収監者との文通 Eさんからの手紙
収監者との文通
Eさんからの手紙
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大石クリニック相談員 鈴木達也様
お手紙ありがとうございます。
保育士の道は険しい道のりですが、諦めずに目指して行こうと思います。ただ、教育の時に保育士の資格取得を目指していると少し話をすると他の人から驚きの声があがり、「またやってしまうのではないか」、「子供に近づくためとしか思えない」、「もっと別の道があるのではないか」等と批判を受けました。確かに私も当初はそう思いました。でも、何十年後には虐待を受けた子供の保護や、望まれずに生まれた子供を預かる『命のゆりかご』的な施設を作りたいと思っているので、その第一歩が資格取得という訳です。その施設を作った後は方針等を変えない事を条件に私の選んだ信頼できる人に任せて私自身は身を引きたいと考えています。
お手紙の中で「2年間は保育士登録できない」とありましたが、アルバイト等で働くことも出来ないのでしょうか?そうなると、受験できるようになるまで3年、一発合格で約4年、2年計画で約5年となり、更に働けないという事になれば、更にプラス2年となって最悪で7年近くになって途中で投げ出してしまうのではないかと不安になってしまいます。でもここで諦めたり、反対されたから辞めるとなると何の為に色々調べたのか、使った時間を無駄にしてしまうので私自身の信念を貫き、じっくり腰を据えて進むべき道と思い頑張って行きたいと思います。そして一生の仕事として考え、子供を守れる施設を作り、命が尽きる時、「あの時周りの批判があって辛かったけど良い選択をした、間違ってなかった」と思える人生にしたいと思います。
前回の手紙で、「工場の雰囲気が悪くなっている」と書きましたが、あの後同じ思いをしていた人と話し、「今はそうかもしれないけど、自分達がしっかりやっていれば自ずと良い方に行くよ」との結論が出て、真面目に取り組んでいると本当にそれ以上悪くなる事はなく良い方に向かったので、長年工場にいる人は違うなと感心しました。また良きアドバイスを頂き本当にありがとうございました。
立秋を過ぎ、残暑厳しいですが、お見舞いを申し上げますと共に、屋内で熱中症にならないよう体調管理にお気をつけてお過ごし下さい。私も十二分に気をつけたいと思います。
草々
8月10日日 E
Date: 2013/08/19/15:57:23 No.963
Re:収監者との文通
Eさんへの返書
E様
前略
立秋を過ぎ残暑という名の猛暑、酷暑が続いていますが、お元気でお過ごしでしょうか?お手紙8月17日に届き、保育士に向けての強い決意に満ちた文面をたのもしく読ませて頂きました。お手紙の公開によって、同じ病気に苦しみつつ新しい人生を模索している全国の多くの人々を勇気づけることでしょう。
Eさんの過去から、保育士を目指す事について善意で心配してくれる方も多いかも知れませんが、私は、Eさんが本気で真剣に保育士を目指すのであれば、陰ながら心からの応援をさせて頂きたいと思います。
「保育士になりたい」との思いの裏側には、当然ながら、「絶対に再犯を犯さないとの決意」があると思います。この表裏一体の思いを大事にして決して忘れないようにして下さい。そして、スタートでのこの表裏一体の思いは今後の目標に向かっての道程にも繋がると思います。つまり、保育士を目指す勉強と表裏一体の形での性依存症の治療が有ると思うのです。この二つの道は決して「二足のワラジ」ではなく「一足のワラジの右と左」の関係にあると言えるでしょう。つまり、どちらか一方が欠けても他の一方の存在意味が失われるという意味です。
以前にも書いたと思うのですが、「依存症」は「症」という文字がついているようにレッキとした病気です。WHO(世界保健機構)も公式に病気と認定している脳の神経とホルモンの病気ですので患者個人の決意や意志だけでは治らず、その決意からスタートする専門治療や治療仲間との連帯・絆が必要となります。そういう治療の中で性的問題行動や犯罪に走らない方法・術(すべ)を学び、それを実行し続ける必要があります。
その依存症治療の中に保育士の勉強を位置づけることもできます。例えば、大石ワークブックで述べられている「いかりの綱」を保育士の勉強で実行する事ができます。つまり、病気の症状で心が無意識の内に危険な方向に漂流しないように、心の漂流の危険な時間を保育士の勉強で埋めるわけです。又、「保育士になりたい」との思いが依存症治療への強い動機の一つともなることでしょう。
次に、「出所後2年間は各都道府県に保育士登録が出来ない」の意味ですが、これは試験に合格しても2年間は登録できないという意味です。ですから、1年で一発合格しても登録にはもう1年の経過が必要になるわけです。従ってEさんの場合元々1年で一発合格する必要は無いとも言えるわけで、最初から合格・登録まで2年と割り切って、その分一般の受験者より1年の余裕があるとも考えられるわけです。そこで2年の中身を[試験勉強+依存症治療]の期間とも割り切って考えられるのではないでしょうか?「出所後登録まで2年」とのハンデをプラス思考で心の余裕に切り替えて、一歩一歩着実に前に進めば良いと思います。
最近の暑さで 日本が夏だけ熱帯になったとも言われています。本当に「いつまで続くこの暑さ !!」と言いたくなるくらいですので、お身体には重々気をつけてお過ごし下さい。月並みですが、水分補給と休憩が大事と言われておりますので、それを基本に熱中症や夏バテに注意して下さい。 次のお便りを楽しみに今日はこれにて失礼します。
草々
平成25年8月19日
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/08/19/16:01:11 No.964
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