収監者との文通 Cさんからの手紙

NO IMAGE

収監者との文通

Cさんからの手紙
大石クリニックHPトップページ
及び 当掲示板No.555~Cさんとの文通 参照

大石クリニック相談員 鈴木達也様
前略
 2013年・平成25年、あけましておめでとうございます。
 平成24年12月11日付のお手紙、21日に届き拝読させて頂きました。昨年はあまり良い年ではありませんでしたが、今年は出所が間近ですので、大石院長にお詫びすることを考えています。今年から以降は、再犯の無い自分になるとの気持ちで頑張る思いです。
 さて、刑務所で1ヶ月に2回(第2と第4の水曜日)は矯正指導日であり、この日は教育テレビを見たり、担当職員の訓話の感想文を書いたりする日です。その教育テレビの覚醒剤教育に関する番組で 「依存症になった人の場合、脳の『Aの10番』という所に快楽が記憶される」と言っていました。そして、依存症が治ったと思っても、「Aの10番」に記憶されたものを完全に消す薬も治療法も全く無いそうです。これは前回の手紙での鈴木さんの指導と同じで、ただ「Aの10番」という言葉が無かっただけですね !

 それでは年明け初の問いに答えていきたいと思います。
問い:「償い(つぐない)とは)?」
答え:「空港」、「別れの予感」、「つぐない」 というテレサ・テンの歌を思い出しました。いい歌ですね ! 真面目に答えろ ! 「ハイ」(年明けの初笑い) さて、この「償い」という言葉を国語辞典で調べてみると、①金や品物で損失を埋め合わせること。 ②金や物品・労役で罪や責任を埋め合わせること。とあります。しかし私は、この「償い」には、金や物品ではなく、行動で示す償いもあると考えています。これを少し具体的に言いますと、何か国のためになること、世界遺産登録の為の富士山ボランテイア清掃や、老人施設での老人福祉協力支援などがあるのではないだろうか?と考えます。
 確かに、この世の中は、お金がものを言うと言われていますが、被害者の人は、早く忘れたいと思っているのに、加害者から償いとして、お金だ、物品だ ! と言って思い出させてしまうことにもなりかねません。それなら、被害者、迷惑を受けた人々への償いの道は、お金や物品でなく、目に見えない形での、被害者への直接ではない方法もあると思います。宗教に縋っての迷惑をかけた人々への償いも立派な償いだと私は思います。被害者・我が家族のことを真剣に祈ることです。
 我が家族のことですが、「おじいさん」が若い時「おばあさん」に迷惑をかけたことを思い起し、先に他界した「おばあさん」の月命日に毎月・毎月お墓参りすることを決意し、生涯死ぬまでお墓参りすることにしたそうです。朝起きた時に雨が降っていても、お墓に着く頃には雨が上がると「おじいさん」が言っていました。お寺の住職さんが法要の時に、「おじいさん」の償いが「おばあさん」に通じたのだと話していたのを思い出しました。なので、私も生涯一本、何か真剣に取り組む事があれば、被害者・家族にかけた迷惑への償いの行動を解ってもらえる日が必ず来ると信じるものです。
 私の行動性の償いを具体的に言いますと、
①自分の信じている宗教に縋って、お寺の行事に積極的に参加して、ご迷惑をかけた人々への祈りを捧げる。
②富士山ボランテイア清掃
③自分の依存症を発症させない為に、「錨の綱」としての「ワゴムでパッチン」によるウオークマン聞き (自分で決めた事)
④出所後の大石通院とミーテイング参加
⑤通院の際、良いと思われる事を自分に吸収する。
 以上5つの事が、私の償いでしょうか。死人には出来ない事だと思うのです。

≪天文講話≫
 今回は「星座の由来」と題してお話します。
「星座の由来」については、大抵の人はギリシャが発祥地だと思うようですが、実際には今からおよそ5000年前の古代メソポタミア文明から始まったようです。今現在のイラクにあるユーフラテス川とチグリス川の間に住んでいたシュメール人、あるいは羊飼いの民・カルデア人たちが明るい星を結んで人や動物の姿を想像したのが星座の始まりだとされています。その後、それがギリシャに伝わり、ギリシャ神話と結びつき、アレンジされて現在の星座が伝えられています。国際的に定められた星座は88星座あって、南半球では星座はなくて、18世紀に新しく作られて88星座になったのです。
 私も時々聞くのですが、人は「北斗七星座は何処にあるのか?」と聞くのですが、「北斗七星座」という星座名は無く、「おおぐま座」という星座の中にあるひしゃく形の7つの星が「北斗七星」なのです。又、この「北斗七星」と「カシオペア座」は北極星を探す時のコンパスになります。それは、私が出所して望遠鏡で星を見る時に説明します。
 更に、2つの星座がくっついている星座もあります。それは「天文年鑑」2013年版の323ページを見て下さい。上の方の中央に「ペカスス」と「アンドロメダ」の2つの星座がくっついています。アルフェラッツという星は2つの星座に共通です。
 実際の夜空の星を結んで、何に見えるか、自分独自の星座名を考えてみるのも楽しいでしょう。私の場合でしたら、例えば「被害者が叫ぶ星座」と命名し、毎晩その星座を見て、反省・償いを考えさせられる星になるでしょう。鈴木さんですと、「断酒の誓い星座」ですか?
 今年の4月3日の出所後、鈴木さんと望遠鏡で星を見るのを楽しみにしていますよ !! 出来れば、その時大石クリニックで観測会をしたいです。以上で天文講話を終わります。
 そして、最後になりますが、「天文年鑑」2013年版の差し入れ、どうも有り難うございました。次回の天文講話は「尾を引く彗星・流れ星」と題してお話します。
 それでは、この辺で失礼します。北海道では積雪のため停電したりで大変だったようですが、横浜も今年は雪が積もるかも知れません。どうか色々と気をつけて、風邪などもひかないようにして下さい。
                      草々
          
              平成25年1月9日(水)C
↓返書 

                        

Date: 2013/01/20/15:45:37 No.852

Re:収監者との文通

Cさんへの返書
C様
前略
 年が明けての定期第1便、16日に届きました。有り難うございます。そして、遅ればせながら、
  明けましておめでとうございます。
   本年も宜しくお願い申し上げます。

 いよいよ出所が間近となり、人生の再出発に向けて思いも新たに新年を迎えられたことと思います。お手紙にもその思いが散りばめられているように思います。そんなCさんを大石でお迎えできる春の日を私も今から楽しみにしています。
 
 そうですか、矯正指導の日の教育テレビでそんな覚醒剤教育番組を放映していたんですか !? 大石にも薬物の患者さんが沢山通院しているし、先日もある弁護士さんから薬物犯で裁判中の方との文通依頼を頂いているので、私もその番組を是非見たかったですね。依存記憶の「Aの10番」というのは、私も初めて知りました。詳しく調べてみたいと思います。他にも番組から得た情報があったら是非教えて下さい。

≪今月の問答「償い」について≫
 私からの「問い」:「償いとは?」への「答え」も印象深く読ませて頂きました。私も、宗教的な確信と依存症医学を結んで治療をすることに治療効果を感じています。私は元々は無宗教だったのですが、依存症治療を進める中で宗教が持つ力、その意義を感じています。償いの為の具体的な5項目の課題も確かに「死人にはできない」行動性を伴っているので効果的な課題設定だと思います。「もう2度と犯罪を犯さない」とか、「もう死ぬまで決して酒を飲まない」というのは、もちろん一番大事な課題で頭と心に深く刻みこまなければならないのですが、それは行動性を伴わない長期目標なので、天国に旅立つその瞬間にしか達成感を味わえないわけです。その一方で、一つ一つの行動課題にはその結果としての成果、歓びが伴うので、回復街道を歩むエネルギーを得られるわけですね。長期目標(希望・夢)と当面の行動目標を見分ける基準として、前者は「死人にも出来る事」で、後者は「死人には出来ない事」として、二つの目標・課題を設定する事が大事だと思います。いずれにせよ、私からの手紙の文面をよく理解されて5つの当面の課題を設定されているようで、私も大変嬉しく思います。
 私も断酒後初めて、回復の為の「償い」という言葉を目にした時にはよく理解できませんでした。正に辞典の額面通りに考えて「これは、別れた女房に慰謝料を払えということか???」と考え、「でも、無い金は払いようがないし・・・ウーン??・・?」と考え込んでしまいました。でも、通院や自助グループで仲間の話を聴く内に、ここで言う「償い」とは、周囲にかけた迷惑の原因を取り除き、つまり酒を断ち、自分を改革して、新しい本来の自分なりの人生を歩み続けることだと理解できるようになりました。別れた前妻が離婚届けに判を捺す時に「私が離婚した事を後悔するような人生を送ってね」と言っていましたが、それが、私が「償い」の意味を正確に理解する最終的な切っ掛けとなりました。つまり、彼女のその想いに応える道を一日一日の課題を実行しながら歩み続ける事が「償い」なのだとの理解を得る切っ掛けとなりました。

≪今月の問答≫
 さて、今月の「問答」ですが、出所が近づいているので、そろそろ「まとめ」に入りたいと思います。そこで、大石の性依存症ワークブックの最終セッションの「セルフマネジメント」:「自己管理」の部分をコピー(別紙)して同封しますので、これまでの「問答」を振り返りながら記入してみて下さい、「問答」ではワークブックの全てに触れたわけではありませんので、記入できる所だけで結構です。記入できない所は、出所後の大石通院への楽しみとして残しておいて良いですので、先ずは可能な範囲で記入してみましょう。

≪天文講話「星座の由来」について≫
 「天文講話」、今回も楽しく読ませて頂きました。星空を見上げながら、自分なりの「被害者が叫ぶ星座」を描き、それを反省・償いの糧とするとは、何ともロマンチックな反省・償いですね。ともすれば暗くなりがちなか過去への振り返りをこんな形で進めれば長続きするだろうと思いますよ。私も「断酒の誓い星座」を探してみたいと思います。その意味でも出所後の観測会を楽しみにしています。

 1月9日付のお手紙の最後で、今年は横浜でも積雪があるかも知れませんと書かれていましたが、その5日後の14日の「成人の日」に、確かに横浜で13cmの積雪になりました。Cさんはいつから気象予報士になったのでしょうか?(笑) 星空を見上げている内に雲の動きも分かるようになったのかな(笑)なんて、勝手に考えながら、今日はこの辺で失礼します。4月3日まで寒い日が続きます。くれぐれもお身体をお大事にして下さい。
                      草々
         平成25年1月20日 私の誕生日に
          大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/01/20/16:26:19 No.853