収監者との文通 Eさんからの手紙

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収監者との文通

Eさんからの手紙

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大石クリニック相談員 鈴木達也様
 お手紙ありがとうございます。この前の煙霧はすごかったですね。外の景色がほとんど見えなくなりビックリしました。休日だったのであまり害はありませんでしたが、窓を閉めていても少し砂が入って来て、机の上などが砂まみれになるほどでした。 
 お手紙の中での指摘はもっともだと思います。確かに、最初の欲求で性加害をしてその時は満足してしばらくは大丈夫ですが、次の欲求を呼んでしまい、「またチャンスがあればやりたいな」と思ってしまうこともありました。その思いは一人でいると中々消えることがないのです。誰かと一緒だと、話をしたり、遊んだり、何か食べに行ったりして何日かは忘れられるのですが、また最初のの欲求が出て来てしまいます。自分の欲求を解消するものが少ない=退屈なので、結果的に我慢と同じようになってしまうのではないかと思います。ゲーム等でも、目標や目的があれば打ち込めますが、それが終わってしまった時、次の目標・目的があればそれに向かって行けますが、それがなくなってしまえばただプレイするだけか、全くやらなるかのどちらかです。性的なものに限らず、欲求不満な時に、自分が何をするかを考え、頭を切り替えられるかにかかって来ると思います。それは、こちらの教育プログラムのテーマにもあり、まだまだ先ですが考えて行きたいと思います。
 衝動的な行動を抑える為に「思考ストップ法」というのがあるとお手紙に書かれていましたが、特に「リラックス法」は普段の生活の時にも役立ちそうなので、実際にやってみようと思います。ただ、「イメージ」するに関しては、性のイメージとは全く別のイメージをしなければならないので難しいかなと思いましたが、時間はあるので練習して身につけられるようにしたいと思います。
 これは、治療とは全く関係ないのですが、最近自分の周りの人が頑張っているのを見て、自分が置いてけぼりになるのではないかと焦ってしまい、工場で失敗したり、担当の先生や同部屋の人に迷惑をかけてしまったりと、周りが見えなくなってしまいます。又、自分を変える為に言い出した事から周りの状況が少しずつ変わって行くのにとまどいを感じています。サポートしてくれる人はいるのですが、その人が出した自分へのそんなに難しくない課題をクリアできるように頑張って行こうと思います。
 自分でもどうなって行くのか、自分は変われるのか、不安や心配でつぶされるのではないかと感じています。「人には人のペースがある。自分のペースでやって行けば良い」と言われても、やっぱり不安や焦りが先行してしまい、ミスにミスを重ねてしまいます。リラックス法を試す時でしたが、気持ちを切り替えられずダメダメでその日は終わってしまいました。今後もそんな時があるのではないかと思うので、不安や心配を取り除き、焦らないで済む良い方法があれば教えて下さい。お願いします。又、話したことがない人や少し苦手な人と話す為にはどうしたら良いのでしょうか?併せてお願いします。
 暑さ、寒さも彼岸までと言います。体調を崩し易い時季ですので十分にお気をつけ下さい。私も十分気をつけて過ごして行きます。次のお手紙をお待ちしております。
                     草々
         平成25年3月17日  E

         
                                                           

Date: 2013/03/31/21:37:32 No.891

Re:収監者との文通

Eさんへの返書

E様
前略
 桜の開花が早かった割には、その後少し寒い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか? 3月17日のお手紙26日に届きました。いつも有り難うございます。
 
  さて、前々回と前回の手紙でお送りしたワークブックで再犯防止の為の「いかりの綱」、「思考ストップ法」について、よく勉強して頂いているようで、私としても大変嬉しく思っています。
 「思考ストップ法」の「イメージする」で、どんなイメージに切り替えれば良いのかに難しさを感じるとお手紙に書かれています。確かに、イザ「他のイメージを!!」という時に慌てて考えても中々思い浮かぶものではないでしょう。ですから、ワークブックにも書かれているように、何か別のイメージをあらかじめ頭の中に用意しておいた方が良いでしょう。できれば、他の良いイメージをメモしていつでも見れるようにポケットに入れておけば良いかと思います。今その効果で世界的に脚光を浴びている「認知行動療法」という精神療法では、そのメモ書きを「フラッシュカード」と名づけています。それは例えば、カードの表に 「また、工場でミスしてしまい、皆に迷惑をかけ、この先を考えると不安だ 」と書いておきます。そして、その裏側に「本を読もう・・手紙を書こう、読もう・・・」等々と書いておき、いつでも「表」→「裏」と目を通して気分転換に活用するカードです。

さて次に、お尋ねの不安や焦りにどう対応したら良いのか?について考えてみましょう。人間という生物には、常に危険や苦痛から逃れたいという本能が備わっています。それは身を守る為の正常な機能と言って良いでしょう。それがなければ種々の危険を前にして身を守りきれなくなります。しかし、その自分を救う正常な機能が時として、逆に自分を苦しめる機能にもなりかねない要素を含んでいます。つまり・・・うつ、依存症、不安・恐怖症の原因にもなりかねないわけです。実際には危険は存在しなくても、身を守る意識や本能が先行して、「ああなったら、どうしよう」、「こうなったら、どうしよう」という出口が見つからない不安の迷路に迷い込み、悩み続け、ストレスが増大し、それが原因となって上記の、うつ、依存症、不安・恐怖症の原因や再発に繋がってしまいます、各種依存症の自助グループでは、これを「先取りの不安」と言っており、ミーテイングのテーマとしてもよく出題されています。そういうミーテイングの中で、仲間の体験談からこの「先取りの不安」から逃れる方法を知る事ができます。例えば、「職場のAさんに遅れをとったらどうしようと不安で、焦っていたが、実は当のAさんも自分に対してそう思っていたことが後日になって分かった」といった話を聞いたことがあります。客観的にみれば、そういう不安や焦りにはあまり根拠がない(一見根拠があるように見えても)ケースが多いようですね。そして不安に根拠がある場合でも、それに正しく対応しつつ、自分で自分を苦しめ、自分の首を締めるような「マイナス思考」はやはり「思考ストップ法」で処分して「プラス思考に切り替えたいものですね。その「マイナス思考」から「プラス思考」への切り替え法を学ぶために、やはり当院のワークブックの当該部分を、この手紙の裏面にコピーして送りますので読んでみて下さい。

 お手紙の最後に書かれていた、「初対面や、ちょっと苦手な人と話すにはどうしたら?」についてですが、これについては、ズバリ、「同じ依存症の治療仲間とのミーテイングに参加しましょう」と言い切って過言ではないでしょう。会場では、言いっ放し・聞き放しで仲間を批判せず、仲間のプライバシーを尊重し、会場で聞いた仲間の話を外部に口外しないとのルールの下で参加者が体験談を交流します。そこには、生まれも育ちも違い、趣味も性格も違い、一つだけ依存症からの回復を望むという一点で共通した仲間達が集まります。当然、最初は皆初対面だし、性格も異なる人達も沢山います。しかし、皆、依存症からの回復による幸せを求めて、力を合わせて人生を歩み続けようという一点では共通しています。その中で芽生える家族的感情が、やがて初対面や、苦手意識を克服させてくれるわけです。

 4月を迎え、季節はいよいよ春本番を迎え、暑くもなく・寒くもなく、ポカポカ陽気の過ごし易い時季となりますが、お身体にはくれぐれも気をつけてお過ごし下さい。次のお便りを楽しみにして今日はこの辺で失礼します。                                平成25年4月1日
          大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2013/03/31/22:07:12 No.892