収監者との文通 Dさんからの手紙

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収監者との文通

Dさんからの手紙

大石CLホームページ;トップページ
及び 当掲示板 No.555 N0.654 655 656 657参照

前略
 大石雅之先生、鈴木達也様、スタッフの皆様、こんにちは。
 鈴木さん、6月3日付のお手紙有難うございます。早速拝読させて頂きました。お手紙の中で、
 「時を同じくして、Dさんと同じ病気による同じ
  犯罪で拘留中の方からの手紙が届きました。そ
  の方も、『大石を知らず、病気に気がつかなか
  ったら出所後やはり同じ犯罪を繰り返すだろう』
  と述べ、治療への決意を語り、Dさんとそっく
  り同じ思いを文面で述べられています。こうい
  う同じ病気に苦しみ、治療によってそこから抜
  け出そうと決意している仲間がいます。又、既
  に回復の道を日々歩んでいる仲間、回復して社
  会復帰を遂げている仲間、そんな仲間が大石に
  は沢山おります。そんな仲間達との心の触れ合
  い、絆の中でDさんが今心に抱いている不安や
  怖さは自然に解消して行く事でしょう」
と書かれていましたが、その文面を拝読させて頂いて、私と同じ様に毎日不安な想いで生活されている人がいるんだと、自分だけではないんだと思う事が出来、社会復帰に向けて強い気持ちと希望を抱く事が出来ました。

 又、お手紙の中で「D-Aさん、D-CさんもD-Bさんによる被害者です」と書かれておりましたが、暫くその文面を何度も読んでしまいました。自分の相手は病気ですが、自分も被害者なんだと思ったのは初めてです。私は今、毎日不安な思いと、この先本当に社会復帰する事が出来るのか、また言葉だけで終わってしまうのではないかという恐さを抱いて毎日生活しておりますが、この毎日思う不安な思いが、私の身勝手な行動により傷つけてしまった本当の被害者の思いなんだろうなと思うと、この文面を拝読させて頂いて私も被害者の方の立場になって今まで以上に被害者の方の思いを強く思う事が出来、今まで以上に被害者の方の思いを真剣に考えられる様になりました。今は本当に不安がありますが、この性嗜好障害という依存症の病気を必ず克服し、何事にも一生懸命取り組み、社会復帰に向けて頑張って行きたいと思います。

 ホームページへの返答が遅れてしまい申し訳ありませんでした。手紙を(ホームページに)掲載して頂き有難うございました。公開されているとの前提で再び読み返して思った事は、私の手紙が少しでも私と同じ様に性嗜好障害・性依存症の病気で悩んでいる人の力になる事が出来ればと思い、また今まで人に迷惑ばかり掛けてきてしまったこんな私が、人の為に生きる事が出来るかも知れないと、社会復帰に向けて新しい夢を持つ事が出来ました。本当に今嬉しい気持ちでいっぱいです。有難うございました。

 性嗜好障害の治療方法で、皆様の対策方法とかをお伺いしたい事があります。
戴いた資料の中に、
 ①痴漢をしてしまう時の条件・原因を解明する。
 ②行動パターンを把握し、その状況を作らないこと。
 ③その状況になってしまった時、思考を変える切っ掛  けを作ること。
この治療構造を忘れない様に喚起させる為にミーテイングに継続して参加する治療方法があると書かれていました。この治療方法に対して私なりに色々と考えてみたのですが、あまり思いつく事が出来ず、皆様の参考になるか分かりませんが、最初に私が思いついた対策・方法を書かせて戴きます。今回は、痴漢をしてしまい逮捕されましたが、盗撮をしてしまった事もありますので、盗撮の事も書かせていただきました

①痴漢や盗撮をしてしまう時の条件・原因
 1)DVDや雑誌の影響
 2)通勤に電車を利用する(特にラッシュ時間帯)
 3)携帯電話やデジタルカメラを所持する。
 4)外でお酒を飲む
②行動パターンを把握し、その状況を作らない。
 1)痴漢や盗撮をする為に早朝に家を出る。
       (出勤時間に十分間に合うように)
 2)エスカレーターやホームを何度も行き来する。
 3)電車内を歩きまわり、好みの女性を探し、その人   の隣に座ろうとする。
 4)盗撮の状況を作らない為に、私は、カメラ機能の   無い旧い型の携帯電話を所持していました。
③思考を変える切っ掛けを作る。
  これは難しかったのですが、例えば、盗撮をしよう と思って携帯電話を取り出した時、その携帯の画面に 大切な人の写真が写っていたら(私にとって一番大切 な人は父親と亡くなった母親なのですが)、その自分 にとって大切な人を見たら、裏切ることが出来ないと 思える事が出来るかも知れません。

 そして、今回の裁判で裁判官に誓いましたが、電車を使わない職場、つまり地元で仕事をし、痴漢や盗撮をしない状況を作って行こうと考えています。参考になるか分かりませんが、以上が私の対策・方法です。皆様の対策・方法をお伺いさせて戴き、勉強して行きたいと考えておりますので、よろしければ皆様の対策・方法をお教え下さい。よろしくお願い致します。

 6月8日、判決言い渡しの為に裁判所に行って参りました。求刑1年に対し、判決は懲役10ヶ月で、拘留されていた期間がありましたので、その期間40日が刑期(10ヶ月)から差し引かれました。来年の3月頃の出所となります。今回で6回目の逮捕となり、過去2度刑務所に行き、昨年12月29日に出所し、僅か2ヶ月で再び同じ過ちを犯した人間が、この刑期で社会復帰を目指す事が出来たのは本当に沢山の人の助けがあったからだと思います。今度こそこの感謝の気持ちを忘れず、一日も早く父親の力となり、一日も早く父親と亡くなった母親の思いに応えたいと思います。そして又
力を貸して下さった弁護士さんの為に、被害者の方の為に、一日も早く大石クリニックで治療を受けられる様、一日一日を精一杯生き、社会復帰目指して頑張って行きたいと思います。また手紙を書かせて頂きますのでその時はよろしくお願い致します。
 お身体を御自愛下さい。では失礼致します。
                     草々
                
          平成23年6月11日  D
            

Date: 2011/06/19/19:22:32 No.662

Re:収監者との文通

Dさんへの返書

D 様
前略
 6月11日付のお便り拝読しました。有難うございます。
 同じ病気、同じ犯罪により同じ境遇にあり、同じ決意と希望を胸に抱く仲間への共感に溢れる文面に感動を覚えながら読ませて頂きました。
 もう一人、当院と文通をしている仲間を御紹介しましょう。Cさんと言いますが。やはり性犯罪により、これから裁判が始まる方です。その方の文面の一部をそのまま御紹介します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 『~~本当に、この辺で犯罪の卒業をしないと、
  私の父親もかなりの歳が行きまして、生活を子
  供の私が支えて行く立場でもありますし、何か
  と色々な迷惑を掛けています。 それより、何
  と言っても被害者の女性の人が、一番かわいそ
  うだということに気づいて、もし仮に私が逆の
  立場で、その様な行為をされた時を考えたら、
  自分はどうするのか? 警察に訴えるのか?
立場を逆にして考えるのは中々難しいと思う
  が、いずれにせよ、良くはけっして思えないと
  思います』
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 以上ですが、いかがでしょうか? 今のDさんの心境をそのまま鏡に映したような文面に思えるのではないでしょうか? 私自身、今、DさんとCさんへの御返事を同時進行の様な形で書きながら、お二人を混同しないように注意しなければと思うほど、お二人の今の状況、心境がよく似ています。
 前回の手紙で御紹介した仲間=仮にBさんとしましょう。仮に、Dさんが、そのBさん、Cさんと巡り会いミーテイングをしたら、3人の間に共感の輪が広がり、各々の決意、希望が3倍に膨れあがるでしょうね。遅くても来年の春にはDさんもそんな仲間の輪の中に入れますので、それまで今の思いを忘れないように、この文通を大事にして頂ければと思います。
 
 さて、お手紙の中で、治療法資料に基ずいての自己検討をされていますが、この治療法は[認知行動療法]と言い、そのエビデンス(効能)が最近広く認められるようになり、世界的な広がりを見せています。各種依存症の治療法としては従来からミーテイング(患者どうしの体験談の交流の場)が最良とされて来ましたが、認知行動療法にはそれと同等の効能があると言われていますので、今後とも是非続けて頂きたいと思います。
 書かれていた内容 ≪①問題行動に走る状況・条件・原因、②行動パターンの把握とそれを避ける方法、③思考を変える切っ掛け作り≫についての当院の性の患者さんの声も聴いて近々にお伝え出来ればと思っています。
 依存症の治療法も時代と共に進歩して、今日では従来からのミーテイングに加えて、認知行動療法という治療法が登場しており、この二刀流を駆使すれば回復率もグーンとUPするのではないかと私も大いに期待しているところです。

 ミーテイング、その他による仲間との触れ合いを通して、仲間から力を貰いつつ、自分も仲間の役に立つ事が出来ると気ずかれたとの由。素晴らしい事だと思います。とかく病気・治療に気ずかないまま、自分はダメな人間だとの思い込みに沈み込み、自己嫌悪に陥り、病気を一層進行させるのが依存症という病気の大きな特徴の一つなのですが、その意味でも、仲間の輪の中で自分の存在意義・価値を自覚できるミーテイングに大きな力が在ると言えるでしょう。
 
 同病の治療仲間達が、出所後のDさんを待っています。勿論、院長をはじめとするスタッフ一同もDさんの御来院を心待ちにしておりますので、それまで、この文通を続けながら事故なく務めを果されるようお願いしたいと思います。以前の出所後とは全く異なる道がDさんの前に開けていることでしょう。

 もうしばらく、うっとうしい梅雨空が続くと思います。くれぐれもお身体を御自愛ください。又のお便りを楽しみにお待ちしています。今日はこの辺で失礼します。
            草々
               
     平成23年6月21日
      大石クリニック相談員 鈴木達也

Date: 2011/06/19/20:20:52 No.663