収監者との文通 Dさんからの手紙

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収監者との文通

Dさんからの手紙

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及び 当掲示板 No.555 N0.654 655 656 657 662 663 670 675 676  参照

前略
 大石先生、鈴木様、スタッフの皆様、こんにちは。
暑さに負けず、自分に負けず、今やるべき事・やらなくてはいけない事に対し真剣に取り組み、日々悔いのない様一日一日を精一杯生き、社会復帰に向けて頑張って生活しております。
 8月3日○○拘置所から○○刑務所へ移りました。現在、私の身上や経歴、心身の状況や技能の程度、適正(どんな作業に向くか)を調査して刑務作業を決めたり、刑務所を決めたりする期間として生活をしております。恐らく、ここ○○刑務所にて出所(社会復帰)を目指す事になると思いますが、まだ調査の期間でありますので、他の刑務所に行く事もあるかも知れません。もし他の刑務所に行く事になったとしても、ただ環境が変わるだけであり、私のやるべき事、やらなくてはいけない事が変わる事はありません。この先も一日一日を悔いのない様精一杯生き、刑務作業等やらなくてはいけない事に対し真剣に取り組み、社会復帰に向けて頑張って行きたいと思います。

 鈴木様、7月25日付のお手紙ありがとうございます。さっそく拝読させて頂きました。お手紙の中でこう書かれています。
「あるアルコール依存症の患者さんが断酒を始めました。強烈な飲酒欲求に襲われても酒を飲めず我慢しなければならず、結局欲求のはけ口と時間の穴埋めをパチンコに向けました。その結果行き着く先はパチンコ依存症でした。サラ金数社に600万の借金を作り、親と親戚に頭を下げまくって返済してもらったそうです。借用書と『もう2度と・・』との誓約書を書いてです。
 酒もギャンブルもご法度となり、周囲の冷たい視線の中で生きざるを得なくなった彼が憂さ晴らしの為に次に目を向けたのは薬物でした。・・・そして薬物依存症に。そして薬代欲しさに手をつけたのが会社の金で、最後の行き先は刑務所でした。これはある個人の偶発的な出来事ではなく、クロスアデイクションと言われている依存症の病状経過の一つのパターンとされています。A依存からB依存へ、B依存からC依存、D依存へ・・・と渡り歩く中で、人間として生きる自信を失い、自己嫌悪に陥り、ウツを発症し、最後は自ら命を・・というパターンも珍しくありません。結局、依存症者が真に依存地獄から抜け出すためにはあらゆる依存対象の世界から脱出しなければならない事をクロスアデイクションの現実が教えていると言えるでしょう」と。
 クロスアデイクションと言われる依存症の病状が書かれていましたが、その文面を拝読させて頂いて依存症の恐さを強く感じました。そして、前回の手紙で私は、「刺激や興奮を求める方法が痴漢や盗撮ではなく、ギャンブルや仕事や買物、ネットや携帯メールなどだったらと書かせて頂きましたが、もしギャンブルにのめり込んでしまっていたら、サラ金数社に借金を作り、返済に困り、人からお金を奪ったり(強盗)し、今回の刑期よりもっと長い刑期を務めるようになり、取り返しのつかない事になっていたかも知れません。そして、もし私が性嗜好障害という依存症の病気の可能性が高い事に気付く事が出来ず、依存症の恐ろしさを知る事が出来なかったら、私は痴漢や盗撮だけでなく、欲求が更にエスカレートして強姦事件などのもっと凶悪な事件を犯していたかも知れません。今回、父親をはじめ沢山の人を裏切ってしまいましたが、正直、今逮捕されて本当は良かったのではないかと思っています。二度と同じ過ちを犯さない為に何が大切であるのかを考えた時、今の生活をいかに社会復帰に向けて生活して行くかという事ではないかと思いました。
 私は今まで刑務所の生活においては一日をただ漠然と過ごし、出所する事ばかり考え、社会復帰に向けての生活設計を何も考えていませんでした。その為、刑務所を出て社会復帰しても、困難な事や悲しい事に出くわした時にそれを乗り越える事が出来なくて、自分に負け、また病気が再発して同じ過ちを犯してしまっていたと思います。この先社会復帰した時、沢山の困難な壁にぶつかると思います。悲しい日を迎えると思います。その解決法を社会復帰する前に自分で考えて行かねばならないと思います。鈴木様からの7月5日付のお手紙で「お母様がいなくなった寂しさを依存症の再発につなげない為の考え方や方法を自分自身で実行する」と書かれていましたが、認知行動療法の大切さも知りました。
 またお手紙の中で、刑務所の中で地道に勉強を続け、簿記3級に合格し、更に今回2級に挑戦し、仮釈を目前にした今「刑務所内で2級まで」との当初の目標を見事に達成し簿記2級に合格され、出所後は更に簿記1級から将来は公認会計士までと夢を膨らませているAさんの事が書かれていましたが、「これなんだ、私に今まで欠けていたものとは」と思える事が出来ました。
 私は現在残刑7ヶ月を切り、期間を考えれば職業訓練を受けたり、通信教育を受けたりする事は難しいかも知れませんが、同囚とトラブルなく無事故で出所したいと思います。嫌な事があっても、頭にきても耐えて我慢して忍耐力を身につけ、刑務作業に真面目に取り組み就労意欲を高めて行くなど、出所した時に自分が何か一つでも変わることが出来ているように目標を持って過ごして行きたいと思います。
 私は誓約書にも書きましたが、○○教に入ります。この○○教も何度も犯罪を犯している人が更生し、社会復帰している場所である事を父親から聞きました。つまり、大石クリニックと○○教の両方で社会復帰を目指して行きます。
 今、日中の刑務作業が終わった後、夜の余暇時間を利用して、○○教の本や依存症の本を読んで勉強しています。沢山の本を読んで自分の欠点(短所)を改善し、認知行動療法の大切さを忘れず、社会復帰目指して頑張って行きたいと思います。有難うございました。また手紙を書かせて頂きます。
 お身体を御自愛下さい。では失礼致します。
                      草々
               平成23年8月6日 D
追伸
 手紙の発信が月に4通しか出す事が出来ず、週の3日間・水曜日、木曜日、金曜日しか手紙手紙を出す事が出来ない為、返事が遅れてしまう事があるかも知れませんが、どうか、御了承下さい。

Date: 2011/08/21/23:57:36 No.688

Re:収監者との文通

Dさんへの返書

D 様
前略
 8月6日付のお便り、拝読しました。ありがとうございます。

 クロスアデイクションの恐さを御理解頂けて嬉しく思います。ある先生は、このクロスアデイクションの悲劇を沈み行くタイタニック号の船内に例えてお話されています。タイタニック号の船室に海水が浸水して来たので船客が慌てて上階の部屋へ逃げます。しかし、その部屋にも水がやって来て、更に上の階へと逃げ・・・。しかし沈没の運命を免れないタイタニック号の船内をいくら逃げ回っても船客は船と共に海底へと沈み行く運命を免れないわけで、命を守る為には何らかの方法でタイタニック号そのものから脱出しなければならないわけです。 クロスアデイクションとは正にこのタイタニック号船内での逃げ回りそのものだと言うわけです。酒⇒ギャンブル⇒薬物・・・と、一つの依存から逃げ出したつもりでも次の依存で苦しみ、又次の依存で・・・となり、結局、患者は全ての依存対象そのものから脱却しない限り、依存症の苦しみに縛り付けられ続けるわけです。

 Dさんは今、このクロスアデイクションの恐さにも気づかれながら、受刑期間を社会復帰への確実な準備期間とできるように一日一日をしっかりした足どりで歩み始めています。それはお手紙の文面からヒシヒシと伝わって来ています。
 そして、私も微力ながらそのお手伝いをさせて頂きたく思い、同封の冊子をお贈りします。(お贈りする物なので、もちろん無料です) この冊子は、大石クリニックで性嗜好障害(性依存症)の認知行動療法に使われているテキストです。読みながら、書き込みながら、実際に性的問題行動に走らない為の方法を考えて行ける内容となっています。大石で講師による講義と仲間との触れ合いの中で進められている学習なので、それを刑務所内での独習で行うのには一定の困難はあるとは思いますが、来年の春までの半年余、焦らずに出来る範囲だけでも学習を続ければ、出所後の再犯防止に大きな力となるでしょう。以前の仮釈時にも性犯の再犯防止プログラムを受講した事があったと以前のお手紙で書かれていましたが、今は勉強の動機の次元が以前とは全く違うように思います。以前の受講目的は仮釈を取り消されない為の受講だったとお手紙に書かれていましたが、今は違います。今は、依存症という病気を治療して真に回復し、社会復帰を目指す為という目的を正面に据えての認知行動療法の勉強により、現実に生活・行動パターンを変えて行けると思います。

 手紙で御紹介したAさんにも共感と希望の光を感じられたようで、これまた嬉しく思います。Aさんも今回の刑務所に入った当初は、5度目という事もあり、自分はバカラ人生から抜け出せないのか?との強い不安と悩みを抱えていました。しかし依存症の専門病院と回復の道を歩む仲間の存在を知り、その仲間と共に自分もバカラ・ギャンブル人生から抜け出せるだろうとの明るい希望を胸に、出所後の社会復帰に向けて簿記3級、2級の資格を取得する道を歩み続けて来ました。そしてDさんも今、依存症受刑者からの再出発という意味ではAさんが歩んだのと同じ道、治療・回復・社会復帰への道を歩み始めています。この道から外れたり、逃げたりしない限り、道は必ず明るく、広く、開けて行きますので、その意味では安心して一日一日の一歩一歩を歩み続けて頂きたく思います。

 文末にて申し訳ございませんが、先日お父様より院長と私宛にご丁寧なお心づかいの品を頂きました。大した事も出来ずにいるのにと大変恐縮に存じております。私一人の口には余る品を同僚スタッフと一緒に食させて頂きながら、ゼリーの味覚と共に、お父様のDさんへの思い、お母様がお父様に託された遺言の思いも含めての親から子への愛情の深さへの感動も他のスタッフと共に味あわさせて頂きました。お父様と、天国から見守り続けてくれているお母様を大事にしてあげて下さいね。

 もうしばらく残暑が続くと思いますが、暑さとの闘いももう一息です。お身体には重々お気をつけ、御自愛下さい。教はこの辺で失礼します。
                                               草々

        平成23年8月22日
         大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2011/08/22/00:19:16 No.689