収監者との文通
収監者との文通
Eさんからの手紙
大石クリニックHPトップページ参照
大石クリニック相談員 鈴木達也様
お手紙ありがとうございました。原稿もプランも「起承転結」が大切なのですね。長く険しい道を選びましたが、『一念岩をも通す』の精神で成し遂げたいと思います。
私事ですが、封筒の裏の住所でお分かりの通り、12月3日にこちらに移送されて来ました。私自身いきなりの事でした。別の施設は考えてはいましたが、こちらに来るとは思ってもいませんでした。環境が変わり、心身共に新たな気持ちで受刑生活をして行きたいと思います。
教育の中で「転」に当たりそうなところですが、同じ班の人の良いところを出しあったのですが、私の場合「勉強熱心」、「人がやらない事をやる」、「目の前の事に一生懸命」、「積極的に取り組む自主性」、「何をやるにしても真面目」、「自分をさらけ出して本音を言う」、「生真面目」とありました。皆の目にはこんな風に自分が見えていたのかとつくづく感じました。この事を胸に、保育士の勉強と依存症治療の両方の目標達成に向け頑張ろうと思います。保育士になる為にはどうしても依存症治療を進めねばなりません。
ただ、克服不能というより困難ではないかと考えるのがやはり「裏ロリDVD」と「子供を性対象とした妄想」だと思います。妄想は嗜好ストップ法を使い、危険と判断したら別の考えを出そうと練習しているのですが、なかなか上手く行かず苦労しています。裏ロリDVDは今は社会と隔離されているので見なくて済んでいますが、戻った時に買わないでいられるか心配です。今だに「欲しい、手に入れたい」との思いもあります。以前に見ていた映像が夢にまで出て来ました。これは今までになかった症状?です。今の環境だから「ないものねだり」なのかも知れません。外に出れば沢山の魅力的なものがあるので、今の内だけ我慢するしかないのかなと思います。そして早めに取って代わるものをみつけたいと思います。
これから寒さが本格的になるものと思いますので体調を崩さないようにお気をつけ下さい。私もより一層注意したいと思います。受刑生活も1年を切り社会復帰が待ち遠しい限りですが、気を抜かずに、やらなければならない事・できる事を一生懸命頑張りたいと思います。
今年も残り僅かとなりました。今年を振り返ると本当に速かったなと感じますし、今年1年で何が変わったのだろうかと考えてしまいます。
今年1年も本当にお世話になりました。来年1年も引き続きよろしくお願い致します。次回のお手紙は年明けになると思います。お手紙お待ちしております。
平成25年12月7日 E
返書 執筆中
Date: 2013/12/13/22:38:51 No.1090
Re:収監者との文通
Eさんへの返書~①
E様
前略
今年の最終便のお手紙(12/7付)、12日に受け取りました。本当にいつも有り難うございます。この1年を振り返っても、毎月1回、定期便のように配達されるEさんのお手紙に私自身の過去を振り返りながら返事を書くことで、それが自分自身の定期的な勉強=治療になっているなと深く感謝しております。来る年も変わることなく宜しくお願い致します。
さて、「起承転結」についてご理解されて、早速ご自身の保育士プランと依存症治療にに適用されているようで嬉しく思います。教育の仲間からのEさんへの評価を「転」として考え、プランや治療を進める力にされるとの事ですが、それは今後にも予想される色々な困難を乗り越える力となることでしょう。
前回の手紙にも書きましたが、「起承転結」を私は学生時代の雄弁部(弁論部)で演説原稿の書き方として教わったのですが、実はそれに留まらず、人生での色々な困難や克服すべき課題に直面した時に、それを克服する為のプランの立て方として大事な思考法だと思いますので、Eさんも今後の人生街道で突き当たるであろう壁、壁、壁・・・の前で活用していただければと思います。
出所後の「裏ロリDVD」と「子供への性的妄想」について心配されておりますが、確かに一旦脳に刻み込まれ依存症に進行した快楽思考を完全に消去するのは困難を越えて不可能だと言って良いでしょう。アルコール依存症の私だって今だに酒は飲みたいし、酔いも欲しいとの思いも心に潜在しています。依存症という病気の根っこは生涯にわたって残ります。そして、だからこそ病院での専門治療及びその後のケアも含めての生涯にわたる治療が必要になるわけです。
そこで思うのですが、Eさんの場合、出所後は 仕事及び保育士の勉強とその大前提となる依存症通院治療が生活の柱になるのだと思いますが、かなりハードな生活だと思います。だからこその息抜きも必要になると思うのですが、そこに再犯の引き金となるDVDや妄想が入り込むスキを作らない事が大事だと思います。お手紙にも書かれていたように、引き金に取って代わる楽しみを早く見つけたいですね。
人間という生物は不器用な生物です。つまり、複数の思考や行動を同時に実行できないという意味で不器用な生物です。例えば今この瞬間の私の場合ですが、今回のEさんの手紙と一緒にもう1通、現在拘置所にいる裁判中の方からの手紙が届き、今使っているこのパソコンの下の引き出しで出番を待って眠っています。この2通の手紙への返事を同時に考え、同時に書ければどれほど効率的かと思うのですが、もちろん私にはそんな器用さと言うか能力はありません、昔、聖徳太子という超頭の良い方がいて、何でも10人の訴えを同時に聞き同時に理解したと言いますが、それは伝説上の「お話」で現実にはそんなスーパーマンみたいな人間は存在しません。その意味ではEさんも不器用な人間だと思います。(この文脈で言う分には失礼にはなりませんよね) もちろん私も不器用です。この不器用を逆に利用しましょう。性的問題行動や犯罪やその引き金となる思考や行動の代わりになる、何か別の建設的で楽しい思考、行動、趣味などを見つけ、それに没頭するなら、不器用という能力?をフルに発揮して二つ目の避けるべき思考や行動を締め出す事が出来るでしょう。
↓②へ続く
Date: 2013/12/14/04:57:31 No.1091
Re:収監者との文通
Eさんへの返書~②
↓①よりの続き
<私の体験談>
参考までに私の飲酒欲求締め出し作戦の体験談をお話ししましょう。以前にも話したかも知れませんがが、私の場合、断酒初期の失業時代からの数年間、ドイツ文学を専攻した学生時代を思い出して「第2の青春時代」と銘打ったドイツ誌の依存症関連翻訳に没頭した時期がありました。その中で、ある時のドイツ誌の記事に『飲酒欲求抑制剤・アカンプロセート(商標/キャンプラル)という薬剤が開発・認可され、既に依存症治療に投薬され効果をあげている』との文面を目にした時には思わず自分の目を疑い、更には辞書の訳語にまで疑いの眼差しを向けてしまいました。でも、ドイツの信頼のおける一流紙の記事を何度も訳し直して、誤訳ではない事を確認した時にはそれこそ飛び上がって喜ぶような思いでした。
当時の日本ではアル中の飲酒欲求につける薬は無いと言われていました。依存症専門医、その他の専門家の中からさえ、そういう薬剤が存在するとの声は聞こえて来ませんでした。逆に仲間内では、「そんな薬ができたらノーベル賞ものだろうな」と話されていたくらいでした。ですから、ドイツ誌の記事でその薬剤名と効能機序(効能の仕組)を読んだ時には、まずは誤訳ではないかと自分の語学力を疑ったくらいで、次に正訳と確認して飛び上がって喜んだわけです。飲酒欲求を抑えてくれる薬など存在しないとあきらめている治療仲間にこのニュースを伝えたら、皆どんな顔をするだろうか?と胸がワクワクする思いでした。その仲間の第一声は「俺もドイツに行きたい !!」でした。そして、第二声は「その薬、輸入できないのか?」でした。そして色々と話をする中で最後は「それじゃー、いずれ近い内に日本でもその薬が使えるようになって、もっと楽に断酒できる時代が来るのだろうな」との期待と希望の声に繋がりました。そんな楽しい翻訳作業に没頭していた頃、昨日まで私に毎日一升酒を飲ませていた凄まじいばかりの飲酒欲求は私の脳の中で出る幕を失っていました。
(因みに日本では、上記の飲酒欲求抑制剤・アカンプロセート(キャンプラル)はドイツ誌の記事から10年以上が過ぎてようやく医師処方薬としての製造・販売が認可され、本年5月より、株)日本新薬から「レグテクト」という商標にて専門病院向けに発売されるに到りました。大石でも必要とする患者さんに処方しており、私もその効能について患者さんにインタビューしていますが、「私にとっては夢のような新薬です」から「気のせいかも知れないけど効いているような気がする」まで、反応はまちまちながらも全体的には好評な感がしています。いずれ、いつの日か、性依存症者向けの病的性欲を抑える薬剤が開発されれば良いですね)
今年も残すところ半月あまり、本当に1年の月日が過ぎる速さに私も毎年のように驚いています。でも、その一年の間にEさんとの間で今回までを含めて12回もの手紙の往復がありました。それをまとめたら一冊の本にもなり得る分量です。そして内容的にもお互いの依存症治療に大きく貢献する中身を持っていると思います。又文通のネット公開によって社会的にも貢献しています。1年という期間は過ぎてみれば短くも感じますが、やはり、それなりの事が出来る期間だとも言えるでしょう。その事に確信を持って、来る年2014年・平成26年という1年も、お互い健康に留意しながらこの文通を続けて行きたいと願っておりますので、新年に向けて改めて宜しくお願い致します。
移送の件は了解しました。不慣れな土地での冬の生活が始まると思いますので、どうぞお身体にはくれぐれも注意して健康で元気な毎日をお送り下さい、
それでは、これにて私からの本年納めの手紙とさせて頂きます。どうぞ、良いお年をお迎え下さい。
草々
平成25年12月14日(土)
大石クリニック相談員 鈴木達也
Date: 2013/12/14/04:59:49 No.1092
Re:収監者との文通
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情報ありがとうございます。
Date: 2013/12/16/00:11:11 No.1095
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