよね~
 二つ目は:部屋の人間が全員入れ替わった事です。罰に行く者。独居に行く者、仮釈で出る者と、バタバタと入れ替わりました。現在、新しいメンバーで居るんですけど・・・それがですよ! 全員ポン中ですから大変です。3人中2人が再犯で・・・(俺も含む)・・もう懲りたんですが、若い初犯はそうは考えないようです。事実、俺も昔はそうでした。なので彼の気持ちはよく分かります。まあーいずれ彼も気付く事になると思うけど、明日・明後日の話ではないと思います。んな感じで、日々お薬の話は絶えません。まあー俺も悪魔のような奴なので、彼には心がドキドキするような話をしてあげています。また興味が出るような話とか! 経験上話は豊富なので、面白おかしく話をしています。
 俺の話を聞いて彼がどう受け止めるかですよね。イヤだと思うのか? のぞいてみたいのか? イヤだと思い少しずつ離れて行けば良いんですけどね! 知り合いの知り合いということもあるので、1日も早く気付いて欲しく彼には思います。
 三つ目、ラストは:大した事ではないんですが、仕事内容が変わった・・・良くなった?・・・今までは座ったまま袋を折っていたんですが・・・今は少し立って歩けるようになりました。ただし仕事的にはメチャメチャ忙しくてボーっとしているヒマはないですけどね!

先生! 以前たびたびザイルパートナーなんて言葉が出て来ましたけど、これって、もしかしてエグザイルの仲間ですか? 近頃は岡ザイルなんてのも居るけど・・・彼らとは一緒に死ぬ気にはなれないよね! 先生! もしかして山岳部出身とか? よくは知らないけど、山男の命をつなぐロープの事なんでしょう。彼らの間に有るのは、目に見えない信頼感と目に見えるハーケンとロープだけで命を預ける・・凄いよね。何でこんな話をしたかって? TVでエグザイルを見たらザイルという言葉を思い出したんです。ところで、どうなんですか? 先生は山男? イエテイなんですか? ロッククライマーとか? なんか少し気になります。もし山男として! 聞いてみたい事が一つあります。目の前に山が有るから登るのか、それともチャレンジャーとして挑戦するのか、どっちですか? ヘリで山頂に行けば時間も労力使わないで良いのに、なぜ? 毎度毎度の事なんですけど、福の話しにしてもそう、殆どは自分の答えは出ている。俺はチャレンジャーとして山に行くと思う。悪いクセですよね、人に聞いて確かめるというのは。

そろそろ昼ごはんかな~ 心の準備じゃなくて、食事の準備をしなくては・・・
今一人だし、皆さんカゼで入病なんです。何をかくそう俺が一番先にカゼをひき皆にうつしました。なので先週はずっと入病してました。ナゼですかね! カゼをひくと重病になってしまう。でも、もうOK~、1週間も寝たら治ってしまいました。

 あ~あ、こんなに晴れた土曜日なんて、子供を連れて?、子供に連れられて?多摩川の河口や、みなとみらい周辺を偵察がてらに散歩したいですね。
 もしも今、こんな選択肢が二つあったら・・・
①:警察には捕まらないという事で1日中薬をして遊ぶ
②:1時間だけ釣りができる
何も考えることなく、①番! 違う違う、釣りを取ります。今は薬の事を藁っていられる。これも先生をはじめ、Jokerようこ・弁護士先生のお蔭です。俺は本当にJokerをひいたような気がします。2枚のJokerを持っている俺は、あとは俺がAceになれば良いと・・・このまま薬の事を笑って居られるように居たいです。小学校、中学校と俺が先生と呼ぶ人は2人居ました・・・先生達も数えるとこれで4人かな! その先生ね、俺に学問の一つも教えてくれませんでした。俺が悪さをしても怒る事はなく反対に笑っていました、なぜそれがイケナイ事なのかだけを教えました。お前は頭が悪いから勉強よりも生き方を教えてやるって言われ、学校では寝てました。夏休みはずっと先生の家でしたけど・・・
 なぜか、その先生を思い出したので書いてみました。一生のうちで先生として俺の中に残るのはこの4人だけでしょうね!! チャンチャン
 中でもインフルエンザは流行っています。てっ事は外はもっと凄いでしょう。そんなインフル菌には注意して下さい。インフル菌はお疲れ身体が大好きだし、スキを見せたら入り込んで来ますよ。体調管理は十分にして下さい。十分過ぎるという言葉はないからね!
 それでは又、次回は桜の花の咲く頃に・・・  See you

春の陽射しが香る土曜日に             
草々
↓返書

Date: 2012/03/29/13:57:33 No.738

Re:収監者との文通

Kさんへの返書

K様
前略
 お言葉に甘えて、お手紙を頂いてからもう10日以上が過ぎてしまいました。この間、大石の仕事と並行しての断酒会機関誌作成の最終コースに追われていました。それも印刷会社との最後の打ち合わせを残すのみとなり、ようやく峠を越えた思いがしています。

 3類に進級したとの由、これも、事故無く真面目に務められたからこそと私も大変嬉しく思います。先日、他の受刑者の方からも「3類に進級しました」との便りが届きましたが、やはり、月の手紙の回数が増えたとか、映画を見ながらお菓子を食べられるようになった、日用品が買えるようになった・・・等々の待遇の改善への喜びの文面が綴られていました。外の世界では日常的な当り前の事でも、中でそれが制限されていたのが緩和されると、やはり喜びは大きいものですよね。その喜びの大きさはよく分かります。
 私自身も、昨年秋に軽い病気で入院し1週間ベッドに拘束された後の退院の時の解放感の味は今でもよく覚えています。人間の感覚というのは不思議なもので、ごく平凡な日常生活でも一旦失った後に取り戻すと大きな喜びを感じるものですね。そういう喜びを大事にして、ごく平凡で普通の生活の中にある価値を見失わないようにしたいものです。警察に捕まるような薬の無い生活、アル中患者にとっての酒の無い生活・・・それは普通の人にとっては何の変哲も無い平凡で当り前な生活に見えても、薬や酒の依存症患者にとっては、かけがえのない幸福な生活と言って良いでしょう。私も、断酒生活に入ってから、酒で失った色々なものを一つずつ取り戻して来たと思いますが、その一つ・一つに断酒前には感じなかった貴重な価値を感じ、味わっています。健康や、住む家、仕事、友人、信用・・・等々に、酒で一旦は失ったが故に、その大事さを心底から痛感しています。

 部屋のメンバーが総入れ替えになり、今度は全員がポン中、つまり薬物依存者ですか ?! ・・・ウーン、どんな部屋になるんでしょうね。その中にあっての若い初犯者への、気づいて薬から離れて行って欲しいとのK
さんの思いを大事にして欲しいと思います。でも、この「気づき」というのに時間がかかるんですよね。薬で何度も痛い目にあっても、一方で薬の誘惑があるが故に中々気づき難いんですよね。薬物とは兄弟関係にあるアルコールに依存していた私には薬による「痛い目による反省」と「誘惑」の力関係はよく分かる気がします。相撲に例えれば、「反省」は「序の口」で、「誘惑」は「横綱」なんですよね。依存症という病気の為せる業で、アルコール依存も薬物依存も共通していると思います。だからこそ、依存症者が本当に薬や酒を止めようと思ったら専門治療が必要なのだと思います。薬や酒は身体に悪いからと思うだけでは止め切れず、せいぜい三日坊主で終わってしまうのが殆どと言って良いでしょう。
 最近の依存症治療には、「認知行動療法」とか、「動機づけ面接法」といった新しいカウンセリング法も導入されており、世界的規模でも大きな成果を挙げているようです。今度、Kさんが刑務所内で受けられるという薬物教育もそういうカウンセリング法に基づく教育だと思いますので、是非期待して受講して頂きたいと思います。

 私が、断酒(薬)仲間の間の関係について「ザイルパートナー」という言葉を多用したところから、私が「山男か?」とのお尋ねですが、答えは残念ながら「No」です。「そこに山が有るから登る」という思いとは無縁で、「そこに酒が有るから飲んだ男」と言えば正解でしょう。でも、断酒後は、山でのザイルパートナーとは別に、断酒山を登り切る為に断酒仲間をザイルパートナーにして来たのは確かだと思います。再飲酒をしない為に、万一飲んでしまっても酒の深みに陥らないように、断酒仲間と心を支えあうという意味で心のザイルで心を繋ぎあった相手はもう両手の指では足りない数になっています。
 ところで、「ザイルパートナーって、エグザイルの仲間ですか?」との、Kさんのいつもながらのユーモアには、つい爆笑してしまいました。笑いは健康の素と言うので、この種のユーモア、と言うか、ギャグというか・・これからもよろしくお願いします。
 原語で書けば、「EXILE」(英語)と「Seilpartner」(独語)でスペルは全然違うのですが、なるほど、日本語で表記すると同じ「ザイル」になりますね。そして、もう一つ共通面と言えば、両方ともチームワークが基本というところでしょうか。

 それと、小・中学校時代の先生と、担当弁護士の先生と並べて私を4人目の先生にして頂き、恐縮やら光栄やら、はてまた気恥ずかしいやら・・何だか複雑な思いがしています。私の場合は、大学の卒業証書以外には特に資格も技術も無く、「先生」と呼ばれる中身の無い人間で、強いて言えば、Kさんより(先)に(生)まれたという意味では確かに「先生」なのかな?なんて思っています。あと強いて資格と言えば、「神奈川県酒害相談員」という県準職員の資格は持っていますが、この資格を得る為に先ず必要な事は何だと思いますか? 
答え=先ずは、自分自身がアル中にならなければなりません。(笑)
今、(笑)と書きましたが、冗談ではなくて真面目な話で、「アル中でも断酒出来るし、断酒すれば回復できますよ」と医学の教科書に書かれている事を現実の生の姿で証明する為には、先ずは自分自身がアル中にならなければ不可能な訳です。依存症とは無縁の一般の人には絶対に出来ない事です。同じ事がポン中というか、薬物依存症からの回復についても言える訳です。アル中、ポン中になってしまった事自体は過去からの結果なので、もう仕方がない事で、今更どうにもなりません。問題は現在から将来への生き方が大事で、依存症の現実を認めた上で、依存症になったからこその世の中に貢献できる生き方として、県酒害相談員としての生き方に大きな意義を感じています。
 毎日、同じ部屋の同じ(・v・)顔ぶればかりとの話だけでは飽きてしまうかな?と思って、ちょっと変わった話をしてみました。

 3月ももう末で、こちらではそろそろ、桜が咲き始めます。待ち望んだ春がやって来ますが、風邪や花粉も怖い季節なのでお互い身体には重々気をつけたいですね。今日はこの辺で失礼します。
                     草々
          平成24年3月30日
          大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2012/03/29/15:25:50 No.739