収監者との文通(Oさんとの往復書簡)

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<O⇒鈴木>
前略
3月4日付のお手紙7日に手元に届きました。毎回忙しい中返事を書いて頂き感謝しています。

今日は3月11日、丁度3年前が東日本大震災でした。私はその日別の刑務所で反省をしていました。以前にも書いたと思いますが、私は懲役から懲役の間が1年と開いていません。私が初めて刑務所に入所したのが平成19年の春でした。そして今回の事件で懲役が決まったのが平成24年の秋です。5年間で4回目の懲役になってしまい、本当に疲れてしまいました。今の私は社会で頑張っている人達に食べさせてもらっている状態です。そんな身分で「疲れた」なんて言えないのですが、今回の受刑生活で今まで自分がしてきたことの愚かさに気づいた時、本当に疲れが出ました。今まで幾度となく反省し、「今度こそ」との思いで出所して、家族の為、自分の為と頑張った結果、以前より重い犯罪での受刑生活が待っていました。でも、今回はいくら疲れていても最後まで頑張れば、この辛さ、疲れから解放してもらえると信じています。

実はこの手紙を書いている間に妻からの手紙が届きました。内容は色々と書いてありましたが、私の身柄引き受けの事が書かれていました。今までは犯名自体は「建造物侵入」だったので保護司も妻にあまり言わなかったのですが、今回の犯名が「強制わいせつ」の為妻に何かを話したようです。手紙には特に聴いていないような書き方をしていましたが、かなりショックだったと書いてありました。正直、犯名を聴いたのか内容を聴いたのかは分かりませんが、・・・それと引っ越しをしなくてはいけなくなったそうです。その事もあり妻の方への手紙を先に書かせて頂きました。申し訳ありませんでした。
先ほどの妻の手紙の件ですが、「ショックだった」と書いてある次に「出所したら、また忘れて同じ事をやるんでしょ」と書いてあるのですが、確かに5年間に4回も刑務所に出入りしていれば、このように思われても仕方ないですね。今までの手紙には私の病気に対する思いは書かなかったので仕方ないのですが私自身の思いは決まっています。ただ妻に伝わらないとだめですね。今回は私の思いを書き送ったので多分分かってくれたとは思います。
今回頂いた手紙に私が一番気になっていたことが書かれていました。それは治療に保険がきくとの話です。恥ずかしながら、こんなに懲役にばかり来ている身の為にあまりお金が有りません。先生に診てもらうのに保険が適用されるのか、それが気になっていました。診てもらうにしても先に仕事をして、それから通院になるのか、仕事をしている内にまた病気が出てしまったら・・・などと考えていました。その悩みもなくなったので、出所後は一番に病院に行く事ができるので安心しました。
今日は19日、お彼岸まであと2日となりました。今日は朝から暖かく、本当に春が目の前にきている感じです。

テーマ:「春になると騒ぐ(心の)虫」
お彼岸を前にして、昨日は関東にも「春一番」が吹いたとラジオで聴きました。気温のせいなのか、動物的本能なのか、春になると変な方でソワソワします。私の病気が春になると急に活発になります。別に冬だから病気が出ないというわけでなく、暖かくなると気持ちがハイになります。以前と同じ事を書きますが、自分ではやっては駄目な事は分かってはいても、その気持ちとは裏腹に「見つからなければ」との思いで後先を考えずに行動してしまいます。今思えば本当に怖い事なんですが、自分の子供が小さい頃、病気が出て子供を近くに置いて行動した事もあり、今思うと本当に怖い事をしていました。
本当に1年中、病気は出ていますが、春は特に気持ちが緩み犯罪行動をします。その為に妻には本当に迷惑をかけ放しで、子供には辛い思いをさせてきました。多分父親とは思っていないだろう私の娘、この病気の事は死ぬまで話せないけれど、これからの人生は病気と闘って、いつまでも外での生活を続けて行くつもりで頑張って行きます。

今回頂いた手紙の中で書かれていた「このような性犯罪が起きた時、先ず医療による診断と治療後に再犯を起こした場合に厳罰を」との文面ですが、それは私が病気と理解した時の最初の思いと同じです。幾度となく書きますが、本当に10年早く、いや30年早く知りたかったと思っています。でも昔は「性依存症」という言葉自体が世間に知られていなかった為に私がそれを知るのは難しかったと思います。それに比べると今は本当に良い時代になったと思います。今はインターネットが有る事で、自分が他の人と違うと思った時に調べる事ができる時代になりました。本当に昔からみると羨ましい時代だと思います。早く気づけば早く治療を受ける事が出来るし、私の様に気づかずに4回も刑務所に来る事も無く幸せな人生を送る事が出来ます。この公開文通を読まれている依存症の方々には本当に早く気づいて、私の様に手遅れにならないよう願っています。
「春になると騒ぐ虫」ですが、もちろん刑務所内では騒ぎようがなく静かにしてくれていますが、相変わらず夢の中では月一回くらいはスリップしています。多分毎日依存症の事を考えているからなのか分かりませんが、夢を見ると焦ります。このような事を書きながらも、鈴木先生との文通のお蔭で一つ一つ自分なりに理解できて安心できる時間ができました。
時期的に年度末のせいか、私達の工場担当も変わり色々とバタバタしているので時間が過ぎるのが速く助かっています。3月も過ぎ去って行ってしまいます。季節のせいか気持ちが定まらないためしっかりした文章が書けませんので今日はこの辺で終わります。
春の前触れの三寒四温で体調を崩さないように、大石クリニックスタッフ一同様お気をつけ下さい。
草々
鈴木達也様
平成26年3月22日 27日出し  O

<鈴木⇒O>
O様
前略
春本番の4月を目前にして、横浜にも桜前線が到着し大石近隣の公園や川岸の桜の木々が出番が来たとばかりに春の陽射しの下に美しい花の雲を咲かせていますが、そちらはいかがでしょうか? 22日付・27日出しのお手紙、29日に届き、性依存症治療による更生・社会復帰に向けての決意に満ちた文面を嬉しく拝読しました。

奥様へのお手紙に依存症治療に向けての今の思いを書かれたそうですが、犯名を知った?奥様の理解を得られれば良いですね。治療に向けて今の決意を実行し続ける事で必ず奥様の理解と協力を得られると思いますので、先ずはこの大石との文通を続けて欲しいと思います。それと刑務所内での再犯防止教育もあると思いますので、その機会がありましたら是非受講されるようお勧めします。この治療への決意を実行する事が何よりも大事だと思います。よくある事例なのですが、決意の言葉だけだと、家族の目には、「病気を犯罪の言い訳にしている」としか映らないし、また実際にそうである場合が多いんですね。もちろん、Oさんの場合にはそんな事はないわけですが、それが奥様に伝わるように努力する必要はあると思います。

今回のお手紙で、5年で4回目の受刑生活だと書かれており、やはり依存症は病気なんだなと改めて確認する思いがしました。以前のお手紙で4回目とは聞いていたのですが、それが5年間での服役回数との事で、改めて「繰り返す病気」であると実感しました。奥様からの手紙で「出所したらまた忘れて同じ事をやるんでしょ」と言われたそうですが、それに対しては「性依存症をしっかり治療して、必ず更生し、社会復帰する」との答えしかないでしょう。そしてもっと大事な事は、奥様の疑念を少しでも晴らし、信用と理解を得る為にもその答え(治療と更生)を実際に実行することだと思います。Oさんの場合には、昨年の6月13日付で大石院長宛に書かれた手紙から始まったこの文通が定期的に継続され、もう10ヶ月近くになろうとしており、そこにOさんの治療への決意が決して犯罪への言い訳でない本物である事が示されていますので、この文通を今後とも継続し、できれば所内での教育も積極的に受講して頂ければと思います。上にも書いたように実行を伴わない決意だけだと家族には「病気だと言って、それを事件・犯罪の言い訳にしている」としか思われず、「決意」を口にすればするほど、手紙に書けば書くほど逆効果になってしまうケースが多いですね。

次に、Oさんが性依存症の未治療のまま犯罪を繰り返し、今4度目の受刑生活を送りつつ、性依存症治療の道を歩み始めた意味について考える時、私は決して手遅れだったとは考えていません。逆に「雨降って地かたまる」とか「転んでもただ起きない」という結果に到達する可能性すら潜在していると思うのです。・・・なぜかと言えば・・・・今、全国に.400万前後の性依存症患者が存在すると推定されていますが、その99.9%は専門医療機関が全国に2ヶ所しかないという現実ともあいまって、未治療のまま放置されたまま、その生涯を送ろうとしているし、また送ってしまっています。そんな厳しい現実の中にあって、Oさんの場合、今自分の病気を自覚され治療による新しい生活を切り拓こうとしています。その新しい人生街道を新しい文明の利器であるインターネットによって世に伝えることで、それは性依存症=性嗜好障害という病気に関する社会的啓蒙・啓発を進める力となることでしょう。そう考えると、結果としてはOさんの性依存症やその治療動機を促した刑務所生活が社会的貢献に繋がるわけで、ある意味では「性依存症になって良かった」、「刑務所に行って良かった」という結果に繋がるのではないでしょうか? 正に、「雨降って地かたまる」だし、「転んでもただは起きない」とはこの事ではないでしょうか? 因みに、私も今この仕事をしながら、どこまで仕事ができているかは別としても、アル中になって良かったとは思っています。

お手紙で、依存症治療費について、保険が適用されると知って安心したと書かれていますが、これに関してはもう一つ付言しておきたいと思います。通常は保険適用での患者負担額は3割なのですが、依存症治療の場合には、「障害者自立支援法」という法律に基づいて、患者様の保険医療費が1割に減額される制度があります。つまり、患者様の経済状態に応じて保険医療費3割の内の2割を公費で負担し、患者様の負担額は1/3に減額されるわけですので、もしご希望でしたら初診の折にご相談下さい。

今回の「テーマ」は「春になると騒ぐ(心の)虫」でした。長くなるので、一点だけコメントさせて頂きます。前にも書いたと思うのですが、夢でのスリップについてです。夢でのスリップが意味するところですが、それは「心の虫が」夜の睡眠中にしか出てこれなくなっている事を意味しています。昼間の理性が効いている間は出番を失っているわけです。刑務所と言う生活環境による理性が心の中に虫を閉じ込める檻を作っているわけですが、出所後は刑務所に代わって専門治療と仲間の絆によって虫を閉じ込める檻を作る事ができます。この事に希望と自信を持って出所後の社会復帰を目指して頂ければと思います。

それでは今日はこの辺で失礼したいと思います。長かった冬の寒さに慣れた体が春の暖かさに驚いて体調を崩さないようお体をご自愛ください。

草々
平成26年3月31日
大石クリニック相談員 鈴木達也