収監者との文通:Mさんとの往復書簡H27.7.20
- 2016.03.05
- はばたき文通
<M⇒鈴木>
前略
ついこの間まで寒いと思っていたら少し涼しくなり、梅雨も終わり、そしてこの暑さ。やっと夏本番を迎えます。この時期の我が炊場は想像以上の暑さで、いつ倒れるかと恐る恐るです。今年は特に暑い気がします。
さて日常生活は全てが万全で暑さに負けず、しっかり働き、しっかりと身体を鍛え、しっかりと勉強をしている感じです。が、全てそう上手くは行きません。人員がかなり減っている中でやる事が多く、掃除についても思うように出来ず、通常作業も追いつかない日もあり、ギリギリで何とかやり切っている風です。
勉強の方もソロバンは順調に楽しんでやれているが、レベルUPしての速さと正確さが必要です。昔に比べ指が太くなってしまったので珠を余計に弾く事もしばしば・・・。思わぬ弱点の発見です。簿記は相変わらずで問題を解く以前の、その問題をどう理解しどう答えるかって事を勉強しないといけないので何分にも進まず苦戦している。唯一、体調面は調子が良いのですが、皆暑くて少しイライラしているので巻き込まれず、冷静にして、会話をするのも・作業をするのも注意している。
その万全が今は心配で、振り返って見ると、全てが万全ではなくなり、自分の力で思うよにならなかったり、その自分の範囲を超えてしまうと怒ったり、もういいと投げ出して逃げてしまう。これだけ寝る間もなく働いて来たし、今まで相当皆の為頑張って来て何だよと悪い方へ、悪い方へと行き自滅して来た。最後は自棄になって、どうでも良くなって、その場から逃げて来た。今まではそうなる前になるべく心に余裕を持つようにとか、一息入れて少しでもリフレッシュしようとしたりしていた。バッテイングセンターに行って身体を動かしたり、ゲームをやって怒りを忘れさせたり、映画を観て買い物をしたりもした。でも仕事で上手く行かなくなると、何クソと周りに力を見せつけ太刀を振りかざして、強引なことをしたり、圧力をかけたりして傲慢な態度になってしまい、人とぶつかるようになってしまう。個人が孤立して行く。それがもっと自分を追い込み、もっとも悪い状態になり、嫌になって逃げ出す原因だ。
負けず嫌いが、良い面もあるが悪い事の方が多くなる。良い所は、人より何クソで勉強したり、必死に努力し、どんな時にも何事にも熱心になれるところだ。でも悪い方は先にも言ったように人を負かせてやろうと、人を敬うことが出来ず対立してひざまずかせてやろうとするところだ。そこに残るのは自分が思う尊敬などではなく、それに程遠い憎しみや悲しみ、そして孤立。負けず嫌いで人を負かすというのを直さなければいけない。
又、自分の最大の欠点である、全てが万全という完璧が崩れてくる時やそれが思うように行かない時、そこで妥協したら必ずミスが生まれたり他の誰かがミスをしたりして統一がなくチグハグになり、結局は上の責任になる。だから手を抜くことはできない。
違う角度からものを見てみたり、他の考えは?違う人の意見を聞いてみたりしたり、人に任せてみたり、頼っても駄目な時に自分も崩れてしまっている。そうなると心が弱くなって行くし、イライラして常に怒っている。最終的に自暴自棄になって性の方に走ってしまう。心が崩れ、疲れ果て、全てが嫌になり、事件を起こしてしまっている。
自棄になる時、何も考えたくないと思い、しかも自分を傷つけたくなる。そうなる前にリフレッシュしたりしてはいるけど、中々うまく行かない。なるべく長い目で見れるように心掛けたり、「結果は後からついて来る」と信じ、一日一日全力で努力しているが、息切れしてしまう。どうすれば良いのか? 私はこれらを治したいです。ここにいる間に少しでも同じ過ちを犯さぬように一つ一つヒモ解いていこうと思う。
先ず仕事をする上で人と接する際に言葉使いを気をつけ笑顔で接し、敬い助け、皆と協力し、心配りを忘れず、一生懸命人と接する。そういうところから変えないといけない。味方がいるのは心強い。
人とつきあう時は常に誠実に。ここからやり直して行こうと思う。決して、「ここまでして上げているのに」とかという見返りを求めないで行きたい。それが当たり前と思い、その当たり前を当たり前のようにしたい。そこから始めたいです。
自分を変えるのはとても難しいことですが、でも心が変われば態度も変わるし、態度が変われば行動や習慣も変えられると思う。そして人格も変われる。最終的には人生が良くなって来ると信じ、もう一度基本に戻ってやり直したいと思う。
40歳を過ぎてこれがラストチャンス。様々な人の気持ちを傷つけ裏切って来てしまったので、何とか立て直したい。今からスタートラインに立てるように準備します。人は必ず生まれ変われると信じ、証明できるように心掛けます。
草々
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<鈴木⇒M>
M様
前略
Mさん、こんにちは。昨日(7/19)、関東地方に梅雨明け宣言が出されました。いよいよ夏本番です。この先しばらく猛暑との闘いの日々になると思いますが、お互い暑さに負けないよう気をつけてこのひと夏を乗り越えて行きましょう。
さて、お手紙7/18に届き、私自身も心を揺り動かされる思いで拝読しました。
Mさんは入所以来、新しい人生へと歩み始めた時の原点を忘れずに自己改善の歩みを続け、処遇分類の1類にまで到達しました。しかしそれでも奢る事なく、原点を忘れずにどこまでも自己改善の道を歩み続けるMさんの姿を今回のお手紙で改めて目にする思いがしました。常に笑顔を絶やさず、他人を敬い、心配りを忘れずに周囲との人間関係を築き続ける道に終わりは無いのだという事をお手紙から実感する思いがしました。
私がなぜお手紙に共感を感じたのかと言えば、Mさんの今の思いが実は私自身の課題であることに気がついたからです。私も一人のアルコール依存症患者として断酒生活を送る中で一応普通に働き、普通に生活しているつもりだったので、人間関係の改善について改めて考える事はあまりありませんでした。ですからお手紙を読みながら自分自身を考えてみたら人間関係は「成り行きまかせ」になっているんですね。ですからMさんに見習って、笑顔を絶やさず、他人を敬い、心配りを忘れずに人と接するなら、周囲との関係で自分自身もどれほど生き易くなるかという気づきを得たわけです。
お手紙で、心を変えれば態度が変わり、態度が変われば行動や習慣も変えられ、それによって人格が変わり人生を良くすることができると書かれていますが、本当にそうですね。素晴らしい気づきだと思います。
各種依存症者が衝動的な依存行動や犯罪に走る時、脳内での認知(状況への考え方や感じ方)に歪んだ癖があると言われています。例えば、性依存症(性嗜好障害)による痴漢常習者が通勤時のラッシュアワーの電車に乗るという状況では「ここなら痴漢行為が可能だ」という認知の歪みによって対象とする女性を探し、接近し、痴漢行為に及ぶわけです。
そこで、依存症治療ではまず、この認知の歪みの修正―つまり心を変える所から始まります。例えば、「通勤電車の中は痴漢をする場所」という認知から「そこは読書の場所」と認知を修正し、それを実践し、継続し、習慣化するわけです。この認知の修正⇒実践⇒継続⇒習慣化の過程を「認知行動療法」というのですが、今この療法の有効性が広く認められ、病院はもちろん、刑務所での再犯防止教育にまで導入されており、また世界的にも大きな広がりを見せています。
ここまで読まれて、もう気づかれたと思いますが、Mさんの今の思い「心が変われば態度も変わるし、態度が変われば行動や習慣も変えられ、人格も変われ、最終的には人生が良くなって来る」との思い、確信は事実上の認知行動療法への確信と言って過言ではないでしょう。この事に確信をもって今の思いを実践し続けて頂ければと思います。
この先、夏本番の猛暑の日が続きますので熱中症などに重々ご注意下さい。更に炊場という暑い上に更に暑い場所でのお仕事も本当に大変だと思いますが、くれぐれも事故の無いよう注意して無事故でこの夏を乗り切ってください。それでは今日はこれにて失礼します。
草々
平成27年7月20日
大石クリニック相談員鈴木達也
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